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5年ごとに改正される「食料・農業・農村基本計画」が2019年9月6日~2020年2月末にかけて行われたパブリックコメント(国民からの意見募集)をへて、2020年3月31日に決定しました。

集まったパブリックコメントは総計3,138件、畜産限定ではなく農業全体に関わるパブリックコメントのため、「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」「家畜改良増殖目標」「鶏の改良増殖目標」の505件よりも多くの意見が寄せられています。

3,138件のうち、鶏のバタリーケージ飼育や豚の妊娠ストールの廃止、アニマルウェルフェアの推進、植物性タンパクへの移行などの動物への配慮を求める声は約1割でした。

寄せられた意見はこちらからご覧いただけます ↓
食料・農業・農村政策審議会企画部会(令和2年3月10日)配布資料>【資料6】新たな食料・農業・農村基本計画の検討における国民からの意見・要望

どのように改正されたのか

1割とはいえ300件以上の動物への配慮を求める声が寄せられましたが、反映されたのはほんのわずかです。
アニマルウェルフェアについては次の一文が加わりました。

労働力負担軽減・省力化に資するロボット、AI、IoT等の先端技術の普及・定着、生産関連情報などのデータに基づく家畜改良や飼養管理技術の高度化、農業者と外部支援組織等の役割分担・連携の強化、GAP、アニマルウェルフェアの普及・定着を図る。

植物性タンパクへの移行については、次の一文が加わりました。

多様な食の需要に対応するため、大豆等植物タンパクを用いる代替肉の研究開発等、食と先端技術を掛け合わせたフードテックの展開を産学官連携で推進し、新たな市場を創出する。

たったこれだけです。
改正前は「GAP*の促進」のみしかなかったたためアニマルウェルフェアという言葉がはいったのは、入らないよりはよかったですし、「大豆等植物タンパクを用いる代替肉の研究開発等」、という言葉も入らないよりは入ったほうが良かったでしょう。しかしそれにしても、当法人を含めて300件以上の動物への配慮を求める意見が届けられたにもかかわらず、改正はこれだけか、と残念に思います。

*Good Agricultural Practice:農業生産工程管理のことでさまざまな種類のGAP認証があります。2017年に運用が開始し、日本が推進するJGAP家畜・畜産物認証はアニマルウェルフェア基準が含まれますが、アニマルウェルフェアを担保できない緩い基準になっています。別の認証GLOBALG.A.P.であれば妊娠ストールの常用や鶏のバタリーケージは不可、ブロイラーの飼育密度の上限もあり動物福祉を数値で確保できるものになっています。

アニマルウェルフェアについて

改正された「食料・農業・農村基本計画」には「令和12年度における食料消費の見通し及び生産努力目標」という表が掲載されており、農作物ごとに「克服すべき課題」が記載されています。畜産物の項目には「増頭」「生産コスト削減」「規模拡大」「家畜疾病予防」「国内外の需要拡大」という言葉が並んでいますが、「アニマルウェルフェア」は含まれていません。

鶏のバタリーケージ豚の妊娠ストール牛の繋ぎ飼いブロイラーの過密飼育過酷な品種改良産まれてすぐのオス殺処分屠殺場で動物が飲水できない気絶処理無しで鶏を屠殺生きたまま茹でるなど日本の畜産は山積みで、諸外国で禁止になっている飼育方法がいまだ主流で、それを改善していこうというような具体的な国策がない状態にもかかわらず、これが克服すべき課題だと捉えられていないのでしょうか。

「食料・農業・農村基本計画」では持続可能な開発目標(SDGs)ESG投資(環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)を重視した投資)に言及し、持続可能な農業生産の推進が謳われていますが、持続可能性やESG投資を語るうえでアニマルウェルフェアはもはや避けては通れないはずです。

2015年、全米肉牛生産者・牛肉協会が事務局を兼ね、生産者(肉用牛繁殖農家、フィードロット)、パッカー・加工業者、小売業者が参画する「持続可能な牛肉のための円卓会議(USRSB)」が設立されましたが、USRSBは、優先度の高い六つの重要指標のひとつにアニマルウェルフェアを掲げています。

2016年、国連の世界食糧安全保障委員会のHLPE(専門家パネル)は、「食糧安全保障と栄養のための持続可能な農業開発に関する勧告:畜産動物の役割」を公表しました。この中で動物福祉について詳しく言及し、持続可能な農業開発にはアニマルウェルフェアの向上が欠かせないことを示しています。

2018年にベルリンで開催された農業大臣会合(日本も参加)では、共同宣言「コミュニケ2018『畜産の未来形成‐持続可能性、責任、効率』」が採択されましたが、同共同宣言においてもアニマルウェルフェアは重視されています。消費者はアニマルウェルフェアを尊重することをますます求めるようになっていることが記されており、「私たちは家畜生産システムをより効率的にし、同時に、動物の健康と動物福祉にも対応することで温室効果ガス排出量を削減を目指します」「私たち農業大臣は、OIEの世界的なアニマルウェルフェア戦略とその実行を支援し、OIEとその関係者に、国際レベルで動物にやさしいアニマルウェルフェアのための基本原則と基本要件を開発し続けることを求めます。」と宣言しています。

ESG投資の観点からも、アニマルウェルフェアを無視することはできません。アニマルウェルフェアに配慮しない企業は投資リスクの高い会社だと考えられるようになっているからです。

運用資産2197兆円分の投資家ネットワークFAIRR(FARM ANIMAL INVESTMENT RISK &RETURN)は畜産のリスク分析を行う機関で、畜産に関わる企業の投資リスク評価もおこなっていますが、同機関の評価項目には畜産における抗生物質の削減、地球温暖化対策と並んでアニマルウェルフェアも含まれています。

BBFAW(ビジネス ベンチマーク オン ファームアニマルウェルフェア)は、畜産動物のアニマルウェルフェアを向上させることを目的としたベンチマークです。BBFAWの「動物福祉に関する国際投資家宣言*」には、イギリス最大のAvivaの資産管理部門Aviva Investorsや、欧州を本拠とする世界有数の金融グループであるBNPパリバの資産管理部門など、341兆円の運用資産に相当する31人の投資家が署名しています。
*宣言文書には、食品企業へ投資する際に動物福祉を考慮すること、食品会社にアニマルウェルフェアを管理するためのツールとしてBBFAWの評価の使用を勧めることなどが書かれています。

ESG投資の国際的な流れをつくっているPRI(国連がサポートし2006年に作られた責任投資原則)は、責任投資の範囲にアニマルウェルフェアを明示していません。しかし2019年PRI事例研究賞の「ESG調査報告オブザイヤー」には、畜産のリスク分析を行うFAIRRが最終候補者にあがっており、PRIがアニマルウェルフェアも責任投資の一つとして捉えていることが分かります。

畜産を伴わないタンパク質への移行について

アニマルウェルフェアだけではありません。今回のパブリックコメントでは、アニマルライツセンタ―含め複数の方が、畜産を伴う動物性タンパク質から代替肉や培養肉への移行の促進を求めましたが、改正では「多様な食の需要に対応するため」大豆等植物タンパクを用いる代替肉の研究開発等の市場を開拓するという一文が加わったにとどまりました。

現在植物性タンパクや培養肉への移行の大きな動きがあるのは、「多様な食の需要」のためではありません。動物飼育をともなう工場型畜産は温室効果ガス、飼料のための森林破壊、抗生物質耐性菌、豚熱などの伝染病、動物虐待、健康被害など多くのリスクを抱えており、これらのリスクが広く認識されるようになったためです。

食肉企業ですら代替肉の生産を開始している状況です。世界的な経営コンサルティング会社ATカーニーの分析は、2040年には「肉」市場における培養肉・代替肉の占める割合は60%になり、現在の畜産由来の肉は実に40%にまで低下するだろう予測しているほどです。

シンクタンクのRethinkXはレポート「Rethinking Food and Agriculture 2020-2030」(2019年)の中で、アメリカの植物性タンパクの産業が急速に拡大するだけでなく、今後15年間で動物タンパク産業に匹敵するものになると予測しています。このレポートは、植物性および培養されたタンパク質は、2030年までに動物タンパク質より5倍安くなると予測しており、牛乳の需要については2035年までに90%減少し、他の畜産物も同様の道をたどると言います。「植物ベースのタンパク質市場 – 世界の機会分析と業界予測(Plant Based Protein Market – Global Opportunity Analysis and Industry Forecast (2017-2022))」によると、世界の植物性たんぱく質市場は2022年までに108億9230万ドルに達し、2017年から2022年にかけてのCAGR(年平均成長率)は6.7%、アジア・太平洋地域の食肉代替食品市場の2020年までのCAGRは10.5%と見込まれ、急成長市場とみなされています。

畜産を伴わないタンパク質への移行はもはや国家レベルの関心事になっています。

オランダ政府は培養肉の研究に4億の資金を提供し、2019年、インドの中央政府は細胞分子生物学センター(CCMB)と国立研究センターに対し、クリーンミート研究のための資金を提供することを発表しています。2019年、オランダで培養肉の開発をするMeatableは、10億円の資金調達に成功したと発表。調達先の一つには欧州委員会も含まれます。

2019年、世界経済フォーラムはダボス会議の前に代替肉についての報告書を出しましたが、報告書の中で、肉に替わるタンパク質は食品汚染のリスクが無く、温室効果ガス排出量の大幅な削減につながる可能性があるとして、今後の増加する人口のタンパク質需要を満たすためにはタンパク質システムの変革が必要だろうといっています。

環境保護活動家であるレオナルド・ディカプリオは植物性肉のBeyond Meatに投資し2018年9月29日ツイッターでこう発言しています。「植物性のハンバーガーは、牛肉のハンバーガーよりも水の使用量が99%少なく、土地の使用は93%少なくエネルギーの使用量は50%近く少ない。そして温室効果ガスは90%削減される。未来のタンパク質への投資家であることを誇りに思う。」

こういった動きが日本政府には見えていないようです。アニマルウェルフェアが諸外国に後れを取っているのと同様に、植物性タンパクへの移行という大きな流れにも日本は乗り遅れてしまうのかもしれません。

食料・農業・農村基本計画は、政府が中長期的に取り組むべき 方針を定めたものです。これまでなかった「アニマルウェルフェア」という言葉が加わり、新たな市場開拓の一つに「大豆等植物タンパクを用いる代替肉」が加わったことを前向きにとらえるべきかもしれませんが、それにしても日本の動きは遅すぎるのではないかと思います。

 

ESG投資と動物への配慮についての詳細はコチラ
畜産を伴わないタンパク質への移行の世界的情勢についてはコチラ

 

 

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