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野生動物だけではない、動物を食べること自体が感染症を作る

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の脅威が世界全体に広がっていき、世界は新型コロナウイルスのもたらす悲しみで溢れている。しかし、その根本原因である”動物利用”にまだ人々の目が行き渡っていないことを危惧している。

まずあげられることが動物を食べること、食べることにとどまらず捕獲し、閉じ込め、飼育し、屠殺することだ。さらには、触れ、収集することだ。後者はこちらの記事を参照してほしい。また現代ビジネスにも同様の内容を寄稿しているため、もうすこし短く読みたい方はこちらへ。

微生物はなぜ人を攻撃するのか

世の中には謎に満ちた感染症が多数あり、数が増えてきている。定期的に新しい感染症に人間はさらされている。人だけでなく、人が飼育する動物もさらされている。

ブルーリー潰瘍などのように感染経路すらわからないものや、エボラウイルスのように野生動物に近づきすぎたことが原因であるもの、脳炎ウイルスのように蚊が媒介するためにどうやって防げばいいのかわからないもの、薬剤耐性菌のように人や動物のなかで人間自身が作っていることが原因のものもある。

どれも人にとって脅威だし、社会の持続可能性を著しく脅かすものだ。

問題はこれらの感染症の由来の多くが動物であったり、動物と人共通のものであることだ。既知の人間の感染症の60%以上は動物由来*1*2であり、また75%の新しい感染症は動物由来であることが示されている*2。これらを人獣共通感染症(Zoonotic Diseases)という。これにはウイルス、細菌、寄生虫、真菌による病原体が含まれる。

ウイルス、細菌、寄生虫、真菌は、自然宿主となる生き物とともに暮らしている。人は気にせずにそういった自然宿主が多数いる熱帯雨林などを破壊して回っているが、そうすると微生物たちは自然宿主を失ったり、新しい宿主に出会うことになる。直接、又は別の動物などを介して人間に出会う。そのような新しい宿主に出会ったとき、ウイルスは猛攻撃を始める。

さらに人はそのウイルスや細菌や寄生虫や真菌に打ち勝とうと、抗生物質や殺虫剤を開発しはじめた。防ぐだけにしておけばよかったかもしれないが、攻撃されていると感じた人間は反撃に出てしまう。しかし、これらの微生物たちはあっというまに耐性をつけてくる。そうやって次なる危機が人の手によって作られ、それが薬剤耐性菌(多剤耐性菌・AMR)の問題となっている。

ちなみに昔、撲滅したかなと思った感染症が再燃することも多々起きている。天然痘は今のところ撲滅されているが、たったひとつの病原体を撲滅するのも相当に困難なことなのだ。

野生動物を食べるだけでなく畜産も深く関係

野生動物の取引について中国、ベトナムが規制を強化しようとしているしASEANとしての動きも出る可能性がある。中国は各省毎に作られる条例によりかなり厳しく規制する地域もでてきそうだし、取引が許される家畜の範囲の議論が続いている。日本もこれに続くべきであり、触れ合いやらペット飼育について、エキゾチックペットとしてまたは展示動物として取引のある種を相当限定しなくてはならないはずだ。この単純明快で、わかりやすい感染経路を持つにも関わらず、規制に向けた動きがないということは、日本の人々(NGOも含めて)は人獣共通感染症に相当疎いのかもしれない。

しかし、このような明らかに闇な野生動物取引に限らず、人獣共通感染症は発生しうることを見逃してはならない。むしろ、現代の畜産システムのほうが原因としては大きいのだ*3。

わかりやすい畜産動物から直接伝播するパターン

最もわかりやすいのは、畜産動物で発生した病気が人間に直接うつるものだ。過去に何度も、感染爆発を起こし、人々の命を奪ってきた。たとえば、以下のようなものがある。

ニパウイルス

ニパウイルスに人が感染すると、無症状の人も多いが急性呼吸器感染症になったり、脳炎になり死亡することもあるウイルスだ*3。1999年にマレーシアの養豚場で発生し、アウトブレイクした。死亡率が高く、1998年9月〜1999年3月中にマレーシアでニパウイルスと確定した192人中、76人が死亡した。マレーシアでは死亡率40%であったが、2004年にバングラディッシュでは60〜74%であったという*4。回復したとしても、患者の約20%には、発作障害や性格変化などの神経症状が残るのだという*3。

もともとはコウモリ(fruit bat)が自然宿主であるとされている。最初にこのニパウイルスが出現した村は、ジャングルを切り開き、養豚場を建設した村だったが、最初の患者が倒れた数ヶ月前から豚が死に始めていた。人と同じように痙攣発作を起こして死んでいっていたのだ。ジャングルに穏やかに住んでいたコウモリが、行き場を失い、共存していたウイルスが豚に伝播し、その後人に伝播したのだ。

このウイルスは豚に感染しやすいが、その他犬や猫、馬などにも感染し、マレーシア政府は豚を実に90万頭一気に殺し、一旦は終息に向かったが、その後も発生が続いている。養豚場で直接豚と触れるだけでなく、汚染された肉を食べることでも感染がひろがるという。結局はコウモリを脅かし、豚を飼育している限りは発生するのだ。

日本脳炎

日本で100年以上前から発生しているのにあまりこの病名を聞かないような気がするのは気のせいか。東アジアと東南アジアに広がっている。日本脳炎は豚と人で流行し続けている、蚊を媒介とした病気だ。WHOによれば、世界中で毎年約68 000件の感染があり、約13,600人〜20,400人が死亡していると推定されている。高熱、頭痛、首のこわばり、意識障害、昏睡、発作、痙性麻痺、さらに髄膜炎を起こすこともある。ニパウイルスと似ているところもあり、後遺症を残すこともある。*3

先程のニパウイルスが発生した場所でも、日本脳炎で死亡している人が記録されている。日本ではあまり発生がなくなっているが、養豚場の豚がウイルスを持っている地域があり、発生の可能性はあり続けている。

豚インフルエンザ(H1N1)

2009年にパンデミックとなったインフルエンザA H1N1(H1N1pdm09ウイルス)はいわゆる豚インフルエンザだ。最初の1年で151,700〜575,400人がこのウイルス感染により死亡したとアメリカ疾病管理予防センターは推定している。現在の新型コロナウイルスとは異なり、死亡した人のの80%は65歳未満であった。

もともと2005年頃から養豚関係者の間に豚インフルエンザが発生していたが、当初は直接豚と接する場合に限られていたが、2009年の感染爆発時には、新しいH1N1ウイルスになっており、人から人への感染に発展していった。最初は子供から発症し、今の新型コロナウイルス同様にクラスターが発生し、広まっていった経緯がある*6。肥満の場合、有病率が高いとも報告されている。

鳥インフルエンザ(H5N1,H7N9)

鳥インフルエンザ(H5N1)は今は多くはないが、人の感染が持続している。WHOによればこれまでに455人が死亡している*7。幸い国内では死亡例はなく、今のところ鳥やその死体や糞などに直接触れる環境にある場合にのみ、人に感染している。

鳥インフルエンザはもう一つある。鳥インフルエンザA(H7N9)で、2013年初頭からこれまでに確定診断患者1,565名に及び、5回の感染拡大においては感染者数の39%が死亡した*7。

豚インフルエンザも同様であるが、インフルエンザAはいつどのように変異をして感染爆発を起こすのか予測がつかない。豚インフルエンザのように、あるとき突然人から人へ感染爆発を起こす可能性がある。インフルエンザAウイルスは、人間やさまざまな動物に感染する。

なお、いろいろな治療を繰り返していくうちに、単剤では効かなくなってきている抗ウイルス薬もでてきている。つまり、薬剤耐性ウイルスということだ。

恐怖心を煽らずじわじわ広まり続ける薬剤耐性菌

パンデミックとは呼ばれないが、じわじわとひろまり、じわじわと人々の命を奪っていっているものが、薬剤耐性菌(多剤耐性菌)である。畜産業と非常に関わりが深い。

国産の鶏肉の半分以上から薬剤耐性菌が検出され2050年には年間1000万人の命を奪うと予測され、日本ではすでにたった2つだけの薬剤耐性菌によって年間8,000人の命が奪われている*8。より多くの薬剤耐性菌を調査すればもっと多くの死亡者数が確認されることは必至だろう。米国では統計がもう少しちゃんと進んでおり、毎年、少なくとも280万人が抗生物質耐性感染症にかかり、35,000人が死亡している*9。

欧米でアニマルウェルフェアが一気に広がっているの理由の一つが、この薬剤耐性菌の蔓延にある。動物を密集させ、不潔で(一見白い消毒薬できれいに見えても実際は糞尿まみれだ)、ストレスをかけ、本来の行動を発現することができない環境で、大量の動物たちを飼育をすれば、動物の免疫は下がり、病気にかかりやすくなる。ワクチンと抗生物質に頼った現在の集約的畜産は、薬剤耐性菌の温床だ。

FAOは2016年に「畜産の役割を含んだ食糧危機と栄養のための持続可能な農業開発の提案勧告」の中で畜産業にアニマルウェルフェアが重要であり、畜産業における適切な抗生物質の利用とアニマルウェルフェアの推進を勧告している。また、EUでは「欧州議会における、アニマルウェルフェア、抗菌物質の使用、及び工業型ブロイラー畜産が環境に与える影響等についての決議」という決議を2018年に行い、肉用鶏についてアニマルウェルフェアの向上が薬剤耐性菌を生み出さない予防になると述べている。

日本は違う。農林水産省は、肉用鶏は世界一般の飼育密度を1.7倍超えているにも関わらず、アニマルウェルフェアをあげていくことが薬剤耐性菌を生み出さないことにつながることを認めていない様子だ。そんなことを認めたら、日本中の大手含め鶏肉生産者も豚肉生産者も牛肉生産者も猛反発してくるからだろう。世界とは真逆に進む日本の畜産は、着実に薬剤耐性菌を生み出し、人々に撒いている。

でも大丈夫、すぐに表面化しないから・・・?本当?どこかで誰かがすでに亡くなっているのに・・・?

重要な薬剤に耐性を持ってしまった人々がたくさんいるのに?あなたもすでに薬剤耐性菌を体内に持っているかもしれないのに?

薬剤耐性菌は日頃悪さをしてくるわけではないが、抗生物質投与が必要な重篤な病気にかかったとき、その薬剤が効かずに死亡してしまうというものがほとんどだ。

バンコマイシン耐性腸球菌の説明*10などを見れば少しは脅威を感じてもらえるのではないだろうか。すでに多くの人が死んでいるのだ。同じことが、いろんな薬剤で起きているのだ。

畜産が及ぼす環境破壊がもたらす新たな疾病

ここまでの話は、基本的にいわゆるワンヘルス、人獣共通感染症がどう人に影響するのかという話だったが、ここからはさらに視野を広げたい。

野生化で、自然宿主と共存しているウイルスや細菌や真菌や寄生虫たちが、人間の手で自然を破壊される中で新しい宿主と出会い、一気に感染爆発を起こすという循環。たとえば熱帯雨林には無数の微生物が自然宿主と暮らしている。穏やかに。その熱帯雨林、おもにはアマゾン地域の熱帯雨林を破壊して来たのは畜産業だ。世界銀行は1970年以降の森林破壊の91%が畜産によるものである*11と述べており、畜産業に起因してそれだけ多くの微生物が次の宿主に出会った可能性があり、それだけリスクを孕んでいたと言える。ニパウイルスなどが典型的な例だ。

また、気候変動、土地利用の変化、淡水取水量の急増など、特にこの100年で人間は多大な破壊を地球上で行ってきたが、その影響により微生物たちの環境も変化している。畜産動物は50年間で8.31倍(鶏・豚・牛のみ)に増加しており、764億頭に及んでおり*12、地球への影響は甚大になっている。ワールドウォッチ研究所によると 温室効果ガスの原因の51%が畜産業に起因しており*13、大豆生産の74%が畜産動物の餌になるがそのために貴重な森林が南米やアフリカなどで伐採されており、つまりはそこに居た微生物たちは移動を余儀なくされているのだ。

温かいエリアが拡大すれば、蚊が媒介するウイルスも一緒に移動するだろう。ネズミが移動すればラッサ熱なども一緒に移動する。森林が消え、コウモリが住処を失えば、さらなる新たなウイルスや菌がもっと盛んに活動するようになるかもしれない。コウモリにつぐ自然宿主が目をさますかもしれない。

地球は一つしかないのだから、そろそろ気がついても良い頃だ。

動物を食べる、動物を収集する、珍しい動物を自分の目で見る、そんな欲望のさきに、持続可能な社会はない。

ウイルスや菌、真菌のほうが生存力に優れている

ウイルスも菌も、地球上に人間が出現するはるか何十億年も前から存在している。地球が誕生してからほんの少ししか存在していない人間が、勝てると思わないほうがいい。

エボラウイルスは、一度沈静化したが、その後感染爆発を度々起こしている。アフリカだけでなく動物実験用に捕獲されたアジアの猿からも突然現れたりもしている*14。そんな事が度々起きる。一度生まれた薬剤耐性菌は決して退化することはなく、着々と世代交代を繰り返して強くなっている。

ウイルスや菌との闘いに人間が打ち勝つことは、おそらくないのだろう。彼らの超長期戦略は人間にはかなわないように思う。だからこそ、新しい感染症を生み出さない社会システムに変えていかなくてはならないのではないか。

市民に何ができるのか。動物を搾取することから離れることしかない。

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植物性タンパク質に取り組んでいない食肉企業は次第に投資を得られないようになってきている。そのような社会情勢を反映し、プリマハムも、スターゼンも、伊藤ハムも、日本ハムも植物性の肉の開発に精力的に取り組んでおり、すでに発売を開始。これまでビヨンドミートやインポッシブルミートなど海外製のベジミートが話題だったが、日本人の味覚の鋭さを考えると、間違いなく、これらの企業や、ヴィーガンメニューを出すようになったレストラン、寿司屋、加工食品企業など、世界を席巻していくことでだろう。期待できる。

20年ヴィーガンをやっている筆者から言わせていただくと、15年前、10年前まで海外のヴィーガン料理は楽園のような味に感じたものだ。しかし今、日本のヴィーガン料理ほどお美味しいものはないと感じている。

ウイルスは完全に沈静化せずとも、次第に収まるだろう。その間、とても悲しいことが起き続けるに違いなく、心は沈む。しかし、今こそ、その先に控える次なる感染症、次なる持続可能性を奪う課題の原因を、見据えていかなくてはならないのだ。

 

*1 https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(12)61678-X/fulltext 
*2 https://www.cdc.gov/onehealth/basics/zoonotic-diseases.html
*3 https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/nipah-virus
*4 https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/447-nipah-intro.html
*5 https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/japanese-encephalitis
*6 https://www.cdc.gov/h1n1flu/cdcresponse.htm
*7 https://www.cdc.gov/flu/avianflu/h7n9-virus.htm
*8 https://www.niid.go.jp/niid/ja/from-lab/2415-amrc/9265-bsi-deaths.html
*9 https://www.cdc.gov/drugresistance/index.html
*10 http://idsc.nih.go.jp/disease/vre/vre01.html
*11 https://openknowledge.worldbank.org/bitstream/handle/10986/15060/277150PAPER0wbwp0no1022.pdf?sequence=1
*12 FAOSTAT
*13 http://science.sciencemag.org/content/360/6392/987.full
*14 『出番を待つ怪物ウイルス』根路銘 国昭 (生物資源研究所所長)

 

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