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妊娠ストールや卵のケージなど、拘束施設を補助金で整備

妊娠ストールや卵のケージなど、拘束施設を補助金で整備

国の実施する畜産業界への支援制度には様々なものがあります。強い農業・担い手づくり総合支援交付金(以下「強い農業交付金」)、畜産クラスター事業が有名ですが、他にも豚の肉の販売価格が生産費を下回った場合の交付金「肉豚経営安定交付金(いわゆる豚マルキン)」(牛の肉には「牛マルキン」がある)や、卵の価格が下落した時に鶏を屠殺して鶏舎の空舎期間を伸ばすことで奨励金が得られる成鶏更新・空舎延長事業、卵の価格が下落した時の価格差補てん、牛乳を飲用ではなく加工用に仕向けた時の補給金交付(加工用にすると安くなるため)、長期かつ低利の融資制度などもあります。畜産業の支援制度は幅広くすべてここで上げることはできません。(詳しくはこちらをご覧ください。)

新型コロナウィルスでも畜産業への様々な支援が打ち出されました。畜産業を国がどれだけ重要な産業ととらえているかの参考として、コロナ危機における畜産業の支援制度を見てみようと思います。

  • コロナの影響を受けた和牛肉の需要喚起を図る販売促進事業-1368億4千万
  • 枝肉価格が低下し、畜産農家の経営悪化した時に経営強化するための経費・肥育牛の出荷調整の影響で出荷延期を行う取組に対して-305億3100万
  • 上記にともない子牛の出荷調整を行わなわなければならなくなったとき―9億8400万
  • 余った牛肉を冷凍庫に保管したり部分肉に加工する場合・冷凍肉の販売促進-499億8600万
  • 牛豚の皮を輸出できずに保管したり余剰の皮を焼却することに関わる費用-20億6800万
  • 学校が休校し、キャンセルされた学校⽤⽜乳向け⽣乳を⻑期間保存可能な脱脂粉乳などの⽤途に仕向け変更した場合に⽣産者に⽣じる価格差を支援。またその脱脂粉乳なども生産過剰になっていることから飼料⽤へ⽤途変更した場合に乳業者に⽣じる販売価格差も⽀援-22億9900万
  • 在庫が高水準にある脱脂粉乳を飼料用等の需要がある分野で活用する取組を支援-50億2000万
  • 新型コロナウイルス感染者等が確認された畜産経営体における経営の継続を支援するための事業-8億1400万

畜産支援制度をみると、国がいかに日本の畜産業を保護しようとしているかということがよく分かります(日本のみの話ではなく諸外国も似たような状況です)。にもかかわらず、畜産戸数は減少し後継者不足が大きな課題となっています(これも日本だけの話ではなく諸外国も同じ)。
いま、確実に代替肉へ移行しようとする大きなうねりが眼前にあり、このうねりは今後拡大こそすれ縮小することはないでしょう。日本よりはるかに動物性タンパクの消費の多いヨーロッパでも、たとえば2019年EU農業アウトルック会議で報告された見通しでは、「EUの食肉消費は、これまで増加傾向で推移してきたものの、菜食主義者の定着、健康志向および環境、動物福祉への配慮などによる植物性たんぱく質への移行や、EU市民の高齢化などもあり、緩やかに減少すると予測されている。」*などと言われています。
* 海外情報 畜産の情報  2020年3月号 持続可能性(サステナビリティ)を最優先課題とするEU農畜産業の展望~2019年EU農業アウトルック会議から~

しかし今後畜産業は縮小していくことが予測されるとはいえ、現在国がこれを国の重要な基幹と捉え、支援に熱心であることに変わりはありません。動物搾取を支援することの根本的な問題はここではおいておいて、タイトルにあるとおり、ここではその支援の対象に妊娠ストール採卵鶏のケージなどの拘束施設も入っていることを問題として取り上げたいと思います。

強い農業交付金、畜産クラスター事業などによる拘束施設整備支援

「強い農業交付金」「畜産クラスター事業」で施設整備を行おうとする場合の補助率は最大で1/2です。一例をあげると、2018年に妊娠ストールを含む豚舎が畜産クラスター制度を使って国内で整備されてますが、この豚舎(妊娠舎、交配舎、肥育舎など)整備に27億の事業費がかかっており、うち補助額は12億円となっています。2016-2017年には同じ畜産クラスター制度で鶏のケージ施設を含む整備事業が行われましたが、事業費6億2千万円うち補助額は2億8千万円。2017年に強い農業交付金で整備された鶏のケージ施設を含む整備事業には2億9千万円の事業費に対して補助額が1億2千万円
補助率が1/2といいましたが、独立行政法人農畜産業振興機構畜産業振興事業による整備支援事業では補助率が最大9/10というものもあり、この事業を活用して2015年に妊娠ストールを含む整備も行われています(事業費17億円のうち15億が補助)。

強い農業交付金や畜産クラスタ―事業などのような補助事業は、その事業実績を自治体のWEBサイト等に掲載しなければならないことが決まっています。しかしそこに掲載されている情報はごくわずかで、その情報からは鶏のケージシステムや豚の妊娠ストールといった拘束施設か否かの判別をつけることはほとんどできません。そのため把握できたのはごく一部のものに限りますが、2013年以降にこれらの補助事業を使って整備された妊娠ストールや鶏のケージ施設の件数は次のとおりです。

卵のケージ16
豚の妊娠ストール5

 *畜産経営体でカウント。同じ経営体で違う年度にそれぞれケージ施設の鶏舎を建設したなどという場合は1としてカウント。

追記:

その後全国の都道府県に情報公開をお願いしたところ、2015年以降の畜産クラスター事業における鶏のケージ施設整備件数は65件、妊娠ストール整備件数は91件。2005年以降の強い農業交付金における鶏のケージ施設整備件数は21件、妊娠ストール整備件数は13件と分かりました。詳細はコチラの記事をご覧ください。

「強い農業交付金」「畜産クラスタ―事業」について、ほとんどの自治体は2018年までのものしかまだ公開していませんし、前述したとおり情報は限られます。ある自治体に情報公開請求したこともありましたが黒塗りが多く設計図書については見せられないとことで、市民感覚で虐待ともいえる拘束施設に税金がどれくらい投与されているのかを知ることは難しくなっています。しかし少なくとも23の拘束施設が税金で建てられ少なくとも数十万(収容羽頭数についての情報も限られる)以上の動物がここに拘束されたことになります。

妊娠ストール、鶏のケージは廃止の方向へ

ここで一応述べておきますが、妊娠ストール採卵鶏のケージともに、国際的に廃止の方向に向かっています。妊娠ストールはEU、アメリカの10の州で禁止、ニュージーランドで禁止され、世界の60以上の企業が廃止を宣言しています。世界の食肉業トップ10のうち養豚部門があるのは9社。そのうち妊娠ストールの廃止、あるいは廃止目標を公表していないのは日本の2社のみです(日本ハムと伊藤ハム・米久ホールディングス)

鶏のケージ飼育についてはさらに動きが速いです。EUでは2019年に採卵鶏の52.2%がケージフリーとなりました。アメリカでは五つの州が採卵鶏のケージ飼育の禁止を決定。同国の食品小売業者の上位25社がすべてケージフリーにすることを約束しており2025年のケージフリー卵の市場占有率は米国総飼養羽数の約70%に成長すると予測されています。さらに世界中で1000以上の大手企業が採卵鶏のケージフリーを約束しています。

こういった急速な変化の原動力はただひとつ。これらの拘束施設が虐待であり、そこにアニマルウェルフェアのかけらもないからです。

次にこういった拘束施設を整備するための長期かつ低利の融資制度についてみていこうと思います。

拘束施設への融資

ここで述べる融資制度は国が定めた、法律に基づく融資制度です。(農林漁業を含む)畜産施設整備には一般的な融資よりも長期で低利の制度が設けられています。

日本政策金融公庫による拘束施設への融資

株式会社日本政策金融公庫法に基づく日本政策金融公庫は、2018年に国内で初めて4段4列のブロイラー用ケージシステムを導入するウインドレス鶏舎1棟(約5万羽収容)の建設資金1億5000万円を融資への資金の貸し付けを行いました。「国内で初めて」とあるとおり、ブロイラーは平飼いが一般的です。ブロイラーを採卵鶏のバタリーケージのように段々に積み重ねれば坪当たりの収容羽数も増えますし、床が網のためブロイラー養鶏で大変な作業の一つである「床管理」もする必要がなくなります。しかし動物のケージ飼育を無くしていこうという今の世界の流れには逆行しています。ブロイラー(肉用鶏)も採卵鶏同様、より良い飼育をしていこうという「ベターチキンコミットメント」運動が広まっています。すでに295社がベターチキンコミットメントを宣言しており、2019年に入ってからの大きな動きとしては、ファストフードではじめてケンタッキーフライドチキンがベターチキンコミットメント挙げられます(日本拠点は除きますが)。このベターチキンの基準には「二種類以上のつつける素材」「自然光」が含まれており、日本政策金融公庫が融資した床が網でウィンドウレス鶏舎は、この時点で基準を満たすことができないことになります。

このような施設への融資をしたことについて日本政策金融公庫に質問書を送りましたが、回答は、資金制度に「アニマルウェルフェア」は条件となっていないこと、また『当公庫は政策金融の実施機関であり、「アニマルウェルフェア」をはじめ、個別の政策の良し悪しを申し上げる立場にはないことをご理解下さい。』というものでした。

沖縄振興開発金融公庫による拘束施設への融資

沖縄振興開発金融公庫法に基づく沖縄振興開発金融公庫は、採卵鶏のケージへ融資を行っています。こちらにも質問書を送りましたが、回答は日本政策金融公庫と同じで、資金制度に「アニマルウェルフェア」は条件となっていないこと、また『当公庫は国・県等の沖縄振興策を実現するための政策金融機関であり、融資制度(条件等)については主務省(内閣府・財務省)の認可・承認等に基づき定められております。』との回答でした。

アグリビジネス投資育成株式会社による拘束施設への出資

アグリビジネス投資育成株式会社は、農業法人に対する投資の円滑化に関する特別措置法に基づき、JAグループと日本政策金融公庫の出資により設立され、農林水産省の監督を受ける機関です。アグリビジネス投資育成株式会社は、2020年に妊娠ストールのある養豚場整備に3億8800万円を出資しています。質問書を送ったところ「AWの意識が高まっていることは承知している。」また出資の際のアニマルウェルフェアの考慮については「今後検討していきたい。」とのことでした。

3社ともアニマルウェルフェアは資金制度の条件となっていません。国の政策機関にすぎないという日本政策金融公庫、沖縄振興開発金融公庫の言い分も分かります。しかしこれら3社の基本となる法律には次のように書かれています。

株式会社日本政策金融公庫法は、農林漁業者への資金の貸し付けについて「農林漁業の持続的かつ健全な発展に資する」資金であることが条件となっています。沖縄振興開発金融公庫法は貸し付け対象を「沖縄における産業の振興開発に寄与する事業」としています。農業法人に対する投資の円滑化に関する特別措置法は「農業法人の自己資本の充実を促進し、その健全な成長発展を図り、もって農業の持続的な発展に寄与することを目的とする」と記しています。

これらの法律に書かれている持続性、健全な発展、畜産の振興を考えた時に、アニマルウェルフェアを避けることはできるのでしょうか。

アニマルウェルフェアを無視した持続性や健全な発展、畜産の振興はありうるのか

前述したとおり、妊娠ストール採卵鶏のケージは国際社会に受け入れられなくなってきています。ストールやケージの償却期間を考えると、これらの拘束施設を新規導入することは経営的にも非常なリスクを伴うように思います。

世界銀行の5つの組織のうちの一つである国際金融公社(IFC)は、開発途上国の民間セクターへの投融資を持続可能な形で促進し、人々の生活水準向上に役立つことを使命とする公的機関です。2014年にIFCが作成した「グッドプラクティスノート:畜産事業における動物福祉の改善」には、「IFCは、動物福祉基準を含む持続可能性の原則を適用することにより、損失の削減、生産性の向上、および新しい市場へのアクセスのためにクライアントと協力することを約束します」と書かれており、アニマルウェルフェアを求める消費者の声が高まり、企業が卵のケージフリーや妊娠ストール含めたアニマルウェルフェアに取り組んでいることに言及しています。
そして動物福祉の改善が生産性の向上につながり、最終的に収益にプラスの影響を与える可能性があることを示す証拠が増えていると強調しています

2018年1月20日にベルリンで開催された農業大臣会合(日本からも農林水産審議官が出席)の宣言「コミュニケ2018『畜産の未来形成‐持続可能性、責任、効率』」では、「OIEのグローバルな動物福祉戦略とその実施をサポートする」という声明が採択されていますが、そのOIEの動物福祉基準母豚を群れで飼育することを推奨しています。

オランダ本拠地で40カ国に440の拠点を持つ、農業組織向け統轄金融機関Rabobankは2018年5月、同社のサステナビリティレポートに複数の「Rabobankのコミットメント」を記載。そのなかの一つに次のコミットメントがあります。

2025年までに、すべてのお客様が鶏を産むためのケージのない住宅システムと母豚のためのグループ住宅システムに移行することを強く推奨します。すべての顧客に対して2025年までに卵のケージフリー、豚の群れ飼育への移行を強く推奨しています。

Oxfam(貧困のない世界のために世界90カ国以上で活動する国際協力団体)によって開始されたフェアファイナンスも立ち上がっています。
FFI(フェアファイナンスインターナショナル)は世界10か国で、各国の金融機関を監視し、銀行がお金を投融資する先に環境破壊や人権侵害等の社会問題を引き起こしている企業がないかをチェックし、それぞれの金融機関を評価しています(日本にも拠点あり)。フェアファイナンスの評価基準Fair Finance Guide International Methodology 2020 には、動物が含まれます。妊娠ストール採卵鶏のケージを使っていないか、毛皮を扱っていないか、サプライヤーとの契約に動物福祉基準があるか、畜産会社は動物福祉の要件を含む認証スキームの基準に従って認証されているかなど、幅広いものになっています。


いまのところ日本政府は妊娠ストール採卵鶏のケージであっても金を投入します。これが畜産振興だと信じているかのようです。しかし世界の動きをみると、無謀な投資のように思えます。
現段階では、まだこういった拘束施設を法律で禁止することは難しいかもしれません。しかし蛇口はもう止めなければいけない時期に来ています。妊娠ストール採卵鶏のケージのような虐待施設であっても補助することが可能な、いまの仕組みは早急に見直すべきです。

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