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「強い農業・担い手づくり総合支援交付金」に要望

「強い農業・担い手づくり総合支援交付金」に要望

国の実施する畜産業界への支援制度には様々なものがありますが、そのうちの一つに強い農業・担い手づくり総合支援交付金というものがあります。

以前別の記事でお知らせしましたが、2018年からは、この交付金を使って産地食肉センター(屠殺場)を整備する場合は、アニマルウェルフェアへの配慮が求められるようになりました。

畜産物処理加工施設のうち産地食肉センターの整備を実施する場合にあっては、と畜残さ等の再資源化等の有効活用及びアニマルウェルフェアに配慮した獣畜の取扱いに努めるものとする。

*強い農業・担い手づくり総合支援交付金実施要綱(平成31年4月1日制定) 別記1に記載されています。

具体性のないものではありますが、交付金制度の基準にこのような一文が加わったのは動物福祉の一歩前進です。

アニマルウェルフェアへの配慮が求められるのは「産地食肉センター」のみ

しかしこの文章には問題があります。
対象が「産地食肉センター」に限定されており「食鳥処理場」が含まれていないことです。産地食肉センターは牛や豚を屠殺する施設、食鳥処理場は鶏やアヒルなどの家きんを屠殺する施設です。
食鳥処理場整備も交付金の対象となっているのに、なぜ鶏やアヒルは「アニマルウェルフェアへの配慮」から除外されてしまっているのでしょうか。

この点について農林水産省へ問い合わせたところ、次のような回答でした。

厚生労働省から発出された「と畜場の施設及び設備に関するガイドラインについて」(平成6年)や「新設及び改築等が行われると畜場の獣畜の飲用水設備の設置について」(平成29年)の通知の内容を踏まえ、産地食肉センターの整備を実施する場合についての留意事項として想定していることから、食鳥処理場については記載していない状況です。

このガイドライン及び通知には、「アニマルウェルフェア」という言葉は出てきませんが、いずれも牛や豚の屠殺場に飲水設備の設置を促す内容になっています。このような公的文書があることが産地食肉センターへの交付基準にアニマルウェルフェアが求められる理由であるならば、食鳥処理場が除外されるのはやはり整合性を欠くとかんじます。
なぜなら食鳥処理場に対しても、係留所での鶏の長時間放置の問題について農林水産省から都道府県農政部局へ通知が発出され、これをうけて厚生労働省と環境省からも各都道府県へ改善を求める通知が出ているからです。

農林水産省から出た通知

食鳥処理場への鶏の計画的な出荷について

平成30年3月26日

採卵鶏の更新については、例年、不需要期である夏場や年明けにこれを行う養鶏業者が多く見られることに加え、最近は、鶏飼養羽数が増加傾向で推移していることから、今後、鶏の食鳥処理場への出荷が従来よりも多くなると見込まれる。
このため、仮に、鶏の食鳥処理場への出荷が過度に集中し、食鳥処理業者等において、輸送の過密化や食鳥処理場での保管の長時間化を余儀なくされた場合には、関係法令等に定める保管基準等の適切な遵守に支障を来すことが懸念される。
ついては、貴管内の都道府県に対し、特に鶏の食鳥処理場への出荷に当たっては、養鶏業者と食鳥処理業者が調整の上、関係法令等に留意しつつ、計画的に出荷すべき旨、養鶏業者等関係者に対して周知するよう依頼されたい。

[参考]
・ 産業動物の飼養及び保管に関する基準(昭和62年10月9日総理府告示第22号)
第3 産業動物の衛生管理及び安全の保持
5 管理者及び飼養者は、その扱う動物種に応じて、飼養又は保管する産業動物の快適性に配慮した飼養及び保管に努めること。
第4 導入・輸送に当たっての配慮
3 産業動物の輸送に当たる者は、その輸送に当たっては、産業動物の衛生管理及び安全の保持に努めるとともに、産業動物による事故の防止に努めること。
・ 食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律施行規則(平成2年6月29日厚生省令第40号)別表第3
二 食鳥、食鳥とたい、食鳥中抜とたい及び食鳥肉等の衛生的取扱い
イ 生体の受入れ
(1) 食鳥処理をしようとする食鳥の集荷に当たっては、異常なものの排除に努めるとともに、生体の健康の保持に留意して輸送すること。

*赤字強調はアニマルライツセンター

産業動物の飼養及び保管に関する基準は、動物の愛護及び管理に関する法律に基づき作られた基準です。このように、食鳥処理場においても、動物福祉に関する公的文書が出されていることから、交付金の「アニマルウェルフェアへの配慮」は産地食肉センターに限定すべきではないと考えます。

鶏の長時間放置の問題については、さらにこの後厚生労働省が実態調査し、この調査を受けて再度各省から改善を促す通知が出ています。

また、このような公的文書は発出されていないものの、日本の食鳥処理場では鶏が意識のあるまま首を切られたり(ヨーロッパでは違法です)、放血不良と言って、意識のあるまま鶏が茹でられるという動物福祉上重大な問題があります。放血不良については国会でも質疑*が行われています。
*2018年6月6日 https://www.hopeforanimals.org/animal-welfare/kousei-roudou-0606/
2019年5月31日 https://www.hopeforanimals.org/broiler/cadaver-should-be-illegal/ 

豚舎や牛舎、鶏舎の整備への交付にも「アニマルウェルフェアへの配慮」が必要

交付金を使って豚舎や牛舎、鶏舎の整備も行われていますが、これらの整備にも「アニマルウェルフェアへの配慮」は必要なはずです。
これまでこの交付金制度を使ってEUで禁止されている妊娠ストール豚舎やバタリーケージ鶏舎が整備されていますが、畜舎の減価償却期間を考えると、海外で次々廃止が進んでいるこれらの拘束施設をいまさら建設するのは無謀な投資とも言えます。

輸出拡大を目指すなら動物福祉は必須-EUの動物福祉基準

この交付金の支援には「農畜産物輸出に向けた体制整備」も含まれますが、輸出においてはなお動物福祉が重要になってきます。

日本とEUの日EU経済連携協定(EPA)が2019年2月1日に発行し、2月22日にはEU向けの輸出が可能な国・地域を記載した「第三国リスト」に日本も加わり、日本からEUへの卵と卵製品の輸出が可能となりました。
「卵と卵製品」といっても、輸出可能なのは卵の割合が50%未満である等の条件を満たす加工食品に限られ*1*3、殻付き卵についてはEUの基準で認定された施設である必要があります。
日本農業新聞は「政府は認定要件などでEUとさらに協議する方針で、輸出開始には時間がかかる見込み。」「EUは危害分析重要管理点(HACCP)に加え、洗浄や割卵を巡るルール、アニマルウェルフェア(快適性に配慮した家畜の使用管理)への対応など、独自の高い衛生管理水準を求めている。」と報じています*2
どのようなアニマルウェルフェア基準をEUが求めているのか定かではありませんが、「産卵鶏の保護のための最低基準を定めた指令」*6でバタリーケージを禁止するEUが、バタリーケージ飼育された日本の殻付き卵を受け入れる可能性は低いように思います

鶏や豚の肉についても同様です。
2月1日に発効になったEPAでは鶏肉と豚肉のEUへの輸出は見送られましたが、今後も輸出解禁へ向けた協議は続けられます。
しかしそこにも動物福祉の壁が立ちはだかります。

EUは2010年8月17日に出された「第三国からの生体並びに畜産物に対するEUへの輸入及び経由規則に関する一般指針書」(EC2010)*3を公開しています。
この中で「EUへの輸出を希望する国の当局は、対応するEUすべての法律を満たしているかどうかを確認する責任がある」とし、その法律の一つにはもちろん「動物福祉法」も含まれます。
「殺害時の動物保護の規則」*4では食鳥処理場でスタニング(気絶処理)なしで動物を屠殺することは認められていないため、電気やガスで気絶処理を行わずにいきなり鶏の首を切断するという日本の屠殺方法では、EUへの輸出はおそらくできないでしょう。

追記:2019年12月11日「対 EU 輸出食肉の取扱要綱」が改正され、EUへ鶏肉を輸出する際はスタニングはもちろん、12 時間以内にとさつされない場合には給餌し、その後も適切な間隔で適量の給餌するなどの動物福祉条件を満たすことが必要になりました。詳細はコチラをご覧ください。

「豚保護のための最低基準を定めた指令」*7で禁止されている豚の妊娠ストールも同様です。日本では88.6%の養豚で妊娠ストールが使用されていますが、ここから生産された豚肉をEUが輸入する可能性は低いと考えられます。

強い農業・担い手づくり総合支援交付金の交付基準への要望

これらのことから、豚や牛を屠殺する産地食肉センターだけでなく、鶏などの家きんを屠殺する食鳥処理場や、牛舎や豚舎や鶏舎の整備においても「アニマルウェルフェアへの配慮」が必要だと思われます。

アニマルライツセンターは食鳥処理場については厚生労働省へ、牛舎、豚舎や鶏舎などの家畜飼養管理施設については農林水産省へ、それぞれ次の通り要望書を送付しました。

食鳥処理場について厚生労働省への要望

当法人は動物福祉向上を目指す認定NPO法人です。

強い農業・担い手づくり総合支援交付金の交付基準について要望がありご連絡差し上げました。現在(2019年度)の本交付金の事業の実施基準として、

(19)畜産物処理加工施設のうち産地食肉センターの整備を実施する場合にあっては、と畜残さ等の再資源化等の有効活用及びアニマルウェルフェアに配慮した獣畜の取扱いに努めるものとする。( http://www.maff.go.jp/j/seisan/suisin/attach/pdf/tsuyono_2019-8.pdf )との記載があります。これについて次の通り要望します。

(19)の基準に、食鳥処理場も含めること。

理由

一つ目の理由は、食鳥処理場における鶏のアニマルウェルフェアの改善を求める通知が出されていることです。2018年3月26日、農林水産省から都道府県農政部局へ通知が発出され、これをうけて厚生労働省と環境省からも各都道府県へ改善を求める通知( https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000199531.pdf )が出されています。本通知は動物の愛護及び管理に関する法律第七条七項に基づき作られた「産業動物の飼養及び保管に関する基準」を参照し、食鳥処理場における鶏の長時間保管を改善するよう求める内容となっています。

鶏の長時間放置の問題については、さらにこの後厚生労働省が実態調査し、この調査を受けて再度各省から改善を促す通知も出されています( https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/1_law/files/n_43.pdf )。

また、このような公的文書は発出されていないものの、日本の食鳥処理場では鶏が意識のあるまま首を切られたり、放血不良と言って、意識のあるまま鶏が茹でられるという動物福祉上重大な問題があります。放血不良については国会でも質疑*が行われています。
*2018年6月6日 https://www.hopeforanimals.org/animal-welfare/kousei-roudou-0606/
2019年5月31日 https://www.hopeforanimals.org/broiler/cadaver-should-be-illegal/ 

二つ目の理由は、畜産物輸出を考えた時に食鳥処理場におけるアニマルウェルフェアが重要になるためです。
本年2月1日に発効した日本とEUの日EU経済連携協定で鶏肉は含まれませんでしたが、今後も輸出解禁へ向けた協議が行われていくものと思われます。EUはEU規則(COUNCIL REGULATION (EC) No 1099/2009 of 24 September 2009 on the protection of animals at the time of killing)において爬虫類および両生類を除くあらゆる脊椎動物を対象とした、アニマルウェルフェアに配慮した屠殺方法の細かい基準を設けています。日本で一般的に行われているスタニング(気絶処理)無しの食鳥処理は認められていません。

これらのことから本交付金の基準の「アニマルウェルフェアへの配慮」は産地食肉センターだけでなく、「食鳥処理場」も含めるべきだと考えます。

以上、お忙しい中恐縮ですが、ご検討いただき、
貴省のお考えをお聞かせいただけますよう、何卒よろしくお願いします。

8月29日 厚生労働省から以下の回答がありました。

このたび、「国民の皆様の声」へお問い合わせいただいた件について、厚生労働省食品監視安全課よりご回答いたします。

強い農業・担い手づくり総合支援交付金については、当省で所管するものではなく、事業の実施基準についても、農林水産省が策定していることから、所管する農林水産部局へお問い合わせいただくようお願い申し上げます。

(参考)
農林水産省HP
http://www.maff.go.jp/j/keiei/sien/31_kofukin/index.html

この回答を受けて農林水産省へ同じ要望を提出したところ、回答は次のとおりでした。

ご要望につきましては、食鳥処理場の構造設備に関わることであるため、食鳥処理場を所管する厚生労働省へのご要望が適当と考えております。
その上で、今後も厚生労働省の通知を前提に、必要に応じて対応したいと考えております。

連絡先:生産局畜産部食肉鶏卵課

屠殺場でのアニマルウェルフェアは自分の所管ではないという各省庁の姿勢は今に始まったことではありません。想定はしていた回答でしたが、誰もが自分の問題ではないと避け続ける限り、動物は苦しみ続けます。

 

家畜飼養管理施設について農林水産省への要望

当法人は動物福祉向上を目指す認定NPO法人です。

強い農業・担い手づくり総合支援交付金の交付基準について要望がありご連絡差し上げました。現在(2019年度)の本交付金の事業の実施基準として、

(19)畜産物処理加工施設のうち産地食肉センターの整備を実施する場合にあっては、と畜残さ等の再資源化等の有効活用及びアニマルウェルフェアに配慮した獣畜の取扱いに努めるものとする。( http://www.maff.go.jp/j/seisan/suisin/attach/pdf/tsuyono_2019-8.pdf )との記載があります。これについて次の通り要望します。

(19)の基準に、牛舎、豚舎や鶏舎などの家畜飼養管理施設も含めること。

理由

これまでこの交付金で、欧米を中心に禁止がすすんでいるバタリーケージ鶏舎や妊娠ストール豚舎が整備されています。しかし諸外国で次々廃止が進んでいるこれらの拘束施設をいまから建設するのは適切な投資とはないと考えるためです。

バタリーケージはEUでは禁止、アメリカの7つの州で禁止となっています。その他の国におけるバタリーケージの規制状況についてはこちらをご覧ください。 https://bit.ly/2KJWXMJ

妊娠ストールについては日本も加盟するOIEで、2018年5月25日に「成熟雌豚及び未経産雌豚は、他の豚と同様に、社会的な動物であり、群で生活することを好むため、妊娠した成熟雌豚や未経産雌豚はなるべく群で飼われるものとする。」との記載が盛り込まれた動物福祉規約が可決されています。

諸外国における妊娠ストールの規制状況についてはこちらをご覧ください。 https://www.hopeforanimals.org/pig/271/

また畜産物の輸出においては、より一層動物福祉が重要になるものと思われます。

日EU経済連携協定(EPA)における殻付き卵の輸出の認定要件において、バタリーケージを禁止するEUがバタリーケージ飼育された日本の殻付き卵を受け入れる可能性は低いように思います。

EUへの豚肉や鶏肉の輸出についても同様で、今のままでは動物福祉の壁が立場だかるのではないかと思います。
EUは2010年8月17日に出された「第三国からの生体並びに畜産物に対するEUへの輸入及び経由規則に関する一般指針書」*を公開していますが、その中で「EUへの輸出を希望する国の当局は、対応するEUすべての法律を満たしているかどうかを確認する責任がある」とし、その法律には「動物福祉法」も含まれます。
EUの動物福祉法「肉用鶏の最低限の保護を定めた指令」ではブロイラーの飼育密度は33k/㎡までとされていますが、これは現状日本の平均飼育密度を大きく下回っています(日本は46.68k/㎡が平均)。「豚保護のための最低基準を定めた指令」では種付け4週間後から出産予定日の1週間前までの妊娠ストール使用を認めていませんが、日本では妊娠ストール施設が主流です。

これらのことから、今後新設される家畜飼養管理施設はアニマルウェルフェアに対応したものである必要があると考えます。

以上、お忙しい中恐縮ですが、ご検討いただき、
貴省のお考えをお聞かせいただけますよう、何卒よろしくお願いします。

https://ec.europa.eu/food/safety/international_affairs/trade/import_animal_en

家畜飼養施設については、農林水産省から口頭で回答をいただきました。

回答の内容は「本交付金は事業の効率化がメインのため、それに関係ないことをあまり盛り込むこができない」というものでした。
確かに本交付金の目的の一つは流通効率化です。しかしその流通効率化には「輸出」も含まれています。畜産物の輸出にアニマルウェルフェアを避けることがこれからますます難しくなってくることを考えると、アニマルウェルフェアに配慮しない施設に交付金を出すことは「関係のないこと」とは言えません。

また効率的であろうとなかろうと、妊娠ストールやバタリーケージといった施設は動物への最低限の配慮をも無視した非人道的な施設です。
そのような施設に交付金を交付できると制度はあってはならないはずです。

 

*1 卵及び卵製品に関する日本のEU第三国リスト掲載について 農林水産省
*2 鶏卵・卵製品 EU向け輸出解禁へ 施設認定は協議継続 農水省 2/23 日本農業新聞
*3 General guidance on EU import and transit rules for live animals and animal products from third countries. Updated 17-08-2010
*4 COUNCIL REGULATION (EC) No 1099/2009 of 24 September 2009 on the protection of animals at the time of killing
*5 COUNCIL DIRECTIVE 2007/43/EC of 28 June 2007 laying down minimum rules for the protection of chickens kept for meat production
*6 Council Directive 1999/74/EC of 19 July 1999 laying down minimum standards for the protection of laying hens 
*7 COUNCIL DIRECTIVE 2008/120/EC of 18 December 2008 laying down minimum standards for the protection of pigs

参照

卵などのEU向け輸出、日本も可能な国に認定 JETRO
Import Conditions European Commission

1 コメント

  1. 堀江竜二 2019/12/04

    フォアグラなんて提供しないで下さい。

    返信

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