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【輸出食肉】「EUへ輸出する鶏の屠殺方法」と「国内消費の鶏の屠殺方法」に、動物福祉の格差

【輸出食肉】「EUへ輸出する鶏の屠殺方法」と「国内消費の鶏の屠殺方法」に、動物福祉の格差

2019年12月11日「対 EU 輸出食肉の取扱要綱」が改正*1されました。

2019年2月1日の日本とEU間の経済連携協定(EPA)締結で見送られていた「日本からEUへの家禽肉輸出」が、その後の協議で可能となった*2ことにより改正されたものです。日本からEUへ家禽肉を輸出する場合は一定の動物福祉要件をクリアすることが求められることになります。

牛の屠殺場については、アメリカやブラジル、オーストラリアなど諸外国輸出向けと日本国内消費向けで動物福祉の格差があることは以前から問題となっていましたが、今回の改正で鶏の屠殺についても格差が生じることになりました。

改正された対 EU 輸出食肉の取扱要綱に添付されている動物福基準は、従来牛だけだったものに家禽が追加されただけでなく、牛についてはより具体的な内容に変更されています。2019年12月11日に改正された取扱要綱を見ながら、EU向け食肉の動物の殺し方と、国内向け食肉の動物の殺し方の動物福祉基準を比較してみたいと思います。

参照:対 EU 輸出食肉の取扱要綱(最終改正日)令和元年 12 月 11 日 別添6 動物福祉に関する基準

EU向けの屠殺場の動物福祉要件国内向け屠殺場の動物福祉要件

1 牛及び家きんの共通事項
(1) 認定と畜場等において、EU 向け輸出の牛及び家きんの搬入からとさつまでの間、歩行困難牛を含め、動物福祉の観点から適切に取り扱われること。
(2) 牛及び家きんは、とさつ時及びその関連の手順の際に、可能な限り苦痛が取り除かれていること。
(3) 生体取扱施設は適切な換気が維持され、生体の苦痛や騒音を和らげるよう配慮されていること。
(4) 本基準を確実に実施するため、動物福祉に関する内容のマニュアルを整備すること。また、施設に動物福祉責任者を置き、同マニュアルに基づき適切に実施されていることが確認されていること。

2 牛に係る個別事項
(1) と畜場の設備等
ア けい留所及び通路は、牛が動揺しないよう環境を管理し、通常の動作を容易に行うための十分な広さを有すること。
イ けい留所及び通路にタラップを設ける場合には、牛の落下を防止するための設備が設けられていること。
ウ けい留所には、牛が常時支障なく給水できるよう、適切な給水設備を設けること。
エ けい留所及び通路の床面は、凹凸を設ける等牛の転倒を防止する構造を有していること。
(2) と畜場における取り扱い
ア と畜場に到着後、できる限り速やかに生体を積み下ろし、過度な遅延なくとさつすること。12 時間以内にとさつされない場合には給餌し、その後も適切な間隔で適量の給餌をすること。
イ 積み下ろし後直ちにとさつされない場合には、常時飲水できるようにすること。
ウ 次の行為は禁止する。
・ 手足又は器具による強打
・ 目、鼻、尾等過敏な部位の刺激
・ 頭や耳、角、脚、尾等の牽引
・ 鋭利な器具による突き立て
エ 電気ショックを与える器具の使用は避けること。なお、移動し難い成牛のみ使用しても差し支えないが、1秒以内とし、繰り返し使用しないこと。
オ ロープを使用して角、鼻環又は両脚を拘束、牽引等しないこと。ロープの使用に当たっては、次のとおりとすること。
・ 牛が障害を受けることがないよう適切に結さつすること。
・ 牛が必要に応じて、横臥、飲食できること。
・ 牛の首が圧迫又は障害を受けない方法によること。また、その恐れがある場合には、直ちに解放が可能となるよう措置すること。
カ 動けない牛を引きずらないこと。
キ と畜場の開場時には、常に隔離所が使用できること。
ク 動物福祉責任者は、けい留場所における牛の健康状態を定期的に点検する
こと。
ケ スタンニングから放血までの操作は、1 頭の牛に対して連続して行うこと。
コ 解体の作業は、牛の生存の兆候がないことが確認されない限り開始しない
こと。
サ 動物福祉責任者又は動物福祉責任者から指名された従業員は、動物がスタンニング後から放血までの間に、意識や感覚があることを示すいかなる兆候もないこと確認するモニタリングを定期的に行い、記録すること。もし、これらの兆候が確認され、動物が適切にスタンニングされていないことが確認された場合は、スタンニングの担当者は、1(4)のマニュアルに沿って適切な措置をとること。
シ コのモニタリングを実施するため、以下の事項を1(4)のマニュアルに含めること。
(ア) モニタリングの責任者
(イ) 動物の無意識状態又は意識や感覚があること示す指標
(ウ) (イ)の指標の判断基準
(エ) モニタリングの頻度(と畜される牛の種類又は大きさ、作業員の交代等の要因を考慮し、高い信頼性のある結果が得られる頻度を設定すること)
(オ) モニタリング中に確認すべきサンプル数
(カ) (ウ)の基準を満たさない場合、不足している箇所を特定し、スタンニング等の手順について必要な変更を行う旨

3 家きんに係る個別事項
(1) 生体輸送容器は水平に置くとともに、落下、転倒を防止すること。
(2) 生体輸送容器を段重ねに置く場合は、換気、安定、糞尿による汚染に配慮すること。
(3) 食鳥処理場に到着後、できる限り速やかに生体を積み下ろし、過度な遅延なくとさつすること。12 時間以内にとさつされない場合には給餌し、その後も適切な間隔で適量の給餌をすること。
(4) 生体輸送容器で輸送された家きんは速やかにとさつすることに配慮し、不可能な場合は水の給与を配慮すること。
(5) スタンニングから放血までの操作は、連続して行うこと。
(6) 家きんのスタンニングは、以下に記載した方法又はその他 EU 規則 1099/2009*3に規定された方法にて行うこと。

方法説明重要なパラメーター
頭部のみの電気的スタンニング脳に電流を曝露させ、脳波の全身性てんかん様症状を引き起こす方法。当該スタンニングは以下に掲げる要件を満たすこと。
1) 家きんの脳の大きさに対して十分な大きさの電極を用いること。
2) 電気的スタンニング装置は常時電流が供給され、使用する最小電流は、鶏にあっては 240mA、七面鳥にあっては400mA とすること。
3)作業員の確認が容易な位置に、電気的なパラメーターを表示及び記録する機器が備えられ、作動状況の記録が少なくとも1年間保管されていること。また、パラメーターが管理水準を下回った場合に、視覚的又は聴覚的な警告を与える設備等が備えられていること。
・最小電流(A or mA)
・最小電圧(V)
・最大周波数(Hz)
・最短曝露時間
・スタンニングから放血
までの最大所要時間
・装置の校正頻度
・電流の最適化
・スタンニング前の感電
防止
・電極の位置及び接触表
面積
高濃度二酸化炭素ガスを用いたスタンニング・40%以上の濃度の二酸化炭素ガスに生体を曝露し不動化させること。当該方法は、密閉したピット、トンネル、コンテナ等を用いて行い、かつ以下に掲げる要件を満たすこと。なお、あひるへの使用は認められない。
1)凍結又は湿度不足により家きんに火傷や刺激を引き起こさないこと。
2)作業員の確認が容易な位置に、ガス濃度及び曝露時間を継続的に計測、表示及び記録する機器が備えられ、作動状況の記録が少なくとも1年間保管されていること。また、ガス濃度が管理水準を下回った場合に、視覚的又は聴覚的な警告を与える設備等が備えられていること。
3)最大許容処理量においても、家きんが相互に重ならずに横になれるように設計されていること。
・二酸化炭素濃度
・曝露時間
・スタンニングから放血
までの最大所要時間
・ガスの品質
・ガスの温度

(7) 自動ネックカッターは、2 本の頸動脈を効果的に切断できることが確認できない限り、使用しないこと。また、ネックカッターが効果的でなかった場合、当該家きんは直ちにとさつすること。
(8) 湯漬けの作業は、家きんに生存の兆候がないことが確認されない限り開始しないこと。
(9) 動物福祉責任者又は動物福祉責任者から指名された従業員は、家きんがスタンニング後から放血までの間に、意識や感覚があることを示すいかなる兆候もないこと確認するモニタリングを定期的に行い、記録すること。もし、これらの兆候が確認され、動物が適切にスタンニングされていないことが確認された場合は、スタンニングの担当者は、1(4)のマニュアルに沿って適切な措置をとること。
(10) (9)のモニタリングを実施するため、以下の事項を1(4)のマニュアルに含めること。
ア モニタリングの責任者
イ 家きんの無意識状態又は意識や感覚があること示す指標
ウ イの指標の判断基準
エ モニタリングの頻度(とさつされる家きんの種類又は大きさ、作業員の交代等の要因を考慮し、高い信頼性のある結果が得られる頻度を設定すること)
オ モニタリング中に確認すべきサンプル数
カ ウの基準を満たさない場合、不足している箇所を特定し、スタンニング等の手順について必要な変更を行う旨

何もない。

*高濃度二酸化炭素ガスを用いたスタンニングが掲載されていますが、EU法においては食肉目的での屠殺で高濃度二酸化炭素ガスは容認されていないはずです。厚労省に現在確認中です。

輸出向けと国内消費向けで動物福祉の格差があるといいましたが、国内消費向けには比較できる動物福祉要件はなにもありません。ゼロです。

さらに日本向け消費ではこういった動物福祉基準がないだけではなく、牛を屠殺場へ搬入して屠殺は翌日にまわすというような長時間繋留であっても水を与えなかったり牛を移動させるのに尾を捻じ曲げたり横たわることができない短い紐で長時間繋留したりという暴力すら行われています。そこには「可能な限り苦痛を取り除くという配慮」という思考すらないように思えます。

鶏に至ってはスタニング(気絶処理)なしでの首切断は珍しくもなく、生きたまま熱湯でゆでられる鶏が年間498,892羽(2016年)と言うのが日本です。鶏にいたっては、かれらが苦痛を感じることのできる感受性がある生き物であるという認識すらもたれていないかもしれません。

EUの求める動物福祉要件は、殺す動物に対する当たり前の、最低限の配慮です。何もない日本は異常です。

 

*1 「対 EU 輸出食肉の取扱要綱」の改正について

*2 農林水産省 日本産家きん肉に関する日本のEU第三国リスト掲載について 令和元年11月13日

*3 ARC注:COUNCIL REGULATION (EC) No 1099/2009 of 24 September 2009 on the protection of animals at the time of killing

参照:厚生労働省「健康・医療 輸出食品」サイト

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