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COVID-19の被害を拡大する可能性のある薬剤耐性菌:緊急の課題では?

COVID-19による医療崩壊が警戒され、すでにいくつかの国では医療機関が適切に機能できないほどに感染者でいっぱいになっている。

そんな中で警戒されているのが薬剤耐性菌(多剤耐性菌)の存在だ。4月16日にScience*1は、新型コロナウイルスの治療の一環として、医師は通常より多くの抗生物質を処方しており、薬剤耐性菌の発生を加速する可能性があることを報じている。COVID-19によるウイルス性呼吸器感染症は細菌性の肺炎などを引き起こしやすく、どの病原体がその症状を引き起こしているのかを突き止めることは現在の混雑した医療現場では困難であり、本来は慎重に慎重を重ねて投与する抗生物質を、すぐに投与する可能性が高いのだという。急激な病状の変化がCOVID-19の特徴と何度となく報じられており、命がかかっているのだからこれは致し方のない判断だろう。とくにICUでの薬剤耐性菌発生のリスクは高いという。

中国武漢の2つの病院の患者191名を調査した研究*2では、137人の生存者のうち1人だけが二次感染性を引き起こしていたが、一方、死亡した人(54人)のうち50%が二次感染の検査で陽性を示した。ほぼすべてのCOVID-19の重症患者が抗生物質を投与されており、この研究でも95%の患者に抗生物質が投与されている。COVID-19に感染した人の7人に1人は二次感染を発症しているという*4。

2009年のH1N1インフルエンザつまり豚インフルエンザのパンデミックの際にも、様々な集団の研究により29%~51%の人々が二次感染症に感染していた事を示している*3。

ウイルス性の感染症であったとしても細菌や真菌による二次感染が発生し死亡率が高まるということは往々にして起きることだ。新型コロナウイルスでもやはり同様に二次感染を起こし命の危機に陥ることがあるだろう。

そのときに必要になる抗生物質、もうあなたは耐性を持ってしまっている=つまり効かないかもしれない・・・

さらにパンデミックによってたくさんの抗生物質が使われることにより、次なる薬剤耐性菌が生み出されるかもしれない。たとえば(日本では不明だが)海外で今新型コロナウイルス治療に多用されていると言われるアジスロマイシンへの耐性が生まれてしまうかもしれない。すると、このパンデミックが過ぎ去った後も皮膚感染症、呼吸器感染症、尿道炎、子宮頸管炎、骨盤内炎症性疾患の治療薬が一つ減ってしまうかもしれないのだ。

というのが薬剤耐性菌の怖さなわけだが、これはそろそろ日本社会でも理解が浸透した頃だろうか。

しかも、新しい抗生物質は今あまり生み出されておらず*5、時折最後の切り札と言われながら登場するような抗生物質がある。そのような抗生物質は基本的にほとんどの場合で使用されない。耐性が生まれてしまう危険性があるからだ。

新しいウイルスや細菌が生まれて人がそれに出会い、ダメージを受け、抗生物質などで反撃し、それを上回る次なるウイルスや細菌が生まれるという循環から抜け出さなくてはならない。

しかし、今も人は新しい薬剤耐性菌を作り続けている。病院の中で作り出すだけでなく、集約的畜産の中で作り出している。

集約的畜産でどのように薬剤耐性菌が生まれるのか

集約的畜産は、薬剤耐性菌の製造工場のようなものだ。日本を含め多くの国で抗生物質のおよそ3分の2が畜産業で使われている*6。畜産業において抗生物質は下記3つの目的のために使われる。

  1. 動物の病気の治療のため
  2. 病気を予防するために飼料や水に混ぜて使うため
  3. 成長促進のため

2と3はやや同義にもなりうる。日本の畜産農家で3の成長促進のために抗生物質を使い続けているとおおっぴらに答える農家はいないだろう。しかし、病気予防のために使っている抗生物質は成長促進にもつながるため、どちらを目的にしているのかが問題なのではなく、どのような使い方をしているかこそが問題だ。

治療をしないということはアニマルウェルフェアに配慮していないということ

「1動物の病気の治療」はなくしてはならない。

最低限のアニマルウェルフェアの担保のためにも、また病気を拡散させないためにも治療はなされなくてはならない。これはFAOも明確に述べていることであり、動物の治療を行わず苦しめることがあってはならない。

しかし治療とはいえ不適切な投与は行われている。牛は一頭あたりの単価が高く個別に治療され時には手術も行われるが、その他の豚や鶏はそうではない。豚は個別の投薬が行われるものもあるが、一斉に豚舎ごとに投薬されることもある。鶏は基本的に全て鶏舎ごと一斉に投薬される。人間に例えると、学校のクラスの中で一人病気が出たら、そのクラスメイト全員に抗生物質が処方されるようなことだ。これは適切な投薬とは思えない。

病気の発生がないのに行われる投与が必要な理由

畜産場においては病気が発生していない段階から飼料や飲水に混ぜて抗生物質が投与されている。高い飼育密度、不衛生な畜舎、動けないストレス、自然な行動が全くできなないストレス、自由に採食すらできないストレス、死と隣り合わせでいつでも仲間が死んでいく環境、自然光のない不自然な環境、太陽の光に当たれない環境、人工的な檻やケージに囲まれた環境、異常で人工的な騒音、同じ場所に何千何万と詰め込まれた異常さ、集約的畜産のすべてが病気の発生を促している。

人間がストレスすにさらされたり免疫が落ちていたり運動不足であったりすると感染症にかかりやすくなることと同じように、動物も今の畜産場のような環境に置かれていれば感染症にかかりやすい。誰もが知っていることだ。人間だけが特別に繊細な動物だとでも思っている人がどこかにいるのだとすれば傲慢としか言いようがない。

だから常に大量のワクチンと、病気にかかっていなくても多分かかるからと抗生物質が与えられる。まるでサプリメントかのように当たり前の工程なのだ。そうしないとたくさんの動物達が畜産農家が利益を得る前に死んでしまうのだ。

投薬した抗生物質の多くはそのまま流出

*10

日本の河川でも抗生物質や薬剤耐性菌は検出されている*8*9。下水処理を通しても河川への排出がゼロにならないというのはなんとなく市民としてはショックだ。とても川下や河口などでは遊ぶ気にはなれない。医療から出された抗生物質や薬剤耐性菌も含まれるだろうが、畜産施設もその排泄元として濃厚だ。

 

なんといっても、動物に投与した抗生物質の75%は、動物に吸収されず排泄されると推定されている*7のだから・・・。

動物に与えられた抗生物質は動物体内でも薬剤耐性菌を生み出し、それら消化管内細菌も、糞尿中に排泄されている。

家畜排泄物処理法により大規畜産場では野積みのようなことは平成11年以降(移行期間5年のため実際は平成16年以降)許されておらず、罰金50万円以内と非常に軽い刑罰ではあるが強制力は一応ある。でも、ゆるく運用されているようで、容易にふん尿が漏れ出している様子を私達も度々目にするし、なんといっても堆肥化の方法についての基準があるわけではなく、薬剤耐性菌や抗生物質が残留しているかどうかは問われない。

牛と馬と豚に関しては一定規模以上の広さがあれば⽔質汚濁防⽌法の対象施設となり排水基準が設定されているが、薬剤耐性菌や抗生物質の排水基準はない。

鶏のふん尿はそのまま堆肥や産業廃棄物となり排水にはあたらないのかもしれないが、鶏舎でふん尿や脂粉を洗い流す際の大量の水使用量を考えると⽔質汚濁防⽌法の対象施設から抜けているのが不思議だ。

こうして環境中にばらまかれていく。抗生物質や薬剤耐性菌だけでなくウイルスやその他の病原菌も。

集約的畜産(工場畜産)を終わらせなくてはならない

異常な数の動物を一箇所に集め、自然な行動をさせずに飼育する現代の畜産を終わらせなくてはならない。

アニマルウェルフェアを向上させることは動物を利用する現代社会に生きる人々の倫理的責任であるが、同時に人間を守ることにつながる。

動物に自然な行動をさせるアニマルウェルフェア畜産は、現代の工場畜産よりも効率が下がり、今のような大量生産はできなくなることもある。しかしそれでも、工場畜産を終わらせることにはお釣りが来るほどのメリットが有る。人の命が助かるというメリットだ。

ゆるかかに移行していく方法はすでに示されている。

卵用に飼育される鶏のケージ飼育からケージフリー飼育へ

肉用に飼育される鶏はベターチキンといわれるよりよい飼育へ。

豚肉を生むために飼育される豚は拘束飼育をやめて群れ飼育へ。

肉用に飼育される豚は過密飼育と麻酔無しでの去勢や尾の切除のない飼育へ。

ミルク用に飼育される牛はつなぎ飼いをやめた放牧やフリーバーンの飼育へ。

肉用に飼育される牛も拘束飼育やつなぎ飼育をやめ、少しでも放牧する時間を設けた飼育へ。

今日(2020年4月18日)現在新型コロナウイルスで死亡したと発表されている人数は世界で16万人を超えたところだが*11、薬剤耐性菌に寄る死亡者数は将来毎年1000万人に達すると予測されているのだ。今も70万人以上が死亡している。医療費もかかる。

なにもせずに今の現状に甘んじていれば、手遅れになる。この暗い未来にストップをかけるべきときなのではないだろうか。

*1 American Association for the Advancement of Science https://www.sciencemag.org/news/2020/04/antibiotic-treatment-covid-19-complications-could-fuel-resistant-bacteria# 
*2 https://www.thelancet.com/action/showPdf?pii=S0140-6736%2820%2930566-3 https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)30566-3/fulltext https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2002032
*3 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5481322/
*4 https://blogs.scientificamerican.com/observations/covid-19-patients-need-to-be-tested-for-bacteria-and-fungi-not-just-the-coronavirus/ https://blogs.scientificamerican.com/observations/antibiotic-resistance-could-lead-to-more-covid-19-deaths/
*5 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4378521/
*6 https://www.researchgate.net/publication/335934940_Global_trends_in_antimicrobial_resistance_in_animals_in_low-_and_middle-income_countries
*7 https://www.researchgate.net/publication/24365603_Fate_and_Transport_of_Antibiotic_Residues_and_Antibiotic_Resistance_Genes_following_Land_Application_of_Manure_Waste
*8 環境中に拡散する薬剤耐性菌 どうして川や池に存在するのか 西川可穂子
*9 http://www.pwrc.or.jp/thesis_shouroku/thesis_pdf/1212-P018-021_suwa.pdf
*10 https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2289982/
*11 https://coronavirus.jhu.edu/map.html

 

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