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大手鶏卵生産アキタフーズ 鶏の苦しみを無視して、養鶏業界のために現金提供の疑い

大手鶏卵生産アキタフーズ 鶏の苦しみを無視して、養鶏業界のために現金提供の疑い

鶏卵生産大手「アキタフーズ」(広島県福山市)の元代表が、吉川元農相に現金を渡し、養鶏業界の便宜を図ったというニュースが話題になっている。

アキタは何をしようとしていたのか?

  1. バタリーケージを無くそうという国際基準案の取り下げ
  2. 国税が使用される「鶏卵生産者経営安定対策事業」の拡充(同事業は、鶏卵価格が低落した場合に価格差補塡を行う「鶏卵価格差補填事業」と、鶏を殺して鶏舎を空ければ奨励金がもらえるという「成鶏更新・空舎延長事業 」の二本柱)

報道を見ると、アキタ側は、

当時農水相だった吉川氏に対し、快適な状況での家畜飼育を目指すアニマルウェルフェア(AW)の国際基準が日本の養鶏業者の負担にならないよう働き掛けをしたり、鶏卵価格下落時の業者への補填(ほてん)措置などを求めたりしていた。時事通信 吉川元農水相、鶏卵大手から現金か 複数回、東京地検が捜査 2020年12月02日07時11分

という。それぞれについて解説したい。

1.アニマルウェルフェアの国際基準 とは何か?

日本も加盟するOIE(世界動物保健機関)は、2017年から採卵鶏のアニマルウェルフェア基準「アニマルウェルフェアと採卵鶏生産システム」の策定を進めており、これまで各国と内容についてすり合わせを行ってきた。採卵鶏だけでなく、これまでもOIEはのアニマルウェルフェア基準を作っている。だが残念ながらそのたびに日本はアニマルウェルフェアのレベルを下げるようにOIEに意見(コメント)を提出してきた。

それは今回の採卵鶏のアニマルウェルフェア基準も例外ではない。だがこれまでと違うのは、養鶏業界がこのアニマルウェルフェア基準を低下させようと積極的にかかわってきたことだ。

日本はこのOIEの採卵鶏のアニマルウェルフェア基準案について、OIE連絡協議会で話し合いを進めている。2018年2019年の会議には、鶏卵生産大手のアキタフーズ副社長(当時)も臨時メンバーとして出席した。これまで豚のアニマルウェルフェア基準を作るときなどに臨時メンバーとして養豚利害関係者が出てくることはなかった。しかし採卵鶏の基準づくりではアキタフーズ副社長(当時)に加え、同じく鶏卵生産者の坂本産業株式会社の坂本 修三代表取締役社長(2018年12月のみ)と、養鶏場のコンサルティングをする株式会社ピーピーキューシー白田 一敏専務取締役が加わった。

そして「生食文化だからケージでないとだめ」「高温多湿の日本はケージでないとだめ」「平飼いは死亡が増える」「ケージの場合、ケージを掴むことで止り木の役割を果たしている」などと発言しバタリーケージを支持した。
(言っておくが生食とケージには何の関係もない。バタリーケージ飼育ほどサルモネラ汚染が高いことが分かっている。高温多湿、平飼いは死亡が増える、などの発言も、単に管理方法がまずいだけの話だ。)

アキタ一企業だけではない。2018年11月に、アキタ元代表が副会長や特別顧問を務めた日本養鶏協会もOIEの採卵鶏のアニマルウェルフェア基準がバタリーケージが否定されるOIE基準にならないよう吉川元農水大臣に要望書を出している*。

結果どうなったか。
砂浴びできる敷料や営巣区域(巣箱など)や止まり木は鶏はなくても良く、バタリーケージであってもアニマルウェルフェアが達成できるという内容にするよう、日本はOIEにコメントを出すことになった。
日本側から提出されたネガティブなコメントに対して、敷料や止まり木や巣箱を必須としていたOIEの元の案はこれらの設置が「望ましい」との表現に変わり、さらにこの「望ましい」も取り消すように日本は求めている
(日本から出したコメントはOIE連絡協議会サイトの2019年1月 2020年1月を参照)

養鶏業界が守りたいバタリーケージとはどのようなものなのだろうか?

砂場も巣箱も止まり木もない、バタリーケージの中で暮らす鶏たち (動画/日本)

2.鶏卵価格下落時の業者への補填(ほてん)措置 とはなにか?

この措置とは、正確に言うと「鶏卵生産者経営安定対策事業」のことだ。

国税が使用されるこの事業には、2018年に48億6200万円、2019年にも48億6200万円、2020年には51億7400万円の予算があてられた。

事業は二つの柱に分かれている。一つは「鶏卵価格差補填事業」で、鶏卵価格が低落した場合に価格差補塡を行い、採卵会社を支援する制度、もう一つは「成鶏更新・空舎延長事業 」で、鶏を屠殺し、長期の空舎期間を設けた場合に奨励金を支払うという制度だ。国税で行われる事業だが、アキタ元代表が副会長や特別顧問を務めた日本養鶏協会が実施主体となっている。

報道ではこの事業についてアキタ側は政治家や農水省に積極的に働き掛けをしていたとされている。そして2020年度から、鶏を屠殺した業者への奨励金の額を増額したりするなど、大幅な変更が行われることになった。

下表 日本養鶏協会第 4 期鶏卵生産者経営安定対策事業参照

変更点現行令和2年
予算の基金化単年度予算で執行。予算を基金化。

*単年度予算の場合は余った場合は国庫に返還しなければならなかったが、基金化することで翌年に繰り越すことができる

1.鶏卵価格差補塡事業

変更点現行2020年
(1)10 万羽基準の廃止成鶏更新・空舎延長事業が発動した場合は、10 万羽以上飼養生産者に対して価格差補塡が停止する。成鶏更新・空舎延長事業が発動した場合でも、経営規模に拘わらず、毎月の標準取引価格と補塡基準価格の差額の9割を補塡する。(補塡基準価格と安定基準価格の差額を上限)
(2)生産者負担率の変更国:生産者=1:3国:生産者=1:7

2.成鶏更新・空舎延長事業(殺した数に応じて奨励金が支払われる)

変更点現行2020年
(1)10 万羽未満飼養生産者に対する奨励金単価の引き上げ270 円/羽310 円/羽
(2)成鶏処理場への奨励金単価の引き上げ23 円/羽47 円/羽
(3)新たな空舎期間延長のオプション追加

空舎期間 60~90 日のみ

60~90日の奨励金単価は、210円/羽。10万羽未満の小規模生産者は270円/羽。

空舎期間 60~90 日に加え、空舎期間 91~120 日を追加。

60~90日の奨励金単価は210円/羽。10万羽未満の小規模生産者は310円/羽。
91~120日の奨励金単価は 420円/羽。10 万羽未満の小規模生産者は620円/羽

(4)1月も成鶏更新・空舎延長事業の発動を原則化1月には原則成鶏更新・空舎延長事業は発動しない。(生産局長の承認を経て発動することも可能。)1月も原則他の月と同様に成鶏更新・空舎延長事業が発動する。(生産局長の承認を経て発動させないことも可能。)

(5)ひなの再導入割合の引き下げ

4割3割

*ひなの再導入とは、この制度の悪用を防ぐために、事業を継続する意思のあることを確認するために設けられてる

3.鶏卵の需給見通しの作成

変更点現行2020年
鶏卵の需給見通しの作成なし新たに鶏卵の需給見通し作成を支援。負担率は定額。

上の表をみると、鶏卵価格差補填事業の生産者負担率を増やし、鶏を屠殺する成鶏更新・空舎延長事業に奨励金を拡充・増額することで、後者の制度に重点が置かれるような変更になっていることが分かる。

2019年8月27日に、日本養鶏協会は「1.鶏卵生産者経営安定対策事業について、鶏卵の需給の安定を図るため、成鶏更新・空舎延長事業に力点を置いた見直しを実施すること。その際、中小規模生産者に配慮することまた、事業の安定性を確保するため、鶏卵生産者経営安定対策事業の基金化を図ること」との要望書を提出している**。その要望が通ったということにだ。

しかしこの成鶏更新・空舎延長事業は平たく言えば、鶏を殺すことで卵の過剰供給を減らそうという制度だ。命を軽視した乱暴な制度で、屠殺を「更新」と言いかえるところからも鶏がモノのように扱われていることが分かるだろう。

屠殺したときの奨励金を拡充・増額したことで、今後、成鶏更新・空舎延長事業を利用する事業者は増えると推測される。そして、採卵鶏の屠殺が増えると、食鳥処理場で屠殺がとどこおり、今以上に長期保管されて苦しむ鶏の数も増えることになるだろう。

成鶏の屠殺場で、カゴにギュウギュウ詰め込まれ水も餌も得ることができず夜間放置されている鶏たち(動画/日本)

養鶏業界は自分たちの利益が守られればそれでいいのだろうか?現場を知る彼らは、鶏たちがどんな状況にあるのか、私たちよりもずっと理解しているはずだ。業界全体でアニマルウェルフェアを向上させるために行政や議員に働きかけることもできるはずなのに、なぜ後ろ暗いことをして鶏の苦しみを継続させようとするのだろうか。

今からでも遅くはない。これを機に業界を刷新し、目先の利益にとらわれ現状維持にすがりつくのではなく、前に進んで世界のアニマルウェルフェアの動きに肩を並べられるような取り組みをしてほしいと思う。

*2018年12月1日 日本の実状に適したAW(アニマルウェルフェア)基準に! 鶏鳴新聞
**令和2年度予算要望について  日鶏協ニュース  令和元年 9 月号 一般社団法人 日本養鶏協会

 

 

7 コメント

  1. 名無し 2020/12/07

    アキタフーズの元会長が、鶏を踏み台にして買い、官僚を接待したクルーザーが新聞に出ていました。
    何億ではなく、何十億のレベルだと思います。  Hope for animalsで働きかけて、この異常さを世に知らしめてください。
    鶏がかわいそう過ぎます。
    https://news.yahoo.co.jp/articles/0b8e5720223744dff463f6b705877caa9603b8df
    http://blog.livedoor.jp/public_design/archives/31401386.html

    返信
  2. RYRY 2020/12/26

    バリケージを設ければ、お金がかかり儲けが下がるから単にイヤなだけじゃないですか?
    ニュースも聞きましたが、だふんそうだろうと。。ただ、そう言ってしまうと、世間的に会社や自分に悪評が付くから言葉選んだんでしょうと思う。
    。政治家もお金で目が眩むし。大人って悪人ばかりか!!?一部の人の愚考とは言え、一部でも大人がこうだから、子供たちへの悪影響は避けられないです。。日本に明るい未来など感じない、、と繋がります。。

    追記、
    いずれ人は死んで、あの世に行きます。でもこの世で世間を欺き自分の利益しか考えないで生きている人って、閻魔様の前でどう弁解するのだろう?閻魔杣の目だけは欺けないから、、と繋がっていきました。。

    返信
  3. 優花 2021/01/14

    日本の鶏卵業者のレベルなんてこんなものなのでしょうね。
    私は恐ろしいので、平飼いの餌も厳選した業者からしか卵は買いません。
    こんな良心の欠片も無い輩が食品業を
    するから成人病が後を絶たないと
    思います。

    返信
  4. 略略 2021/01/17

    平買いで一個50円の卵を購入していますが、他の方は1パック200円しない卵を購入しています。問題は、卵の値上げを認める消費者がどのくらいいるかでしょう。

    返信
  5. 沼田 2021/03/07

    この情報を拡散し、マスコミ、内閣府、全関係省庁に、企業に、個人に粘り強く働きかけます。

    返信
  6. ひろ 2021/05/08

    良い記事だと思います。
    知人や家族にも伝えていきます。
    支持します。

    返信
  7. のぶさん 2021/12/07

    「かわいそう」という感情的判断基準のみで、これらの企業を責めるのは浅はかであろう。
    なぜ?今さらこうしたら飼育が取り沙汰されているのか?アメリカ農水省と食品会社らは、如何に利益を拡大できるのか?つまり、この新しい飼育方法を薦めることで、他国の鶏卵業者や食肉業者を追い払えるか?ということも含まれているはずなのである。これは、愛護だけの問題ではないだろう。いきなり法が変わり倒産する鶏卵業者も出ることが予想される。単にアキタフーズ元社長を責められるような簡単な問題ではないだろう。
    鶏たちにとって、鶏卵業者、その他畜産を営む農家を共に生存足らしめるアイデアもないまま、愛護を盾に法案を受託できるものではない。これは、単純な善悪の問題ではあないだろうと思う。

    返信

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