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国連食糧農業機関(FAO)は、2016年11月14日からの一週間を、WORLD ANTIBIOTIC AWARENESS WEEK(世界抗生物質啓発週間)としています。ANTIBIOTICS AND YOU(抗生物質とあなた)というプレッジ(宣言)キャンペーンも繰り広げるなど、一般市民への啓発に力を入れています。

抗生物質、抗生剤、抗菌剤、抗菌性物質・・・これらの言葉を聞いたことはあるでしょうか?

多少の違いはあれ、これらがANTIBIOTIC=抗菌薬であり、抗生物質、化学合成された抗菌剤(以下、合わせて「抗生物質」と記載します。)を指しています。
消毒薬とは少し違います。

抗生物質のリスクとは?

一時期騒がれたかもしれないけれど、畜産農家自身も農水省も不適切な利用を排除し気をつけていると言っているし、安心・・・?

それは本当ですか?
EUはたしかに成長促進のために抗生剤を利用することは禁止されましたが日本もその他の国も禁止されていません。

エコノミストのJim O’Neill氏は、2050年までに毎年1000万人が耐性菌によって死ぬだろうと予測しています。この数字は、癌での死亡者数820万(2014年)人よりも多いのです。

欧米での死者数は70万人にとどまり、多くの死者数がアフリカとアジアに集中すると予測されています。

なぜ世界中が薬剤耐性菌や抗生物質について騒いでいるかというと、この恐ろしい予測値とともに、実際にすでに死者が出ているからでしょう。アメリカは詳細にレポートしています。日本もこのくらいの質のレポートがあるとわかりやすいのですが・・・。

 

日本の抗菌剤の使用量や耐性菌の状況は、その使用量や状況がデータベース化され随時見られるEUなどとは異なり、わかりにくい状況にあります。

厚生労働省や農林水産省、その他研究結果から数字を抜き出し、日本の畜産分野による薬剤耐性菌のリスクが他国と比較するとどの程度のレベルなのか、考察してみました。複数のソースを合わせての考察のため、数字が統一されませんが、傾向を見ることはできます。


岐阜大学大学院連合獣医学研究科浅井鉄夫氏の報告によると、787トン、234トンで合計1,021トンとなっています。こちらのほうが数字が明確なので比較には浅井氏の数字を使います。

農林水産省の動物用医薬品(抗生物質・合成抗菌剤)販売量は2016年832,558Kg*2、及び抗菌剤の飼料添加物の検定合格数量は2016年870,626Kg*3であり、ヒト以外の動物への抗菌剤使用量の合計は1703トンになります。

日本は抗菌剤全体の約3分の2が、畜産動物の飼育に使われていると言われます。※この割合は、国によって異なります。

その要因は

1:畜産物の生産量が全く異なる

2:人口が全く異なる

ためです。

BBCによると、アメリカでは毎年3,400トンがヒト用医薬品として使われ、8,900トンが畜産のために使われているようです。約70%は動物のために使われています。(上記厚生労働省のデータによるとアメリカの全体抗生物質使用量は8209.6トン)

いずれにしても、アメリカは多いな、日本は少ないなと感じるかもしれません。

でも、その考え、数字のマジックにハマってしまっています。

日本の畜産物は大丈夫?

アメリカの肉の生産量は42,642,230トン、日本は3,275,654トン*1で、アメリカは日本の13倍の畜産物を生産しています。魚介類の養殖にも抗生物質が使われていますので、その数値も足し上げると、アメリカの肉と魚の生産(天然魚は無関係なので除く)は43,062,254トン、日本は3,908,701トン。
動物のための使用量を比較するとアメリカ8,900トン、日本は1,703トン(2016年 ※2018/8に数値を訂正(元は1,020トンで計算))。

 養殖魚合計抗生物質1トンあたりの抗生物質
日本633,0473,275,6543,908,7011,7030.0004357
アメリカ420,02442,642,23043,062,2548,9000.0002067

つまり、1Kgあたりの抗生物質の投与量は日本のほうが約2.1倍ほど多いようです。

しかも、アメリカは畜産物の輸出国(1,387,019トンを輸入し、6,949,058を輸出)であり、一方で日本は畜産物の輸入国(2,414,183トンを輸入し11,720トンを輸出)です。42%が輸入です。
いずれも卵、乳製品、加工食品除いた輸出入の量ですので、加工食品を含めるとより多くの畜産物を輸入していることでしょう。
つまり、日本人が摂取してしまう量は、国内使用量だけにとどまらないのです。
私たち日本人は、国内で使用している抗生物質の量の倍、もしくはそれ以上の抗生物質を畜産物を通して摂取している、ということになります。

被害はいかほど?

幸い、まだ日本人はアメリカ人よりも肉の摂取量は少ないので、ましかもしれませんが、でも、日本やアジアの畜産物はやはり気をつけたほうが良いでしょう。

実際に、日本の薬剤耐性菌、けっこう高いようです。てっきり日本の食べ物はどこよりも安全なんて思っていると、耐性菌の餌食になりそうですね。

厚生労働省より

表を見て、日本はそこまで高くないじゃないと感じますか?
いえいえ、OECDによると、日本人一人あたりの肉消費量は、アメリカ人の26%、EU諸国の人々の65%にすぎないのです。(2013年比較)
肉摂取量が少ないにも関わらず、肉摂取量が多い国とばっちり張り合っちゃっているんです。

日本人が食べてる畜産物、大丈夫でしょうか?
O’Neill氏の予測は、当たってしまうのではないでしょうか?

なお、今回肉で比較したのですが、抗生物質は乳牛にも、採卵鶏にもかかわりがあり、同じように耐性菌の原因となっています。

WHO(世界保健機関)も畜産動物への抗生物質投与中止を農家に勧告

2017年11月8日 日本経済新聞WEBニュースより)

「抗生物質の使用量の約80%が健康な家畜の成長促進に使われている国もあり、WHOは農家などへの指針で、家畜が実際に病気にかかったり、群れで感染症が発生したりした場合にのみ抗生物質を使うべきだと指摘。家畜の衛生管理やワクチン接種により疾病予防に努めてほしいと呼び掛けた。
家畜への抗生物質使用を抑制した結果、薬剤耐性菌の発生を最大39%まで減らせたとの研究結果もあると説明した。」

どうしたら良いの?

欧米でアニマルウェルフェアが発展し、いまや大手企業がのきなみ「ケージフリー」や「ストールフリー」など、動物にストレスを与えず、自然に近い飼育に戻していっているのは、この薬剤耐性菌による被害が深刻であるということも大きな理由の一つです。
放牧などであれば、抗生剤を使わずに、動物自身が自分の健康を自分自身で保ってくれます。
太陽の光をあび、運動をし、砂浴びや泥浴びをし、ミネラルや自然な食事をします。

アニマルウェルフェアを日本ももう少し重視しなくてはならないはずなのです。

成人病で死ぬのかと思っていたら、耐性菌で死にました、とならないために・・・。


上記リンク以外の参考:

オニールレポート サマリー https://amr-review.org/sites/default/files/Japanese%20revised.docx
わが国の食用動物由来耐性菌対策と耐性菌の現状http://www.eiken.co.jp/modern_media/backnumber/pdf/MM1506_01.pdf

http://www.maff.go.jp/nval/yakuzai/yakuzai_p3.html
http://www.fsc.go.jp/senmon/sonota/amr_wg/amr_info.html
*1 肉生産量、輸出入量はFAOSTAT
*2 http://www.maff.go.jp/nval/iyakutou/hanbaidaka/index.html
*3 http://www.famic.go.jp/ffis/feed/sub4_kentei.html http://www.famic.go.jp/ffis/feed/sub2_kentei.html  検定合格数量

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