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企業は畜産動物福祉に対して社会的責任がある-GRI国際スタンダード

企業は利益を追い求めるだけではなく、持続可能な未来を目指した企業活動をする責任、自社にかかわる顧客や従業員、地域住民などの利害関係者への説明責任を負っているという考えが近年では一般的だ。
企業は社会の一員として、自らの企業活動が社会に対して与える影響に対して責任を持つことが求められている。
そして、企業の活動がグローバル化するにつれ、その社会的責任(CSR)は国内だけではなく国際的な対応をもとめられるようになっており、企業が社会に対して開示すべき情報についてもさまざまな国際的枠組みが作られている。そのうちの一つにGRI(グローバル・リポーティング・イニシアティブ)がある。
「我が国企業の競争力強化に向けた CSR の国際戦略に関する調査研究報告書」(2016年 一般財団法人 企業活力研究所)によると、企業がCSR 推進にあたって意識している法規制等の中で、国際的な規則として39.1%で使用されているのがGRI4である。(もっとも多いのはISO 26000で58.7%が使用している)。

このGRI4に付属するセクターごとのガイドラインの中に「食品加工セクターガイドライン」があり、この中で、企業の社会的責任として、開示すべきとしている情報の一つに、畜産動物の福祉がある。

以下、最新の(2015年9月時点)食品加工セクターガイドラインを翻訳したものを掲載する。
(翻訳は動物福祉に関する部分のみ)非常に細かい部分まで”開示すべき”とされていることが分かる。

”Food Processing sector guidance”15~16ページ 

食品加工セクターにおける「社会」カテゴリーの開示項目 
側面 このセクターの開示項目
セクター特有の側面 
Animal Welfareセクター特有の側面の紹介
国連食糧農業計画(FAO)によると、世界では毎年、600億以上の陸生動物と5200万トンの水生生物が食品のために飼育されている。2050年までには、飼育される陸生生物の数は倍増するとされ、人間が消費する水生生物のうち、養殖されたものは今や半分を占めている。動物の飼育方法や動物へのケアに対して、消費者は高い関心を寄せるようになっている。消費者は、製品の味や価格だけではなく、製造過程での動物福祉といった倫理的な問題も考慮して、食品の品質を判断している。
動物福祉はG4ガイドラインに含まれていないため、このセクターの開示項目は繁殖と遺伝子操作、畜産、輸送、扱い、屠殺に焦点を当てる。開示項目は、特に食品製造のために飼育される動物(陸生および水生)の扱いや処置に関する動物福祉に関しても、潜在的には開示を求めるものである。中でも、動物福祉に関する情報は、繁殖と遺伝学、身体的切除、 畜舎のシステム、抗生物質・抗炎症薬・ホルモン・および/または成長促進剤投与、そして、動物福祉に関連する法律・規則・自主的規制の侵害行為といったリスクに関連して開示を求められる。
セクター特有のDMAガイダンス
G4-DMA補足ガイダンス
ポリシー
身体的切除、麻酔の使用、抗生物質・抗炎症剤・ホルモン剤・成長促進剤のの使用(薬の使用中止を含む)についての、種および品種ごとの報告。報告方法にうついてはFP10およびFP12を参照のこと。
モニタリングとフォローアップ
報告組織のパフォーマンスを立証するための認証やそのほかの取り組み(例えば、動物福祉スコアリングシステム)をリストする

関連する追加情報
報告組織のパフォーマンスを理解するために必要となる、関連する補足情報。たとえば、
・動物福祉の実施方法を改善するための取組
・通商、産業業界による動物福祉のための取組へのサポート
・動物福祉ポリシー、実施方法のために採用されている基準や認証
・動物福祉の研究および発展のために割り当てわれている資源(動物への試行的取組も含む)

セクター特有の指標 
FP9飼育および/または加工される動物の、種および品種による割合と合計
開示の要項ガイダンスについては、p. 25 
FP10種および品種による,身体的切除や麻酔の使用に関するポリシーおよび実践
開示の要項ガイダンスについては、p. 26 
FP11飼育および/または加工される動物の、畜舎の種類別分類による、種および品種ごとの割合と合計
AND TOTAL OF ANIMALS RAISED AND/ OR PROCESSED, BY SPECIES AND BREED TYPE, PER HOUSING TYPE
開示の要項ガイダンスについては、p. 27 
FP12種および品種ごとの、抗生物質・抗炎症剤、ホルモン剤、成長促進剤投与に関するポリシーおよび実践
開示の要項ガイダンスについては、p. 28 
FP13陸生および水生動物の輸送、扱い、屠殺方法に関連する、法律・規則の重大な不遵守行為、自主的規制の遵守の全数
開示の要項ガイダンスについては、p. 29
 


”Food Processing sector guidance”25ページ 
指標
FP9 飼育および/または加工される動物の、種および品種による割合と合計
1. 意義
動物の遺伝子の選択や改良、繁殖をすることは、生産量を増加させ、病気への抵抗力を高めたり、その他望ましい性質を得るという目的のもと、一般的に行われている。これらの行為は、動物福祉に影響を及ぼすことがある。この指標は、報告組織における繁殖や遺伝子操作をアセスするための基準とすることができる。また、それらの行為が動物福祉に与える影響を検討したり、繁殖や遺伝子操作が動物の福祉に引き起こす悪影響を軽減するために報告組織が行う取組を検討することにも、この指標を利用することができる。
さらに、報告組織が加工する動物が、契約農家で飼育されたか市場で調達されたかにかかわらず、この指標について報告することは、報告書の読者にとって有益な情報となる。

2. 編集
2.1 飼育および/または加工する動物の種および品種による数を特定する。たとえば、鳥、肉牛、乳牛、水生動物
2.2 種および品種ごとに、使用されている繁殖方法や遺伝子操作を特定する
2.3 2.1で特定した種および品種ごとの各動物の福祉に影響を及ぼす取り組みを特定する
2.4 種および品種による報告をする:
2.1で特定された動物;
2.2で特定された繁殖および遺伝子操作の方法
2.3で特定された取り組み
3. 定義
なし
4. 文書
報告組織における動物福祉の部門や衛生部門、関連する科学雑誌などが、情報源となりえる。
5. 参考文献
なし

”Food Processing sector guidance”26ページ
FP10 種および品種による、身体的切除や麻酔の使用に関するポリシーおよび実践
意義
身体的切除など重大な課題を伴う畜産におけるさまざまな習慣は、ステークホルダーにとって、大きな関心を集めている。動物に与える苦痛を最小限にするため、身体的切除は適切な飼育方法や麻酔の使用が必要である。この指標は、報告組織が行う身体的切除のタイプを明らかにするためのものである。
さらに、報告組織が加工する動物が、契約農家で飼育されたか市場で調達されたかにかかわらず、この指標について報告することは、報告書の読者にとって有益な情報となる。

2. 編集
2.1 種および品種ごとに、行われている身体的切除の種類を特定する。日々のメンテナンスとして行われる、毛や爪、ひづめのトリミングは含まれない。
2.2 種および品種ごとに、飼育方法(animal husbandry practice)および身体的切除において麻酔が使用されているかを特定する。
2.3 種および品種による報告をする:
2.1で特定された、身体的切除の種類
2.2で特定された、飼育方法(the animal husbandry practices)または身体的切除における麻酔の使用有無
3. 定義
身体的切除
動物のあらゆる部位に対して、付け加えるまたは取り除くことにより、物理的に変える行為。断尾、抜歯、去勢、嘴の切断、鼻環、焼印、水生生物の眼柄除去など。

4. 文書
報告組織における動物福祉の部門や衛生部門などが、情報源となりえる。
5. 参考文献
なし

”Food Processing sector guidance”27ページ
FP11 飼育および/または加工される動物の、畜舎の種類別分類による、種および品種ごとの割合と合計
1. 意義
食品生産のために飼育される動物の畜舎のシステムは、ステークホルダーにとってますますの関心を集めている。動物福祉は、畜舎のシステムから大きな影響を受ける。この指標は、報告組織が用いる畜舎のシステムの種類を特定する。
さらに、報告組織が加工する動物が、契約農家で飼育されたか市場で調達されたかにかかわらず、この指標について報告することは、報告書の読者にとって有益な情報となる。

2. 編集
2.1 動物の種および品種ごとに、飼育/加工に用いられる畜舎のシステムを特定する。これには、鳥類、肉牛、乳牛、水生生物の畜舎のシステムが含まれ、またこれに限定されるものではない。
2.2 動物の種および品種ごとに、2.1で特定された畜舎のシステムで飼育/加工される動物の割合および合計を計算する。
2.3動物の種および品種ごとに、各畜舎のシステムで飼育/加工される動物の割合と合計を報告する。
3. 定義
畜舎のシステム(Housing System)
畜舎のシステムには、1)屋内での集約的なシステム(たとえば、卵鶏のケージシステムや妊娠豚用ストール、豚用のスラット床でできた室内飼育ユニット)、2)屋内での広範囲システム(たとえば、飼育小屋、卵鶏用の納屋飼い、敷料がある豚用の屋内飼育システム)、3)屋外、または動物に屋外にいく自由を与える放し飼いシステムがある。畜舎のシステムには、海または淡水における囲い込み、ケージ、水槽、養殖池を含む。
4.文書
報告組織における動物福祉の部門や衛生部門などが、情報源となりえる。
5. 参考文献
なし

”Food Processing sector guidance”28ページ
FP12 種および品種ごとの、抗生物質・抗炎症剤、ホルモン剤、成長促進剤投与に関するポリシーおよび実践
1. 意義
抗生物質は、とくに食品生産のために飼育される動物の健康状態を保つために使用されることがある。ホルモンは、成長を促進し、放卵・放精を誘発し、また食肉の収量を増やすために用いられる。消費者やステークホルダーは、人体における抗生物質への耐性の影響、ホルモン剤が人間の健康に及ぼす影響に関して、高い関心を寄せている。この指標のもと報告されるデータは、報告組織が使用する抗生物質、抗炎症剤、ホルモン剤、成長促進剤を測定する基準となる。
さらに、報告組織が加工する動物が、契約農家で飼育されたか市場で調達されたかにかかわらず、この指標について報告することは、報告書の読者にとって有益な情報となる。

2. 編集
2.1 報告組織が使用する、抗生物質、抗炎症剤、ホルモン剤、成長促進剤を、動物の種および品種ごとに特定する2.2 抗生物質、抗炎症剤、ホルモン剤、成長促進剤の使用に関する投与行為を、動物の種および品種ごとに特定する。これは、投与をやめるときの行為も含む。
2.3動物の種および品種ごとに、報告する:
2.1で特定した抗生物質、抗炎症剤、ホルモン剤、成長促進剤の種類
2.2で特定した抗生物質、抗炎症剤、ホルモン剤、成長促進剤の投与行為
3. 定義
成長促進剤(Growth promotion)
成長促進ホルモン剤とは、ホルモンの働きを通じて、またはホルモンのような働き(甲状腺ホルモン、女性ホルモン、男性ホルモン、妊娠ホルモンなど)をするあらゆる物質のことをいう。抗生物成長促進剤とは、バクテリアやその他の微生物を破壊し、または成長を抑制するあらゆる薬のことで、通常、病歴とは無関係に、治療量以下で服薬されるもの。
日常的使用(Routine Use)
日常的使用とは、病気になっているわけではなく、予防目的のためにのみ、医薬品を服薬すること。治療や、特定の病気を防ぐために行われるものではない。
4. 文書
報告組織の畜産マネージャー、動物福祉や衛生部門などが、情報源となりえる。
5. 参考文献
なし

”Food Processing sector guidance”29ページ
FP13 陸生および水生動物の輸送、扱い、屠殺方法に関連する、法律・規則の重大な不遵守行為、自主的規制の遵守の全数
1. 意義
不遵守は、マネジメントシステムや手順が不適切であること、またはその実行が効果的でないことを示す指標である。罰金や科料などの直接的な金銭罰に加え、重大な不遵守行為は、動物福祉、報告組織の名声、消費者の信頼へのリスクをもたらす。不遵守行為は、組織にとって、できるだけ少なくとどめておくべきである。組織の効果的な内部統制が改善しているか、悪化しているかが、この指標によって示される。
2. 編集
2.1 動物の輸送、扱い、屠殺に関連する法律・規則の重大な不遵守行為の数を特定する。以下により分類して行う:
法律、規則の不遵守行為のうち、罰金または科料の課されたもの
法律、規則の不遵守行為のうち、警告の課されたもの
2.2 不遵守行為のうち、報告組織に過失がないと判断されたものは、この指標では数えない。
2.3 陸生、水生動物の輸送、扱い、屠殺に関する法律・規則の不遵守行為について、特定した事例について報告する。2.4 報告組織が、動物の輸送、扱い、屠殺方法について実行している自主的規制を特定する。
2.5 動物の輸送、扱い、屠殺方法に関する法律・規則の不遵守行為で、罰金、科料を課されたものの全数を報告する。
2.6 動物の輸送、扱い、屠殺方法について実行している自主的規制を報告する。(例えば、the American Meat Institute’s Recommended Animal Handling Guidelines and Audit Guide).
3. 定義
なし
4. 文書
報告組織の法務部門、動物福祉や衛生部門、広報部門が、情報源となりえる。
5. 参考文書
OIE Terrestrial Animal Health Code Section 7 (Animal welfare during transport and slaughter).

”Food Processing sector guidance”38
ページ

食品加工セクターにおける「社会」カテゴリーの開示項目
側面 Sector Supplement (2010) における対応箇所 
セクター特有の側面 
Animal Welfareセクター特有の側面の紹介
Sector Supplement RG & FPSS, p. 43を参照
セクター特有のDMAガイダンス
G4-DMA     補足ガイダンス
Sector Supplement RG & FPSS, pp. 43-44を参照
セクター特有の指標 
FP9     飼育および/または加工される動物の、種および品種による割合と合計
Sector Supplement IP: AW & FPSS, p. 2 を参照
FP10     種および品種による,Physical alterationや麻酔の使用に関するポリシーおよび実践
See Sector Supplement IP: AW & FPSS, p. 3 を参照
FP11     飼育および/または加工される動物の、畜舎の種類別分類による、種および品種ごとの割合と合計
Sector Supplement IP: AW & FPSS, p. 4 を参照
FP12     種および品種ごとの、抗生物質・抗炎症剤、ホルモン剤、成長促進剤投与に関するポリシーおよび実践
Sector Supplement IP: AW & FPSS, p. 5 を参照
FP13     陸生および水生動物の輸送、扱い、屠殺方法に関連する、法律・規則の重大な不遵守行為、自主的規制の遵守の全数
Sector Supplement IP: AW & FPSS, p. 6 を参照


原文
https://www.globalreporting.org/standards/sector-guidance/sector-guidance/food-processing/Pages/default.aspx

(翻訳協力:Masamune Yuka、Angus Dunn)

このガイドラインは強制力のあるものではない。
しかし畜産物を扱う日本の多くの企業が、畜産動物福祉に対して自社のポリシーを明らかにしていない現状が、いかに国際的に遅れているかは分かるだろう。
アニマルライツセンターは、畜産物を扱う食品加工企業にこのガイダンスを周知し、CSRの一環として畜産動物福祉に取り組んでいただけるようお願いしているところだ。
皆さんも是非、企業のサイトやCSR報告書を読み、動物福祉に対してなんら言及されていないなら、企業(特にグローバル企業)に問題意識をもってもらえるよう、このガイダンスの存在を知らせてほしい。

 

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