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子豚の歯を麻酔なしで切断

(トップ画像/AnimalEquality

日本では、63.6%の農家で、歯の切断がおこなわれています*1。基本的に麻酔は行われません(92.1%の農家が麻酔なしで実施*9)。
歯の切断は、産まれたばかりの子豚(生後一週間以内)の犬歯4本、第三切歯4本の合計8本の歯をニッパーで切る、という方法で行われます。

歯の切断は子豚を苦しめます。

この行為が、歯に痛みや重傷を引き起こすことは科学的に明らかになっています。
ニッパーで切断された歯のうち92%で神経感染症が起こっている(1993年)*2
切断された歯の10.6%が出血、3.3%が骨折(2005年)*2
歯の切断後、60%で歯の神経が開いてしまっている(2004年)*2

生後数日の新生児のうちであれば神経が未発達なため痛みを感じないとする考えがいまだあるようですが、それは事実ではありません。年齢を問わず動物たちは痛みを感じることができます*8。

「子豚がお母さん豚の乳首や、ほかの豚の尻尾や耳を傷つけることを防ぐ」

それが歯を切断する理由です。しかし本当に歯の切断をするしかないのでしょうか?
子豚がお母さん豚の乳首をかんだり、他の豚をかんだりするのは、かみついてしまうような悪環境で豚が飼育されているからです。

「母豚が自由に動くことができない狭いペン(3.6m2もしくは6.8m2)で飼育される子豚は、母豚が自由に動くことができる広いペン(29m2)で飼育された子豚に比べてお互いに噛みつく行動が増えた」(2002年)*2
「狭く、環境エンリッチメントがないシステムでは、母豚と関わる時間が長く自然環境と関わる時間が少ないため、母豚の乳首へのダメージは増えるかもしれない」(2006年)*2
「屋外の母豚49頭の研究では,子豚の歯を切断しなかった時に損傷を受けた母豚は全く見られなかった。子豚が里子に出された時に、他の子豚の顔面が傷つけられることはあったものの,子豚の成長には何ら影響はなかった(1996年)。
母豚への傷が無いことや子豚への損傷が少ないのは,屋外で飼育された動物では逃避が比較的容易であるためかもしれない。」
*3

そもそも傷つける原因は不適切な飼育なのです。

しかし不適切な環境が当たり前になってしまっています。日本では母豚と子豚は離乳するまで「分娩ストール」で飼育されます。EFSAは、その報告書の中で*4 分娩ストールは一般的に豚へのエンリッチメントが提供されていない、としています。分娩ストールは狭いスペースしか与えられておらず、母豚は妊娠ストールと同様、方向転換すらできません。子豚にとってもワラ一本もない無味乾燥な環境で、豚の強い探索本能をみたせるものは何もありません。
歯の切除はどうしてもしなければならないものではありません。動物福祉に積極的に取り組んでいるタイ最大の食品企業であるCPF(Charoen Pokphand Foods)は、マレーシアと台湾の豚肉事業において、歯の切断を中止しています。
CPF to further promote natural behaviours of livestock to avoid pain and injury 23-Jun-2020
適切な環境を整えれば歯の切断をする必要はないのです。

歯の切断には弊害もあります。

多くの場合ニッパーが使われていますが、ニッパーは元来針金を切る道具で、柔らかいものを押し切るようにできています。歯のような固いものを切るためのものではありません。
ニッパーで「歯を“切る”のは非常に難しいので潰すか割っている場合が多く」「ニッパーでは1本も割ることなく、きれいに切ることは無理」*5 なのです。
そのため損傷した歯から細菌を入りやすくなり、歯を切る事で歯肉炎が発生し、子豚が口の中が痛くて授乳できない、あるいは人工乳を食べなくなるという問題が起こります。また、何年間も歯の切断をしていない大手企業養豚では、切歯を行わないことで母豚が痛がり授乳をしないということや、子豚が他の豚を傷つけるといったことは起きていないか、起きていても無視できる程度だという事です。*6

歯の「研磨」のほうが「切断」よりも痛みや”歯の割れ”が少ないため、ヨーロッパでは切断ではなく研磨が使用される国もあります。

歯の切断(「研磨」は除く)は、デンマーク、ノルウェー、スイスなど一部の国では許可されていません。(日本では94.1%が切断で、研磨は5.5%以下*1)

どちらか、というのならば研磨のほうがましでしょう。
しかし歯の研磨により「38%で歯髄腔が開いた、41%で出血、3%で歯が破断」(2004年)*2 という報告もあります。
EUの獣医科学委員会のレポートには次のように記されています。
「歯を切断するよりもむしろ研磨することの方が用いられるべきだが,どちらも必要が無いように努力しなければならない。」*3

どちらも豚を苦しめることには違いないからです。

日本において大きな問題なのは「慣例だからやっておこう」という感覚で歯の切断が行われていることです。

EU指令「豚の保護のための最低基準」*7 には、次のように書かれています。

「歯の切断は、日常的に行うのではなく、母豚の乳首や他の豚の耳や尾の傷害が発生したという証拠があるときにのみ行うべきである。またこれらの手順を実行する前に、こういった悪癖を防止するために環境や飼育密度を考慮すること。したがって、不適切な環境または管理システムは変更されなければならない。」

日本では考慮されることなく、慣例として歯の切断が行われているという実態があります。

 

*1 国産畜産物安心確保等支援事業
(快適性に配慮した家畜の飼養管理推進事業)
*2 Compassion in World Farming「Tooth Resection」(2012年)
http://www.compassioninfoodbusiness.com/media/5823238/tooth-resection.pdf
*3 EUの獣医科学委員会のレポート「THE WELFARE OF INTENSIVELY KEPT PIGS」(1997年)
http://ec.europa.eu/food/fs/sc/oldcomm4/out17_en.pdf
*4 欧州連合の専門機関、欧州食品安全機関 (European Food Safety Authority、略称:EFSA )「Animal health and welfare aspects of different housing and husbandry systems for adult breeding boars, pregnant, farrowing sows and unweaned piglets」(2007年)
*5 日本養豚事業協同組合2013年7月号「ゆめ通信」
*6 2006年1月号「ピッグジャーナル」参照
*7 COMMISSION DIRECTIVE 2001/93/EC of 9 November 2001
amending Directive 91/630/EEC laying down minimum standards for the protection of pigs
http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:32001L0093&from=en
*8 Why Pain Is Still a Welfare Issue for Farm Animals, and How Facial Expression Could Be the Answer
*9 https://www.hopeforanimals.org/pig/pigfarms-survey/

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