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これでいいのか「みどりの食料システム戦略」 

パブリックコメント(国民からの意見募集)*を経て、2021年5月12日、持続可能な食料システムを構築することを目的とした「みどりの食料システム戦略」が策定されました。

*「みどりの食料システム戦略」中間取りまとめについての意見募集の結果概要

寄せられた意見は17,265件。この件数を見る限り、SDGsやESG投資への関心が高まってきていると言われていますが、まだまだ国民の関心は薄そうに感じます。

戦略の内容は、畜産分野だけでなく、農業、水産業、そしてそれに関わる環境問題、健康、技術革新と多岐にわたりますが、畜産動物のアニマルウェルフェア、代替タンパクへの移行に関わる部分のみ、どのような内容が盛り込まれたのか見てみようと思います。

みどりの食料システム戦略(令和3年5月12日)

日本の戦略-畜産動物のアニマルウェルフェア、代替タンパクへの移行に関わる部分

  1. 科学的知見を踏まえたアニマルウェルフェアの向上を図るための技術的な対応の開発・普及p10
  2. (脱炭素化、健康・環境に配慮した食品産業の競争力強化として)代替肉・昆虫食の研究開発等、フードテック(食に関する最先端技術)の展開を産官学連携で推進p12
  3. 放牧を主体とした省力的かつ環境負荷の低い家畜の飼養管理技術の普及 p53

え?これだけ?と思うのですが、これだけです。(昆虫食を「持続可能」と呼ぶ風潮への疑念についてはまた別の記事で書こうと思います)

アニマルライツセンターも、パブリックコメントを提出していましたが、かろうじて「代替肉」という言葉が追加されただけでした。(1と3についてはの段階からもともと入っていた)

EUの戦略は?

好き放題、やりたい放題で、持続可能性の無い生産と消費に歯止めをかけようと、諸外国でも持続可能な食料システムの戦略を策定するなどの動きが見られます。日本のこの「みどりの食料システム戦略」に対応するものがEUでは「Farm to Fork Strategy」ですが、このEUのものと比較してみましょう。

A Farm to Fork Strategy-for a fair, healthy and environmentally-friendly food system(公正で健康的で環境に優しい食品システムのための農場から食卓への戦略)」

EUの戦略-畜産動物のアニマルウェルフェア、代替タンパクへの移行に関わる部分

  • まず必要なアクションの一つに「アニマルウェルフェアの改善」が入っており、生産現場や公衆衛生でもアニマルウェルフェアが求められています。
  • 「持続可能な食料システムへ移行するためには、特に動物福祉、殺虫剤使用、環境保護に関する既存の法律を執行する*ことが不可欠」。
  • 「より良いアニマルウェルフェアは、動物の健康と食品の質を改善し、投薬の必要性を減らし、生物多様性を保護するのに役立ちます。 市民がこれを望んでいることも明らかです。 委員会は、動物の輸送と屠殺に関する法律を改正し、最新の科学的証拠と整合させ、範囲を広げ、執行を容易にし、最終的により高いレベルのアニマルウェルフェアを保証します。 水産養殖に関する戦略計画と新しい EU 戦略ガイドラインは、このプロセスをサポートします。 委員会はまた、フードチェーンを通じてより良い価値を伝達するために、アニマルウェルフェアのラベル表示のオプションを検討します。」
  • 「EU の貿易政策は、アニマルウェルフェア、殺虫剤の使用、抗菌剤耐性との闘いなどの重要な分野で、第三国との協力を強化し、野心的な約束を得ることに貢献する必要があります。」
  • この「Farm to Fork Strategy」に付属する文書として「Roadmap for the Fitness check of the animal welfare legislation(動物福祉法規制の適合性チェックのロードマップ)」が用意されています。このロードマップは、市民と利害関係者にアニマルウェルフェアについての委員会の取り組みを知らせ、将来の協議活動に効果的に参加できるようにすることを目的としています。
  • 「持続可能な食品加工、卸売り、小売り、ホスピタリティ、フードサービスの慣行を活性化させる」ために、「食品価格キャンペーンが、食品の価値に関する市民の認識を損なわないようにする。」として、たとえば、「肉を非常に低価格で宣伝するマーケティングキャンペーンは避ける必要があります。」と書かれています。そして、委員会はフードチェーンを監視し、持続可能性への取り組みが不十分な場合は立法措置を検討する、としています。
  • 「持続可能な食料消費の促進と健康的で持続可能な食事への移行の促進」では次のように書かれています。「現在の食品消費パターンは、健康と環境の両方の観点から持続可能ではありません。 EU では、エネルギー、赤身の肉  、砂糖、塩、脂肪の平均摂取量は引き続き推奨値を超えており、全粒穀物、果物と野菜、豆類、ナッツの摂取量は不十分です。2030 年までに、EU 全体の太りすぎと肥満の率の上昇を逆転させることが重要です。赤肉や加工肉を減らし、果物や野菜を多く含む植物ベースの食事に移行すると、生命を脅かす病気のリスクだけでなく、食品システムの環境への影響も軽減されます」
  • 「研究、イノベーション、テクノロジー、投資」の項目には、研究の重要な分野として、「植物、微生物、海洋および昆虫ベースのタンパク質、肉代替品などの代替タンパク質」があげられています。

*EUでは日本よりもはるかに内容のあるアニマルウェルフェア規則がありますが、現実には機能していないという側面があります

参考までにアメリカの戦略「Agriculture Innovation Agenda:AIA)の米国農業イノベーション戦略(U.S. Agriculture Innovation Strategy)をみると、アニマルウェルフェアについては日本とあまり変わらないレベル。
しかし代替肉については「タンパク質に対する世界的な需要が高まるにつれて、動物性タンパク質を補完し、消費者の需要を満たす細胞ベースのタンパク質製品の設計と生産を拡大します。 代替タンパク質源を開発するための分子工学プロセスは、イノベーションの速度を加速するために迅速化する必要があり、スケールアップに対応しなければなりません。 」「牛、豚、鶏、サーモンなどの培養肉製品の開発に適した細胞株を特定し、高効率分化、増殖能力の増強、高密度培養への耐性などの特性を選択または設計します。」と代替タンパク分野の拡大を課題と捉えていることが分かります。

日本の戦略、これでいいのか?

海外のものなら何でも良いとおもっているわけでありませんが、少なくともアニマルウェルフェアについてはEUは自他ともに認める先進国です。そのEUの戦略と比べると「みどりの食料システム戦略」における日本のアニマルウェルフェアレベルはとても低いものとなっています。2020年版の国際動物保護指数で、日本の畜産アニマルウェルフェア評価が最低ランクのGと位置づけられたのも頷けるような内容です。
最低ランクの虐待的飼育*をした動物性タンパクを食べて、「これが持続可能な食べ物」と胸をはっていうことはできないのではないでしょうか。

また、戦略の中には「肉などの動物性タンパクの消費を減らす」という簡単なことが一切書かれていません。「環境にやさしい持続可能な消費の拡大や食育の推進 66p」という項目にも入っていません。

その代わりに「牛のげっぷや家畜排せつ物由来の温室効果ガスを抑制する飼料の開発 8p」「高い抗病性を有する家畜育種・改良 13p」「飼料の代替としての新たなタンパク資源(昆虫、藻類、水素細菌)の利活用拡大 p10」などの文章が並びます。あくまで畜産物の消費量は減らさないというスタンスになっています。しかしそれでいいのでしょうか?

温室効果ガスと言えば牛というイメージかもしれませんが、牛だけに関わらず豚も鶏も含めて動物性食品は、植物性食品に比べて圧倒的に環境負荷が高いものになっています**。抗生物質についていえば、畜産業は、抗生物質の世界最大の消費者であり、抗生物質耐性菌の主因でもあり、WHO(世界保健機関)も警告を出しているほどです。さらに畜産業は非常に効率の悪い食糧生産システムで、1kgの「牛肉」を作るために25kg、1kgの「豚肉」を作るためには6.4kg、1kgの「鶏肉」を作るために3.3kgの動物飼料が必要です。そしてこれら動物の飼料となる大量の大豆の生産のために森林が破壊され、アマゾンでは放火まで起きています(2019年、アマゾンで増加した森林火災の主な原因は、牛の牧草地と、大豆畑のための放火)。

2019年に、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が発表したレポートは次のように書いています。
「動物ベース食品の消費量が多いほど環境への影響の推定値が高くなり、植物ベース食品の消費量が増えると環境への影響の推定値が低くなる」さらに「動物性食品がまったく消費されない最も極端なシナリオでは、現在使用されているよりも少ない土地で、2050年でも十分な食料生産を達成でき、かなりの森林再生を可能にし、温室効果ガス排出量を3分の1に削減できる」

2020年9月、国連環境計画が発表したレポートは「各国の温室効果ガス削減目標(NDC)には、持続可能な食品システムへの移行が重要」として、「健康的な食生活に移行することで、世界の陸上部門からの排出量を年間0.7〜8 Gt CO2e削減できる。その食事は、粗粒、豆類、果物、野菜、ナッツ類、種子を多く含み、エネルギー消費型の動物由来食品を少なくする必要があります。」と書いています。

さらに言うと、代替タンパクへの移行はすでに消費者の間で広まっています農畜産業振興機構(エーリック)が2021年1-3月にかけて実施した8カ国(日本含む)におけるアンケート調査によると、1年前と比べた現在の食肉代替食品の喫食頻度は、いずれの国も、増えた層の割合が減った層を大きく上回っています。また今後の食肉代替食品の喫食頻度の意向を見ても、増やしたい層の割合が、いずれの国でも、減らしたい層を大きく上回っています。

根拠と実践例があり、目の前に動物性タンパクの消費を減らして植物性タンパクの消費を増やすという誰でもすぐに取り組める簡単なアクションがあるのに、これについて何も書かれていないのが、かえって奇異に感じるほどです。

動物から際限なく搾取し続ける社会は持続可能な社会でしょうか?トップの写真は「みどりの食料システム戦略」のものです。ほのぼのとした優しげなイメージですが、日本の戦略からは優しい未来が見えてきません。

*日本の畜産動物の虐待的扱の数々はこちらをご覧ください https://www.hopeforanimals.org/

** Environmental impacts of food production Our World in Data

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