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排泄物から発生する身近な畜産環境問題

ある日、こんなことを言う人が現れたらあなたはなんと答えるだろうか。

「あなたの家の隣に畜舎を建ててもいいですか」

多くの人は先入観から動物はぽかぽかな太陽の下で健やかに暮らしていると想像するかもしれないので念のため説明しておくが、「畜舎(ちくしゃ)」とは私たちが日々消費している卵や肉や牛乳などの生産のために飼育される動物を収容する建物のことであり、鶏なら鶏舎(けいしゃ)、豚なら豚舎(とんしゃ)、牛なら牛舎(ぎゅうしゃ)と言う。

テレビのニュースで卵の価格が・・・牛乳の需要が・・・などという内容の時に採卵鶏(卵用の鶏)や乳用牛(牛乳用の牛)が映ることがたまにあるのでなんとなく見覚えがある人も多いかもしれない。実際の畜舎を知っている筆者からすれば、鶏を金網のカゴにびっしり詰め込んだ無情な光景や糞尿で床が汚れた不衛生な牛舎を映すテレビ局の感覚を疑うが、しかし数秒の映像からその残酷性や不衛生さが消費者に伝わることはないとテレビ局もわかっているのだろう。またどこまで映したら消費行動に悪影響だという線引きもしているはずだ。その異常さにごまかしが効かないブロイラー(肉用の鶏)の超過密飼育をニュースで見かけたことがないのは気のせいではないだろう。視聴者には、私たちが日々口にしている卵や肉や牛乳などの裏側にもっと関心を持ち、たとえ数秒の映像からでも違和感を感じられるような本質を見抜く力をつちかってみてほしいと思う。

今日の畜産のあり方は消費者の期待に応えるべく安く大量に生産することを余儀なくされた薄利多売の工場畜産であり、効率を重視すれば動物への配慮は蔑ろにされ、必然的に衛生面の問題もセットで付いてくる。工場畜産とは過密と拘束と糞尿の嵐と言っても過言ではない、私が知っている農場もとっても汚かった。

当たり前のことだが動物も私たちと同じように食べて出しての繰り返しの生活であり、糞や尿を排泄しながら生きている。日本国内だけでも年間約10億の動物が屠殺されており、そんな数の動物が毎日毎日排泄量は推計約8千万トンと言われ容積は東京ドームの約75倍に相当するようだ。この膨大な糞尿を適切に処理しなければ問題が起こることは誰でも想像がつくだろう。

そこで問題になってくるのが「畜産環境問題」だ。

この問題を知れば「我が家の隣に畜舎をどうぞ」などといった考えはどこかへ吹き飛んでいくことだろう。

農林水産省のホームページに「畜産経営に起因する苦情発生状況」がある。

畜産経営に起因する苦情発生状況

内容は毎年同じような傾向のようだが令和3年の集計を見てみると苦情発生戸数は 1,446 戸で半分以上(54.2%)を悪臭関連が占めている。

他には水質汚濁や害虫などの項目があり、「その他」の内容は糞尿の流出や騒音などになっている。

畜産経営に起因する苦情の畜種別・内容別発生戸数(令和3年)

(単位:戸、(%))

乳用牛 

悪臭関連:264 (28.6)
水質汚濁関連:102 (31.9)
害虫関連:37 (19.1)
その他:81 (30.5)
合計:411 (28.4)

悪臭関連:263 (28.5)
水質汚濁関連:114 (35.6)
害虫関連:24 (12.4)
その他:20 (7.5)
合計:343 (23.7)

ブロイラー

悪臭関連:56 (6.1)
水質汚濁関連:5 (1.6)
害虫関連:7 (3.6)
その他:5 (1.9)
合計:66 (4.6)

その他

悪臭関連:15 (1.6)
水質汚濁関連:4 (1.3)
害虫関連:0 (0.0%)
その他:55 (20.7)
合計:71 (4.9)

構成(%)

悪臭関連:54.2
水質汚濁関連:18.8
害虫関連:11.4
その他:15.6
合計:100.0

肉用牛

悪臭関連:190 (20.6)
水質汚濁関連:56 (17.5)
害虫関連:44 (22.7)
その他:76 (28.6)
合計:324 (22.4)

採卵鶏

悪臭関連:131 (14.2)
水質汚濁関連:37 (11.6)
害虫関連:80 (41.2)
その他:27 (10.2)
合計:221 (15.3)

悪臭関連:5 (0.5)
水質汚濁関連:2 (0.6)
害虫関連:2 (1.0)
その他:2 (0.8)
合計:10 (0.7)

合計

悪臭関連:924 (100.0)
水質汚濁関連:320 (100.0)
害虫関連:194 (100.0)
その他:266 (100.0)
合計:1,446 (100.0)

注1:「悪臭関連」には、悪臭単独の苦情に加え、悪臭以外の苦情(水質汚濁、害虫発生等)を併発しているものも含む(その他の分類も同様)。 このため、各分類の戸数を合計した戸数と、「合計」欄の戸数は一致しない。

この発生戸数を多いと感じるか少ないと感じるかは個人差がありそうだが驚くことに6割は繰り返しの苦情であり前年と同様の傾向であったとのこと。毎年同じような人が同じ問題を繰り返しているとは近隣住民の方々の気持ちを察するとなんと気の毒なことか。これに限らず、このような問題を一部の農家の責任にせず畜産業界全体の問題として対応していただきたいものだ。(※全体の4割は新規の苦情)

以前筆者が住んでいた地域にも県外から養豚業者が入ってこようとしていたが、住民説明会では「川が臭くなる」「建てられてから何か起こっても取り返しがつかない」「いくらちゃんとしていても多少は流出するものだ」「信用できない」などと反対の声が飛び交ったらしく、結局養豚業者は豚舎を建てることができずに去っていったことがあった。

畜産環境問題の発生要因

まずこれらの動物の糞尿のことを「家畜排泄物」と言う。

主な発生要因としては家畜排泄物を積み上げて放置する「野積み」と地面に穴を掘り液体状の家畜排泄物を貯めておく「素掘り」がある。

野積み

素掘り

このようなやり方を見過ごしていると悪臭はもちろん地下水汚濁や水道水源の汚染といった私たちの健康への影響として跳ね返ってくるわけだ。

平成8年には消毒剤(塩素)に強い耐性を持つ「クリ プトスポリジウム」という激しい腹痛や下痢を引き起 こす病原性の原虫により町民の約7割(8,800人以上)が感染し、収束まで1 か月以上もかかったという水道を介した集団感染も発生している。(家畜排せつ物法の「管理の方法に関する基準」を 守りましょう!

ちなみに発酵後の「堆肥」や「液肥」なども不適切な管理により糞尿同様の畜産環境問題を引き起こす恐れがあることからこれらも家畜排泄物の部類に入っている。

このような問題を起こさないため、野積み・素堀りを解消し家畜排せつ物の管理の適正化を図りつつ家畜排せつ物の利用促進を図ることを目的にできたのが平成11年制定、同年11月1日に施行された「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」(家畜排せつ物法)である。

家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律

家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律施行規則

この法律に基づく管理基準として家畜排泄物の「管理施設の構造設備に関する基準」と 「管理の方法に関する基準」があり、簡単にまとめると浸透や飛散、流出しない造りで管理し、問題がないか定期的に点検し、破損があれば修繕を行い、家畜排泄物の年間発生量や処理方法などを記録しましょうという内容になっている。

家畜排せつ物法に基づく管理基準

ただしこの基準には飼養規模により鶏2000羽未満、豚100頭未満、牛・馬10頭未満だと適用除外となる。(その他のヤギやダチョウなども同じく適用除外)適用除外といっても野積みや素掘りを行うことは好ましいことではなく、義務づけではないものの管理基準を守ることが望まれるとされているが、実質努力義務であり野積みや素掘りは問題だけど違反にはならないというなんともあやふやなことになっている。管理基準対象外農家は24528戸もあり全体の36.6%にもなるのだが、塵も積もれば山となるという言葉があるようにこの数が義務づけではないとは誰もが違和感を覚えるのではないだろうか。

この管理基準に関してはルールを無視し続けていると罰金を取られるが、そこまで行くには指導及び助言、勧告、命令という段階があるためすぐにどうこうなるわけではない。前述のように昨年苦情を出された者が今年も繰り返し苦情を受けたということが普通に起こっていることからも、誠実さに欠ける対応がなされていると推測される。

また家畜防疫の観点からも家畜排泄物の適切な管理は重要であり、野生動物等が家畜排せつ物に接触して病原体が拡散する可能性や、堆肥が野生動物等により汚染される可能性、運搬車両を通じて家畜疾病の病原体が伝播する可能性があることに考慮するよう「家畜排せつ物の利用の促進を図るための基本方針の公表について」に記載されている。家畜排せつ物の利用の促進を図るための基本方針の公表について

過去にないペースでの2022年鳥インフルエンザの発生具合に気味の悪さを感じる今だからこそ、管理の重要性をより考えさせられる部分でもある。

現在の管理基準の遵守状況

家畜排せつ物法施行状況等調査結果(令和3年 12 月1日時点)によると管理基準適用対象農家数は 42,520 戸であり、全畜産農家数 67,048 戸に 占める割合は 63.4%とある。家畜排せつ物法施行状況等調査結果 (令和3年 12 月1日時点)

その中からの管理基準不適合戸数が以下。

構造設備基準不適合53戸

  • 乳用牛5
  • 肉用牛42
  • 豚5
  • 採卵鶏・ブロイラー0
  • 馬1

内容としては「家畜排せつ物の発生量、処理方法等の記録」をしていないところが多いようだが「管理施設における家畜排せつ物の管理」や「管理施設の遅滞ない修繕」を怠る農家も中にはいることを覚えておこう。小規模の適用除外農家含め今日もどこかでこのように家畜排泄物の飛散や流出が起きているかもしれないとう実態があることに多くの人は胸をざわつかせることだろう。

そもそも家畜の数が多すぎるのだ、これからの畜産業界には動物への道徳的な配慮としてはもちろん、持続可能性の観点からも飼養頭羽数の削減とアニマルウェルフェアの向上は必須となる。そうすればこのような畜産環境問題への負荷もずいぶんと軽減されていくことだろう。

私たちひとりひとりの消費行動はここでも大きな影響力をもっている。

脚注

https://www.maff.go.jp/j/chikusan/kankyo/taisaku/index.html

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