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平飼いとバタリーケージ、どちらが労働負荷が強いのか

平飼い鶏舎で働く人の話を聞くと、ほとんどの人が「平飼いはバタリーケージに比べてやりがいがある」と答えます。もちろん誰もがそう感じるわけではなく、生き物の世話をすることを、楽しいと感じる人が働いているからこそ「平飼いはやりがいがある」のです。鶏舎で働こうとする人は、もともと動物好きなど、生き物の生態との親和性が強いはずです。逆に動物の糞の始末をすることや一日中鳴き声の中で働くことをめんどくさい、うっとうしいと感じる人なら、どんなにアニマルウェルフェアが優れた環境であっても、動物の飼育は単なるキツい労苦にすぎません。


平飼いへの移行に、消極的な食品企業があげる理由のひとつに「平飼いだと働く人が大変になる。労働負荷が高くなる」があります。飼育による動物のダメージを科学的に規制するガイダンスがアニマルウェルフェアであり、5つの自由であるように、人間の労働を科学的に分析する学問研究もあります。効率化のための労働科学であったり、労災認定のための労働医学がそれにあたりますが、それに照らして、「平飼いだと働く人が大変になる。労働負荷が高くなる」は正しいのかどうか検証します。

平飼い鶏舎の仕事は労働負荷が高いというときに、必ず引き合いにだされるのは、平飼いは鶏の居住場所の高さが低いから、人間の腰に負担がかかるというものです。たしかにかがんだり、中腰になることが多い平飼い鶏舎では、労働者の体の部位のなかでは腰部に対する負荷は高いと言えます。ただしこの腰部への負担は養鶏だけでなく農業全体にいえることで、日常に腰痛を防ぐ体操を取り入れることなどで防止しようとする呼びかけが盛んにおこなわれています。

この腰痛に関しては、労災にデータがあります。労災性の腰痛には2種類あり、一つは事故など災害によるもの、もう一つは災害によらないもので、養鶏を含む農作業は後者にあたります。腰痛の労災認定の要件には作業の状態だけでなく、労働者の身体的条件(年齢、体格)、素因又は基礎疾患、作業従事歴、従事期間など、客観的な条件があります。それらを鑑みたうえでも、労災性の腰痛を防ぐ上で大切なのは年齢的な要素だといえます。ある地域の統計を見てください。腰痛発生年齢を比べると圧倒的に60歳以上が多いことがわかります。これを見ると腰痛は、明らかに高齢者に多い労働疾患と言えるのです。

 

労災による死亡件数は高度経済成長期に急激に増加し、労働安全管理が進んだ近年は減る傾向にあります。しかし農業における労災死亡事故は増えているのです。高所からの転落や農機具の誤操作などがほとんどですが、その原因の根本は高齢化です。農作業現場や農機具に原因があるのではなく、高齢になり足腰が弱ったり、視力が低下して、労災事故は起こっているのです。それについては農林水産省も下記のように警告を出しています。

平飼い飼育による腰への負荷にも同じことが言えると思います。平飼い飼育には、労災腰痛が多い港湾労働のような中腰のまま重いものを持つ現場もないですし、配電工のような不自然な姿勢での作業もない、さらに腰に著しく激しい振動を与える建設現場のような作業もありません。平飼い養鶏の仕事は、労働の性質的に筋肉が疲労し骨が変形しやすいのではなく、高齢者が従事する限りには困難な労働だと評価するべきです。

要するに問題は、立ってする作業が多いか、しゃがんでする作業が多いかではなく、養鶏従事者の高齢化なのです。それを差し置いて平飼いは労働負荷が強いとするのは、問題のはき違えです。

では、バタリーケージでの作業には労災の要因はないのか、公平に考えてみます。

バタリーケージは多段式なので、たしかに自然に立ってする作業は多いと思います。大規模なケージであればほどんどの作業が自動としても、弱ったり死んだりした鶏を見つけて出す必要や、ベルトコンベアーに携わる作業はあります。平飼いに比較すると、腰部ではなく上半身、とくに腕を多く使う「上肢単純反復の軽速度作業」が主になるのは正しい指摘だと思います。ただし、こういった作業に従事する人が懸かりやすいといわれるのが、原因不明の強い頭痛や肩こりを訴える頸肩腕障害で、それに対する危惧はしなくてよいのでしょうか。頸肩腕障害とは、昔、キーパンチャーと言われる作業者やボールペンでたくさんの伝票を書く事務員に多く発症し、ヘッドフォンをつけたまま重い電話帳をめくって作業した電話交換手が大勢罹患したことで社会問題にもなりました。

頸肩腕障害は今でも発症のメカニズムに不明な部分が多いのが特徴で、若い人に多く発症し、軽労働によるフィジカルなダメージよりも、職場の人間関係や将来への不安、あるいは非人間的なほどの単純反復にも関係があると言われています。昔はキーパンチャーや事務員、電話交換手には若い女性が多かったのですが、この疾患が当時、問題となった理由は、若い人材の大量離職の原因になったり、罹患者が今でいう鬱状態になり、自殺するケースも目立ったからです。キーパンチャーや事務員、電話交換手は都会で働く憧れの職業でもありましたが、現実的には女性ということで社内での評価が低い現実があり、絶望する若い人が多い社会背景もありました。

当然ながら社会には、あまり面白さが感じられない単純作業は存在します。養鶏などは人により、そう感じる一つかもしれず、それをやりがいある仕事に変えることは、SDGsのゴール8に掲げられている「ディーセントワーク」につながります。「ディーセントワーク」とはILO国際労働機関が提唱した考え方で、簡単に言うと「働きがいのある仕事」のこと。動物本来の生態にふれあうことのないバタリーケージを、アニマルウェルフェアにそった働き甲斐のある平飼いに変えることは「ディーセントワーク」の実践なのです。最近ではUNEPがアニマルウェルフェアはSDGsを強化すると表明しましたが、まさにこのことだと思います。養鶏だけでなく畜産自体が離職の多い職場ですから、平飼い労働の心配をするなら、バタリーケージ養鶏の離職の多さを先に解決すべきです。

バタリーケージ作業のやりがいのなさという理由からも、平飼いはバタリーケージより労働負荷が高いというのは間違っていると言えます。やりがいのない仕事は働く人の心身を病気にする恐れがあるからです。問題は鶏の飼い方ではなく、養鶏業者の高齢化なのだから、その解決策は若い働き手に魅力ある職場にするしかありません。ヨーロッパですでに禁止されたバタリーケージ飼育に将来の希望を感じる若手養鶏家がいるわけはなく、若い労働力が集まらないのも当然だから、移行するしかないのです。

ただし、平飼い卵は日本では1%しか存在せず、しゃがむことの多い作業にも改善の余地はあると思います。平飼い養鶏におけるフィジカルな負担を軽減するには、多くのイノベーションが必要ですし、農業全般には介護職のようなロボットも導入される未来が来るかもしれません。

ところで、SDGsやディーセントワークは海外発ですが、日本発で世界に広がった職場改善策として「トヨタ カイゼン」を聞いたことがあるでしょうか。改善とは、悪い状態を良い状態に変えることですが、カタカナの「カイゼン」は現状に満足せずに、自ら問題に気付き改善し続けることで、より良い状態へ変化し続けることといいます。
カイゼンのポイントは、
・現状に満足しない
・自ら問題に気付く
・より良い状態へ変化し続けること。
「トヨタ カイゼン」はこの言葉にある企業が提唱し、コスト低減や時間短縮を実現、同社の世界的繁栄の指標となり、世界へと広がった従業員の自主性を大切にした職場改善策です。すべてのビジネスは現場がカイゼンするから成長するのです。それなのに他の産業でできることが、どうして畜産ではできないのでしょうか。日本の平飼い養鶏がこれからカイゼンされても、バタリーケージ飼育にそういった発展性の余地はありません。重箱の隅をつつくように平飼いの問題点をあげつらう人がいますが、百歩譲ってその指摘が正しいとするならば、平飼いにはカイゼンの伸びしろがあり、それは世界に通用する農業へと成長する未知の可能性を示しているのです。

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