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鳥インフルエンザの基礎知識

過去にないペースで猛威を振るう鳥インフルエンザ、2023年1月10日の宮崎県と広島県での発生により殺処分数が1シーズンで初めて1000万羽を超えたことが大きく報じられたが、その後も1月13日に新潟県上越市で59例目、1月17日に大分県佐伯市で60例目、1月19日に滋賀県大津市で61例目、同じく1月19日に群馬県前橋市で62例目、1月21日に広島県世羅町で63例目、1月22日に千葉県匝瑳市で64例目が発生。殺処分羽数は増え続けるばかりだ。

しかしこの大量殺処分を前にしても国やメディアは風評被害を心配し、鶏肉・鶏卵の安全性を強調するばかりで殺処分される命に対しては相変わらずの無関心を貫いている。

上越市の殺処分現場の動画にはポリバケツに4秒程度ガスを注入する様子が映っているが、測定器すらないガス殺では防疫指針が掲げる「動物福祉への配慮」の実効性は伴っていない。アニマルウェルフェアとは科学的根拠に基づくものであり感覚や雰囲気で行うものではないのだ。

上越市の養鶏場での殺処分作業の動画(新潟県提供:2023年1月13日 59例目)

ガス注入01:16~01:20

そして採卵養鶏場のこの汚さには目を止めずにいられない。地面に溜まっているのは鶏の糞であり、バタリーケージ(鶏が入れられている金網のこと)にはホコリが絡みついている。

「飼養衛生管理」という清潔な言葉とは程遠い鶏舎の中で鶏たちは歩くことすらできず日々何を思いながら生きているのか。砂浴びがしたい、止まり木で眠りたい、隠れて卵が産みたい、金網から出たい・・・

殺処分にしろ飼育にしろ、利用する以上は命に対する最低限の責任を果たすべきだろう。

画像提供:新潟県

頻繁に発生する今季の鳥インフルエンザであるが、度々流れるニュースで「高病原性(こうびょうげんせい)」という言葉を無意識に覚えてしまった人も多いのではないだろうか。そもそも鳥インフルエンザとはどのようなものなのか、基本を押さえておこう。

鳥インフルエンザは菌ではなくウイルス

◆ウイルスのほうが細菌より小さい

細菌
普通の顕微鏡で見える

ウイルス
電子顕微鏡でしか見えない
インフルエンザウイルス:80~120nm


インフルエンザウイルスとの大きさの比較
口蹄疫ウイルス:21~24nm
細菌:1~5μm
カビや酵母:5μm以上
1μm=1000nmなのでざっくりと計算するとインフルエンザウイルス100nmに対し細菌は最小で1000nmなのでインフルエンザウイルスは細菌の10分の1くらいの小ささということになる。

◆構造

細菌
造りが細胞になっている

ウイルス
細胞はなく遺伝子がタンパク質に包まれている
インフルエンザウイルスは更に脂質に包まれている

◆増殖

細菌
適度な栄養・水分などあれば自力で増殖できる
1つが2つになり、2つが4つになって増えていく(二分裂による増殖)

ウイルス
自力では増殖できない
細胞の中にもぐりこんで(感染して)こっそり自分の設計図を混ぜて複製させる
ウイルスの種類によって異なるが、動物細胞だけではなく植物細胞や細菌細胞にももぐりこむ

◆抗生物質は効かない

抗生物質は細胞の構造や機能に作用するため、細菌には有効だが細胞を持たないウイルスには有効ではない

◆ワクチン

ワクチンはウイルスを弱毒化や無毒化したもの
ワクチンの投与で自己免疫を高め感染リスクを下げる(予防であり治療ではない)

◆抗ウイルス薬

ウイルスは細胞にもぐりこんでしまうため、細胞に影響を与えず細胞の中のウイルスだけに効果を示すような薬の開発は非常に難しい

◆インフルエンザウイルスの特徴

高温、日光に弱く、低温に強い

鳥インフルエンザの種類

  • 野生の鳥類、特にカモ類等の水鳥は、上記すべての亜型ウイルスを保有するが、ほとんどは重篤な病気を起こさないウイルス
  • 渡り鳥によってウイルスが世界中を移動する

高病原性への変化

鳥インフルエンザは自然宿主である野生の水鳥の腸管に存在しているインフルエンザウイルスが野鳥を経由して家禽に感染し、その家禽集団の中で感染を繰り返すことにより次第に家禽に病原性を示す「変異株」が出現し、これにより鳥インフルエンザという感染症が引き起こされてきた。

自然宿主:野生の水鳥(カモ類など)
すべての亜型(H1~16、N1~9)のウイルスを保有


適応変異

高病原性化(H5とH7のみ)→家禽から人に感染したと考えられる事例がある
近年中国でH7N9亜型ウイルスの家禽から人への感染事例が増加している            

家禽の高病原性ウイルスが野鳥に再感染することがある
野生の陸鳥(カラスなど)も含む

遺伝子再集合

2つの異なるウイルスが重複して感染し、遺伝子の組み合わせが異なるウイルスが産生されること。
インフルエンザウイルスは遺伝子が変化して病原性や抗原性等がどんどん変化している。

高病原性・低病原性の症状

◆高病原性鳥インフルエンザウイルス(A型インフルエンザウイルスのH5・H7)

病原性が強い強毒タイプ

  • 感染すると大量に死亡する
  • 感染すると症状を出さずに急死する場合が多いが、数日程度の潜伏期間の後、沈鬱、肉冠・肉垂・脚部のチアノーゼ(血液中の酸素不足が原因で皮膚が青っぽく変色)、食欲消失、急激な産卵低下が代表的な臨床症状とされている
  • 内臓と皮膚の浮腫、出血、壊死性病変が見られる場合があるが、全く肉眼的な変化を示さない例もある
  • 頭部、顔面、頸部、脚における浮腫による腫脹や点状出血、肉冠・肉垂の壊死、出血が見られることがある
  • 脳、心臓、肺、リンパ組織など多臓器における壊死と炎症
  • 一般に感染して3~5日で死亡する

◆低病原性鳥インフルエンザウイルス(高病原性以外のA型インフルエンザウイルスのH5・H7)

病原性が弱い弱毒タイプ

  • 無症状の場合もある
  • 鳥種、日齢、性別、混合感染、免疫、環境要因によって様々な症状を示すが最もよくみられる臨床症状は、咳、くしゃみ、喘鳴、流涙など呼吸器症状
  • 産卵率の低下やその他一般的症状(被毛粗剛、沈鬱、元気喪失、食欲減退、下痢など)もみられる
  • しばしば呼吸器、特に副鼻腔に病変が認められる
  • 気管粘膜では充血や出血を伴う浮腫が見られる
  • 産卵鶏では卵管に炎症性滲出液が見られることがある
  • 混合感染がない場合の死亡率は5%以下

◆普通の鳥インフルエンザウイルス(H5、H7以外のA型インフルエンザウイルス)

症状は低病原性と同じ
鳥インフルエンザウイルスは感染後、1~3 週間にわたり腸管や気管から体外に排出されるが、その後自然に消失し、1 個体の中で持続感染することはない

高病原性鳥インフルエンザが発生するとどうなるか

普段より死亡羽数が多かったりというようなことがあれば養鶏場から家畜保健衛生所へ通報し、鳥インフルエンザによるものかどうかの検査が行われる。ニュースでも度々耳にする「簡易検査を実施したところ陽性を確認」「遺伝子検査で陽性が確認され、これにより殺処分されます」というようなものだ。

簡易検査とは

はじめに感染の可能性があるかどうかの簡単な検査をする。検査試料を液体に入れ色の変化等で判定、15分程度で結果が出る。簡易検査でわかるのはA型インフルエンザウイルスに感染している可能性までで、H5N1などの血清亜型や、病原性の強い弱いなどはわからない。

遺伝子検査とは

遺伝子を増幅させ可視化させる作業。

H5亜型かH7亜型かまでは都道府県で調べ、陽性ならこの時点で殺処分は開始できる。Nの亜型に関しては国のほうで遺伝子検査し、高病原性の領域に一致しているかどうかも含め農研機構の動物衛生研究部門で調べられる。これらが24時間以内に行われ報道機関に公表される。
※特段の理由があれば病性判定前に公表することもある

家禽における野鳥監視重点区域指定状況一覧表を見ても、どの事例でも「簡易検査陽性結果判明日」の翌日には「PCR検査による疑似患畜確定日」になっている。(疑似患畜とは検査はしていないが同じ農場にいるということで感染の疑いがあるとされ殺処分される発生農場にいる家禽や家畜のこと)

高病原性鳥インフルエンザに関する情報 | 自然環境・生物多様性

確定検査とは

家禽では殺処分に該当するかどうかまでが重要なので遺伝子検査までしかしないが、野鳥ではもっと具体的に細かく調べる必要があるため確定検査まで行われる。病理学的なところまで調べるかどうかという目的の違いによるもの。

現在国立環境研究所では遺伝子検査による確定検査が行われているが、大学などでは古い方法で行っているところもあるかもしれないので念のためこれまでの方法もおおまかに記しておく。

◆ウイルスの分離検査

  • 抗生物質を含むリン酸緩衝生理食塩水等に糞便など検体を入れて混和し、ウイルスを溶出させる
  • 遠心分離後、上澄み液を10日齢ないし11日齢の発育鶏卵(胎児が出来ている)の尿膜腔内に注射
  • ウイルスが上澄み液に入っていれば、尿膜細胞に感染して尿液中に増殖したウイルス が出てくる
  • その後、注射器で尿液を回収し鶏の赤血球を用いて、赤血球凝集(HA)試験 を実施
  • HA反応が陽性(赤血球が凝集)であればウイルスが含まれていることが分かる

◆ウイルスの病原性試験

国際獣疫事務局(OIE)の定義に従い検査試料から分離したウイルスを鶏に接種し、その症状や死亡率を見る。わかりやすい例では「8羽の4~8週齢鶏に、1/10濃度の無菌尿膜腔液(発育鶏卵に試料を接種して得る)0.2ml を静脈内接種した時の10日以内の死亡率が6羽(75%)以上」というものがある。

またこのような感染実験は2006年以降、鶏やアヒル以外の鳥類を用いたH5N1亜型ウイルス感染実験としてハクチョウ類、ガン類、カモ類、カモメ類、ハト、セキセイインコなど飼い鳥、スズメやムクドリなどでも行われてきている。

現在も行われているかは不明だが(大学などが独自で行っている可能性はある)感染するとどうなるかという人間の都合でこれまでどれだけの命が苦しめられてきたのか、ウイルスの進化にもってこいの過密飼育を平然と行い続けてきた今日の工場畜産の罪は非常に重い。

殺処分

伝播力が強く致死性が高い高病原性鳥インフルエンザの場合、ウイルスの早期封じ込めのために飼養羽数が1羽であろうと100万羽であろうと農場ごと全羽殺処分される。

では検査の結果、低病原性鳥インフルエンザだった場合はどうなるのか。低病原性も伝播力が強いもののほとんど臨床症状を示さないわけだが、この場合も低病原性から高病原性に変異する可能性があるということで、どちらにしろ全羽殺処分となる。

ただし例外として血液中に低病原性の抗体があるもののウイルスが取れないという場合が稀にあり、このようなケースでは殺処分ではなく監視にとどまる。

(H5やH7以外の普通の鳥インフルエンザの場合は殺処分は行われない)

殺すことでその場しのぎを延々と繰り返す、これが現在の鳥インフルエンザの実態である。

また冒頭で殺処分時のアニマルウェルフェアについて少し触れたが、殺処分はガス以外にも泡殺鳥機や換気扇停止といった方法でも行われている。どのような問題があるのかはこちらの記事で知ってほしい。アニマルウェルフェアを無視した殺処分の苦しみがいかに計り知れないかよくわかる。

ガス殺処分の問題

換気扇停止・泡殺鳥機の問題

画像は日本のブロイラー(肉用鶏)飼育、ひとつの鶏舎に約1万羽を詰め込む。例えばこのような鶏舎が10棟ある農場で高病原性・低病原性鳥インフルエンザが発生すれば一気に10万羽が殺処分される。また離れた場所に複数の農場を展開していれば従業員の行き来などで飛び火する可能性もある。

死体の大量埋却の問題

2022年11月27日に鹿児島県出水市で発生した19例目の鳥インフルエンザで殺処分した鶏の死体41万羽と卵や飼料など合わせて約930トンを埋めた付近の池が汚染し、腐敗臭やハエの発生で生活に影響が出ているという。

41万羽の鶏を埋めた後、近くの池から悪臭 鹿児島県が埋め直し検討

41万羽という数に驚くが、2022年11月4日に発生した茨城県かすみがうら市(4例目)では約104万羽の鶏が殺処分され、2023年1月6日に発生した新潟県村上市(55例目)では約130万羽の鶏が殺処分されており、発生状況一覧には感覚が麻痺しそうなほどの数が並ぶ。

令和4年度 鳥インフルエンザに関する情報について

今回は池の汚染による悪臭であったが埋却後の死体からはガスが発生するため、埋却が適切に行われていないと場合によってはガスと共に死体の体液が地表へ噴出することもある。いつどこで同じように悪臭問題が起こってもなんらおかしくはないのだが、この大量殺処分される動物の1羽1羽、1頭1頭に痛みや感情があることを軽視していなければ、このような問題は起こっていなかったであろう。命ある動物をモノとして扱った成れの果てであり、この悪臭から動物も命であるという当たり前のことを思い出していただきたいものだ。

ちなみに鹿児島県出水市といえば日本一のツルの渡来地で有名だが、令和4年シーズンの野鳥における鳥インフルエンザ発生状況(令和5年1月13日現在)によると1300羽を超えるツルが死んだり衰弱したりで回収されている。
https://www.pref.kagoshima.jp/ad04/documents/102075_20230113183142-1.pdf

このツルの間での感染爆発はこれまでにない現象であり、2022年~2023年の鳥インフルエンザはこれまでとは明らかに様相が異なる。

新型インフルエンザウイルスとは

最後に新型インフルエンザウイルスの脅威について。

鳥インフルエンザウイルスで大変なことになるのは鳥だけではない。ウイルスは常に進化を続けており新たにヒトからヒトへ感染する能力を獲得すれば私たちにも牙をむく。

新型インフルエンザはA型インフルエンザウイルスが変異して出現すると予測されている。特に鳥が感染するA型インフルエンザウイルスはヒトが免疫を持たないH型やN型を持った亜型があるため、新型の供給源とされている。新型インフルエンザが起き、その病原性や致死率が高い場合、新型コロナ以上の社会的混乱が起こることになるだろう。

新型インフルエンザに関してはこちらの記事に詳しく書いてある。

私たちはもっと鳥インフルエンザに危機感をもち、大量の動物を詰め込む工場畜産に疑問を抱き、ウイルスの進化以上に消費行動を進化させていかなければならない。これは畜産の問題であると同時に生態系の問題であり、この地球や全ての人類の問題である。このような深刻性に向き合い、向上心をもってまずは卵や肉などの消費を減らすことからはじめてみてほしい。

ひとりひとりの小さな行動がやがて私たちの未来を大きく変えていくだろう。

脚注
ウイルスについて
https://www.jfrl.or.jp/storage/file/news_vol3_no19.pdf
「インフルエンザ」「鳥インフルエンザ」「新型インフルエンザ」の違い
https://www.city.kawasaki.jp/350/cmsfiles/contents/0000032/32892/infuluenzachigai.pdf
家畜の監視伝染病
https://www.naro.affrc.go.jp/org/niah/disease_fact/kansi.html
高病原性鳥インフルエンザウイルスと野鳥について(情報編)
https://www.env.go.jp/content/000079318.pdf
高病原性鳥インフルエンザと野鳥について(情報編)
https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/bird_flu/manual/pref_0809/6_chpt4.pdf
家畜伝染病予防法に基づく焼却、埋却及び消毒の方法に関する留意事項
https://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/katiku_yobo/attach/pdf/index-321.pdf

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