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中国の畜産動物福祉の動向

中国の畜産動物福祉の動向

中国の法律・ガイドライン

法律

  • 畜産法(2006年)
  • 豚屠殺管理条例(2008年)
  • 豚屠殺実施方法管理条例(2008年)

動物に適切な飼育環境を与えること。輸送は必要な空間、食べ物、水を与えなければならないこと、人道的な屠殺の奨励が規定されている。 →原文を翻訳した詳細はコチラ

ガイドライン

  • 豚を人道的に屠殺する技術規範(2008年)

国家が作ったものだが法的強制力はない。屠殺場へ豚を降ろす際の角度は20度以内、追込み方、飲水設備の設置(病気の豚の畜舎も含む)、シャワーの時間は2時間を超えてはならない・・などOIEの屠殺の動物福祉基準よりも、きめ細やかに記述されている。 →原文を翻訳した詳細はコチラ

ブロイラー屠殺の福祉基準-山東省(2016年)

  • 補鳥、輸送、積み込み、積み降ろしの過程で鶏のストレス緩和策を講じる必要がある
  • 作業者は補鳥の際の特別なツールを使用するか、片羽だけで鶏を捕まえる代わりに鶏の両羽をつかむために両手を使わなければならない
  • 鶏を引っ張って引きずることは禁止
  • 食肉処理の前に、ガスの使用などのスタニング(気絶処理)を採用する必要がある

国内で初めての鶏の福祉屠殺ルールとなる。
山東省は国内有数の鶏肉生産地でもある。この仕様は、青島農業大学と、鶏肉の加工会社であるNine-Alliance Groupを含むいくつかの食品生産者が主導して作成した。人道的手技の導入でNine-Alliance Groupの年間コストは30万ドル増加。しかし同社のYang Shengren氏は 「それは私たちの製品を海外で受け入れやすくし、多くの国に輸出することができます」と言う*1
※日本には、国にも各都道府県にもこのようなルールはなく、スタニング(気絶処理)なしで鶏の首を切断してもかまわない。実際にスタニング無しでの鶏の屠殺が行われている。

中国政府の動き

獣医学生向けの最初の動物福祉教科書を発表(2014年)

WAP(世界動物保護協会)と非営利の動物福祉団体が共同で作成したこの本には、動物福祉に関する法律と、実験動物、畜産動物、ペット動物、および他の種類の動物に関する問題が含まれる。
教育省は2013年に、獣医学のカリキュラムに動物福祉を含めることを決定しており、この教科書が配布されることになる。
WAPと中国獣医協会の調査によると、2012年時点で獣医学教育を教える中国の61の大学のうち、33のみが動物福祉教育を含んでいるという*3

中国の農業福大臣が、国連食糧農業機関(FAO)の会議で、動物福祉を積極的に推進することを約束(2017年)

2017年10月12日、Yu Kangzhen副大臣は、政府機関、動物福祉団体、大学、研究機関の400人以上の代表者が出席したこの会議で次のように語った*4
動物福祉の促進は、農業の発展にとって重要な選択であり、食品安全と健康的な消費にとって重要なだけでなく、現代社会における人間の思いやりという面でも重要です
「中国の伝統文化は、愛と感謝の気持ちで動物を扱うというコンセプトを常に提唱している。世界の主要な開発途上国として、中国は経済と社会の開発のための客観的要件に合わせ、動物福祉を積極的に推進します」
そしてYu氏は、動物福祉を強化するために次の点を提唱した。

•動物福祉の技術基準と規制を確立し、検査、評価、監督サービスを推進する。
•動物福祉の促進のために法的枠組みを支持する。
•動物の福祉に取り組む際には、農場の持続可能な発展を促進する。
•他国の考えを理解するために国際交流を行う。

動物福祉基準「中国動物福祉アセスメント一般原則」が、中国農業省の一部である国立動物飼育標準化委員会により承認(2017年)

中国獣医協会(CVMA)と30以上の企業が合同でこの基準を作成。動物福祉評価の範囲、方法、基本原則、および要件をカバーしたものとなっている。CVMAのSun Zhongchao氏は次のように述べている*6
「農業省が可決した、動物福祉という文字を含む、中国最初の業界標準です」
「高密度と劣悪な環境条件を特徴とする貧弱な動物福祉慣行は、病原体の蔓延を促進し、薬物使用を増やし、食品中の残留抗生物質のレベルを高める。したがって、動物福祉の改善により、 動物向け食品の品質、製品価格の引き上げ、農場全体の利益の改善に役立ちます」

農業アカデミーの副学部長が畜産動物福祉の改善を求める(2018年)

全国人大代表議員であり、安徽省の農業アカデミーの副学部長でもある Wanping Zhao氏は、動物福祉に注意を払うことは、人の健康につながると述べ、動物福祉を改善するための対策とシステムの開発を加速するよう求めた*5。(同氏は2017年に「食料の安全性を確保するための家畜福祉法のスピードアップ」に関する提案を正式に提出している*7

企業の動物福祉の取り組み

中国の畜産生産者は、生産性の向上に動物福祉を直接関連付けている。動物がよく世話をされると、彼らはより良く生産するという考えは、生産者が動物福祉を採用する主な理由の1つだ。養豚業者が動物福祉基準を採用するもう1つの理由は、国際貿易に関連する理由である。ヨーロッパへの輸出を希望する大規模生産者は、EU基準に準拠する必要があるからだ*2

99の生産者が動物福祉で受賞

動物福祉団体Compassion in World Farmingは、動物福祉を改善した99(2019年時点)の中国の豚、卵、鶏の農家に賞を授与。これは、2億8千万匹を超える中国の畜産動物の福祉が改善されたことを意味する*8

大手養豚生産企業が妊娠ストールの段階的廃止

WAP(世界動物保護協会)と協力して、中国の2つの主要な豚肉生産企業、Qinglian Food Company、Guangdong Dexing Food Company Ltd(Dexing)が妊娠ストールの段階的廃止を決定。

Qinglian Food Company

2025年までに妊娠ストール飼育を廃止し、群飼育に切り替える*9。同社は7,700頭の母豚を飼育、すでに3000頭は群飼育に移行済みであると言う。その結果は良いもので、生産性向上につながったとコメントしている。

「私たちは、母豚の問題の発生率が低いことに気が付きました。また子豚の死亡率の大幅な低下や、繁殖コストが削減されました。自動給餌システムは成功しており、正確な栄養補給とストレス反応の減少を達成することができます。しかし、ざまざまなおもちゃや、仕切りを提供することも重要であり、それがなければ母豚は闘争をしてしまう傾向があります。」

Guangdong Dexing Food Company Ltd(Dexing)

同社は、2020年までに妊娠妊娠ストールの使用を終了し、すべてのブタに自然行動の表現を可能にする素材を与えることを約束。これにより、毎年約20,000頭の母豚と40万頭の肉用に育てられた豚の福祉が改善されることに*10

そして、廃止の決定をしているわけではないが、豚生産企業Yangxiangは母豚90,000頭を飼育する7,9,13階建て豚舎ビルにおいて、母豚は妊娠ストールではなく群れ飼育される施設を採用。Yangxiangはグループ飼育を選択した理由を次のように述べている*11

「そのほうが状態がよくなり分娩時の出産が通常より容易だから」

ちなみに、世界第3位の中国の食肉加工会社萬洲国際(WH Group)の子会社のスミスフィールド・フーズも妊娠ストールを2022年までに廃止すると発表している*12

鶏の嘴の切断廃止への取り組み

Ningxia Xiaoming Farming and Animal Husbandry社を含むいくつかの企業は、自主的に鶏の嘴の切断の廃止に取り組んでいる。(Ningxia Xiaoming Farming and Animal Husbandryは毎年5000万の雛を孵化させている)*13

中国消費者の意識

2011年調査

南京農業大学の研究者チームによって実施された6,006の有効アンケート次のことが分かった*14

  • 回答者の約3分の2が「動物福祉」について聞いたことがない
  • 回答者の72.9%は、動物由来の食品安全のために、人間は豚と家禽の飼育条件を改善すべきと回答
  • 回答者の65.8%は、動物福祉を改善するための法律の制定に全面的または部分的に同意
  • 回答者の半数以上が、高い動物福祉製品に対してより多くの支払いをする意思がある、またはある程度意思があると回答

2016年調査

世界動物保護協会(WAP)が行った調査によると*15

  • 回答者の約72%が畜産動物の福祉を重要視している
  • 83%以上が、豚をストールに閉じ込めるのではなく、移動の自由を与える生産システムを見たいと考えている
  • 75%以上が、より高い動物福祉の豚肉にもっとお金を払う意思がある
  • 約77%が、より高い福祉の豚肉を提供する小売業者を選択する

2018年調査

非営利のFaunalyticsが発表した2018年9月の調査によると*16

  • 「食物に利用される動物が痛みと不快を感じる能力は、人間とほとんど同じ」に対して38%が「同意」、50%が「どちらとも言えない」、12%が「同意しない」と回答
  • 「肉を食べることは動物の苦しみに直接つながる」に対して32%が「同意」、45%が「どちらとも言えない」、24%が「同意しない」と回答
  • 「食物に利用される動物が丁寧に扱われることは大事だ」に対して46%が「同意」、43%が「どちらとも言えない」、11%が「同意しない」と回答
  • 「食肉に利用される動物の福祉よりも肉の価格が低いことが重要だ」に対して20%が「同意」。56%が「どちらとも言えない」。24%が「同意しない」と回答
  • 「食物に利用される動物をより人道的に扱うことを要求する法律にどの程度指示または反対しますか?」と言う質問に52%が「支持」、41%が「どちらとも言えない」、7%が「反対」、1%が「分からない」と回答

WAP(世界動物保護機関)による中国の畜産動物保護についての分析

部分適用される法令の存在

政府は、畜産動物の飼育、輸送と屠殺に関する法令をいくつか定めた。それは食の安全への関心に基づくものではあるが、動物福祉の保護に関係する要素を含むものでもある。

中華人民共和国の畜産法第41~43、53条(2006年)は、飼養環境と輸送状況に言及している。第53条は、動物の輸送は関連する条例や法令に従って行われなければならないし、家畜の安全を守り、必要な空間、食べ物、水を与えなければならないと定めている。

豚に関しては、豚屠殺管理条例の第8、11、15条が屠殺の条件及び作業手順と技術に言及し、豚に水を注入すること(屠殺の前に体重を増加させる処置)を禁止している。豚屠殺実施方法管理条例(2008年)の第13条は、屠殺場は当該国家基準に従い、人道的屠殺を実行するよう奨励されていると言明している。豚屠殺の技術基準(GB/T22569-2008)が詳細な情報を提供している。

中国獣医学協会は、農業部の指示のもと、動物福祉の原則を立案している。これらの原則は、畜産動物を含めた様々な種類の動物福祉に関わる強制力のない指針となり、設備、飼養環境及び健康といった問題が取り上げられることになる。

法的規定は、動物福祉を主流の関心事としてしっかりと認めているだろうか?

この十年で、畜産動物福祉の法的保護に関しては改善が見られた。
現在のところ、人道的屠殺に関する法律は豚にしか適用されていない。これが他の種類の畜産動物にも適用が拡大されれば有益である。現在は発展段階にある動物福祉の原則が、この方面での改善を可能にすると期待されている。政府が畜産動物の福祉基準を改善させるために対策を施しているのは明確である。それらの原則は、家畜産業における動物福祉の認知度を上げることを目的としている。その影響は、農家、仕入先、そして消費者にも伝わるはずなので、中華人民共和国における畜産動物福祉に対する意識や関心を高めるのに役立つはずである。
強制力のない基準として、法的観点からの効力には限度があるし、同等の経済的地位と畜産業をもつ他の国々には、畜産動物に関して、より多方面にわたって強制力のある法律がある。しかしながら、これらの原則には、法律のもとでの動物福祉に関する運営指針としての役割を果たし、関連する法律の導入と施行を改善させられる可能性がある。

中国における動物福祉を改善させるにあたって、経済的、または社会的障害があるだろうか?

専用の人的資源や財源の不足は、畜産動物の福祉を改善させるにあたって大きな障害となっているし、中国は、多くの国(EUなど)で規制、もしくは禁止されている慣習を伴う集約農業を受け入れていることが注目されている。

しかしながら、中国の消費者がますますより高品質な食品を求めるようになり、工業化学物質の使用や食品の生産システムへの警戒も強まっているので、主要な畜産動物の福祉を改善させるための奨励金がある。この奨励金は、中華人民共和国における畜産動物の福祉を改善させるにあたって存在する経済的障害をいくらかでも取り除くことに役立っている。原則の立案は、この方面での進歩の表れである。また、政府が畜産動物の指針をいくつか立案するにあたって、国際NGOの世界動物保護協会に関わってもらったことは明確である。

政策と立法において、実施機構は設置されているのだろうか?

豚の屠殺に関する規制のための実施機構は設置されている。

(以上、WAPサイトから翻訳:Chisako Iinuma)

近年、中国では畜産動物福祉への取り組みが急速にすすんでいる。WAP(世界動物保護協会)の畜産動物保護評価で日本はD、中国はCと差が付けられている(A~Gの7段階評価)。

中国では国際機関の協力で、屠殺場への動物福祉の導入が積極的に進められている*17。トップが畜産動物福祉に取り組む姿勢を表明しており、大手の食肉加工会社は妊娠ストール廃止を決定している。いずれも日本にはないものだ。​​​​​​​日本の取り組みが遅々として進まない様子を見ていると、このままではもっと差が開く可能性がある。

*1 China introduces humane livestock slaughter rules DATE:2016-08-30 SOURCE:Xinhua News Agency
*2 Future looks bright for better pig welfare in China
*3 Book emphasizes animal welfare DATE:2014-10-29 SOURCE:China Daily
*4 Chinese Minister speaks out for animal welfare
*5 赵皖平代表:高度重视农场动物福利 2018-03-16 09:24:18 来源: 农民日报
*6 November 13, 2017 China’s first-ever animal welfare standards passed by government
*7 Farm animal welfare legislation encourage and appeal Release time:2017-03-16
*8 When motivated, leading companies can make fast and decisive improvements that can benefit millions of animals, each and every year.
*9 Cages for one million Chinese pigs pulled By Oscar Rousseau
Qinglian Food, China’s pioneer for sow group housing
*10 Major Chinese pork producer commits to higher welfare for pigs by Emily Houghton 18 November 2018, at 12:00am
*11 Yangxiang aims high with sows on many floors
*12 The Business Benchmark on Farm Animal Welfare 2015 Report
*13 Chicken firms hatch hi-tech plan to crack China’s mature egg market

GOOD EGG PRODUCTION AWARD 2018 compassion in foodbusiness
*14 A Survey of Chinese Citizens’ Perceptions on Farm Animal Welfare Xiaolin You, Yibo Li,Min Zhang,Huoqi Yan,  and Ruqian Zhao
*15 Chinese consumers support better welfare for pigs 16 August 2016
*16 Detailed Results For China From Faunalytics’ Study Of BRIC Countries
*17 China’s first welfare code for feed lots, slaughterhouses due in June By Mark Godfrey 10-Feb-2016

参照 China Is Ready for an Animal Welfare Movement

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