企業のサステナビリティ報告書には、気候変動、人権、食品ロス、生物多様性、自然資本など、さまざまな社会課題が記載されています。
では、動物についてはどのくらい書かれているでしょうか。
そして、そこに登場する動物は、どのような存在として扱われているでしょうか。
フィンランドの研究者らによって、2026年1月に査読付き学術誌『Sustainability Accounting, Management and Policy Journal』に掲載された論文『企業報告における非人間動物への視座:北欧地域からの知見』は、この問いに対し、企業報告には二つの課題があることを示しています。
一つは、動物に関する記載が少なく、対象となる動物群にも偏りがあるという「量」の問題。
もう一つは、企業が動物をどのような価値を持つ存在として報告しているのかという「質」の問題です。
研究者らは、エネルギー、流通、通信・運輸、天然資源、食品、産業・建設の6業種から北欧の主要企業60社を選び、サステナビリティ報告書と年次報告書を分析しました。
その結果、60社中48社(80%)が何らかの動物群について言及していました。言い換えると、動物福祉や環境問題への関心が高いとされる北欧であっても、5社に1社は動物についてまったく言及していなかったことになります。
さらに、言及される動物にも偏りがありました。野生動物への言及は63%、一方で牛・豚・鶏・養殖魚などの畜産動物への言及は33%、伴侶動物や実験動物などその他の動物への言及は8%にとどまりました。畜産動物への言及は食品産業に集中していました。
日本では、同じ条件で比較した研究はまだありません。
しかし、アニマルライツセンターが2026年7月31日に公表したファームワイズ・インパクトでは、主要食品企業のうち、畜産動物という観点で何らかの記載が確認できた企業は約3割でした。
もちろん、調査対象も方法も異なるため単純比較はできません。
それでも、あらゆる業種を対象にした北欧企業の約8割が動物に言及していることを考えると、日本企業における動物情報の開示は依然として限定的と言わざるを得ません。
また、企業活動が影響を与える動物は食品産業だけではありません。
接着剤や化粧品、医薬品、衣料品、研究開発など、多くの産業が直接・間接に動物を利用しています。
食品企業だけでなく、あらゆる企業が、自社のバリューチェーン(原材料の調達から製造、物流、販売、廃棄に至るまでの事業全体の流れ)の中でどのような動物利用が行われているのかを把握し、説明責任を果たすことが求められています。
この論文の重要性は、単に記載件数を数えたことではありません。研究者らが注目したのは、「どのような価値観で動物を捉えているのか」という点でした。
論文では、企業報告における動物の価値づけを三つに整理しています。
| 価値 | 動物の位置づけ | 対応する考え方 |
|---|---|---|
| 本質的価値 | 動物そのものに価値があり、保護される存在 | アニマルライツ |
| 中間的価値 | 人間による利用を前提としながらも、動物福祉を守る存在 | アニマルウェルフェア |
| 道具的価値 | 人間の目的を達成するための資源・手段 | 資源としての動物 |
本質的価値は、動物をそれ自体に価値がある存在として捉える考え方です。
道具的価値は、動物を肉や卵、乳、生産資源など、人間の利益を生み出す手段として捉える考え方です。
そして、その間に位置づけられているのが中間的価値、すなわちアニマルウェルフェアです。
この整理は、人間による動物利用を否定しない一方で、動物を単なる資源として扱う考え方を超えようとするアニマルウェルフェアの特徴を分かりやすく示しています。
論文によると、野生動物は主に「生物多様性」「生態系」「種」といった文脈で語られていました。一見すると自然そのものの価値を認めているように見えますが、個々の動物は、生態系を維持するための構成要素として扱われる傾向がありました。
一方、牛・豚・鶏・養殖魚などの畜産動物は、個体ではなく、生産資源や種として記述される傾向が強く見られました。
つまり、野生動物は生態系を支える資源として、畜産動物は商品を生み出す資源として語られることが多かったのです。
論文は、野生動物では中間的価値や道具的価値の記述が多く、畜産動物では道具的価値が中心であり、動物福祉という中間的価値からの記述は限定的であったと結論づけています。
この論文が示した最も重要な示唆は、アニマルウェルフェアを「中間的価値」として位置づけたことではないでしょうか。
アニマルウェルフェアは、人間による動物利用そのものを否定する考え方ではありません。
しかし、動物を単なる資源や物として扱う立場にも立ちません。
利用する動物であっても、その健康や飼育環境、苦痛の軽減に配慮するという立場を貫いています。
この整理を踏まえると、企業のサステナビリティ報告書は、単に動物について記載するだけではなく、その記載内容を道具的価値から中間的価値へ発展させていくことが重要であると考えられます。
企業が、調達量や生産量だけではなく、飼育方法や動物福祉方針、改善目標、進捗を開示することは、その一歩となるでしょう。
この論文は北欧企業を対象とした研究であり、日本企業との直接比較を目的としたものではありません。
しかし、「動物についてどれだけ報告しているのか」「動物をどのような存在として扱っているのか」という二つの問いは、日本企業にもそのまま当てはまります。
日本企業は、動物についてどれだけ報告しているでしょうか。
そして、動物をどのような存在として報告しているでしょうか。
アニマルウェルフェアについて、どのような方針を掲げ、どのような目標を設定し、いつまでに何を改善するのか。
その進捗をどこまで開示しているでしょうか。
さらに企業報告に求められているのは、動物について「書くこと」だけではありません。
どれだけ書いているのか。
そして、動物をどのような価値を持つ存在として扱っているのか。
この二つの視点から企業報告を見つめることが、これからのサステナビリティ情報開示には不可欠です。
動物を単なる資源として捉える道具的価値から、アニマルウェルフェアという中間的価値へ。
企業のサステナビリティ報告書は、今まさにその転換点に立っています。
わたしたちも日頃から、以上の二つの視点から企業報告に目を通し、課題を見つけたら、直接企業に意見していきましょう。
参考論文
Eija Vinnari、Pasi Pohjolainen、Markus Vinnari
「企業報告における非人間動物への視座:北欧地域からの知見」2026年1月22日公開
Sustainability Accounting, Management and Policy Journal
DOI:10.1108/SAMPJ-02-2025-0259