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「飼養管理指針チェックリストに関するアンケート調査結果」

アニマルウェルフェアの考え方に対応した家畜の飼養管理指針」に基づく飼養管理の実施状況について把握するため、 (公社)畜産技術協会が、同指針付録のチェックリスト(自己点検シート)を活用して2017年1月に行われた自己点検の実施状況を取りまとめた結果が、同年3月に発表されました。

生産者のアニマルウェルフェアへの意識

生産者にアニマルウェルフェアの意識は浸透しているのでしょうか?
「アニマルウェルフェアの考え方に対応した家畜の飼養管理指針」は2011年に乳用牛・肉用牛・豚・ブロイラー・採卵鶏ごとに策定されています。その後2014年、畜産技術協会は同指針について次のような調査を行っています。

【質問】
「平成23年3月に作成された『アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針』を知っていますか」

  • 肉用牛    26.7%
  • 乳用牛    22.2%
  • ブロイラー    35.7%
  • 採卵鶏    59.5%
  • 豚    51.7%

2011年に同指針が作られてから3年たっているにもかかわらず認知度はとても低いものとなっていましたが、2017年のチェックリストの有効回答率も、ブロイラーを除く4種とも約半数程度という結果でした。自己点検すらなされていない生産者が多いことを考えると、日本のアニマルウェルフェアへの意識はやはりまだ行き届いていないのではないかと感じます。

2017年チェックリストの有効回答率
*左側が有効回答数

  • 肉用牛(回答数506件/1,000件)
  • 乳用牛(回答数1,968件/4,704件)
  • ブロイラー(回答数773件/773件)
  • 採卵鶏(回答数283件/512件)
  • 豚(回答数483件/990件)

アンケートに回答した生産者はアニマルウェルフェアへの意識が高いのではないかと考えられますが、それでもアンケート結果からは飼養管理方法に課題があることがわかります

危機管理体制

【質問】
農場における火災や浸水、道路事情による飼料供給の途絶等の緊急事態に対応するため、危機管理マニュアル等(連絡網等)を作成していますか

  • 肉用牛:はい43.1% いいえ50.6% 無回答6.3% 
  • 乳用牛:はい48.2% いいえ46.7% 無回答5.1% 
  • ブロイラー:はい93.8% いいえ5.9% 無回答0.3%
  • 採卵鶏:はい72.4% いいえ22.6% 無回答5.0% 
  • 豚:はい61.7% いいえ34.6% 無回答3.7%

危機管理対策については、動物愛護管理法第七条に基づく「産業動物の飼養及び保管に関する基準」においても「管理者は、地震、火災等の非常災害が発生したときは、速やかに産業動物を保護し、及び産業動物による事故の防止に努めること。」と求められているもので、ブロイラー以外では危機管理方法の作成率が低いことは問題であると言えます。

農場内での淘汰

【質問】
治療を行っても回復の見込みがない場合は獣医師に相談の上、適切な方法での安楽死の処置を検討していますか

  • 肉用牛:はい83.0% いいえ14.8% 無回答2.2%
  • 乳用牛:はい86.0% いいえ10.5% 無回答3.5% 

【質問】
治療を行っても回復の見込みがない鶏や、著しい生育不良や虚弱な鶏は、適切な方法(頸椎脱臼等)で安楽死の処置を行っていますか

  • ブロイラー:はい94.4% いいえ5.6% 無回答0%
  • 採卵鶏:はい85.16% いいえ11.66% 無回答3.18%

【質問】
治療を行っても回復の見込みがない場合や、著しい生育不良や虚弱で回復する見込みのない場合で、安楽死を採用することとなった際には、できる限り動物に苦痛を与えない方法で処置を行っていますか?

  • 豚:はい 77.4% いいえ11.4% 無回答11.2%

ブロイラー以外では適切な安楽殺を行っていないという回答が10%を超えています。これは農場内で実施可能な適切な安楽殺方法が日本では整備されていないことが要因だと考えられます。「アニマルウェルフェアの考え方に対応した家畜の飼養管理指針」の中で、安楽殺方法として参考にすべきとされている「動物の殺処分方法に関する指針」は存在しますが、これにも具体的な方法は示されていません。「はい」と回答した生産者も実際にそれが適切なやり方なのかどうかはこのアンケート結果だけでは分かりません。
現状農場内での淘汰は農場がそれぞれ独自のやり方で実施している状況ですが、国内での研究・教育がなされる必要があります。

畜種ごとの問題

「アニマルウェルフェアの考え方に対応した家畜の飼養管理指針」の中で、いずれも推奨されているものですが実施率が低いものをピックアップしました。

肉用牛

【質問】
除角は、生後2ヶ月以内に実施していますか

  • はい12.2% いいえ61.3% 無回答26.5% 

【質問】
去勢は、生後3ヶ月以内に実施していますか

  • はい23.5% いいえ66.0% 無回答10.5%
乳用牛

【質問】
除角を行う際は、牛に過剰なストレスを与えないように、可能な限り苦痛を感じさせない方法で実施し、必要に応じて獣医師等の指導の下、麻酔薬や鎮痛剤の使用を検討していますか

  • はい54.5% いいえ37.7% 無回答7.8%

【質問】
除角は、角が未発達の時期(遅くとも生後2ヶ月以内)に実施していますか

  • はい47.3% いいえ45.4% 無回答7.3%

【質問】
断尾は実施せず、それ以外の方法で牛体や乳房の汚れを防止していますか

  • はい77.1% いいえ20.2% 無回答2.8%

*2015年の調査時には断尾を実施している農家は7.5%でしたが、この調査では20.2%が断尾を行っているという結果になっています。
【質問】
繋ぎ飼い方式の場合、牛を運動させる機会がありますか

  • はい49.5% いいえ31.5% 無回答19.0%
ブロイラー

【質問】
一定時間の暗期を設けていますか

  • はい42.0% いいえ57.7% 無回答0.3%
採卵鶏

【質問】
飼料を給与しながら換羽を誘導する方法の実施、または導入を検討していますか

  • はい41.69% いいえ21.91% 無回答36.40%

【質問】
去勢は、生後7日以内に実施していますか

  • はい78.5% いいえ18.0% 無回答3.5%

【質問】
耳刻を行う場合、生後7日以内に実施していますか

  • はい53.6% いいえ16.4% 無回答30.0%

チェックリストについて

「アニマルウェルフェアの考え方に対応した家畜の飼養管理指針」付録のチェックリスト(自己点検シート)そのものについて、いくつか改善したほうが良いと感じた点があります。

・抽象的な項目は避ける

例えば「動物に不要なストレスを与えたり、動物がけがを負うような手荒な取扱いをせず、日頃から丁寧に接していますか」「アニマルウェルフェアの向上を図るため、常に動物が健康で快適な生活ができているかどうかを把握するための努力をしていますか」という質問は殆ど100%近くが「はい」と回答していますが、抽象的な質問はどうしても主観的になってしまい、客観的な評価ができません。
また「アンモニア濃度が 25ppm(臭気を感じるレベルを通り越して、不快感がおこるレベル)を超えないように留意していますか」についても実際にアンモニア濃度を測定しているかどうかという質問に変更したほうが客観的な評価がしやすいと思います。
肉用牛・乳用牛・ブロイラーはOIE(世界動物保健機関)基準にそった指針に改訂されており、同指針のなかで「アニマルウェルフェアの考え方に対応した肉用牛の飼養管理指針に関するチェックリスト 」とは別に「動物にとって快適な状態であるかを確認するためのチェックリスト」も付録としてついています。後者のチェックリストのほうは2017年の調査対象となっていませんが、こちらのほうが具体的です。たとえば牛の場合は「体が震えている牛がいますか」「体が著しく汚れている牛がいますか 」「同じ行動や行為を目的もなく何度も繰り返し続ける牛がいますか」「異常行動(無反応・過剰な乗駕など)を起こしている牛がいますか」などとなっており、こちらのほうが客観的評価として適切であるため、後者のチェックリストの回答内容も精査すべきではないかと思います。

・具体的な数値を求める質問を

飼育スペースについては「動物をよく観察して、飼養スペースが適当であるかどうか確認していますか」というような問でやはり抽象的です。この質問に対しても100%近くが「はい」と答えていますが客観的評価ができません。
「アニマルウェルフェアの考え方に対応した家畜の飼養管理指針」には畜種ごとに推奨する飼養面積が掲載されていますので(採卵鶏についてはケージの高さ、傾斜角度、床のスラットの幅について推奨値があります)、質問でも具体的な数値を求めるものにしたほうが良いと思います。

・傷病の採卵鶏の治療について

採卵鶏については「けがや病気の鶏、病気の兆候が見られる鶏がいる場合は、可能な限り迅速に治療を行っていますか」という質問に対して93.28%が「はい」と回答しています。採卵鶏の飼養管理指針ではたしかに「可能な限り迅速な治療」をすることが求められてはいますが、実際に採卵養鶏場内においてけがや病気で治療される鶏がいるという話を私たちは聞いたことがありません。牛と違い、一羽当たりの利益額の低い鶏を一羽一羽治療していては採算が合わないはずです。

 

やはり「自己点検」では実態把握にはつながらないのではないかと感じます。

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