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70年続く、生徒に豚を育てさせ、殺して食べさせる授業 東京東久留米市 自由学園

70年続く、生徒に豚を育てさせ、殺して食べさせる授業 東京東久留米市 自由学園

2021年4月26日にABEMAテレビで配信された番組 ”出産映像は学校で必要?豚を飼育して食べる〝命の授業〟は残酷?教育と配慮は“ のなかで、東京都東久留米市の自由学園で行われている「育てた豚を殺し、料理して給食で食べる」授業が紹介された。

中学三年生の選択授業で、もう70年続いているという。

この自分で育てた動物を殺すという授業は今もマレにみかけるが、このような授業は必要ないという意見がある一方で、「命をいただいて食べるということに向き合う」「命への感謝」などという昔ながらのフレーズで表現される意見も根強く残っている。

この授業を担当する教師は、番組のビデオの中で「悲しむ生徒もいるけど、命をいただくってそういうことだよね」という。生徒が悲しんでも残酷だと感じても、「殺して食べる」以外の選択肢を、教師は生徒に与えていない。この関係は例えてみれば、殺害を強制する軍隊の上官と、命じられた部下と同じではないだろうか。

この「命の授業」の重大な欠陥は次の三つだと思う。

  1. 命の大切さは殺すことで学ぶことはできない
  2. 肉は食べなければならないという、誤った認識
  3. 授業で豚を飼育する環境が、実際の現代の畜産の飼育環境から乖離している

これまでもアニマルライツセンターは「鶏を殺して食べる授業」 に意見してきた。(このうち一つの高校では、意見から数年後、この授業自体が廃止となった)

今回も自由学園に意見を提出させていただいた。

自由学園への意見書

私たちは、人間と動物が穏やかに共存できる社会を目指し、市民運動を行う認定NPO法人アニマルライツセンターです。娯楽や畜産、研究など、さまざまな分野で利用される動物の権利の向上のために、全国的な啓蒙活動を行っています。
貴園の、豚を飼育し、と殺・解体し、食べるという授業が、2021年4月26日にABEMAテレビで紹介されたことをうけ、市民の皆様から当法人の元へ多くの意見が寄せられました。それらの意見を代表して、お手紙させていただいています。

この番組を拝見しましたが、畜産物が動物の命を奪ったものであることに、真摯に向き合うことの少ない社会において、貴校のように、生徒たちに動物の命に正面から向き合わせようとする姿勢を、すばらしいと感じました。

しかしながら、授業の内容については、貴園に見直しを検討していただきたいことが2点あります。

1. 現代の工場畜産の実態を、生徒に知らせる

この授業での豚の飼育方法と、現実の商業養豚における畜産動物の飼育方法が大きく違うため、生徒たちが畜産業について誤った認識をしてしまう可能性があります。
貴園の授業では、たった2頭の豚を、汚れていない綺麗な、ルーティングするのに十分が敷料があり、泥場もあり、屋内と屋外に広々とした飼育場がある環境で飼育しています。そしてその2頭の豚を生徒全員が世話をしています。

しかし現実の養豚業はそうではありません。日本の養豚場の平均飼育頭数は2000頭を超え、一人で1000頭近い豚を管理するというのが通常です1。豚は過密飼育を強いられ(平均飼育密度は不明ですが、20%の養豚農家は、71kg以上の肥育豚1頭あたりの飼育面積が0.65㎡以下だと回答しています2)、一生を閉鎖された豚舎の中で過ごしています。床に敷料があってもわずかで、その敷料は糞がたまってドロドロになっています。そもそも敷料が設置されておらず全面スノコという養豚場も珍しくありません2。ペンの中に好奇心旺盛な豚の刺激を満たせる素材はなく、泥場もありません。肥育豚は生後2-3日で去勢・断尾・歯の切断が麻酔なしで行われ、繁殖用の母豚は9割以上が転回もできないストールに単飼いで拘束されています3

貴園では事前に食肉処理場を生徒が見学しているとのことですが、日本の食肉処理場では、豚の係留施設の86.4%で飲水設備が設置されておらず4、スタンガンによる強制的な追込みが常態化し5、日本も加盟するOIE(世界動物保健機関)の動物福祉基準に反する状態が続いています。畜産動物の命を食べるということは、これらすべてに責任があるということです。教育とはこういった事実を正確に伝えることではないでしょうか。

1 農林水産省統計
2 2014年畜産技術協会調査
3 2018年日本養豚協会調査 
4 2010-2011年北海道帯広食肉衛生検査所ら調査 2016年の当法人調査では76%
5 2015-2021年当法人調査

2. 肉は食べなければならないものではなく、豚を殺さないという選択肢もあることを示す

育てた豚は、必ず食肉処理場へ送られ、殺され、食べられるという選択肢しか用意されていないため、「肉は必ず食べなくてはならない」という誤った栄養学の知識を与えるおそれがあります。

栄養学の面では、牛や豚や鶏の肉を食べずとも、必要な栄養素を摂取することが十分可能であり、そのほうが健康上の利益を得られるという、国際的な同意が得られています。
40年以上第一線で活躍した栄養学の世界的権威、コリン・キャンベル氏(コーネル大学の栄養生化学部名誉教授)は、6500人に対して20年以上行った疫学調査(チャイナ・プロジェクト)の結果、「摂取する動物性食品の割合が少なければ少ないほど、健康効果が高い」と発表しています。彼は「プラントベース(植物性食品中心)でホールフード(未精製・未加工)の食事をすべきであり精製食品をとったり、塩や脂肪を加えるときは最低限の量にすべき」だとし、「すべての動物性食品を避けるよう努めること」とアドバイスしています。
日本の医学者である蒲原聖可氏は、著書「ベジタリアンの医学」(2005年)の中で、 ”現在専門家の間では「多種類の植物性食品をバランスよく摂取すれば、植物性たんぱく質は、たんぱく質の所要量および必要なエネルギー量を満たす」というコンセンサスが得られています。しかしいまだに一般書の中には「菜食主義者の食事では必須アミノ酸が足らない」「ベジタリアンはたんぱく質不足になる」という誤った記載が認められます。” ”アメリカ政府機関による「アメリカ人のための食生活指針」がベジタリアン食を是認し、専門家グループである「アメリカ栄養士会」がベジタリアンのためのフードガイドピラミッドを発表しています。このようにかつては、ベジタリアン食の安全性に疑問を呈していた専門家団体が、現在はベジタリアン食の疾病予防作用や改善効果を是認するようになったのです。” と書いています。

ジェームズ・キャメロンやアーノルド・シュワルツェネッガーらが製作総指揮をつとめ、2018年に公開された映画「ゲームチェンジャー」では、肉から植物性の食事へ切り替えることが、いかに有益であるかがトップアスリート達の証言、科学的データと共に描かれます。

健康面だけではありません。
温室効果ガス排出、森林破壊、種の絶滅、人獣共通感染症、抗生物質耐性菌、動物福祉において畜産業は大きなリスクを抱えています。畜産物は植物性食品に比べ、温室効果ガス、水の使用量が圧倒的に高く、畜産業のための農地拡大により、陸生動物は生息地を失いつつあります(2020年にNature Sustainability誌に掲載された研究によると、農業拡大のために、 19,859種類の陸生脊椎動物の87.7%が2050年までに生息地を失うといわれています)。現在、地球上の居住可能な土地の71%を農業が使用し、そのうち50%を畜産業が使用(放牧地や畜産動物飼料生産も含む)していますが、その畜産業から得られるカロリーはたったの18%。畜産業はこれからの人口増加に堪えることのできない、非常に効率の悪い生産システムでもあります。
2020年10月、政府間組織のIPBES(環境省もIPBESの取り組みに年間30万ドルを拠出)は、畜産と人獣共通感染症に言及したレポートを発表ましたが、その中で、”家畜生産からの肉の過剰消費を減らし、責任ある消費を促進することにより、パンデミックのリスクを大幅に下げることができます。” と述べています。

畜産物は、持続可能なタンパク質とは言えないという認識が急速に広まっており、世界的な経営コンサルティング会社ATカーニーの分析(2019年)は、2040年には「肉」市場における培養肉・代替肉の占める割合は60%になり、現在の畜産由来の肉は実に40%にまで低下するだろうと予測しています。
海外では都市ぐるみで「ミートフリーデー(肉なし日)」を導入する動きが加速しています。国内でも2019年、ミートフリーマンデーを推進する日本の団体MFMAJに環境大臣賞を授与されています。

私たちはすでに低価格で多くの代替肉を選択できる時代に生きています。肉は必ず食べなければならないものではありません。

畜産由来のタンパク質が環境に及ぼす影響、持続可能なタンパク質移行への動きについてまとめた資料を添付いたします。肉を食べないという選択肢を含めたより広い視野を持つことは、これからの未来を生きる生徒の皆さんには、とても重要なことではないでしょうか。

以上、2点について、ご検討していただけますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

ご多用中まことに恐縮ですが、上記2点につき、貴園のお考えを下記までメールなどでお聞かせいただけると幸いです。

最後になりますが、4月26日に配信されたAMEBAテレビの中で、コメンテーターの一人が、「殺すのではなく、生かすことで命の大切さを伝えられる」「心に傷を負う子が絶対に出る」という趣旨の発言をされていました。
貴園の教師は「悲しむ生徒もいるけど「命をいただくってそういうことだよね」発言されていましたが、育てた豚を殺すことを悲しむのは、人として当然の優しい気持ちです。教育とはその優しい気持ちの芽を摘むことではないはずです。

自由学園からのご回答

2021年5月21日、自由学園から丁寧な回答をいただきました。

要望していた一点目の「現代の工場畜産の実態を、生徒に知らせる」については、「養豚に携わる前の中等科2年生の時に、前段階として座学があり、アニマルウェルフェアについて学んでいます。」とのことで「この学びの中で、動物に対して配慮のない実態のあることも知ります。家畜であろうとペットであろうと、動物を虐待するような飼い方は良くないと考えております。」とのことでした。

これを読んでいるみなさんの中には、畜産動物の飼育実態など知らずに成人した人も多いと思います。(畜産動物がどのように扱われているかがどれだけ認知されていないかはコチラの調査をご覧ください)。そういった中で、こういう教育が行われていることは、これからの未来に向けて、大変心強いことだと思います。

一方、二点目の「肉は食べなければならないものではなく、豚を殺さないという選択肢もあることを示す」については、「豚などの家畜を殺さない視点もあることは理解いたします。」とした上で「ただ、このようなことが話題になるたびに、では動物は避けたとして植物ならばよいのか?という疑問も生まれます。」番組ではカットされていましたが、養豚を指導している〇〇は取材の折に、「肉に限らず魚や野菜なども含めて、私たちは命を頂いて生きているということに向き合うことが大事と考えている」と話しておりました。このように自由学園では家畜に限らず植物も命ある生きているものと捉えています。」とのことで、固定観念から抜け切れていないように感じました。

*いただいた回答を一部引用しています。

ヴィーガンやミートフリーデー(週に一日肉なし日)の啓発運動では、いまも稀に「植物は良くて動物は殺してはダメなのはおかしい」という見解を聞くことがあります。しかし殺す殺さないを議論で、植物と動物を同列に扱うのはナンセンスではないでしょうか。植物と違い、すべての動物は、死の脅威にさらされているときに逃避、防御、攻撃行動をとります。動物と違い、植物は脳がなく、痛みを検知する中枢神経系がありません。植物が動物と同じように感じることができることを示す科学的証拠はありませんし、そのような主張をする科学者もいません。

いただいた回答に対して、

「豚を育てた生徒の皆さんは、辛く感じたり、複雑な思いに駆られたりする経験もされるとのことですが、植物で同じような思いをすることはほとんどないと思われます。動物倫理で問題なのは、対象が痛みを感じて苦しむ能力があるかということで、植物にはそれがありませんが、動物にはそれがあります。痛みを感じて苦しむ能力のある動物を殺さないという選択もあることを示さないのは、今の栄養学の観点からも倫理面からも、公平ではないように感じます。」と述べ、栄養学の観点からの懸念があれば、本を何冊か進呈させていただきたいと伝えましたが、

同園からの回答は、頂いた意見は今後の参考にしますというものにとどまりました。

同園では、畑、果樹、きのこの生産グループもあり、それが生徒自身の食卓にあがるそうです。農場と食卓が離れてしまった現代において、同園のような取り組みは貴重です。もう一歩進んで、「動物を殺さない」という選択肢があることを生徒の皆さんに示していただきたいと強く思います。


写真/animainternational

畜産施設から保護された豚

参考 Do Plants Really Feel Pain? What Does Science Say?BY LAUREN HARRIS

4 コメント

  1. p.p 2021/05/06

    単純に疑問なんですけど、

    1.現代の工場畜産の実態を、生徒に知らせる

    2.育てた豚は、必ず食肉処理場へ送られ、殺され、食べられるという選択肢しか用意されていないため、「肉は必ず食べなくてはならない」という誤った栄養学の知識を与えるおそれがあります。

    について、自由学園が生徒に対して、教えていないというソースはどこから得たのですか?
    普通に考えて、このような取り組みをしている学校ならば、1と2に関する知識も教えていると思うんですが。。。。

    主義主張は全く問題無いとして、とりあえず疑いの目から取り掛かるのってお互いにマイナスなよう気がします。
    ネット番組という限られた情報源から断定するのではなく、しっかりと正しい情報なのかを確認した上での1と2の質問をするのなら分からるんですが。。。。。
    まあ、今後公開質問等を続けていくのであれば、しっかりとした一次情報を得てから質問することをおすすめします。

    返信
  2. Hiroki Imai 2021/05/25

    畜産農家は、動物と植物を同列に扱い、動物の屠殺をを正当化しようとします。他と比較して自己を正当化することに何の意味があるのかがわかりません。そこにいる豚、牛、鶏をなぜ殺さなければならないのでしょうか?人類はすでに食物連鎖を構成する一員ではありません。いくらでも食物を得る手段を持っています。一日も早く屠殺がこの世界からなくなることを祈ります。

    返信
  3. s・b 2022/07/16

    食物連鎖から抜け出す、確かに生体ピラミッドという意味で人間はその範疇を大きく外れていますが、だからと言って動植物を摂取せずに生きることは不可能です。劣悪な飼育環境を非難すること、つまりその命が私たち人間のために消費されるまでの環境をよくすることは反論の余地はありません。それは同じ生物として自らが生存するために消費されることになった動植物へのリスペクトがあるからです。
    しかし植物の虐殺(あえて虐殺と表現します)を正当化しているとは考えないのでしょうか。
    「栄養素は植物から得れば十分だ」、、、では別に栄養素の入った点滴を打つ、サプリメントを飲む等を行えば植物すら摂取する必要はなくなってしまいませんか?もし動物が食べられなくなったとして恐らくは40~50年後には食菜を反対する人たちが現れるでしょう。人間とはそんなにも自らのエゴに縛られ不自由な生活を送らされるものなのでしょうか?
    私は動植物を食べ、ただしその命に対するリスペクトを決して忘れないそういったことが人間に必要なことだと考えます。
    その教育の一環として子供に命の尊さを教え、動植物への感謝の念を教える自由学園の教育は、理にかなっており道徳教育として問題はないと思います。また食べない選択肢もあるという考えを生徒に提示すべきという指摘は、自由学園の実情がどのようになっているかは別として素晴らしいものだと思います。自身が食べるのか食べないのかは、子供たちが自分の意志を持って選択することであるからです。大人が強制するものではありません。

    ㎰:韓国では動物愛護法案が強化され、犬、猫等を食べることは違法になったそうですが、命に優劣をつける行為でしかなく現代社会でタブーとされる優生思想以外の何物でもないのでしょうか。人間の道徳心とは結局自らの目に映るもののみにフォーカスされるエゴなのでしょうか。

    返信
  4. Martha Kawabarta 2022/08/10

    自分たちが正しく、肉食を否定するビーガンの方達のイメージは悪いです。議論を始めても、根拠も理屈も矛盾ばかりであるのに、ただ肉を食べるのをやめて自分は正しい側にいる、偉い人もそう言っていると、思考を停止しただけではないですか?「可愛いそう」という感情論も主観でしかなく、突き詰めれば自分中心、自己中心で、肉を食べる人とやってることは一緒ではないですか?人類が肉を食べるのをやめない以上は、屠殺方法の改善は絶対にすべきである、という私の立場上、突き詰めて議論をしたいのですが、ただビーガンになって「自分は良い」の思考停止状態。このサイトのように、自由学園のような、肉食が現実にある世界で、命への責任と、人として直視し、それぞれが考えるべき機会を与える尊い取り組みを否定して、人類が全員肉を食べない世界などという不可能な未来にエネルギーを注ぎ、自分たちの正しさを主張する行為について、今一度考え直していただきたいです。ビーガンになるのは勝手ですが、ビーガン以外の解決法が必要であると思います。つまり、社会的モラルの改善です。イスラエルという国では、食物規定のベースに聖書の価値観(神から世界を任された人間が、動物の命に責任を持つ)と、物規定(屠殺方法や食べて良いとされる生き物の基準)があり、ここに基づいて議論がなされ、畜産、屠殺が行われ、食肉に自由があります。聖書を土台とする自由学園の取り組みは、自分より弱い命に責任を持ち、思考を働かせる良い学びであり、それは植物であっても同じです。地球の環境を考えれば動物と同じくらい考えるべきことであります。温室効果ガスに関して言えば、田んぼ一枚がどれほど有害かご存知ですか?自由学園の視野の広い学びは評価されるべきで、この取り組みへの当たり屋のように揚げ足をとって否定するあなた方の主張とやり方は視野が狭く、世界を良いものへと変えるどころか、不和を生み出していると言わざるを得ません。

    返信

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