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薬剤耐性菌の抑制に必要なアニマルウェルフェアと畜産物の削減

薬剤耐性菌の抑制に必要なアニマルウェルフェアと畜産物の削減

抗生物質(抗菌剤)が効かない薬剤耐性菌(多剤耐性菌)は畜産から多く発生し、これを抑えるためにはアニマルウェルフェアの向上が必要だということは、世界では常識だ。しかし日本政府はなぜか薬剤耐性菌とアニマルウェルフェアの関係性を認めようとしない。認めれば、アニマルウェルフェアを向上させることを認めなくてはならず、工場畜産にメスを入れることを恐れているのだろうか?政府の言い分は「薬剤耐性菌とアニマルウェルフェアの関係は証明されていない」というものだが、これこそが誤りである。

おさらいしておくべき知識は、薬剤耐性菌がいつかあなたの命も奪う可能性が高いものであるということだ。自分が癌か心疾患か脳梗塞で死ぬと思っている人は多いかもしれないが、あと30年もすれば、癌よりも薬剤耐性菌が理由で死ぬ可能性が高いのだ。現在はまだ、毎年、薬剤耐性菌の結果として世界で750,000人が死亡し、国内の2つの薬剤だけで8000人が死亡していると報告されている程度だ。しかし、2050年までには世界で1000万人が薬剤耐性菌で死亡する。世界銀行は、薬剤耐性菌が2050年までに2800万人を極度の貧困に追いやる可能性があると推定する。ばかばかしいことに医薬品業界にとっては多大な経済効果をもたらし、薬剤耐性菌市場の年平均成長率は4.7%で、2030年以降の年間経済的影響は1兆米ドルを超えると推定される。

薬剤耐性菌は肉を通して、環境中を通して、または院内感染などによって伝播する。90度の熱でも死なない薬剤耐性菌も居て、堆肥に混ざることもある。誰一人安心ではない。しかも薬剤耐性菌はどんどんスーパーになっていく能力を持っている。

下記の記事も確認して欲しい。

このこわーい薬剤耐性菌を予防するために必要なのがアニマルウェルフェアと、畜産物の量の減少である。

”抗生物質フリー”は誤り

最初に誤解を解いておきたいが、”抗生物質フリー”は間違った方向である。

成長促進を目的にした投与はすべて禁止すべきことだ。しかしなんの対策もせず今の飼育方法のまま、すべての抗生物質フリーを謳うために予防的使用または非常に重要な抗生物質への動物のアクセスを禁止することは、たんに病気の蔓延につながり、菌が繁茂した中で動物がバタバタと死ぬだけという状態になる。人も含めてだが動物は適切な医療にアクセスできる必要があるのだ。FAOの持続可能な農業開発の提案でも抗生物質を含む医薬品へのアクセスを可能にすることを勧告している。抗生物質を使わないことを宣言することは非人道的な扱いを肯定することでもある。

今、OIE(世界動物保健機関)も、FAO(国際連合食糧農業機関)も、”抗生物質の責任ある使用”を求めている。

”抗生物質の責任ある使用”とはなにか

抗生物質は世界的な公共財産であるとOIEは述べている。すべての人々の命を守るために必要なものだから耐性菌を作り出さないようににすることは当然の行動だが、実際には現在はかなり危険な状態といえる。抗菌剤の4分の3を畜産動物(一部水産含む)に使っており、人にとっても重要な薬剤も多く使われている。急激に大規模化してきた畜産こそが薬剤耐性菌が増えていく主要な原因と言われる*3。

抗生物質の責任ある使用を英国の王立薬剤師会 製薬ジャーナルではこう説明している。

畜産施設をアップグレードし、免疫力を向上させ、病気の負担を軽減し、動物をより効果的に治療する方法に関する知識を共有することで、福祉を損なうことなく農業における抗生物質の削減、改良、交換を実現できる。これが「責任ある使用」の意味だ。

アニマルウェルフェアは抗生物質の使用料を削減するためには必須なのだ。畜産施設をアップグレード、つまり施設も昔のままの施設ではなく適切にアニマルウェルフェアの5つの自由を満たせるものに、更新せよとしている。この部分を否定している日本型畜産は、責任ある使用とは言えない。

ヨーロッパ獣医師連盟は下記のとおり明記している。

良好な動物福祉と抗生物質使用の減少との間に正の関連がしばしば見られることを示している。手入れが行き届き、適切に飼育されている動物は、感染症にかかりにくく、抗生物質の必要性も少なくなる。つまり、動物の健康と福祉の向上を目的とした取り組みが成功すればするほど、抗生物質の使用を減らし、食用動物の細菌耐性を抑制する試みが成功するだろう。

世界で最も厳しいアニマルウェルフェア法を持つ国の一つであるスウェーデンの畜産における抗生物質使用について、スウェーデン農業科学大学は報告書で述べている。

スウェーデンは世界で最も厳しい動物福祉法を持つ国の一つであり、最適な環境と取り扱い方法により、農家は抗生物質の使用を他国よりも制限して高い生産性を達成させている。

予防的使用や畜舎ごとの治療が日本では当たり前のように行われているが、これは本来取るべき衛生対策やアニマルウェルフェア対策の”低コストの代替品”だ。

アニマルウェルフェアを拒絶して従来型の畜産であり続ける日本の畜産業は、他国の畜産業がコストをかけて、施設を交換し、トレーニングをし、飼育密度を下げ、窓をつけ、時間もかける等しているところをケチっているに過ぎない。アニマルウェルフェアを向上させる努力を怠っている時点で、抗生物質の”無責任な使用”をしているとも言えるだろう。

スウェーデン国立獣医研究所のBjörn Bengtsson氏とChristina Greko氏は論文内で述べている*5。

健康な動物は抗生物質を必要としないのだから、この仕事の基礎は予防である。

効果的なのは畜産物の消費量を減らすこと

アニマルウェルフェアで動物たちが運動したりストレスの少ない環境で生活することで免疫力を上げるなどは必須のことだ。しかし集約的に動物を飼育する現状では、これだけで抗生物質の投与量を減らすことには限界がある。動物が集約的に飼育されていれば、どうしたって動物たちにはストレスが掛かり、福祉にも限界がある。そして本来そうあるべき一頭一頭の治療はできなくなり、数千~数万の動物が収容された鶏舎ごとの治療をせざるを得なくなってしまう。クラスメイトの一人が病気になったら、クラス全員が抗生物質を飲まされる状態、というわけである。

これでは抗生物質の責任ある使用からは程遠い。

もともと動物性タンパク質に対する世界的な需要の高まりが現在のリスクを招いており、これからまだ集約的畜産と動物性タンパク質の増加によってリスクは増大していくと予測されている*4。畜産物を減らし、大豆ミートや豆製品などの植物性タンパク質を増やすことは、動物の権利問題や環境問題だけでなく薬剤耐性菌の問題解決にもつながる。

卵も無関係ではない。産卵中の鶏には抗生物質を与えられることは基本的にはないはずだが、幼齢の頃は別である。幼齢であれば薬剤耐性菌が生まれないなんて言う説はなく、耐性遺伝子を獲得している可能性はあるし、人を介して、動物を介して、環境中から、堆肥からなど感染が広がることは同じだ。実際、国内の採卵鶏からも肉用鶏ほどではないにしても薬剤耐性菌は検出されている*6*7。

つまり、肉も、卵も、乳製品も、動物利用を大幅に減らしていくことが求められる。

日本の畜産業や政府がアニマルウェルフェアには後ろ向きであることは、多くの国民の知ることとなった。であれば、減らすことをいそいでいかなければ、1000万人の犠牲のうちの多くを日本に住む人が占めることになるかもしれない。

鶏肉用の鶏

集約的畜産は病気の温床

*1東京都微生物検査情報(月報)東京都で分離されたサルモネラの血清型及び薬剤感受性について
*2平成 29 年 10 月 18 日 薬剤耐性ワンヘルス動向調査検討会 地方衛生研究所のデータ
*3 Reducing antimicrobial use in food animals Thomas P. Van Boeckel, Emma E. Glennon, Dora Chen, Marius Gilbert, Timothy P. Robinson, Bryan T Grenfell, Simon A. Levin, Sebastian Bonhoeffer, Ramanan Laxminarayan
*4 OECD GLOBAL ANTIMICROBIAL USE IN THE LIVESTOCK SECTOR
*5 Antibiotic resistance—consequences for animal health, welfare, and food production Björn Bengtsson and Christina Greko 2014
*6 農林水産省資料 https://www.maff.go.jp/nval/yakuzai/koenshiryo/pdf/170518_output_JVARM.pdf
*7 農林水産省 採卵鶏農場の全鶏群のサルモネラ保有状況調査 平成21年度

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