LOADING

Type to search

除角のオルタナティブ – 生まれつき角を持たない牛

除角とは

日本の多くの肉牛、乳牛たちには角がありません。牛はもともと角を持った動物ですが、他の牛たちや従業員を傷つけてしまうのを防ぐために、多くの牛には「除角(じょかく)」という角を取り除くための処置が行われています。

畜産技術協会のアンケート調査によると、
肉牛の場合、59.5パーセント*1の農場
乳牛の場合、85.5パーセント*2の農場
が除角を行っていると回答しています。

では、除角はどのような方法で行われているのでしょうか。同アンケート調査によると、主に以下のような方法で除角が行われています。*1 *2

・焼きゴテ
・電熱式除角器(デホーナー)
・ゴムリング
・断角器
・薬品
・その他(断角器で角を切断した後に焼きゴテを併用する方法や、ワイヤーソーの使用、ワイヤーソーと焼きゴテの併用などが含まれます。)

牛の角には神経も通っていれば血も流れているので、除角の際には痛みを伴います。上記したような方法で角を切断されたり、焼かれたりするのですから、痛みは想像を絶するものでしょう。しかし、除角の際に麻酔を使用しているかとの問いに対しては、
肉牛:79.4パーセント *1の農家が「麻酔を使っていない」
乳牛:85.1パーセント *2の農家が「麻酔を使っていない」
と回答しています。

除角については、以下の記事も参考にご覧ください。
牛の角を麻酔なしで切断
畜産従業員の見た、除角による牛の死亡

牛にストレスと苦痛を与えてしまう除角ですが、除角しなくても良い方法はあるのでしょうか。牛の角に角カバーというものを付けることによって除角をしなくても除角と同等の効果があるとされる方法もありますが、残念ながらあまり普及はしていません。

除角のもう1つのオルタナティブ – 無角牛

そこで、もう一つ考えられる方法として、生まれつき角の無い牛(無角牛)を選択して飼育するという方法があります。角を持たない牛を育てることによって、痛みの伴う除角を行う必要がなくなります。

日本も加盟しているOIE(国際獣疫事務局)の陸生動物衛生規約の中の「アニマルウェルフェアと乳牛の生産システム」と「アニマルウェルフェアと肉牛の生産システム」の章では、「無角牛を選択することが、除角をするよりも望ましい」としています。*3 *4

また、全米獣医師協会(AVMA)による「牛の除角と摘芽に関する福祉の意味」という先行研究レビューでも、無角牛の選択について以下のように書かれています。*5

角のない家畜を選択して繁殖させることは、除角による動物の痛みと除角にかかる費用を無くすことができるため、代用法として提案されています。角が無いという性質は常染色体優勢遺伝の性質で、この性質はホモ接合型の角の無い雄牛の全ての子孫に表れるものです。これまでは、角のある牛の方が、無角牛よりも生産性に関する性質が本質的に優れているということが信じられていました。しかし最近になって、角の無い個体は歴史上ずっと存在していたということ、無角牛の遺伝子は単純遺伝の性質があり、明らかに生産能力や行動特性と関係が無いということが分かりました。角の無い雄の肉牛はすでに、角のある雄の肉牛と同等の行動、成長、枝肉の品質、繁殖成績を示しています。ホルスタインを含む多くの品種で角の無い雄親があまり見られないため、乳用雄牛に関しては更なる改善が必要です。(角の無い雄親は1パーセント以下)

乳牛に関しては更なる改善が必要とのことですが、肉牛に関しては既に角のある牛と同等の生産性があるということが書かれています。
改善が必要とされている乳牛に関しても、乳製品を使用している企業の中で、無角牛の選択に取り組むという動きも始まっています。

忘れてはならないこと-たとえ麻酔をしたとしても除角そのものが非倫理的

たとえ麻酔薬をして切断したとしても、牛の角を奪うことは残酷です。牛の肥育をしているこちらの生産者のブログには次のように書かれています。

06年に鹿児島で起きた集中豪雨で、2,000頭規模の肥育センターが水没し、数十頭の肥育牛が犠牲になった。その時に犠牲になった一因に、無角したことが原因であったとセンター長の体験談を聞いた。猫の口ひげではないが、牛の角も自らの体幅を図る尺度にしているというのである。牛は、前に出ようとする時、後ろすざりして出直そうという知恵がない。無角した牛は頭が出られたなら、躯全体も出れると勘違いして、前に出ることだけの動作を繰り返し、結局水没してしまったというのである。有角牛は、角毎出られれば問題ないが、出られなければ、飛び越すとか増水に添って逃げられたそうである。

企業の取り組み

ダンキンドーナツやサーティーワンアイスクリームを運営しているDunkin’ BrandsやアメリカのDanonなど海外企業のアニマルウェルフェアの政策の中にも、遺伝的に角を持たない牛の使用を推進していくという内容がみられます。

また、オーガニック乳製品を販売しているAurora Organic Dairyは、報告書の中で以下のように報告しています。*6

2013年から、私たちの農場において角を持って生まれてくる子牛の数を最小にするために、角の無い雄牛の精液を使用し始めました。この方法は必ずしも子牛が角無しで生まれてくるということを保証しませんが、除角の必要性を実質的に減らすことができています。角を持って生まれてきた子牛に対しては、角を除去する前にオーガニックの認証を受けた痛み止めを使用しています。

RSPCA Australiaなど海外の動物保護団体も、除角を避けるために無角牛を選択することを推進しています。

日本でも無角牛を導入できるか

日本でも山口県で「無角和牛」という生まれつき角を持たない肉牛が生産されていますが、流通量はあまり多くないようです。

意図的に角を持たない牛を選択して繁殖させるということに、抵抗を感じる人もいるかもしれません。しかし、私たちは既に牛たちを、よりたくさん牛乳を生産するように品種改変してきており、そして、この乳量を増やすための品種改変は牛たちに負担をかけてしまっています。既に、現在の畜産の方法は、牛たちが本来の姿で生きることができる、自然な方法ではなくなっているのです。そして、膨大な数の牛が人間によって管理、屠殺されており、その大半の牛が苦痛と恐怖を伴う除角をされているという現状にあります。

角のある牛を繁殖させても、結局牛に苦痛を与えて角を除去してしまうのならば、代わりに生まれつき角を持たない牛を繁殖させて除角の苦しみを与えないようにすることは牛にとっても利益になることであり、代替法の選択肢の1つになるのではないでしょうか。

日本ではまだ大々的に運用されていない方法ですが、導入することができれば除角のために苦しむ牛を減らすことができ、農家の方にとっても除角の手間、心理的負担を減らすことができる方法ではないかと考えられます。

除角による牛たちの苦しみを減らしていくために大切なことは、私たちが消費者が、牛たちに多大な苦痛を与える現在の除角の方法を容認していないこということ、少しでも牛たちの苦痛が軽減されることを望んでいるということを伝え続け、社会全体で牛たちにとってより良い方法を探し続けることではないかと思います。

また、動物の苦痛に配慮せず、私たちの思いのままに操作することが当たり前になっている工場畜産の問題を根本的に解決するためには、畜産物の消費を減らすことも必要です。

*1 http://jlta.lin.gr.jp/report/animalwelfare/H26/factual_investigation_beef_h26.pdf
*2 http://jlta.lin.gr.jp/report/animalwelfare/H26/factual_investigation_cow_h26.pdf
*3 「アニマルウェルフェアと乳牛の生産システム」(英語)
http://www.oie.int/index.php?id=169&L=0&htmfile=chapitre_aw_dairy_cattle.htm
*4「アニマルウェルフェアと肉牛の生産システム」(英語)
http://www.oie.int/index.php?id=169&L=0&htmfile=chapitre_aw_beef_catthe.htm
*5 https://www.avma.org/KB/Resources/LiteratureReviews/Pages/Welfare-Implications-of-Dehorning-and-Disbudding-Cattle.aspx
*6 https://www.auroraorganic.com/animals/

Tags:

You Might also Like

Leave a Comment

Your email address will not be published. Required fields are marked *

暴力的または攻撃的な内容が含まれる場合は投稿できません

SHARE