LOADING

Type to search

新型コロナウィルスの影響で消費が落ちこんだ牛乳。消費を促そうと「モ~1杯!」などというキャンペーンが始まっています。虐待ともいえる拘束下において搾取した牛乳の消費を呼びかけることの倫理的な問題はここではおいておき、今回は牛乳消費による健康への影響に焦点をあててみたいと思います。

まず基本的なことですが、

そもそも人間はいつまでも乳を飲み続ける体にはなっていない。

人間の人口の約65%は、乳児期以降に乳糖を消化する能力が低下します。これは成人期になるとより顕著で、東アジア系の人々に最も多く見られ70〜100%の乳糖を消化できません(乳糖不耐症)。 乳糖不耐症は、西アフリカ、アラブ、ユダヤ人、ギリシャ、イタリア系の人々にも非常によく見られます。(ただし、乳製品摂取の長い歴史を持つエリアでは割合は低く、たとえば、北ヨーロッパ系の人々の約5%だけが乳糖不耐症です)

米国国立衛生研究所 Lactose intolerance 

赤ちゃんはもちろん乳糖不耐症ではありません。赤ちゃんの体内では、母乳に含まれる乳糖を消化するための特別な酵素「ラクターゼ」が作られています。しかしほとんどの人は、乳離れとともにラクターゼの分泌が止まります。これは乳が大人のためのものではなく「乳児」のための食品であるという完璧な証拠です。おそらくいつまでも乳離れできない哺乳類は人間だけでしょう。牛乳への健康への悪影響が指摘され続けているのは、乳を(しかも他の種の乳を)大人になってもいつまでも飲み続けるというところに端を発するのかもしれません。

赤ちゃんの飲み物でもない

赤ちゃんであれば牛の乳でも与えてもいいというわけではありません。牛の乳は、文字通り「牛」の赤ちゃんの母乳です。産まれてすぐに歩けるようになる体重40kgほどの牛の赤ちゃんにとって最適なものであり、人間の赤ちゃんのためのものではありません。人間の赤ちゃんにとって最適な乳もまた人間のお母さんの乳です。WHO(世界保健機関)は母乳代替品のマーケティングの国際規範(International Code of Marketing of Breast-milk Substitutes)において、人間の赤ちゃんに最適なのはお母さんの乳であり、乳児用人工乳(ほとんどの場合、牛の乳が入っている)のラベルには「母乳育児の優位性」について明記しなければならないとしています。

しかし幼児用人工乳の企業(フォーミュラ企業)にとっては、赤ちゃんの健康よりも売り上げのほうが重要で、2005年から2016年には広告費を4倍も費やし、それに伴い幼児用人工乳の売り上げは2.6倍に上昇しています。
専門家たちは、フォーミュラ企業がマーケティングに使うメッセージ(幼児の栄養、認知発達、成長に有益であることを示す)が真実であるという実質的な証拠はないと言っています。2020年5月、ロンドンのインペリアルカレッジの小児アレルギー専門医であるロバートボイル氏らはこのマーケティングを潜在的に有害であるとして、規制当局に乳児用人工乳の健康関連のマーケティング表示を禁止するように求めています。 

NEWS RELEASE 4-FEB-2020 Ad spending on toddler milks increased four-fold from 2006 to 2015 
Ban marketing claims for baby milk formula, experts urge by Press Association 06/05/2020, 11:31 pm

乳児の肥満

UCLの小児栄養学の教授であるMary Fewtrell氏は次のように言っています。

乳児の高タンパク質摂取がより急速な成長と肥満に関連しているという証拠が増えています。また、動物性タンパク質(場合によっては他の動物性タンパク質よりも乳製品)は植物性タンパク質よりも強く関与しています。
Obesity warning for parents after study finds toddlers ‘consume four times too much protein on average’Friday 19 May 2017

乳児の鉄欠乏症・脱水・潜血など

乳児期後期は急激な体の成長に伴い鉄不足になりやすいですが、牛乳は乳児の鉄栄養に悪影響を及ぼすといわれています。「乳児における牛乳の悪影響」というレポートでは、その原因として、潜血による失血、牛乳から大量に提供されるカルシウムとカゼインが、食事中の非ヘム鉄の吸収を阻害することをあげています。またレポートは、牛乳には必要以上のタンパク質とミネラルがあるため過剰な分を排除しようとする体内の働きにより、脱水症をおこす可能性があると指摘しています。

“Adverse effects of cow’s milk in infants”, 2007;60:185-96; 

9〜12 か月の乳児における腸潜血と鉄欠乏の発生を検証した研究では、牛乳を与えられた乳児では、潜在的な糞便失血が鉄欠乏症の悪化要因だとしています。

J Clin Gastroenterol. 2008  Feb;42(2):152-6. doi: 10.1097/01.mcg.0000248007.62773.3a. Intestinal Blood Loss as an Aggravating Factor of Iron Deficiency in Infants Aged 9 to 12 Months Fed Whole Cow’s Milk

最初の誕生日の前に牛乳を導入すると、潜在的な胃腸出血のリスクが高まり、鉄欠乏性貧血の発生率が高くなることが研究によって示されています。

Whole Cow Milk Feeding Between 6 and 12 Months of Age? Go Back to 1976 Frank A. Oski Pediatrics in Review December 1990, 12 (6) 187-189; DOI: https://doi.org/10.1542/pir.12-6-187

1型糖尿病

世界的に1型糖尿病の発生率が増加しています。1型糖尿病に感受性がある人は引き金として食事などの環境因子があるということが広く知られています。そして牛乳タンパク質への初期の曝露は、特に遺伝的に感受性のある子供では、1型糖尿病と強く関連することが示されています*1*2*3。

2017年5月の論文は、牛乳のA1β-カゼインが、遺伝的危険因子を持つ個人の1型糖尿病の主な原因トリガーであるという証拠を提示しています*4。 

なぜ牛乳が1型糖尿病の引き金になってしまうのかについては、次のような機序が考えられています。

  1. 1型糖尿病に遺伝的危険因子を持つ子供が乳児用人工乳などで牛乳を与えられる
  2. 部分的にしか消化できず牛乳タンパクの断片が血中に吸収されることがある
  3. 免疫システムはこれを異物として攻撃するが、ここにある問題が起こる。それは断片の中に血糖値を調整する重要な役割を持つインスリン製造に関与している膵臓の細胞とまったく同じに見えるものがあること。
  4. 免疫システムは牛乳タンパク断片だけでなく膵臓の細胞も破壊し、子どもはインスリンを作る能力を失います

1型糖尿病と牛乳摂取は関係ないとしている研究も存在しますが、それは「関係ない」としているだけで牛乳摂取が1型糖尿病にメリットがあることを示しているわけではありません。少なくとも牛乳摂取が1型糖尿病のトリガーとなることが統計的に示されている以上、リスクがあると認識しておいた方が良さそうです。

*1 N Engl J Med. 1992 Jul 30;327(5):302-7.A bovine albumin peptide as a possible trigger of insulin-dependent diabetes mellitus.
*2 Diabetes Metab Rev. 1998 Mar;14(1):31-67.Putative environmental factors in Type 1 diabetes.
*3 Diabetologia. 2001 Jan;44(1):63-9.Short-term exclusive breastfeeding predisposes young children with increased genetic risk of Type I diabetes to progressive beta-cell autoimmunity.
*4 Nutr Diabetes. 2017 May 15;7(5):e274. doi: 10.1038/nutd.2017.16.A1 beta-casein milk protein and other environmental pre-disposing factors for type 1 diabetes.

ガンを促進

牛乳にはIGF-1が含まれているという話を聞いたことがある人もいるかもしれません。IGF-1(インスリン様成長因子)はガンを促進させるものの一つだといわれています。IGF-1は、体が正常な時は細胞の増殖速度をうまく管理しますが、不健康な時は新しい細胞の誕生と成長が促進され古い細胞の除去が妨げられてしまいます。ANSESが実施した科学論文データ分析は、IGF-1の血中濃度と特定のよく見られるがん(前立腺がん、乳がん、結腸直腸がん)の罹患率とに相関性があることを示しています。 

フランス食品環境労働衛生安全庁(ANSES) がんの増殖リスクに影響を及ぼす乳及び乳製品の成長因子に関する報告書 資料日付 2012年5月7日

ただ2012年のこのANSESの報告書は、牛乳に含まれるIGF-1は、生乳処理の過程で減少し(処理方法によっては無くなり)、さらに体内に入っても時間と共に減少するため、乳由来のIGF-1のがん増殖リスクへの寄与度は、それが存在しても、低いと考えられる、とまとめています。しかしこれは短絡的すぎる結論です。
牛乳に含まれるIGF-1だけが体内のIGF-1を増やすわけではないからです。2017年の論文*1は次のように結論づけています。

乳のIGF-1が体内のIGF-1濃度に生理的影響を及ぼす可能性は低く、牛乳は間接的なメカニズムによって全身のIGF-1濃度を増加させることができます。メカニズムの1つは、カゼイン(牛乳に含まれるもの)を含む牛乳由来のタンパク質に存在する分岐アミノ酸が原因である可能性があります。

牛乳摂取が、体内のIGF-1を増加させることを多くの研究が示しています。
10〜12歳の子供の牛乳摂取は、IGF-1の血清レベルが9〜20%増加することが、様々な研究で示されています*1。2009年の研究は、成人における乳製品のタンパク質とカルシウムの摂取量が多いことと、IGF-1濃度は正の関係があるという結果を導き出しています*2。カゼインを1週間にわたって補給すると、8歳の男の子の血清中のIGF-1濃度が増加します*3。55歳から85歳までの健康な男女240人を観察した研究では牛乳を補給したグループでIGF-1が10%増加しました*4。

*1 Best Practice & Research Clinical Endocrinology & Metabolism Volume 31, Issue 4, August 2017, Pages 409-418
*2 DOI: 10.1158/1055-9965.EPI-08-0781 Published May 2009 The Association between Diet and Serum Concentrations of IGF-I, IGFBP-1, IGFBP-2, and IGFBP-3 in the European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition
*3 Published: 27 May 2009 Differential effects of casein versus whey on fasting plasma levels of insulin, IGF-1 and IGF-1/IGFBP-3: results from a randomized 7-day supplementation study in prepubertal boys
*4 J Am Diet Assoc. 1999 Oct;99(10):1228-33.Dietary changes favorably affect bone remodeling in older adults.

余談ですが、牛乳を飲まないヴィーガンはIGF-1が低いという研究もあります。

Br J Cancer. 2000 Jul;83(1):95-7.Hormones and diet: low insulin-like growth factor-I but normal bioavailable androgens in vegan men.

次に個別のガンについてみていきます。

乳がん

一般社団法人Jミルクは「牛乳中の女性ホルモンはごく微量で、健康に影響はありません。乳がんの発症リスクは心配に及びません。」というレポートを出していますが、2020年2月に発表された研究は、 1日あたり1/4〜1/3カップの牛乳が30%の乳がんリスクの増加、1日に1杯は50%、1日に2〜3杯飲むと、リスクはさらに70〜80%に増加する可能性があると言います。

Synnove Knutsen, Rawiwan Sirirat, Andrew Mashchak, Michael Orlich, Karen Jaceldo-Siegl, Gary E Fraser. Dairy, soy, and risk of breast cancer: those confounded milks. International Journal of Epidemiology, 2020 

アメリカ国立がん研究所の資金で行われた研究(2003年12月-2014年10月の間に乳癌と診断された1941人の女性と1237人の対照参加者を調査)ではスライスチーズ、チェダーチーズ、クリームチーズを最も多く消費した人が乳がんのリスクを53%増加させていることが分かりました。また牛乳を最も多く飲んだER乳がん(乳がんの種類の一つ)を持つ人は、乳がんのリスクが58%増加しました。

Usual Consumption of Specific Dairy Foods Is Associated with Breast Cancer in the Roswell Park Cancer Institute Data Bank and BioRepository Published: 16 February 2017

余談ですが、ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)の増加は乳がんと関係があることがよく知られています。ある研究では、8-10才の少女たちにやや低脂肪で動物性食品の少ない食事を7年間継続させただけで、思春期の始まりと共に増加するいくつかの女性ホルモンを20-30%(プロゲステロンの場合は50%という低いレベルにまで)減らすことができることがわかりました。またこの研究では乳製品の消費量とエストラジオール(エストロゲンの一つ)の間に正の関連を観察しています。

J Natl Cancer Inst. 2003 Jan 15;95(2):132-41.Diet and sex hormones in girls: findings from a randomized controlled clinical trial.

前立腺がん

乳製品と前立腺ガンの関係を証明する多くの文献があります
2001年にハーバード大学がおこなった検証(症例対照研究12、コホート研究7)では、「ある程度の乳製品の摂取」と前立腺がんとに正の関係があることが分かりました。この研究の中で乳製品の摂取が最大量だった男性は最小量の男性と比べ、前立腺がんの総合リスクは二倍、転移性あるいは致命的な前立腺がんのリスクは四倍にまで増加していました。

Diet: Dairy Products, Calcium, and Vitamin D and Risk of Prostate Cancer  Volume 23, Issue 1, 2001, Pages 87–92, 

国立がん研究センター(日本)が2008年に発表した多目的コホート研究(45~74歳の男性約4万3千人)では、乳製品、牛乳、ヨーグルトの摂取量が最も多いグループの前立腺がんリスクは、最も少ないグループのそれぞれ約1.6倍、1.5倍、1.5倍で、摂取量が増えるほど前立腺がんのリスクが高くなるという結果でした。さらに、前立腺がんの進行度別にわけても、同様の結果がみられました。

乳製品、飽和脂肪酸、カルシウム摂取量と前立腺がんとの関連について「多目的コホート研究(JPHC研究)」

2014年の論文は、乳タンパク質のカゼインが、PC3やLNCaPなどの前立腺癌細胞の増殖を促進すると結論付けています。

World J Mens Health. 2014 Aug;32(2):76-82. doi: 10.5534/wjmh.2014.32.2.76. Epub 2014 Aug 26. A milk protein, casein, as a proliferation promoting factor in prostate cancer cells.

その他のガン

コホート研究の結果から、乳製品の消費が少ないことを特徴とする乳糖不耐症の人々は、肺がん、乳がん、および卵巣癌のリスクが低下していることがわかりました。 

Br J Cancer. 2015 Jan 6;112(1):149-52. doi: 10.1038/bjc.2014.544. Epub 2014 Oct 14. Lactose intolerance and risk of lung, breast and ovarian cancers: aetiological clues from a population-based study in Sweden. Ji J,  undquist J, Sundquist K.

メタ分析の結果、3つのコホート研究は一貫して、乳製品総量、低脂肪乳、乳糖の摂取量と卵巣癌のリスクとの間に有意な正の関連があることを示しています。

Milk, milk products and lactose intake and ovarian cancer risk: A meta-analysis of epidemiological studies January 2006International Journal of Cancer 118(2):431-441 DOI: 10.1002/ijc.21305

結腸癌患者では、牛乳の消費量が多いと、血清中のIGF-I濃度が約11%増加することが観察されました。

published:03 May 2017 Circulating insulin‐like growth factor‐related biomarkers: Correlates and responses to calcium supplementation in colorectal adenoma patients

虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症)

一般社団法人Jミルクは、牛乳が心筋梗塞を招くとは考えられないとレポートしていますが、2003年の論文は、20年間にわたり20か国を調査した結果、牛乳とクリームのA1β-カゼイン供給が、虚血性心疾患と有意かつ正の関係にあると報告しています。

N Z Med J. 2003 Jan 24;116(1168):U295.Ischaemic heart disease, Type 1 diabetes, and cow milk A1 beta-casein.

2007年の論文は、血液サンプルを提供した看護師32,826名の追跡調査の結果、「乳脂肪の高摂取が虚血性心疾患のリスク増加に関連していることを示唆しています」としています。

American Journal of Clinical Nutrition, 2007 Oct;86(4):929-37

パーキンソン病

2017年6月米国の男女の医療従事者12万9,346人を24~26年追跡した2件の前向きコホート研究のデータを、牛乳のみに限定して分析した結果、低脂肪乳または脱脂乳を1日コップ1杯以上摂取していた人では1サービング未満の人に比べてパーキンソン病のリスクが39%高かった。

パーキンソン病、低脂肪乳製品の日常的摂取で発症リスク上昇の可能性

2019年第14回アルツハイマー病およびパーキンソン病および関連神経障害に関する国際会議で発表された研究によると、1日あたり40〜159 mlの牛乳を飲んだ人は、1日あたりの牛乳摂取量が少ない(1日あたり40 ml未満)人々と比較して、パーキンソン病を発症するリスクが30%高くなりました。リスクは、より多くの量の牛乳を摂取した人でも同様に増加し、1日あたり160〜200 ml、201〜400 ml、または400 ml以上の牛乳では、25%、33%、および33%高いリスクがありました。 

Milk Linked to Greater Risk of Parkinson’s, Swedish Study Shows MARCH 27, 2019 

骨への影響

骨粗しょう症予防のために牛乳を、という情報が氾濫しています。
丈夫な骨を作るために牛乳、というイメージを抱いている人がいるかもしれません。しかし、疫学および前向きコホート研究の結果は、乳の使用が骨の健康を促進するという有効性について疑問を投げかけています。
これについて2005年、丈夫な骨=牛乳を裏付ける証拠があるのか調査した論文が発表されています。この調査では22の横断研究。13の後ろ向き研究。10件の縦断的前向き研究、13件のランダム化比較試験が精査されました。その結果子供や青年期の骨の石灰化を促進するための牛乳、乳製品の摂取量の増加を推奨する栄養ガイドラインを裏付けることができる証拠は乏しい、と結論付けています。

“Calcium, dairy products, and bone health in children and young adults: a reevaluation of the evidence”, Pediatrics. 2005 Mar;115(3):736-43;

骨折しやすくなるという研究さえあります。

22年間にわたる前向きコホート研究では、10代の間に1日に1杯の牛乳を追加するごとに、股関節骨折のリスクは有意に9%高くなりました。

JAMA Pediatr. 2014 Jan;168(1):54-60. doi: 10.1001/jamapediatrics.2013.3821. Milk consumption during teenage years and risk of hip fractures in older adults. Feskanich D1, Bischoff-Ferrari HA2, Frazier AL3, Willett WC4.

20歳での乳製品の消費は、年を取ってからの股関節骨折のリスクの増加と関連することがわかりました。

Am J Epidemiol. 1994 Mar 1;139(5):493-503.Case-control study of risk factors for hip fractures in the elderly.Cumming RG1, Klineberg RJ.

78,000人の女性を対象とした12年間のハーバード大学の研究では、1日に3回牛乳を飲んだ人は、めったに牛乳を飲まなかった女性よりも骨折しました。

オーストラリアのシドニーでの年配の男性と女性の1994年の研究は、乳製品消費量の増加が骨折リスクの増加と関連していることを示しました。乳製品の消費量が最も多いものは、消費量が最も少ないものと比較して、股関節骨折のリスクが約2倍でした。

Calcium and Strong Bones Physicians Committee for Responsible Medicine

しかし、もっとも衝撃だったのは、2014年に発表された「牛乳の摂取量と女性および男性の死亡率と骨折のリスク:コホート研究」でしょう。この研究は106,722人のスウェーデンの男女を最大29年間の追跡調査したものですが、男女ともに牛乳の摂取量が多くなると骨折率が高くなる、という結果をはじき出しています。
これは国内でも話題になり乳業界はこれへの反論を必死で模索していますが、この研究については次の「死亡率」の項でもう少し詳しく書きます。

Milk intake and risk of mortality and fractures in women and men: cohort studies BMJ 2014; 349 (Published 28 October 2014)

死亡率(および乳業界の反論)

上述した2014年のスウェーデンの「牛乳の摂取量と女性および男性の死亡率と骨折のリスク:コホート研究」は、骨折だけでなくて死亡率についても、牛乳を多く飲むグループのほうが死亡率が高いという結果(男性についてはわずかな増加でほとんど変化はない)になっています。女性の場合、1日3杯以上の牛乳の1日1杯未満と比較した場合の調整された死亡ハザード比は1.93でした。 

乳業界はこのレポートに度肝を抜かれ、さまざまな反論を試みています。
一般社団法人Jミルクは「この論文の内容については、後に、著者のうち中心になっていた2名の教授を含むグループが、他の類似疫学研究を含めてのメタ解析を行ったところ、そうした関連性は結論できなかったと報告しています」と書いています。
これだけを読むと2014年に発表されたコホート研究が、著者ら(Karl Michaëlssonら)自らによって否定されたというようにも読めますが、そうではありません。たしかにKarl Michaëlssonらは、メタ解析で関連性が見つけられなかったと言っていますが、それはそれぞれの研究で管理されていた交絡因子が異なっており不均一性が激しかったためだといっており、Karl Michaëlssonらは、今後さらに大規模なコホート研究が必要だと結んでいます。

Milk Consumption and Mortality from All Causes, Cardiovascular Disease, and Cancer: A Systematic Review and Meta-Analysis by Susanna C. Larsson,OrcID,Alessio Crippa,Nicola Orsini,Alicja Wolk andKarl Michaëlsson Received: 9 July 2015 / Revised: 12 August 2015 / Accepted: 27 August 2015 / Published: 11 September 2015

さらに一般社団法人Jミルクは、2014年の論文について、「その後、他のグループからも上記のスウェーデンの論文を含む29件の前向きコホート研究のシステマティック・レビューが報告されており、その中では、スウェーデン論文の異質性の高さが指摘されています。」とも書いていますが、このメタ分析の資金を、3つの親乳製品グループGlobal Dairy Platform、Dairy Research Institute、Dairy Australiaが提供しています

Eating cheese does not raise risk of heart attack or stroke, study finds theguardian 

Global Dairy Platformは、明治ホールディングスを含む乳業界の連なる委員会で形成される乳推進団体、Dairy Australiaは、オーストラリアの乳業界の利益を約束する組織です。
また、一般社団法人Jミルクの示した29件の前向きコホート研究のシステマティック・レビューはこれら乳業界から資金提供をうけただけでなく、このレビューに参加した研究者たち自体がこれまで乳業界から資金を受けたり、賞を受けたり、ネスレ研究所のコンサルタントを兼任していたりして乳業界と密接な関係にあります。
こういった利益相反については、近年、論文を書く際に情報公開をすることが求められるようになっており、わたしたちも論文に記述されている「Conflict of interest」「Competing interests」などの項を参照して利益相反の有無を確認することができます。29件の前向きコホート研究のシステマティック・レビューは下記の論文ですので確認してみてください。
(補足しておきますが、Karl Michaëlssonらによる2014年のスウェーデンの「牛乳の摂取量と女性および男性の死亡率と骨折のリスク:コホート研究」では利益相反はありません。)

Eur J Epidemiol. 2017; 32(4): 269–287. Published online 2017 Apr 3. Milk and dairy consumption and risk of cardiovascular diseases and all-cause mortality: dose–response meta-analysis of prospective cohort studies

2014年のスウェーデンのコホート研究を行ったKarl Michaëlssonは、2020年5月に「脂肪含有量に関係なく、非発酵乳の摂取量の増加は、全原因死亡に関連する」という研究を発表しています。

Mixing of Apples and Oranges in Milk Research: A Cohort Analysis of Non-Fermented Milk Intake and All-Cause Mortality May 2020Nutrients 12(5):1393

じつはスウェーデンのコホート研究の発表が行われた翌2015年に、日本からは「牛乳を飲む男女と死亡率は低い相関」(Milk drinking and mortality: Findings from the Japan collaborative cohort study)という研究が発表されています。一般社団法人Jミルクはスウェーデンの研究を否定する材料としてこの日本の研究も持ち出していますが、上述した2020年のKarl Michaëlssonの論文は、日本のこの研究を「リスク分析の手法として適切ではない」としています

乳と死亡率の関係についての2019年の別の論文は、牛乳摂取と死亡リスクの有意な関連をしめしています。(牛乳摂取による死亡リスク比は平均1.11。ガン死亡リスク比についても平均1.11)また食品代替分析において、乳製品の代わりにナッツ、マメ科植物、または全粒穀物を摂取すると死亡率が低下しました

Associations of dairy intake with risk of mortality in women and men: three prospective cohort studies BMJ 2019; 367 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.l6204 (Published 27 November 2019) Cite this as: BMJ 2019;367:l6204

乳の健康効果についての利益相反

乳製品の消費と病気の関係には、信じられないほど複雑な研究​​ネットワークが関係しており、すべて乳製品の全体的な影響について異なる見解が存在します。「牛乳が体に悪い」理由としてこの記事に引用した論文について、そのいずれに対しても「牛乳は体に良い」とする側からの反論を試みることは可能です(前立腺がんと1型糖尿病については反論は難しいかもしれませんが)。しかしその「牛乳は体に良い」側の反論にまたこちらも反論することは可能です。こうやって延々と論争を続けることができます。

「牛乳が体に悪い」理由として引用できる論文は、この記事にリンクしたものがすべてではありません。また、この記事にはほとんど掲載していませんが、公平に言って、「牛乳は体に良い」という論文も山のようにあります。全体的な牛乳論争については「牛乳は体に良い」というほうが優勢のように見えます。それには乳業界のマーケティング戦略が深くかかわっています。

まず、忘れないでほしいのは科学的に見える研究が必ずしも真実とは限らないということです。
ニューヨーク大学の栄養学教授Marion Nestle氏は、2015年3月から2016年3月にかけて、業界が資金提供した研究の概要をブログに投稿しましたが、Nestle氏は168の研究が収集し、これらのうち、156件はスポンサーである業界の利益を支持する結果であることをみつけています。そうではない研究は12件しか見つかりませんでした。

by Marion Nestle AUG 2 2017 Should nutrition scientists take food-industry funding?

乳業界は、その莫大な資金を研究機関に提供して、自分たちに有利な研究を引き出そうとしているようにも見えます。
例えばヨーグルト販売では世界シェア2位のYoplaitは英国の骨粗しょう症学会とアイルランドのアイルランドの骨粗しょう症に寄付していますが*1、その英国の骨粗しょう症学会は25歳未満の5分の1が、乳製品を消費しなくなってきていることについて、2017年に「乳製品をカットした食事は、若者の骨の健康にとってリスクとなる」という研究を発表しています*2。

*1 Yoplait donates annually to the National Osteoporosis Society in the UK and Irish Osteoporosis in Ireland (registered charity numbers: England & Wales 1102712, Scotland SC039755 and Ireland CHY11787)
*2 Dairy-free diets warning over risk to bone health 12 April 2017

2017年トロント大学は豆乳やアーモンドミルクなどの代替乳を飲む子供は牛乳を飲む子供よりも低身長だという研究を発表しています。この研究は遺伝が考慮されていなかったり、子どもの時に低身長であることがなぜ健康にデメリットなのかという問題もありますが、研究筆頭者がこれまで乳業界からの90000ドルの助成を含めさまざまな支援を受けてきたという問題も指摘されています。(注:ただし、乳業界に有利な研究がいつもこのように必ず乳業界の資金提供を受けているわけではありません)

Milk alternatives stunt kids’ height, says doctor with dairy industry ties The study has several weaknesses and the author wasn’t exactly forthcoming. BETH MOLE – 6/10/2017, 11:30 PM

カナダでは、連邦政府が乳業界と提携して大規模な乳研究クラスターを形成しており、2018-2023年の間で合計1650万ドルが使用されます。このクラスタープロジェクトでは牛のゲノム技術や耐性菌の監視などもの研究と並んで、乳製品の需要を増加させることを目的とした、「乳製品が肥満のリスクを低下させることを裏付ける研究」も含まれています。
(2013-2018に実施したカナダ連邦政府と乳業界の乳製品研究クラスターでは、もっと多くの乳の健康効果についての研究が行われています。)

The Dairy Research Cluster 3 (DRC3) 

これからの乳消費はどうなるのか

畜産を含む農業は国を挙げて推進される産業であることとも相まって、乳業界のマーケティングはいまのところうまくいっているように見えます。しかしこれは長くは続かないだろうと思います。

近年豆乳やオーツミルクなどの代替乳の世界市場は急速に拡大しており、市場調査会社 Markets and Markets社は、乳製品代替市場(大豆、アーモンド、ココナッツ、米、オーツ麦、ヘンプ)は2018年の173億ドルから、2023年には296億ドルに成長するという予測を発表しています。
乳消費の低迷をうけて、アメリカでは乳産業があいついで破産しています。シンクタンクのRethinkXもまたレポート「Rethinking Food and Agriculture 2020-2030」(2019年)の中で、牛乳の需要は2035年までに90%減少すると予測しています。
上述したように2017年、ヨーグルト大企業のYoplaitから寄付を受けている英国の骨粗しょう症学会は25歳未満の5分の1が、乳製品を消費しなくなってきていることについて警告を出していますが、その甲斐なく、2019年にはイギリスの16歳から24歳の3分の1が植物性ミルクを選んでいます(乳の代替市場の状況についてはコチラに詳細があります)。

Britain turns its back on the dairy industry as a QUARTER of people now drink plant-based milks

現在のところはまだ牛乳消費が多い状況ですが、これから人々の乳離れが進み、乳業界の利益が減って圧力が弱まるにつれて「乳が必要」という伝説は瓦解していくのではないかと思います。

「牛乳が健康に良い」という研究が数多くある一方で、「牛乳が健康に悪い」という研究が数多くあることも事実です。あえてリスクのある可能性のある食品を選択する必要はないようにおもいます。なぜなら牛乳から得られる栄養素はすべてほかの食品で賄うことができるからです。

2020年に発表された論文は、アメリカの栄養ガイドライン*1で示されている乳製品の推奨量(2〜3歳の子供は1日2カップ相当、4〜8歳の子供は1日2カップ相当、 9歳から18歳の青年および成人の場合、1日3杯相当)に疑問を呈し、「牛乳から得られる栄養素はすべて他の食品から摂取できる」として、0-2杯のようなガイドラインにすべきだと言っています*2。つまり飲まなくてもいいということです

*1 DIETARY GUIDELINES FOR AMERICANS 2015-2020 EIGHTH EDITION
*2 Milk and Health List of authors. Walter C. Willett, M.D., Dr.P.H., and David S. Ludwig, M.D., Ph.D. February 13, 2020 N Engl J Med 2020; 382:644-654

それでも牛乳を飲むべきか飲まないべきか悩んでしまう時は、乳牛がどのように飼育されているのかに目を向けてみてください。牛乳の健康効果を肯定否定する多くの情報に混乱してしまったとしても、間違いのない事実は、多くの牛が牛乳のために苦痛が多く短い一生を送っているということです。この事実は牛乳を飲むか飲まないかを考えるときに、健康に有益か否かよりもはるかに考慮する価値があります。

参照

チャイナ・スタディー 葬られた「第二のマクガバン報告」T・コリン・キャンベル (著), トーマス・M・キャンベル (著)
Pro-dairy health studies are funded by the dairy industry
Dairy Industry Funds Research Saying Dairy Is Good; Researcher Denies Documented Ties 06/11/2017 12:23 pm ET Updated Jun 12, 2017
THE BIG C: YOUR DIET AND THE LINK BETWEEN DAIRY AND CANCER
Dairy Consumption: Higher Rates of Mortality, Cancers, Bone Fractures, CVD, Parkinsons & Hormone-related Diseases.
2014年11月06日 06時00分サイエンス 牛乳をたくさん飲むと骨折率や死亡率が上がる、という研究結果が発表される

Leave a Comment

Your email address will not be published. Required fields are marked *

暴力的または攻撃的な内容が含まれる場合は投稿できません

SHARE