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会議室で動物を救おう! ARC流「企業交渉」

みなさんはご存じですか?会議室で動物を救えることを。

じつはアニマルライツセンターの業務の中で、最も多くのスタッフが関わっているのは「企業交渉」活動です。これは通常、会議室で行われるので、一般の方には見えにくくわかりにくい部門です。けれど実際には、スタッフだけでなく多くのボランティアの方々にも「企業交渉」へのご支援をいただき、これまでもたくさんの時間を使ってきました。だからこれからは公開できる範囲で、動物を救うARCの企業交渉の実践について、お知らせしていこうとおもいます。

しかしみなさんの中には、畜産動物の虐待は農場で起こっているのだから、ARCは農場と話し合うべきではないかと思われる方がいるかもしれません。もちろんそれも大切なのですが、食品業界のサプライチェーン〈生産・調達・製造・販売・消費〉の構造を考えると、流れの真ん中に位置する、調達・製造・販売に関わる企業の意向が、両端に位置する〈生産〉と〈消費〉を左右する、大きな力を持っているのが現実です。実際に企業が「アニマルウェルフェアに配慮した畜産物を仕入れたい」と希望すれば、それにそって生産が行われます、さらに宣伝力のある企業が「アニマルウェルフェアに配慮した商品です」とアピールすることで、その方向の消費が喚起されやすくなるのです。

 

ARCの「企業交渉」の中心ケージフリー運動

最近のARCの活動は「企業交渉」の中心に、バタリ―ケージの卵を平飼いに切り替えるケージフリー運動を置き、今年に入ってケージフリー宣言をする企業が100軒を超えるという成果を上げています。現在日本の鶏の99%がバタリ―ケージ飼育ですから、運動はまだ始まったばかりと言えますが、国内生産率・国内消費率のどちらも高い日本の卵は、外圧の影響を受けにくく、わたしたちがアニマルウェルフェアの改善に最も力を入れなければならない畜産物のひとつです。

日本のバタリ―ケージ使用率99%と聞くと、諸外国に比べてどうしても絶望的になりますが、わたしたちが実際に企業に会ってケージフリーの必要性をお話しすると、ほとんどの企業担当者が「平飼い卵に変えたい」意識は持っているといいます。万が一それまで自社がバタリ―ケージという残酷な飼育方法の卵を使用していることを知らなかった企業担当者でも、話をすれば「変えなくてはならない」と思ってもらえます。

企業がケージフリーを拒む理由

それでも企業がすぐにケージフリー移行ができない理由は、大きく以下の3つです。
①安全性
②コスト 
③これまでの業者との慣れ合いが切れない

まず①の安全性については、事実、平飼いとバタリ―ケージの差はないので、わたしたちは科学的に十分な説得ができると思っています。平飼い卵が食品として安全性が低いという懸念は、戦後、アメリカから入ってきた集約的な養鶏が国内に広まるときに、日本国内で何度か失敗があり、そのときのトラウマが「迷信」となり残っているものです。生卵を食べる習慣のある日本では、平飼い卵も含めて流通している卵のほとんどが、洗卵という過程を経て商品になっています。それでも安全性を気にするなら、食べない選択をするしかありません。

②のコストに関してはケージフリーへ移行すると、企業が現在使っているバタリ―ケージ卵の価格にもよりますが、1個あたり数円~数十円の仕入れ価格が上がるのは現実です。これに対し企業は「それでは会社がつぶれる」「わが社は畜産物仕入れのコストカットで、1円2円を争っている」と凄まじい拒絶反応を示します。しかし、わたしたちが話し合いをしているのは、いわゆる優良企業がほとんどですから、本当に卵1個の仕入れが数十円値上がりしたら、その会社がつぶれるのかどうか…不思議な気持ちになります。食品企業のコストカットとは、虐待的な飼育下で生産された畜産物を仕入れることでしか実践できないのかどうか、企業は頭を冷やして考えるときが来ています。

海外の食品企業のセールスマンが「わが社の商品に使われる畜産物はすべて、飼育だけでなく輸送まで、アニマルウェルフェアに配慮しています!」と自慢げに宣伝する時代に、「コストカットのため、鶏にはバタリ―ケージで我慢してもらう」日本企業が、世界市場で生き残る余地があるでしょうか? 企業の資金調達の面でも、卵の仕入れ価格を1個10円値上げしたらつぶれる会社というのは、少なくとも長期に投資する価値はなさそうです。さらにそもそも、残酷に生産された卵を恒常的に使用しているということ自体が、取返しのつかない企業リスクと言えます。

また近年では、企業が本業を通して社会問題にアプローチすることは、社会貢献として企業価値を高めると評価されます。その最も簡単な取り組みはケージフリー宣言です。企業はケージフリーのコミットメントを公開することで、新規のファン層を獲得できます。どんな商品を出そうと、購入して応援してくれるファンの力とは、一般消費者よりはるかに絶大です。困ったときには擁護してくれるファン獲得には、本来長い期間が必要ですが、コミットメントの公開により、企業は膨大な時間と宣伝コストをも節約できます。

最後に③の慣れ合いが切れないという拒否理由については、わたしたちはそれほど悩んではいません。実際に多くの企業担当者が、仕入れに関して、人間関係の慣れ合いを切れない病気にかかっていますが、これを治すのが得意なのは、わたしたち市民団体ではなく企業です。業者との癒着が原因で企業利益を損なう担当者は、企業にとって無価値ですから、そういう人がそれほど長い時間そのポジションにいるとは思えず、あまり問題にはならないのです。

 

会議室で動物を救う鍵は「対話」

例年この時期は企業の株主総会が行われますが、最近では「物言う株主」という存在が話題になっています。少し前は企業に敵対的TOBを仕掛ける投資のプロがそう呼ばれていましたが、今は、コンサルティングやアニマルライツセンターのような市民団体も、ESG(環境・社会・ガバナンス)について意見を表明して、「物言う株主」の位置にいると言われています。今は会社四季報を頼りに株取引していた昔ではなく、SNSなどで情報発信する個人が社会の雰囲気を醸成し、それが「物言う株主」の行動を促す時代であり、さらに機関投資家の間でも「環境・社会・ガバナンスについて、企業の中長期的な持続性に良い影響を与える投資しかしない」責任コード※1が自主的に守られるようにもなりました。

この時代に何が正しい企業の選択かを、話し合いの中で示唆するのが、わたしたち市民団体の役割です。敵対して何かを動かそうとする時代は終わり、協働して互いの課題解決の選択肢を増やす、その唯一の機会が、企業と市民団体との話し合いの場なのです。会議室で動物を救うことはできるのです!ARCは今後も企業との対話を続けていきますので、どうかみなさん応援してください。

 

※1スチュワードシップ・コードのこと 

スチュワードシップ・コードとはコーポレートガバナンスの向上を目的とした機関投資家の行動規範。リーマンショックを反省して言われるようになる。近年ではガバナンス以外に環境、社会に注目している。日本版スチュワードシップといわれるものがある。

 

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