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SPF豚の実態:企業が作り出す誤解

ある外食企業のホームページにこのような説明が記載されている。

1「◯◯のSPFポークを使用。SPFとは無菌の状態で育成されること」

2「(種豚の段階から親豚の産道を通らず帝王切開で誕生するので)出産段階での菌への接触がまずありません」

3「生育環境も非常に清潔」

4「人間も体の菌を落とさないと入れないほどの徹底です」

5「日本では、お肉になるまでの間を無菌で育ててあるものをSPFポークとして認定しています」

この説明は誤りや、誇張だらけだ。

SPF養豚とは

まずSPFとはどういう意味なのか。SはSpecific(特定の)、Pは Pathogen(病原体)、Fは Free(無い)という意味の学術用語であり、直訳すると特定病原体不在ということになる。

ここで「特定」とされている病原体は5つ(萎縮性鼻炎、豚赤痢、オーエスキー病、トキソプラズマ感染症、マイコプラズマ肺炎)あり、日本SPF豚協会が規制対象として定めている。あらかじめ指定されたこの5つの病原体を持たない状態で生まれた豚が「SPF豚」であって、「無菌状態で育成される豚」ではない。”無菌”豚(Germ Free豚)とはあらゆる微生物をまったく持っていない状態でなくてはならないため、特殊な装置が必要となる。よって、「出産段階での菌への接触がまずありません」という説明も嘘だ。私たちの普段の生活空間が菌だらけであるように、農場にもあらゆる菌が存在する。

「生育環境が非常に清潔」という説明はどうか。外食企業ですらSPFが無菌であるかのような勘違いや先入観にとらわれているくらいなので、消費者も特別にクリーンな飼育環境を思い浮かべているかもしれない。

SPF養豚の目的は、豚の慢性疾病を排除することで経営を安定させることにある。それゆえに、上述の5つの病原体は生産性を阻害するものとして取り上げられている。だからといってその生産性が清潔さに結び付いているかというとそうではない。

SPF豚農場認定制度

SPF豚農場を運営するには、平成5年に発足したSPF豚農場認定制度の条件を満たしている必要がある。認定の条件と基準を以下に抜粋した。

※GGPは原原種豚(肉豚の親の親の親)、GPは原種豚(肉豚の親の親)、CMは実用母豚(肉豚の親)

前提条件

豚の移動制限

同位または下位の農場から豚の移動を行っていない

集団変換計画に沿った豚の導入

感染防止対策の確実な実施

防疫設備、防疫管理

農場の成立が集団変換計画に基づいたもの

従来の養豚場にSPF豚農場から供給される種豚を通常の更新ベースで導入し、最終的にSPF由来豚が全てを占めるようになってもSPF豚農場の認定をしない

ヘルスチェックと生産成績評価

認定のためには感染防止システムの効果を測定し、生産成績を正しく評価することが必要(SPF養豚の目的達成を検証する上で必須条件)

GGP、GP農場に対してはヘルスチェックの結果により認定を行い、CM農場に対しては生産成績評価に重点をおき、ヘルスチェックの結果を組み合わせて認定を行う

認定基準

それぞれの農場で機能が異なるので認定基準はGGP・GP農場基準とCM農場基準の二本立て

集団変換計画の基準

採用できる方法は三つ

・農場新設

最も理想的な形態

・一括変換

オールアウト後にSPFの目的に沿って設備の改善、改築、増築等実施し、厳重な消毒を実施した後にSPF豚を導入

・逐次変換

農場の立地条件や周囲の状況に十分配慮し、変換途上での感染防止対策を充分に整えたうえで豚舎毎またはブロック毎にSPF豚変換を行う。この方法は常に再感染のリスクを伴うので細心の注意が必要

変換終了後速やかなヘルスチェックを行う

計画立案は認定委員会の指導に従う

ヘルスチェック実施基準

ヘルスチェック責任者を置く

GGP、GP農場は年二回以上

CM農場は年一回以上

実施頭数

一回あたり14頭以上

ただしオーエスキー病の血清検査は30頭以上(年二回以上)

その他基準

農場を維持管理していく上での防疫に必要な設備の基準

日常の農場管理において防疫上必要な基準(飼料配送、豚輸送、育成豚導入時の隔離検疫、各種資材搬入に関する基準も含む

CM農場は高品質の豚肉を効率よく生産するのが任務、生産成績は個別評価ではなく総合的に実施

基準値と実際に得られた数値の差に係数(K)を乗じて合算し、合計点が負の数値にならないことが条件

薬品衛生費の総量規制

出荷肉豚あたり600円以下

対象薬剤

抗生物質、抗菌剤、駆虫薬、鎮静剤、解熱剤、一般消毒薬

除外:ワクチン類、性ホルモン剤、殺虫剤、殺鼠剤、防臭剤、栄養剤、石灰類、糞尿処理関係薬剤、消毒用アルコール等

CM農場生産成績評価基準

母豚1頭あたり年間離乳頭数 21頭以上

母豚更新率 30%以下

農場飼料要求率 

一貫生産農場 3.3以下

肉豚肥育専門農場 3.0以下

肉豚の死亡淘汰率(離乳ー出荷)

一貫生産農場 2.0%以下

肥育用素豚生産農場 2.0%以下

肥育専門農場 2.5%以下

その他の規則

データ常備の義務付け

・臨床観察記録

・病性鑑定記録

・生産成績集計表

・防疫設備診断表

・防疫管理診断表

・薬品使用明細等

目的が経営の安定であるSPF養豚において重要視されている条件・基準は防疫や生産率であり、そこに動物の扱いとしてのアニマルウェルフェアは入っていない。母豚1頭あたりの年間離乳頭数や肉豚の死亡淘汰率、薬品衛生費の総量規制などは高いアニマルウェルフェアを実践することで有利になる部分であるが、この認定制度には規定はない。

SPF養豚場の実態

アニマルライツセンターに届いたSPF養豚場からの内部告発によると、肥育豚は一面水分の多い糞尿で覆われたコンクリートの上で飼育されていた。別の農場では発酵床を使用していたが、冬だとうまく発酵せず、肥育豚たちは糞尿で泥のようになった不衛生な地面の中で身を寄せ合うように過ごしており、過去には収容密度過多により、折り重なった豚が自分たちの糞尿で溺死したこともあったという。従業員いわく、「外部には見せられない」飼育環境であると。

SPF養豚場の豚舎の様子。床は糞尿に覆われ、衛生的とはとても言えない。

餌も豚舎によっては飲用水と混ざった状態で腐っていたり(給水機能と給餌機能が合体している給餌機)、糞尿床を避けるかのように一段高い位置にある給餌スペースで排泄する豚も多かったという。不衛生な空間のみならず、餌すら不衛生なことに驚くばかりだ。

豚舎の水飲み場も糞尿まみれだ。

また出勤時と退社時にシャワーイン・シャワーアウトをするが、シャンプーとボディーソープで普通にシャワーを浴びるだけであり、どこまで意味があるのか疑問であると。何より従業員がシャワーに時間をかけるのは出勤時よりも、体に付いた糞尿の臭いを消すための退社時のほうであったという。

すべてのSPF養豚がこのような実情なのか定かではないが、こういったケースもあることは確かであり、それでもSPF認定を確保しているのだからその質が問われることは間違いない。また工場畜産型の体質に依存する以上、福祉は蔑ろになりこういった状況に陥ることは必然的であるとも言える。このことから3番目の「生育環境も非常に清潔」は信憑性に欠け、4番目の「人間も体の菌を落とさないと入れないほどの徹底」も全てが間違いではないのだが、当然洗い方には個人差があり、シャワー後の体にどれだけ菌が残っているかなどわかるはずもなく、少し大げさな表現であることは否めない。

そして5番目の「日本では、お肉になるまでの間を無菌で育ててあるものをSPFポークとして認定しています」も、認定制度に「無菌」という文字がひとつもなかったことからもわかるように、また豚たちは糞尿の中で不衛生な飼育をされているケースがあることからも、大変な誤解が生じる説明である。

聞こえのいい言葉に騙されないためには

現状では、その農場がどのような飼育環境なのかは自らが働いてみないと100%の確信は得られない。ホームページに飼育風景の写真が載っていることもあるけれど、日齢や季節によって環境が変化することも十分にあり得る。例えばブロイラー飼育では入雛から数日はさらさらとした敷料でも、時間の経過とともにドロドロになっていることもある。同じ鶏舎内でも場所によって敷料状態が比較的良好なところと劣悪なところがあったりもする。入雛時の快適なスペースも出荷が近づくにつれ過密度はどんどん増していく。

また全ての生産者がそうではないが、消費者が問い合わせても、いいことだけをもっともらしく説明され、鵜呑みにしてしまうことも多々あるだろう。しかし実態とは異なる。

今日のどんな飼育でも許され、罰則もない日本の法システムのなかでは、何一つ、信頼してはならないのだ。私たち消費者は現状ではエシカルな消費はできないといえる。イギリスやEUのように、日本にも畜産における強制力を持った最低基準が必要だ。それにはまず、日本の畜産動物を守るための唯一の法律である動物愛護管理法に畜産の条項を入れ、動物福祉法へと転換する必要がある。

次の動物愛護管理法改正に向けて、地元の国会議員事務所に問い合わせ、「畜産の条項を設けてほしい」、「畜産に国際水準の数値規制を取り入れてほしい」など意見を届けていこう。

動物たちへのひどい扱いをなくすことができるかどうかは消費者一人一人の声にかかっている。

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