豚を著しく苦しめる妊娠ストール飼育は、豚を拘束するという問題点は非常に単純明快なのだが、多くの人が正しく理解できていないという課題がある。私たちは10年以上この問題解決に取り組んできて、数々の”勘違い””故意?なミスリード”に直面してきた。
みなさんも企業やお店に意見を伝えたときに、勘違い回答をもらっている可能性が高いと思うので、ちょっとおさらいしてみよう。そして勘違い回答をもらってしまったときには、すかさず、「その認識、まちがってますよ」と指摘してあげよう。
妊娠ストールが飼養されるのは、その名の通り”妊娠”して出産する役割を担わされている母豚に対してである。しかし、精肉にされる肉用子豚たちのことを指していると勘違いして回答してくる事業者は後を絶たない。
「ストールで拘束して飼育はしていません」
「そのような(拘束飼育する)事業者と、弊社は無関係です」
などだ。この回答は母豚ではなく、その母豚から生まれた6ヶ月まで飼育され屠殺され肉にされる豚(肥育豚などとよばれる)だけのことを表現している可能性が高い。
肥育の豚ではなく、繁殖用の母豚のことです、など言い募ってみると、態度は変わる。
母豚は、妊娠ストールの中で114日間の妊娠期間を拘束されたまま過ごし、出産の1~2日前に分娩ストールに移動させられて拘束されたまま出産し、21日間ほどそのまま子豚たちに授乳し、また妊娠ストールに戻されて人工授精される。一部授乳させたあと1週間ほど拘束されていない通常のオリに入れる養豚場もあるが多くはない。
さて、この工程を当然わかっているはずの養豚場が、いつも、妊娠ストールを問題提起した食品企業に対してこう説明する。
「子豚を押しつぶさないためにストールは必要だ」
間違いなく、嘘をついているのだと思うが、上記運用を把握できていない企業も消費者もみんな騙される。養豚場との繋がりの深い生協関係者も騙されていたので、かなりたちの悪い嘘である。
すでに世界が廃止を決定しているものは”妊娠ストール”である。分娩ストールも、授乳期間中に母豚が動けるほうが母豚も子豚も健康になるため改善が進んでいるが、まず養豚場が辞めなくてはならないのは妊娠期間中の拘束飼育だ。妊娠中は当然、母豚のお腹の中に子豚が入っている状態なので、母豚が潰してしまうなんてことはない。
にも関わらず、いまだにこの言い訳を続ける農家が多く、げんなりする。消費者や企業を馬鹿にしているとしか言いようがない。
妊娠ストールを使っているかいないかを問い合わせをすると、
「使っていません!」
とすぐに答える企業がときどきある。しかし、実際には使っていたり、または再度問い合わせをしてみると使っていると答えたり、または後々訂正の連絡が来たりする。
考えられる可能性は、
という理由が考えられる。日本の養豚場の90%が妊娠ストールを使っていて、妊娠ストールフリーをコミットしている企業はほぼない中だ。信頼は薄れていく。外国産の豚肉を使っていたりものすごいこだわりのある企業で、本当に妊娠ストールフリーであることもあるだろうが、何度か確認を取っておいたほうが確実だ。
そんなわけで、私たちは企業が妊娠ストールについて答える時、いつもその生産者まで確認せざるをえない状況がある。こんな間違いが起きないように、みなさんも企業やお店に意見を伝えてくださる時、注意してみてください。母豚を拘束する養豚場と、拘束しない養豚場では、動物への配慮の度合いはかなりの差があるのだから、決して間違えてはいけないと思う。
このように妊娠ストールフリーの豚舎が少ない中、もうひとつ、みなさんに評価してほしいポイントが有る。それはその企業が、将来妊娠ストールフリーになることを約束しているかどうかだ。現時点では違うが、移行途中、仕入れを変えている途中というものだ。妊娠ストールフリーを目指していない企業やお店に、豚たちを守ろうという意志はないが、目指している企業やお店は豚たちの苦しみを減らしたいという意志がありそれを実行に移し始めているのだ。ここまで含めると、比較的選ぶ商品、選ぶことができるお店は増えてくれる可能性がある。調達の方法があるからだ。
ヨーロッパ産はもちろんすでに妊娠ストールフリーだし、カナダ産の豚肉に切り替えれば2029年までには妊娠ストールフリーになるし、日本ハム商品に切り替えれば2030年には妊娠ストールフリーになる。その他タイ産やブラジル産、アメリカ産も2025年頃までに妊娠ストールフリーになることが多い(個別に生産企業を調べる必要がある)し、中国産も企業によってはすでに妊娠ストールフリーであることもある。