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2021年 続く豚熱。人道的な殺処分を要望

2021年7月8日、神奈川県相模原市の養豚場において、豚熱(豚コレラ)の感染事例が発生し、殺処分が続いている(2021年7月14日時点)。

2018年以降豚熱の発生はこれで15県、80農場に広がったことになる。2018年から今日までに、国内の豚熱で殺された豚の数は24万頭にのぼる。

家畜伝染病予防法第十六条に基づき、牛疫、口蹄てい疫、豚熱、アフリカ豚熱、高病原性鳥インフルエンザ又は低病原性鳥インフルエンザがひとたび発生すると一度に大量の動物が殺処分される。そしてその殺処分はウィルス拡大を封じ込めるために迅速に行うことが求められている。

そのため、コチラの記事にも書いたが、殺処分時には様々な動物福祉の問題が生じている。

  • 麻酔剤は使用されず、消毒薬を使って殺処分を行う
  • 一頭ごとに死の確認を行わないことがあり、埋却時に暴れだす豚がいる
  • 電気スタン機器の頭部への通電の失敗
  • 二酸化炭素ガスを使用(二酸化炭素ガス殺処分は気絶するまでに時間がかかり、苦痛行動を示すことが知られている)

豚熱にかかわらず、家畜伝染病発生時の大量殺処分には私たちの税金が使用される。それは裏返せば殺処分にお金を払っているのは私たちだということでもある。殺される豚の苦しみに対して、私たちには責任を免れることはできない。

苦しみに終止符が打たれる希望はある。畜産由来のタンパク質から、持続可能で犠牲のないタンパク質への移行は、近年、これまでにないスピードで進んでおり、世界的な経営コンサルティング会社ATカーニーの分析は、2040年には「肉」市場における培養肉・代替肉の占める割合は60%になり、現在の畜産由来の肉は実に40%にまで低下するだろうと予測する。

いつかは動物の畜産利用はなくなるかもしれない。しかしそれまでの間、かなり長く、畜産が続くことは間違いない。そして家畜伝染病による殺処分も繰り返されるだろう。
これからも殺処分される畜産動物の苦しみを少しでも減らせるよう、私たちは次の通り、農林水産省に提案した。

2018年以降発生が続いている豚熱の殺処分について、動物福祉の観点から次の通りお願い申し上げますので、何卒よろしくお願い申し上げます。

・平成23年に作成された「口蹄疫に関する作業マニュアル」*を改定し、都道府県に通知すること。

*豚熱など、違う疾病でも適用される。Web上で一般公開されていない。

このマニュアルは現場で実用可能な具体的な殺処分手順が示されており、動物福祉への配慮も言及されています。しかしながら作られたのが平成23年と古いものです。

また、当法人が2018-2021年に豚熱が発生した14の都道府県(2021年7月8日に豚熱が発生した農場を除く。以下同じ)に聞き取りを行った結果、複数の問題があることがわかりました。

つきましては、動物福祉に配慮された殺処分方法を、次の通り提示しますので、参考にしていただき、平成23年の「口蹄疫に関する作業マニュアル」を改定していただけますよう、よろしくお願い申し上げます。

1.殺処分方法としてパコマなどの消毒薬投与を禁止すること。

  • 2018-2021年に豚熱が発生した14の都道府県のうち、子豚の殺処分方法として、心臓にパコマを注射した都道府県は5でした(投与前の麻酔使用なし)。
  • 「口蹄疫に関する作業マニュアル」には、暴れる子豚を保定して心臓に薬剤注射投与する方法が写真とともに示されています。また電殺や二酸化炭素ガス殺で死にきれない豚にも心臓に薬剤注射する旨が書かれています。作業マニュアルには薬剤名が指定されていませんが、これまで豚熱が発生した都道府県は、この「薬剤」にパコマを使用しています。

消毒薬投与という殺処分方法は獣医学的に認められていません。 

米国獣医学会AVMAによる安楽死に関するガイドライン( AVMA Guidelines for the Euthanasia of Animals:2020 Edition)には次のように書かれています。「ストリキニーネ、ニコチン、カフェイン、洗浄剤、溶剤、農薬、消毒剤、その他治療または安楽死の使用のために特別に設計されていない毒性物質は、いかなる状況下でも安楽死剤として使用することはできない。」

パコマ(逆性石鹸)がどのような作用機序で豚を死に至らしめるのかは一切不明ですが、逆性石鹸には溶血作用、神経筋接合部におけるクラーレ(筋弛緩)様作用があると考えられることから、これを投与された動物は意識を保ったまま筋弛緩作用により骨格筋が麻痺して動けなくなり、最終的に呼吸筋の麻痺により窒息して死にいたる可能性があります。心臓にパコマを打たれた子豚は数秒から30秒ほどで動かなくなります。これをもって「速やかな死」と言う人もいますが、動けなくなったことは死んだことを意味しません。麻痺して窒息の苦しみに耐えている可能性があります。

パコマ(逆性石鹸)の作用機序が明らかになり、適切な殺処分であることが証明されるまでは、パコマなどの消毒薬投与を殺処分方法として用いることを禁止すべきだと考えます。

薬剤による殺処分は、消毒薬ではなく、鎮静剤や麻酔剤を使用して、次の手順で、畜産動物への注射投与に馴れた(薬剤によっては静脈注射が必要)人間が行う必要があります。

  1. 鎮静薬投与(筋肉内注射などの出来るだけ簡便で素早い方法で)
  2. 麻酔薬投与
  3. 塩化カリウムなどの致死薬剤投与

2.子豚の二酸化炭素ガス殺について

二酸化炭素ガスによる殺処分では気絶するまでに時間がかかり、苦痛行動を示すことが知られており、これを用いて殺処分を行うことには懸念が残っています。新生児は低酸素への耐性が強く死ぬまでに時間がかかると言われています。体の小さい豚もまた呼吸量が少ないため死ぬまでに時間がかかります*1。

また、二酸化炭素ガスを使用する場合は適切に設計された専用の機械で行う必要がありますが、農場での殺処分ではトラックの荷台や農場にあるコンテナを応用して行われています。

豚への注射投与に馴れた人員を一定数確保し速やかにおこなうことができるのならば、電気スタン機器が使用できない大きさの子豚は、1で示した手順による薬剤殺処分がより人道的です。

※5kg以下の子豚への電気スタン機器使用

子豚は心臓が小さいため、電流が心臓ではなく心臓の周囲の組織を通過し、心室細動を誘発するのが難しい可能性があります。動物福祉上の懸念が払しょくできないため、5kg以下の子豚の感電死は推奨できません*2。

3.適切な電気スタン機器を、適切に使用すること

2018-2021年に起こった事例

  • 豚熱が発生した14の都道府県のうち、通電後死にきれずに、パコマを使用したという都道府県が5つありました。
  • 母豚への頭部(脳)への通電において、一回の通電で意識の喪失を引き起こせず、通電を繰り返すという事態が発生していました。
  • 頭部への通電後(胸部への通電は行わずに)心臓にパコマを投与したり、頭部への通電のみで殺処分が行われたケースがありました。
  • 頭部への通電の際、電極を豚の「首」にあてるケースがありました。
  • 十分な電流を通電するために豚を水で濡らすケースがありました。

通電の失敗や頭部のみへの通電は、豚に耐えがたい痛みとストレスと苦しみを与える可能性があります。
頭部への通電は、一回で豚は倒れなければなりません。
また電気スタン機器による殺処分は、頭部への通電で気絶せしめたのちに胸部への通電で死に至らしめるという「二段階通電」で行わなければなりません。頭部のみの通電は、二段階通電の時間(合計通電時間15秒)より死ぬまでの時間が長くかかり、豚を苦しめます。
首への通電は効果的な気絶を妨げます。また、豚を水で濡らす場合は、適切に行わなければ逆効果になることがあります。

不適切な電気スタン機器を不適切に使用すれば、豚の苦痛を増やすだけでなく、作業時間も増加してしまいます。

適切な電気スタン機器

  1. 電圧400ボルト、電流量2.5アンペア以上の機器であること。
  2. 電気抵抗(オーム)の数値にかかわらず定電流(アンペア)での作業が可能なもの
  3. 通電時に電流量が表示され確認できるもの
  4. 1秒以内に目的の電流量が達成され*3、達することができたか確認可能なこと
  5. その電気スタン機器の一日最大殺処分可能頭数が、実際の一日殺処分数以上であること
  6. 豚を挟むトングの開いた幅が適切であるもの。固定タイプや広く開かないタイプのトングは繁殖豚などサイズの大きい豚の場合を挟むときに幅が足りない場合があります。

※freund社のSTUN-E513はこれらの条件をクリアできます(4についてはオプションで確認可能です)。STUN-E513は国や都道府県が備蓄する電気スタン機器の一つですが、これ以外の電気スタン機器が使用されるケースもあるため、適切な電気スタン機器であるかを確認する必要があります。

適切な使用方法

  • 頭部への通電後の胸部(心臓)への通電にいたる手順を、周波数50ヘルツで実施すること。
    頭部への50ヘルツの通電は、効果的なスタニング(気絶処理)と体のけいれん(蹴り)を最小限に抑える効果があります。不随意なけいれんは、続く胸部への速やかな通電を困難にし、手順の遅れにより豚が意識を回復するリスクが高まります。また、周波数が高くなると胸部への通電時に心室細動が発生する可能性が低くなります。ですので、手順全体を50ヘルツで実施する必要があります。
  • 豚の品種や体重などによって必要な電流量は異なります(最低1.3A。体重が重い豚は1.8A*4、母豚は2.0A*5が目安)。また電極が使用される領域が汚れで覆われていたり乾燥していたりする場合も、より多くの電流量が必要になることがあります。状況に応じて変更するか、その電気スタン機器が可能な最大電流量の設定で常に通電を行ってください。
    また、その電気スタン機器が殺処分可能な上限体重と、雄豚の殺処分が可能かをメーカーに確認する必要があります。もしその電気スタン機器での殺処分が難しい場合は薬剤投与による殺処分を行うのがより適切と思います。
  • 感電死は、頭部へ3-5秒通電し、気絶させたのちに、胸部へ8〜10秒間通電するという二段階通電で行われなければなりません。
  • 頭部への通電は首ではなく脳にまたがるように電極をあてて行います。このときに、耳が邪魔になる場合は、耳の上からではなく直接皮膚にあててください(ただし耳の下に電極を持っていくという作業中に通電してしまわないようにしてください)。「口蹄疫に関する作業マニュアル」に掲載されている豚の頭部電極位置では効果的な気絶をさまたげるかもしれません。適切な場所についてはこちらを参考にしてみてください。
    https://www.hsa.org.uk/electrical-stunning-of-red-meat-animals-equipment/head-only
  • 胸部への通電は、肩甲骨のすぐ後ろの肋骨の左右へまたがるように電極をあてて行う(3.3.2 Electrical killing methodsを参照https://efsa.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.2903/j.efsa.2020.6195)か、頭から胸骨、または背中から胸へまたがるように電極をあてて行ってください*4。
  • 頭部への通電による気絶が成功したあとで、胸部への通電を行ってください。OIE陸生動物衛生規約 第7.6章 「疾病管理を目的とする動物の殺処分」には「胸部への通電は、受け入れがたい大きさの痛みを防止するため、意識を喪失した動物に対してのみ適用されるものとする」と書かれています。頭部通電による気絶が成功すれば豚は次のような状態になります*6。
    一 通電後すぐに豚は硬直して倒れ、
    二 前脚がしっかりと伸び、
    三 後脚が体の中に曲がります。
  • 硬直状態から意識の回復へ続く筋肉のけいれんが起こり始めるのは15~45秒、意識の回復は30~60秒で起こるため*7頭部への通電後すぐに、胸部への通電を行わなければなりません*8。
  • 1秒以内に必要な電流量に達するためには、汚れた電極は清掃する必要があります。接触面が汚れていれば、抵抗が増え電流量が落ち効果的なスタンができなくなります。汚れ具合に応じて少なくとも、10-25頭の動物ごとに電極を清掃してください。
  • 摩耗したり焼けたりした電極は交換する必要があります*9。
  • 十分な電流を通電させるために、動物を水で濡らすことは、動物にストレスを与え動揺させるリスクがあります。また、頭を濡らすと、電流が頭と脳を通るのではなく、濡れた皮膚表面上を流れてしまうというリスクが高まります。濡らす場合はと畜動物のスタントングの電極が適用される領域のみを湿らせてください*10。
  • 「口蹄疫に関する作業マニュアル」には、豚の保定方法として「鼻保定器」による保定が記載されています。しかし鼻の部分は非常に敏感で、侵害受容器が豊富であるため、これを使用すると痛みが生じます*11。
    鼻保定器を使って豚を移動させないこと、また、できるだけ短期間にとどめることを記載してください。ただ、不適切な場所に電極をあててしまった場合、豚に耐えがたい苦痛を与えるため、鼻保定器を使わざるを得ない状況もあると思います。しかし、事前の鎮静剤使用やボードなどで簡易スタンボックスを設置するなどのより穏やかな保定方法がある場合は、鼻保定器の使用を避けるほうがより福祉的だと思います。

4.一頭ごとに死んだかどうかの評価を行うこと

2018-2021年に起こった事例

  • 殺処分が不十分で、埋却時に暴れ出す子豚がいました
  • 豚熱が発生した14の都道府県(2021年7月8日に豚熱が発生した農場を除く)の死亡確認方法は次の通りでした。

    肥育豚や繁殖豚など体の大きい豚の死亡確認方法

    • 瞳孔や眼瞼・角膜反射を一頭ごとに確認 11
    • 動くか動かないかのみで判断 2
    • 拍動および、瞳孔や眼瞼・角膜反射を一頭一頭確認 1

    子豚の死亡確認方法

    • 瞳孔や眼瞼・角膜反射を一頭ごとに確認 6
    • 動くか動かないかのみで判断 5
    • 抜き取りで瞳孔や眼瞼・角膜反射を確認 1

    (14都道府県中2は子豚の殺処分自体がなかった。)

子豚の場合、表面上確認可能な「動くか動かないか」だけで判断した都道府県が4割にのぼります(ガス殺でまとめて殺した場合、一頭一頭の確認に手間を要するというのが主な理由です)。しかし、動くか動かないかだけでは死の評価はできません。

以下の項目を、獣医師が一頭一頭の豚ごとに評価することで、死を確定する必要があります*11。

  • 筋肉の緊張が完全に失われ、動物の体がリラックスしている状態
  • 呼吸の欠如
  • 心臓の拍動/触診または聴診を使用して心拍を測定
  • 角膜または眼瞼への刺激に対する反応(まばたきなど)の欠如
  • 瞳孔の拡張(散瞳)

5.適切なメンテナンスを行うこと

2018-2021年に起こった事例

  • 用意した電気スタン機器が現場で使えなかったというケースがありました

効果的な殺処分と人への安全維持のために、資格のある電気技師または製造業者による定期的なチェックとメンテナンスが必要です*9。

また、使用前には資格のある電気技師または製造業者による電流・電圧の測定チェックが必要です。

 

以上です。

「口蹄疫に関する作業マニュアル」の改定が難しい場合、より人道的な殺処分が行われるよう、貴省から都道府県へ注意喚起などしていただけないでしょうか。

ご多用中大変恐縮ではございますが、ご回答をお待ちしております。

 

*1 https://www.avma.org/sites/default/files/2020-01/2020-Euthanasia-Final-1-17-20.pdf

*2 https://link.springer.com/article/10.1186/s13028-020-00565-9

https://efsa.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.2903/j.efsa.2020.6148

*3 OIE陸生動物衛生規約 第7.5章 「動物のと殺」で求められています。https://www.hopeforanimals.org/slaughter/417/ 

*4 https://edepot.wur.nl/536491 

*5 ドイツの規制 P51参照 https://www.manualslib.com/manual/1845060/Freund-Stun-E512.html?page=51#manual

*6 https://www.hsa.org.uk/electrical-stunning/electronarcosis

*7 https://www.hsa.org.uk/electrical-stunning/duration

*8 https://www.hsa.org.uk/killing-mammals-using-electricity-two-stage-application/killing-mammals-using-electricity-two-stage-application

*9 https://www.hsa.org.uk/safety-and-maintenance/safety-and-maintenance

*10 ドイツの規制 P56参照 https://www.manualslib.com/manual/1845060/Freund-Stun-E512.html?page=51#manual

*11 https://doi.org/10.2903/j.efsa.2020.6195

参照が明記していなものは、主にイギリスの人道的屠殺協会(The Humane Slaughter Association)に助言をいただきました。

 

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