日本各地で、気温37℃、39℃という危険な暑さが続いています。
採卵鶏もまた、暑さによって大きなダメージを受ける動物です。しかし、私たち人間のように汗をかいて体を冷やすことはできません。鶏は暑くなると、翼を体から離し、くちばしを開けて速く呼吸します。これは「パンティング」と呼ばれる体温調節行動です。呼吸器から水分を蒸発させ、その気化熱によって体温を下げようとしています。
口を開けた呼吸は、単に「暑そうにしている」のではありません。
鶏の身体が、すでに余分な熱を外へ逃がそうとしているサインです。
鶏の熱ストレスは、温度だけでは決まりません。
湿度、風速、日射、飼育密度、飲水温度、鶏の年齢や系統、それまでの暑さへの順化などが影響します。同じ30℃でも、乾燥して風がある環境と、高湿度で空気が動かない環境では、鶏が受ける負担は大きく異なります。
採卵鶏の慢性暑熱ストレスに関するメタ分析では、おおむね18~24℃が中立温度域とされ、24℃を超えると体温調節機能が活性化し始めると整理されています。
さらに、30~35℃の暑熱環境では、15~20℃の中立温度環境と比べ、採食量、産卵量、卵重量、卵殻強度などが9~22.6%低下しました。
別の研究では、25.3℃ではパンティングが確認されなかった一方、30℃では個体によってパンティングが現れました。
ただし、この数字を「30℃までは安全」と読むことはできません。湿度が高く、風が弱ければ、より低い温度でも熱を逃がしにくくなります。最も重要なのは温度計の数字だけではなく、鶏自身が示す行動です。
パンティングが続くと、鶏は呼吸から二酸化炭素を過剰に失います。その結果、血液がアルカリ性に傾き、電解質のバランスが崩れます。
暑さによって起きるのは、産卵率や卵殻品質の低下だけではありません。以下の変化が示されています。
鶏は卵を産むための機械ではありません。産卵率が維持されていても、鶏が快適であるとは限りません。
アニマルライツセンターは、日本のケージ養鶏場で長期間記録された映像と内部告発者の報告を「Inside the Cage――卵の生まれる場所」として公開しています。
内部告発者が働き始めたのは、雪が降る1月下旬でした。
1階から流れてきた卵は、触り続けられないほど冷たくなっていました。農場HACCPの手順書には「冬は10℃以下にならないように」と記載されていましたが、2月の鶏舎温度が1℃を示す日もありました。
一方、同じ冬でも、鶏舎の上部や後方は高温になっていました。
2月のある日には、
という、23℃もの差が生じていました。
2階では、2月の時点で29℃に達し、最高温度が連日30℃となることもありました。外気温が21℃だった日に、鶏舎2階が29.7℃になった記録もあります。
ウィンドウレス鶏舎は、一般に「外気の影響を受けにくく、温度管理がしやすい」と説明されます。
しかし、実際には同じ建物の中で、階や前後によって極端な温度差が生じていました。
3月上旬、鶏たちはすでにパンティングを始めていました。

3月下旬になると、口を開けて呼吸する鶏は著しく増えました。春の暖かさを感じる程度の時期に、鶏舎内ではすでに熱ストレスが始まっていたのです。
そして、気温はその後も上昇を続けました。

7月には、鶏舎通路の温度が36℃に達しました。
ただし、この36℃は、鶏がいるケージ内で測定された温度ではありません。養鶏場が記録していたのは、各階の中央通路の前方、中央、後方に設置された温度計の値です。
内部告発者が持参した温度計で測定すると、中央通路より1℃以上高い通路があり、ケージ内が通路より2℃以上高い日もありました。
つまり、通路で36℃なら、ケージの中にはそれ以上の暑さにさらされていた鶏がいた可能性があります。
ケージの中より通路のほうがまだ涼しいため、鶏たちは金網の外へ必死に顔を突き出していました。
けれど、出せるのは首だけです。
より涼しい場所へ移ることはできません。風の来る場所を選ぶこともできません。
Inside the Cageの鶏たちにとって、暑さは8月の一時的な災害ではありませんでした。
3月から、少しずつ悪化しながら続いていたのです。