LOADING

Type to search

鶏肉という暴力

保護鶏の大ちゃんと福ちゃんは肉用に飼育されていた鶏”ブロイラー”だった。彼女たちはふたりとも心疾患で死んだ。この原因はブロイラーに対して行われてきた過激な品種改変(一般的に言う品種改良)がある。

ブロイラーの成長率は、1957年から2005年の間に 400%以上増加した*1。成長の速さは、85〜90%は遺伝的選択、つまり品種改変に起因している。残りは食事に起因する。 この成長を早め、もも肉と胸肉ばかりがデカくなるように、そして全体的に異常に太らせていくことが過去の養鶏が目指してきたことだ。早く太って早く殺せば儲かる、というのが業界の思惑なのだ。

しかしその代償は大きかった。

心臓は小さいまま

ブロイラーたちは生後7日目から、心臓疾患で苦しむ。心臓の動きが早くなったり遅くなったり不規則になることにより動悸や息切れにつながる心不整脈が27%ものブロイラーたちに起きる可能性がある*3。生まれて7日しか経っていない赤ちゃんが、不整脈に苦しむのだ・・・。

体は成長するが、心臓は同じ速さでは成長しない。研究ではこう述べられている「現代の急成長ブロイラーは、彼らの相対的に小さな心臓では、大きな体に血液を送り込むという役割を十分に満たすことができないため、心機能障害を起こしやすくなっている」。

心臓だけではなく他の機関も小さく、外見から判断できるものとしては例えば、ブロイラーの大ちゃんの羽は体にそぐわない小ささだった。それと同じように心臓は体のようには大きくならない。

健康に見える鶏が突然死する

ブロイラーの0.5%〜4%で発生するのが突然死症候群だ。随分高い割合であり、ブロイラーが明らかに異常な品種であることがわかる。

突然死と言っても苦しまないということではなく、飛び跳ね、痙攣して七転八倒して、ひっくり返って死ぬ。

成長が早くて健康に見えるブロイラーで発生し、その被害者の60~80%が男性だ*4。間違いなく速い成長率に関連しているが*8、様々な要因があると言われはっきりとは特定されていないが、代謝性疾患または不整脈が原因だといわれている。生後3週間、暗い時間を多くするなどの方法でよりゆっくり成長させることで死亡率を低下させることができるとしている*5。
突然死症候群の鳥は平均して群れの平均よりも重く*6、また生後2日から発生が確認されている*7。

腹と心臓に水が貯まって呼吸が苦しい

腹水症もブロイラーの病気の多くを占めるものだ。肝臓、腹膜、または心膜の間に液体がたまり、血餅が含まれることもある。心不全の原因にもなっている

この腹水症も心臓と関わりがある。心臓と肺の間の異常な高血圧(肺高血圧症)に起因しており、右心室不全から発生する静脈系の血圧の上昇が原因とされているのだ*9。そう、つまり、体の成長に対して、心臓と肺の成長が見合わず、必要とする酸素量を体中に送り込むために心臓も肺も異常に稼働しなくてはならず、でもそうもいかずに酸素欠乏になったり心臓に異常が現れるというのが原因の一つなのだ*13。

腹水症による死は、症候が徐々に進行し、最終的に気嚢を圧迫し呼吸困難に陥ることで訪れる。その過程では、倦怠感、うつ症状、くちばしの開いた呼吸、腹部膨満、動くことへの抵抗、表在静脈の拡張、チアノーゼ、頻呼吸、徐脈などが発生する*10。ようするに、非常に苦しむ。

そしてこれもまた、成長が早すぎることに起因している。発生率は業界紙によると罹患率は通常1〜5%、死亡率は1〜2%だという*12。

歩けない

中度から重度の歩行障害の発生率は5.5〜48.8%にも及ぶ*11。歩行障害があるということは、当然ながら足や膝などどこかの部位や器官に痛みを抱えているということだ。このような痛みの中で過ごす鶏たちは、怪我のリスクの増え、餌と水を得ることが難しくなり、自然な行動や突発的な行動も取れなくなる。下の動画のような姿で水飲み場で水を飲んだり、多くの鶏がひしめく餌受けで餌を食べるのは非常に難しいのだ。実際に動画で見てみるとそれがよく分かる。餌場まで行くのにも長い時間がかかり、また仲間の間からなんとか餌を食べようとしても、簡単には食べられない。自ずと餌や水の摂取量は減少する。

なぜ歩行困難に陥るのかというと、例えば、骨髄炎を伴う細菌性軟骨壊死の発生が高いことが上げられる。骨に細菌が感染して壊死や骨折を引き起こすのだ。この原因ははっきりと特定はされていないものの、遺伝的特性であることがわかっており、細菌性軟骨壊死になる鶏には10の特性のある遺伝子が見られると言う(差次的発現遺伝子が存在している)*14。文章が難しくなってきたが、要するに、骨髄が細菌に感染しやすいブロイラーが明確に多いということだ。

また、歩行困難の原因として、ブロイラーの骨と脚の形態異常(奇形)の発生率が高いことも挙げられる。これは成長率の速さが影響しており、ゆっくり成長する種であれば形状以上の割合は有意に下がる*15。

日本で発生の多い脊椎症

日本にはあまり有効で精緻なブロイラーの健康状態を把握する研究データがないが、一部では脊椎症による淘汰(殺処分)率が高いことを示唆している*17。ただしこのデータは回収された死体の所見であり正確に脊椎の問題で淘汰されたかどうかははっきりしない。古い国内の研究*19によれば、羅漢率は3.6%から4.4%としている。

海外の業界紙によれば脊椎症の発生は2%程度、または1~5%程度あるという*18。ブロイラーの品種は全て海外のものであるため、日本独自の遺伝病があるとは考えにくい。しかし日本の飼育は他国に比べて1.7倍、1.8倍過密であるため、ウェルフェアの低さによって特定の病気が多くなることは考えられる。

生きていけない

上記の病気や異常は死亡率の高さに直結している。とくに男性の死亡率のほうが高い。これは男性の方が免疫力がつきにくいことに起因している*16。そして福ちゃんのように屠殺されなかったとしてもあっという間に死んでしまう。私たちは大ちゃんと福ちゃんの血液検査を行ったが、ふたり共が共通して異常値だったのは以下の通り。
総蛋白が低く(腸・肝・腎疾患、飢餓)、アルブミンが低く(腸・肝・腎疾患・腹水・胸水の貯留)、GOTが非常に高く(肝臓又は筋肉の障害)、CPKが異常に高く(筋肉の障害)、リパーゼが低く(膵臓・肝臓が悪い)、彫塑窒素が低く(肝不全や飢餓状態)、クレアチニンが低く、中性脂肪が高く(ホルモン性の病気、肝臓が悪い)、血糖が高く(糖尿病)、γ-CTPが異常に高かった(胆管の障害)。

栄養制限を行うしか方法はなく、それでも最終的には心疾患で死んでいった。

養鶏場でも最初の1週間で死亡率が高く、また最後の1~2週間で再び死亡率が上がるのが一般的だ。毎日毎日、体調がどんどん悪化していく様子がデータを見るだけでもわかるだろう。

https://www.thepoultrysite.com/articles/mortality-patterns-associated-with-commercial-broiler-production

生命倫理を破壊した”鶏肉”

動物実験に反対する活動をすると、生命倫理の話が必ず出てくるが、畜産でも同じようにしっかりと検討しなくてはならないだろう。ここまで動物に悪影響が出て、それでもなお効率化を目指し、本来10年の寿命のある動物が数ヶ月しか自活できないような体になっているのだ。すでに生命倫理なんてものはとうの昔に破壊されてきていて、その犠牲者たちを日々人々は口に運び、さらにもっと肉をと飽くなき欲望を晒している。

こういった激しい品種改変による遺伝的疾患を改善しようとするのは、当たり前のことであることを認識すべきだ。人として。

いま動物たちは完全に苦しみの中に生まれ、苦しみながら4~50日を過ごし、苦しみながら輸送されて殺される。これを緩和し、健康な状態に戻していくことに、世界は取り組んでいる。日本はそうではない。

完璧な方法ではなくても、苦しみを明らかに削減できる方法があるのだから、その方策をとらない理由はないはずだ。日本でゆっくり成長する種への移行を業界が全く取り組んでいないことは、日本の養鶏業界の遅れを強く感じる。またはこの非常に重大な倫理の問題への日本の企業や業界、人々の無関心さを見ると、日本の社会がやはり良くない方向に向かっていることを感じずにはいられない。

幸い鶏肉は植物性や培養肉やマイコプロテインなどの代替肉で、最も進んでいる肉の種類だと言える。しかし、660億のブロイラーの数はまだ増え続けているし、もっと増えると予測されている。彼らは苦しんだままでいいのか?

たとえ、私達の目標の通りに鶏肉の消費を2040年までに半分に減らせたとしても330億頭が残り、もっと成功したとして2割に減らせたとしても132億頭が残る。依然として、地球上の”ほとんどの”動物が苦しんでいる状態に変わりはないじゃないか・・・。この動物たちが苦しいままじゃいけない。減れば勝手にアニマルウェルフェアが上がるわけではない。企業は、業者、政府は、これまでそうだったように、自主的に良い方向に変わってくれたりはしない、決して。市民からのプレッシャーがなければ動かないものなのだ。

ブロイラーから脱却すること、そしてよりアニマルウェルフェアの高い種や飼育に切り替えることは、この社会に属する人々全ての責任だ。ブロイラーは畜産動物の数の大半を占めており、彼らの苦しみを放置することは許されない。また薬剤耐性菌やウイルスの発生、サルモネラ菌の発生、そして森林破壊や農地の劣化、生態系の破壊などの人間に関係する問題にも直結している。急いで取り組みを始めなくてはならない。

*1 Zuidhof, M. J., B. L. Schneider, V. L. Carney, D. R. Korver, and F. E. Robinson. 2014. “Growth, Efficiency, and Yield of Commercial Broilers from 1957, 1978, and 2005.https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0032579119385505?via%3Dihub
*2 Havenstein, G. B., P. R. Ferket, and M. A. Qureshi. 2003. “Growth, Livability, and Feed Conversion of 1957 versus 2001 Broilers When Fed Representative 1957 and 2001 Broiler Diets.https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0032579119439278?via%3Dihub
*3 Olkowski AA. Pathophysiology of heart failure in broiler chickens: structural, biochemical, and molecular characteristics. Poult Sci. 2007 https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0032579119398840?via%3Dihub
*4 Jean E. Sander , DVM, MAM, DACPV, Zoetis, Sudden Death Syndrome of Broiler Chickens, 2019 https://www.msdvetmanual.com/poultry/sudden-death-syndrome-of-broiler-chickens/sudden-death-syndrome-of-broiler-chickens
*5 https://poultry.extension.org/articles/poultry-health/common-poultry-diseases/sudden-death-syndrome-in-poultry/
*6 https://www.researchgate.net/publication/22706377_Studies_on_Effect_of_Lighting_on_Sudden_Death_Syndrome_in_Broiler_Chickens
*7 https://www.researchgate.net/publication/40273098_Sudden_death_syndrome_-_An_overview
*8 https://en.engormix.com/poultry-industry/articles/sudden-death-in-broilers-t34836.htm
*9 https://www.msdvetmanual.com/poultry/miscellaneous-conditions-of-poultry/ascites-syndrome-in-poultry
*10 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1090023313001135?via%3Dihub
*11 https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/00439339.2019.1680025
*12 https://www.thepoultrysite.com/disease-guide/ascites
*13 https://en.engormix.com/poultry-industry/articles/ascites-in-broiler-chickens-t35214.htm
*14 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1871141317303682?via%3Dihub
*15 https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0032579119401594?via%3Dihub
*16 https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/0165242789900354
*17 https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010811537.pdf
*18 https://www.poultryworld.net/topic/kinky-back-spondylolisthesis/
*19 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jvma1951/42/9/42_9_631/_article/-char/en
* https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/00439339.2019.1680025

Leave a Comment

Your email address will not be published. Required fields are marked *

暴力的または攻撃的な内容が含まれる場合は投稿できません

SHARE