世界では、アニマルウェルフェアを重視した「ケージフリー飼育」が急速に広がり、欧米だけでなく南米やアジアを含む食品企業や小売チェーンの多くが2025〜2030年までにケージフリー卵への切り替えを目標に掲げています。日本は、この潮流に遅れを取ってきましたが、その一因として、ケージフリーで飼育される採卵鶏の正確な数が公的に把握されておらず、企業は調達の見通しを、生産者は需要の確信を持ちづらい状況にあることが挙げられます。
私たちは2023年に国内初となるケージフリー採卵鶏の実数調査を実施し、今回その第2回目として最新の実態を明らかにしました。本調査は、今後のサステナブルな卵供給体制の構築に向けた基礎データとなることを目指しています。
なお、今回はアニマルウェルフェアの世界の状況、日本の状況、生産者のコメントを含め、まとめています。アニマルウェルフェアの状況は年々日本でも大きく変容しており、現在地を把握するためにも活用いただくことができます。
国内でケージフリーで飼育される鶏の割合は、1.48%でした。2023年の調査時には1.1%であったため、0.38%増加しました。ただし、2023年の当時の全体の飼育羽数は現状より7,562,000羽多かったため誤差がある前提の割合となります。
また、現在、ケージフリーで飼育される鶏の羽数は、1,924,435羽でした。
ケージフリーの鶏を増やす予定についても質問し、具体的な計画があるものについてカウントしました。その結果、合計330,295羽が増加する(想定)ことがわかりました。今年中と回答した農場も、4年以内にと回答した農場もあるため時期は未定ですが、この数を足すと1.738%がケージフリーになります。
ケージフリー羽数を牽引しているのは9農場が取り入れているエイビアリーシステムでした。9農場で29.17%を占めています。しかし、一般の平飼いでも、1万羽以上飼育するところも多くなっており、大規模な平飼い鶏舎がエイビアリーシステムに限らず多数存在するようになりました。今後、国内のケージフリー卵の割合を世界水準に移行するためには、大規模な展開をする農場が必要であることは明らかです。一方で、平飼いから放牧飼育への転換を考える農家や、鶏の健康のために増やさないことを決めている農家もあり、数よりも質を重視する農家も多く存在しています。ケージフリー卵の数のニーズに応える一方で、よりアニマルウェルフェアが高い卵を食べたいという消費者ニーズの増加も考えられることから、多様な方向が存在することは良い傾向であると考えられます。
本調査により、依然としてアニマルウェルフェアの対応が遅いことが可視化されました。周辺諸国を含めケージフリーの増加が著しい状況から見ると、OECD加盟国中最下位水準であることは明白です。
1.48%のケージフリー鶏群では、これら企業の将来の切り替えニーズを到底満たすことができないばかりか、現在顕在化しているニーズすらも満たせていません。
私達は200を超える食品関連企業と話し合いをしており、この中でケージフリーに向けた動きが着実に増えていることを把握しています。これらの企業がケージフリー卵の供給の見通しと安定供給を課題として検討していることもわかっています。この課題を解決するために、卵製品を調達する側の企業には、そのニーズを公表してほしいと願っています。世界中の企業がやっているとおり、将来ケージフリー卵に切り替えるというコミットメントが必要不可欠であるということです。多くの生産者がそのニーズにきちんと応えてくれるでしょう。そしてなかなかアニマルウェルフェアが進まない日本の苦しい現状の中で、ともに社会課題を解決できる生産者とつながることは、企業にとって長く付き合える良きパートナーを得ることを意味しています。価値のあることではないでしょうか。
| 調査票 郵送数 | 916 |
| 郵送以外での追加コンタクト数 | 873 |
| 平飼い羽数データ取得件数 | 298 |
※データ取得数には廃業や無回答含まず
ケージフリー羽数実数、割合
| 現在の羽数 | 1,924,435 | 1,924,435 |
| 増やす予定の羽数 | – | 330,295 |
| 合計 | 1,924,435 | 2,254,730 |
| 全体羽数 畜産統計 2024年データより | 129,729,000 | 129,729,000 |
| 割合 | 1.483% | 1.738% |
| 羽数 | 農場数 | |||
| 平飼い | 1,335,261 | 69.38% | 258 | 85.15% |
| エイビアリー | 561,400 | 29.17% | 9 | 2.97% |
| 放牧 | 27,774 | 1.44% | 36 | 11.88% |
※飼養形態が複数(平飼いと放牧など)ある農場が5件あった
| 平飼い | 216,520 |
| エイビアリー | 104,000 |
| 放牧 | 10,195 |
| 合計 | 330,715 |
調査実施期間:2025年6月1日~10月12日
調査方法:調査票を郵送し、回答のなかった農場に架電し口頭で聞き取り調査を行った。電話が不通であったり回答拒否でデータを取得できなかった場合、信頼できる公開データ(自媒体(SNS含む)、または業界およびマスメディアにおける公開情報(2023年9月以降のものに限る))などの一次情報を収集した。
考慮すべき課題:ケージフリーの鶏群がいることがわかっているが、不通や回答拒否でかつ信頼できる公開情報がない農場が31農場あり、最低値である点を考慮する必要がある