Inside the Cageの9か月間の調査で、繰り返し目にした光景がある。
ケージに体を挟まれ、動けなくなっている鶏だ。
脚や爪が金網に引っかかる。頭や首をケージの外に出したまま戻れなくなる。翼や体がケージの構造物に挟まり、自力では抜け出せなくなる。発見したときにはすでに衰弱している鶏もいた。挟まれた状態のまま死亡している鶏も多かった。
これは、Inside the Cageで偶然撮影された一羽だけの事故ではない。鶏がケージに挟まれて負傷・死亡する問題は、以前から研究で報告されている。
Inside the Cageの調査対象となった鶏舎では、一つのケージに複数の鶏が収容されていた。6羽でも過密な状態のケージに、7羽が入っていることもあった。鶏の周囲には金網があり、床も金網でできている。鶏はその中で生活し続ける。身体の一部が隙間に入り込み、抜けなくなることがある。多くの場合、隙間に挟まるのはそのケージの中で弱い鶏や何らかの理由で弱った鶏だ。
挟まれた鶏は、自力では抜けられない。姿勢を変えることも、餌や水のある場所へ移動することもできなくなる。人間が発見して救出しなければ、その状態が続く。
実際にInside the Cageでは、挟まれたまま衰弱した鶏や、すでに死亡した鶏を記録した。
多くの場合、挟まれる場所は飼槽の下などが多く、その場合、餌を食べたり水を飲んだりする他の鶏に踏みつけられることになり、背中などの羽が剥げてしまうことが多い。これも内部告発者の観察により、明らかにされている。
ケージに鶏が挟まれる問題は、少なくとも数十年前から研究されている。
1985年に発表されたRagnar Tausonの研究では、3,802羽の採卵鶏を同じ鶏舎内の6種類のケージで飼育し、ケージの設計と事故との関係を調べた。その結果、挟まり事故が確認された鶏の割合は、ケージの種類によって0.6~3.5%だった。
さらに、ケージの種類によっては、挟まり事故の最大90%が直接死亡につながっていた。病気による死亡も含めた全死亡のうち、こうした事故が占める割合は9~61%、平均28%だった。
事故が起きた場所も調べられている。
多かったのは、ケージ前面で頭や首が挟まれる事故、趾や爪が引っかかる事故、ケージの仕切りと床との隙間に趾や爪が挟まれる事故だった。研究はその後も続けられ、1974年から1984年までの7試験で191件の事故が分析された。対象となった鶏は合計26,364羽、ケージは12メーカー、40種類以上に及んだ。メーカーによるケージの設計変更などによって事故は減少したが、最終の1983~84年の試験でも、事故による死亡は全死亡の平均6%を占めた。研究者は、ケージの設計を改善してもなお、この問題について生産者とケージメーカーが考慮する必要があると結論づけた。
だが、ケージの形状は改善していない。Inside the Cageだけでなく、別の養鶏場でも挟まり、足のはまり込み、頭が金網にはまり込むなどが散見される。
2017年にPoultry Scienceに発表された研究では、1,218羽の採卵鶏を止まり木や巣などを備えたケージで飼育し、72週齢まで調査した。累積死亡率は4.6%だった。死亡原因を調べると、51.2%がカルシウム代謝や骨に関連する疾患、22%が機械的損傷、9.8%が脂肪肝、17%がその他の原因だった。22%を占めた機械的損傷には、挟まり、骨折、裂傷、外傷が含まれる。研究者も、機械的損傷による死亡の具体例として「挟まれた鶏」を挙げている。

2023年、欧州食品安全機関(EFSA)は採卵鶏の福祉について大規模な科学的評価を公表した。その中で、鶏の軟部組織や皮膚を傷つける原因として、飼育設備によって「鶏が挟まれること」を挙げている。EFSAは対策として、鶏の趾、翼、鶏冠などが挟まれないように飼育設備を設計することを勧告している。
2023年の科学的評価でも、現在の採卵鶏の飼育設備における福祉上のハザードとして扱われているのだ。
ケージ飼育の問題として、一羽あたりの飼育面積の狭さはよく知られている。特に日本は他国よりも狭い。
しかし、Inside the Cageで記録された現実は、狭さだけではない。
鶏が生活する空間そのものが金属製の設備で囲まれている。身体の一部がその構造に入り込んで抜けられなくなっても、鶏は別の場所へ逃げることができない。挟まりを単純に個体の偶発的な事故として扱えないのだ。
そして、Inside the Cageでは、日本の採卵養鶏場の中で、実際に挟まれている鶏を毎日毎日繰り返し記録した。
ケージに鶏が挟まっても、警報は鳴らない。
鶏自身がケージから出て助けを求めることもできない。
数万羽が収容された鶏舎の中で、人間が異常を発見し、助け出さなければならない。
発見されなければ、鶏は挟まれた場所に取り残される。
Inside the Cageの調査では、毎日のようにケージの中の鶏を見続けた。
狭いケージに押し込められている鶏。挟まれて動けない鶏。衰弱した鶏。すでに死んでいる鶏。
調査員は、鶏舎を離れて眠った後も、夢の中で狭いケージに閉じ込められて苦しむ鶏を見るようになった。現実の鶏舎で繰り返し見た光景だった。
挟まれて死亡した一羽だけを見れば、「事故」と呼ばれるかもしれない。しかし、鶏がケージに挟まれて負傷・死亡する現象は数十年前から研究で確認され、現在の科学的評価でも福祉上の問題として指摘され、Inside the Cageでも繰り返し記録された。
ケージに挟まれる鶏がいる。
そして、抜け出せない鶏は、人間に発見されるまでそこで耐えるしかない。
これも、日本で卵を産む鶏たちが置かれている現実の一つだ。

Tauson, R. (1985). Mortality in laying hens caused by differences in cage design.
https://www.periodicos.capes.gov.br/index.php/acervo/buscador.html?id=W2014073255&task=detalhes
Widowski, T. M. et al. (2017). Laying hen welfare I: Social environment and space. Poultry Science, 96(11).
https://academic.oup.com/ps/article/96/11/3805/4055771
Widowski et al. 2017(全文・PMC)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5850468/
EFSA Panel on Animal Health and Welfare (2023). Welfare of laying hens on farm. EFSA Journal, 21(2), 7789.
https://efsa.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.2903/j.efsa.2023.7789
EFSA論文 DOI
https://doi.org/10.2903/j.efsa.2023.7789