南米の先住民族への人権侵害を終わらせるために活動をするcimiが、2024年のレポート「ブラジル先住民族に対する暴力に関する報告書」を発表しました。ブラジルの大統領が開発と利益優先だったボルソナロ氏からルラ氏に変わってから2年、良い効果を出せているのか、そうではないのかがこのレポートを見ると明らかになります。ルラ政権では、アマゾン地域の保護に注力し、気候変動対策を重視した主張が行われてきた。EUもEUDR(EU森林破壊防止規則)を2023年6月29日に発効し、大企業は今年末に適用されますから、今まさに大詰めを迎えています。これらが、多くの人々が期待する通りに効果を出せているのであれば、先住民族たちは以前よりは守られているはずなのです。
だが、レポートを見て失望するしかありません。まったく良い結果は出ていないのです。先住民族は、継続して土地侵略や暴力にさらされ、命を脅かされつづけています。
2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 |
110件 | 277件 | 304件 | 355件 | 416件 | 411件 | 424件 |
2024年の424件の内訳は、権力乱用(19件)、殺害の脅迫(20件)、さまざまな脅迫(35件)、殺人(211件)、過失致死(20件)、身体的危害(29件)、人種差別および民族文化的差別(39件)、殺人未遂(31件)、性的暴力(20件)となっています。殺人が211件発生しているのです。
これらの暴力の多くが、土地の境界確定を求めて闘う先住民コミュニティへの武装攻撃です。土地の境界確定というのは、先住民族に本来約束された土地の権利を法的に確定する手続きで、ブラジルではこれが何十年とずっと遅延しているのです。そのためあやふやな状態のまま、土地が収奪されたり燃やされたりしています。そしてそこが大規模なプランテーション(特に大豆栽培や牛肉生産など)になるということが繰り返されてきているのです。
これらの大豆は世界中の工場畜産の中で苦しむ鶏、豚たちの食料になっています。
土地収奪が進むにつれ、抵抗する先住民族コミュニティとの間で激しい紛争や暴力が起きています。土地収奪を進める農業事業者や牧畜業者、さらには違法伐採業者が先住民族の権利活動家や指導者を標的として攻撃する事件が増加しています。アマゾン地域だけでなく、マットグロッソ・ド・スル州などのセラードでも多くの犠牲者が生まれています。もちろん飼料生産や牛放牧だけではありません。金鉱脈の違法採掘も同様です。違法採掘の場合は面積は大きくはありませんが、暴力の激しさが目立ちます。
そのような土地収奪や土地境界の問題に付いての事件発生率も同様に増加傾向です。
2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 | 2024年 |
941件 | 1,120件 | 1,191件 | 1,294件 | 1,334件 | 1,276件 | 1,241件 |
2024年の内訳は、土地の正規化の失敗と遅延(857件)、領土権に関する紛争(19州114の先住民族の土地で154件の記録)、占有の侵害、天然資源の違法な搾取、遺産へのさまざまな損害(230件)となっています。
EUDRが徐々に運用されるようになり、変わるのだという主張をする人もいるかも知れません。でも、それは違います。
バカバカしいことに、EUDRの対象として大豆自体は含まれますが、たとえばこれを大豆製品以外、つまり鶏肉や豚肉に変えてしまえばそれは対象から外れます。EUが気候変動対策に厳しい政策を作ったから見習うべきだと言われながらも、ちゃんと自分たちが鶏肉を食べるための抜け道は作ってあります。自分の手を直接的に汚さないことを決めただけで、問題は解決させていないことがわかります。
そもそも、現在は大豆生産のための自然破壊の中心はセラードです。この問題であるセラードはEUDRの対象からほぼ外れています。EUDRの定める”森林”が、面積0.5 ha以上、樹高5 m以上、森林被覆率10%以上を「森林」と定義しているからです。セラードは森林ではなく、低木の多いサバンナなのです。それでも、とても重要な生態系群であり、水瓶であり、炭素吸収源なのです。このままでは、アマゾン地域での開発が難しくなりより一層その他の地域の自然が消えていくことでしょう。
1985年以降の先住民族が殺された場所と人数をマッピングしているCASIの地図を見れば、アマゾンだけの問題ではなく、むしろその周辺に殺人や土地収奪のホットスポットがあることがわかるでしょう。
そもそも日本にはEUDRのような規制はありません。2020年以前に開発した土地でEU向けの大豆を作り、2020年以降に開発した土地では日本や中国向けの大豆を作ればいいだけの話です。先住民族やこの土地で暮らす野生生物、そして世界中で苦しむ畜産動物にとって、今、なんの解決策も提示されていないのと同じなのです。
企業は今、人権デューデリジェンスを必須事項と捉え、自分たちが調達する食材の裏側に人権侵害がないかを確認し始めています。環境問題はより一層センシティブに対応をしています。しかし、サプライチェーンが長い畜産物はその裏側まで全く終えていないのが現状です。大手企業含めほとんどの日本企業が、自分たちが調達して製品にしている鶏肉をどこの企業が、どこの農場が作っているのかすら知りません。そんなことってあっていいのかなって、不思議に思います。日本の市民は企業に対する信頼が高い国ですが、でも、そこに根拠はないのです。
農業すら終えていないのですから、その鶏肉や豚肉にされた動物たちの飼育方法なんて、把握していません。ましてや、その動物たちが食べている飼料が、どこかで人を殺し、人を苦しめ、自殺に追い込み、住む場所を焼き払っているかどうかなど、企業はなにひとつ把握していないのです。
市民にできることは何でしょうか。
国産だろうと外国産だろうと同じ飼料を食べています。日本にいる鶏や豚の飼料の自給率は12~13%程度しかないのですから。つまりできることで最も簡単なことは、鶏肉、豚肉から離れることです。食卓から、鶏肉や豚肉を取り除くことです。
https://cimi.org.br/2019/09/a-maior-violencia-contra-os-povos-indigenas-e-a-apropriacao-e-destruicao-de-seus-territorios-aponta-relatorio-do-cimi/
https://cimi.org.br/2020/09/em-2019-terras-indigenas-invadidas-modo-ostensivo-brasil/
https://cimi.org.br/2021/10/relatorioviolencia2020/
https://cimi.org.br/2022/08/relatorioviolencia2021/
https://cimi.org.br/2023/07/relatorioviolencia2022
https://cimi.org.br/2024/07/violencia-contra-pueblos-indigenas-brasil-2023/
https://cimi.org.br/2025/07/relatorioviolencia2024/
https://www.hrw.org/world-report/2024/country-chapters/brazil
https://www.amnesty.org/en/location/americas/south-america/brazil/report-brazil/
https://www.globalwitness.org/en/campaigns/environmental-activists/brazil-indigenous-land-defenders/
https://apublica.org/2025/07/no-primeiro-ano-sob-o-marco-temporal-211-indigenas-foram-assassinados-aponta-cimi/