世界的に知られる「Dow Jones(ダウ・ジョーンズ)」。その中には、企業のサステナビリティ評価をもとに構成銘柄を選ぶ”Dow Jones Best-in-Class Indices(旧Dow Jones Sustainability Indices/DJSI)””があります。この銘柄選定に使われる重要な評価の一つが、S&P GlobalのCorporate Sustainability Assessment(CSA)です。
CSAでは、食品メーカー、食品小売、外食企業などについて、アニマルウェルフェアが正式な評価項目になっています。
評価される内容はかなり具体的です。
アニマルウェルフェア方針を公開しているか、サプライヤーにもその方針を適用しているか、アニマルウェルフェアに関する実績や目標を公開しているか。さらに、S&P Globalは評価項目の中で、ケージフリー卵や母豚の妊娠ストールを使用しないというコミットメントまで具体例として挙げています。
アニマルウェルフェアを直接評価しているのは、Dow Jonesという株価指数そのものではなく、S&P GlobalのCorporate Sustainability Assessment(CSA)です。CSAは、企業をサステナビリティの観点から毎年評価する仕組みで、62の業種別質問票が用意されています。企業ごとに平均約1,000のデータポイントが評価され、最終的に0~100のCSA Scoreが算出されます。
このCSA Scoreが、Dow Jones Best-in-Class Indicesなどの構成銘柄選定にも利用されます。
企業の取り組み・情報開示
↓
S&P Global CSAで評価
↓
CSA Score
↓
Dow Jones Best-in-Class Indicesなどの銘柄選定にも利用
という関係です。
ただし、Dow Jones Best-in-Class Indicesは、すべての企業を対象とするものではありません。指数ごとに時価総額などの適格条件があるため、Dow Jonesの指数への採用という意味では、主として一定規模以上の上場企業が関係します。簡単に言えば上場している大企業です。
とはいえ、CSA自体の対象はそれより広く、2026年には世界12,000社以上が評価対象となっています。
アニマルウェルフェアに関する質問が設定されている代表的な食品関連業種には、次の3つがあります。
2026年CSAでは、アニマルウェルフェアに関係する質問は「Sustainable Raw Materials(持続可能な原材料)」という評価領域に含まれています。この評価領域がCSA総合点に占めるウェイトは以下のとおりです。
| 業種 | Sustainable Raw Materialsのウェイト | 評価項目の内訳 | AW関連 |
|---|---|---|---|
| FOA:食品メーカー(Food Products) | CSA総合点の5% | Sustainable Agriculture Commitment(持続可能な農業へのコミットメント) | - |
| Certifications of Agricultural Crops(農産物の認証) | - | ||
| Animal Welfare Policy(アニマルウェルフェア方針) | 5つの自由を含むアニマルウェルフェア方針 | ||
| Animal Welfare Disclosure(アニマルウェルフェア情報開示) | 母豚の妊娠ストールを使用しないというコミットメント、ケージフリー卵のみを生産するというコミットメントが具体例として明記 | ||
| Certifications of Animal Products(畜産物等の認証) | アニマルウェルフェア基準による認証を受けた生産・調達の割合(水産を含む) | ||
| FDR:食品・生活必需品小売(Food & Staples Retailing) | CSA総合点の5% | Sustainable Agriculture Commitment(持続可能な農業へのコミットメント) | - |
| Certifications of Agricultural Crops(農産物の認証) | - | ||
| Certifications of Animal Products(畜産物等の認証) | アニマルウェルフェア基準による認証を受けた生産・調達の割合(水産を含む) | ||
| Animal Welfare Policy(アニマルウェルフェア方針) | 5つの自由を含むアニマルウェルフェア方針 | ||
| Animal Welfare Disclosure(アニマルウェルフェア情報開示) | 母豚の妊娠ストールを使用しないというコミットメント、ケージフリー卵のみを生産するというコミットメントが具体例として明記 | ||
| Share of Organic Products(オーガニック商品の割合) | - | ||
| REX:外食・レジャー(Restaurants & Leisure Facilities) | CSA総合点の2% | Certifications of Animal Products(畜産物等の認証) | アニマルウェルフェア基準による認証を受けた生産・調達の割合(水産を含む) |
| Animal Welfare Policy(アニマルウェルフェア方針) | 5つの自由を含むアニマルウェルフェア方針 | ||
| Animal Welfare Disclosure(アニマルウェルフェア情報開示) | 母豚の妊娠ストールを使用しないというコミットメント、ケージフリー卵のみを生産するというコミットメントが具体例として明記 |
このように、2026年CSAでは、
という構成になっています。
ただし、「5問中3問だから5%×3/5=3%」というような計算はできません。S&P Globalは各質問の個別ウェイトを一般公開していないため、AWがCSA総合点の何%を占めるかまでは特定できません。
一方、REXについては、総合点の2%を占める「Sustainable Raw Materials」を構成する質問がすべてAW関連であるため、この評価領域全体がアニマルウェルフェアに関する質問で構成されていると説明できます。
食品メーカーと食品小売では総合点の5%を占める評価領域の中に複数のAW質問があり、外食では総合点2%の評価領域がすべてAW関連質問で構成されていることは確認できます。
外食・レジャー業では「Sustainable Raw Materials」の質問がすべてアニマルウェルフェアに直接関係しています。これは、外食企業にとってアニマルウェルフェアが独立した具体的な企業評価項目になっていることを示しています。ただし、3問の配点が均等であるとは限りません。S&P Globalが一般公開している資料ではSustainable Raw Materials全体が2%であることは確認できますが、3問それぞれの詳細な配点までは公開されていません。
S&P Globalは企業に、自社の事業やサプライヤーに適用されるアニマルウェルフェア方針を持ち、それを公開しているかを尋ねています。さらに、その方針にはアニマルウェルフェアの5つの自由が含まれるかを確認します。
とくに「正常な行動を発現する自由」については、S&P Globalは、“sufficient space, proper facilities十分なスペースや適切な設備を提供すること”などを必要な要素として示しています。
この質問は公開情報を必要とする「Public」の質問です。企業内部に方針が存在するだけではなく、一般に確認できる情報として公開されていることが求められます。
2つ目は、Animal Welfare Disclosureです。
ここでは、自社の事業やサプライヤーについて、アニマルウェルフェアに関するデータや目標を報告しているかが評価されます。
抗生物質:抗生物質の使用状況を開示し、予防目的での日常的な抗生物質使用を減らすことを約束しているか、またはサプライヤーに同様の対応を求めているか。
遺伝子組換え・クローン動物:遺伝子組換え動物やクローン動物を使用しないというコミットメントを公開しているか、またはサプライヤーに求めているか。
成長促進物質:ホルモンなどの成長促進物質を使用しないというコミットメントを公開しているか、またはサプライヤーに求めているか。
監査:自社の動物生産施設について、外部または内部監査を少なくとも3年に1回実施していることを公開しているか、またはサプライヤーに同様の開示を求めているか。
そして、アニマルウェルフェアに関するデータやコミットメントも評価されます。
S&P Globaは“a commitment not to use gestation stalls or a pledge to only produce cage-free eggs.”を挙げており、つまり、母豚の妊娠ストールを使用しないというコミットメント、ケージフリー卵のみを生産するというコミットメントが、アニマルウェルフェアに関する情報開示の具体例として明記されています。
3つ目は、Certifications of Animal Productsです。
こちらは方針や将来目標だけでなく、企業が実際に生産・調達している畜産物について評価します。S&P Globalはこの質問の目的を、アニマルウェルフェア基準による認証を受けた生産・調達の割合を評価することだと説明しています。対象には、
などがあります。企業は、対象となる畜産物の量、認証制度、認証された商品の割合などを回答する必要があります。
家禽についてS&P Globalが挙げている認証・基準には、Global Animal Partnership(G.A.P.)、Certified Humane、Animal Welfare Approved、RSPCA Assured、United Egg Producers、European Chicken Commitment standards、Label Rouge、Red Tractorなどがあります。
豚についても、Global Animal Partnership、Certified Humane、Animal Welfare Approvedなどが例示されています。
さらに、この質問では公開されている情報に追加の評価が与えられることも明記されています。つまり、アニマルウェルフェアについて「方針を持っているか」だけではなく、実際にどの程度の畜産物を一定の基準で調達しているのかも評価されています。
CSAでは、企業が何をしているかだけでなく、それを公開しているかも重要になります。特にAnimal Welfare PolicyとAnimal Welfare Disclosureは、公開情報を必要とする質問です。S&P GlobalはCSA Scoreについて、情報開示がない質問は0点になると説明しています。
例えば、一部の商品ですでに平飼い卵を使用していても、その事実や割合を公表していなければ、公開情報を必要とする評価では確認できません。同様に、ケージフリーへの移行や妊娠ストール廃止を社内で検討していることと、具体的な目標として公表していることは、情報開示の面では異なります。
一方で、何かを公表すれば自動的に満点になるわけではありません。方針、具体的な目標、監査、抗生物質等への対応、認証された畜産物の割合など、複数の内容が評価されています。
日本でも、食品メーカー、小売、外食の大手企業がCSAの評価を受けています。
例えば、これまでにS&P Globalの公開情報でCSAへの回答や評価が確認できる企業には、食品関連では明治ホールディングス、味の素、プリマハム、スターゼンなど、小売ではセブン&アイ・ホールディングスなど、外食ではすかいらーくホールディングス、吉野家ホールディングス、ロイヤルホールディングス、日本マクドナルドホールディングス、FOOD & LIFE COMPANIESなどがあります。
現在CSAに回答評価がない企業でも、今後の企業規模や評価対象の変更などによって対象となる可能性があります。日本の大手食品メーカー、食品小売、外食チェーンにとっても、アニマルウェルフェアは国際的な企業評価と無関係なテーマではなくなっています。
S&P Globalはその理由について、「アニマルウェルフェアを改善する企業は、世界市場で競争優位を獲得または維持する可能性がある」としています。
“likely to win or retain a competitive advantage in the global marketplace”
そして実際の質問では、
アニマルウェルフェア方針を公開しているか。
サプライヤーにも適用しているか。
具体的な目標や実績を公開しているか。
生産施設を監査しているか。
ケージフリーについてコミットメントを公表しているか。
妊娠ストールを使用しないというコミットメントを公表しているか。
認証された畜産物が生産・調達量の何%なのか。
といった内容が評価されています。日本国内でも、機関投資家は食品企業に対してこれらの項目について具体的に問われていることがわかっています。
アニマルウェルフェアは、動物保護団体だけが企業に求めているテーマではありません。世界の大手企業を比較するサステナビリティ評価の中でも、具体的に測定される項目なのです。
S&P Global, Corporate Sustainability Assessment (CSA)
S&P Global, 2026 CSA Weights by Industry
S&P Global, CSA Methodology Handbook – Food & Staples Retailing
S&P Global, CSA Methodology Handbook – Food Products
S&P Global, CSA Methodology Handbook – Restaurants & Leisure Facilities
S&P Global, 2026 CSA Sustainable Raw Materials – Certifications of Animal Products
S&P Global, Dow Jones Best-in-Class Indices Annual Review