2026年、欧州の環境政策シンクタンクIEEP(欧州環境政策研究所)は、採卵鶏のケージ飼育廃止に向けた報告書を公表しました。報告書は、ケージフリー化を実現するためには、明確な政策目標と農業補助金による移行支援が重要であると指摘しています。
EUでは2012年に従来型バタリーケージが禁止され、2025年には採卵鶏の約65%がケージフリーで飼育されています。しかし、約1億4,000万羽は依然としてケージで飼育されています。
2019年、約140万人の署名を集めた欧州市民イニシアチブ「End the Cage Age(ケージ時代を終わらせよう)」が成立。2021年6月には欧州議会が賛成558、反対37の圧倒的多数でケージ飼育廃止を支持する決議を採択し、欧州委員会も2023年末までにケージ飼育を段階的に廃止・禁止する法案を提出すると約束しました。
しかし、農業団体からの反対や生産コスト、輸入品との競争への懸念などを背景に、法案提出は遅延しました。欧州委員会は2026年末までに採卵鶏などの飼育規制改正案を提出する方針を新たに示していますが、2026年11月現在、EU全体でのケージ飼育禁止はまだ法制化されていません。
今回のIEEP報告書は、こうした状況を踏まえ、ケージ飼育廃止を実現するための具体的な移行政策を提言したものです。
ケージフリー化には鶏舎の改修や新設などの設備投資が必要であり、生産者の資金負担や将来の経営の見通しが課題となっています。
IEEPは、ケージフリー化を進めるため、以下の政策を提言しています。
特に重要なのは、政府が将来の方向性を明確に示すことです。IEEPは、政策の不確実性が生産者の投資判断を妨げ、将来の転換に適さない設備への投資につながる可能性を指摘しています。
これらはIEEPによる政策提言であり、EUで新たに決定された制度ではありません。
日本では、採卵鶏の止まり木、巣箱、砂浴び場などの設置が、農林水産省の飼養管理指針で「将来的な実施が推奨される事項」とされています。しかし、具体的な実施期限も普及目標も示されていません。
その一方で、鶏舎や飼育設備の更新は今も行われています。政府が将来の方針を示さないままでは、新たに導入されたケージ設備が長期間使用され、ケージフリー化がさらに遅れるおそれがあります。
アニマルライツセンターは、日本政府に以下の政策を求めます。
ケージ飼育の廃止を長期的な政策目標として明確に位置づけ、2030年、2035年などの中間目標と最終的な廃止期限を設定するべきです。目標には、ケージフリー飼育羽数の割合や、新設・更新される鶏舎の飼育方式を含め、毎年進捗を公表する必要があります。
既存設備の一斉撤去を求めるだけではなく、まず鶏舎の新設や大規模改修時に、止まり木、巣箱、砂浴び場などを備えたケージフリー方式への転換を促進するべきです。
設備の更新時期を活用することで、生産者の追加負担を抑えながら、長期的な移行を進めることができます。
畜産クラスター事業など、鶏舎や設備への公的支援について、ケージフリーへの転換を優先的な補助対象とするべきです。
例えば、ケージフリー鶏舎の新設・改修、止まり木・巣箱・砂浴び設備の導入、飼養管理技術の習得などを重点的に支援することが考えられます。
同時に、従来型ケージ設備の新設・更新に公的資金を投入し続けることが適切なのか、補助対象や要件を見直す必要があります。
ケージフリー化には設備だけでなく、飼養管理技術の転換も必要です。
政府は、生産者に対して設備投資への補助、低利融資、技術研修、専門家による指導を提供し、移行後の生産性や経営を継続的に支援する仕組みを整えるべきです。
また、ケージフリー卵を調達する食品企業と生産者の長期契約を促進し、投資回収の見通しを立てやすくすることも重要です。
日本の採卵鶏の98.5%は、今もケージの中で暮らしています。歩く、羽ばたく、砂浴びをする、巣で卵を産む。こうした鶏にとって基本的な行動がすべて制限されています。
ケージフリー化を生産者の自主的な努力だけに委ねるのではなく、政府が目標と期限を示し、移行を後押しする必要があります。
公的資金を、動物たちの行動を制限する設備の維持ではなく、よりよい飼育環境への転換に使う。そのための具体的な政策を、今こそ始めるべきです。
Godfroy, A. & Hart, K. (2026). Phasing out cages in the laying hen sector: The role of the post-2027 CAP. Institute for European Environmental Policy (IEEP).
https://ieep.eu/wp-content/uploads/2026/10/Phasing-out-cages-for-laying-hens-IEEP-2026.pdf
※IEEPの提言と、アニマルライツセンターによる日本政府への政策要求は区別して記載しています。日本に関する具体的な年限や制度設計は、IEEPが日本に提言したものではありません。