2025年6月、オランダ政府は、2040年までに”動物にやさしい畜産”に完全移行するための協定にサインし、その計画を発表した。
結局は殺すのだから動物にやさしい畜産なんて無いんだと言う人もいるかも知れない。しかし、動物に過酷な畜産をずっと発展させてきた世界が、それを方向転換したということなのだ。特にオランダは畜産分野でも強い存在感のある国だ。食鳥処理の大手であるMeynやMarelがオランダの企業であり、畜産技術(悪い意味でも…)の発信地の一つでもある。そのオランダ政府が”動物にやさしい”ことを第一に掲げ、公式に目指すというのだ。
「動物にやさしい畜産に関する協定」は、あらゆるステークホルダーが加わってサインされた。政府と、市場及びサプライチェーン当事者(オランダ農業園芸協会、オランダ農業青年連絡会、養豚農家組合、LTO養鶏部門、卵とひなの孵化のための中央組合、オランダ卵取引及び製品製造業者協会、酪農家団体DDB、C.B.L. 中央食品貿易局、食肉産業中央組織、オランダ食品産業連盟)、社会的当事者(オランダ動物保護協会、Caring Farmers Foundation)という13者が署名した。
この協定は、政府だけでも、農家だけでも、動物保護団体だけでも、現状を変えることはできないという共通認識に基づいている。
この計画に伴い、2年後から導入が始まり段階的に引き上げられていく。法的規制も次々と変わっていくような計画のようだ。
注目する項目を挙げていきたい。(詳細は原文へ)
※オランダ語に自信がないので当記事を参考にする際はご自身で原文をご覧ください
(※オランダはすでに妊娠ストール禁止済)
ベースとなるのは下記の”動物にやさしい畜産:6つの原則”だ。5つの自由を発展させ動物の感受性と動物自身の価値を尊重することと、ポジティブな感情状態を足したようなものだ。5つの自由であっても5つの領域であっても、5つがすべて満たされて、動物はポジティブで良い状態の精神状態になるということを示しているだろう。日本政府や企業も、5つの自由を推進すると名言したなら、すべてが満たされている飼育を目指さなくてはならない。
どれも日本から見ると現時点でどこも果たせていないようなことまで現実的であるとして規定されている。しかし、どれも世界で今始まっており、世界を追いかけ始めた企業や話し合いをしている生産者には要望している内容でもある。養豚企業ではエンリッチメントが始まっているし、分娩ストールフリーへの取り組みも始まっている。
アニマルウェルフェアの利点ところは、やり方が分かっていることだ。もちろん日々研究は進み、過去の過ちも訂正されるなどしている最中だが、どうすれば改善するか、わかっている。
もう一つの利点は測れることだ。鶏や豚の畜産が1頭1頭の違いを考慮するまでの畜産に向上することは相当数が減らない限り実現しないだろうが、全体の底上げは数値として測ることが可能だ。測れるということは比較もしやすい。
現時点で日本は真逆の、オブラートに包んだウォッシュ的表現を好む。客観的に判断できる数値や定量的に判断できる規定が必要だというのは至極普通のことなのだが、これをすると実情がわかりやすくなる。実情があまりにも低い日本の畜産はわかりやすい指標を避けたいのだ。正しいことではないが気持ちは理解できる。
しかし、世界の流れの本流を無視するわけにはいかない。アニマルウェルフェアはますます畜産の一番の課題となり、食品ビジネスの課題として重要性を増しつつある。日本だけがずっと50年前の畜産を引きずっていていいはずもないし、利点もない。2040年、オランダに追いつくくらいのことを、日本政府や企業には望んでいる。