日本の屠畜場では、係留所で待機している豚や牛が水を飲ませてもらえないという課題がいまだに残っています。夏は北海道であっても35度を上回る日が連日続くような時代にあって、数時間〜24時間近く水を飲ませずそのまま屠畜するというのはあまりにも酷ではないでしょうか。日本も加盟する世界動物保健機関の基準にも違反し、動物の衰弱要因ともなることから動物愛護法の罰則に当たる可能性もあるのです。厚生労働省が32年前に策定したガイドラインにも違反しています。
厚生労働省のと畜場の施設及び設備に関するガイドラインには明確に規定があります。通知などで行政は新築改築のときには設置をするようにと述べていますが、ガイドラインにそのような猶予規定があるわけではありません。
2 生体取扱施設
生体取扱施設にはけい留所、生体検査所及び隔離所を設け、以下の要件を具備すること。
(2)けい留所
③ ・・・また、獣畜の飲用水設備が設定されていること。
この問題の解決のため、2023年に続き、2025~2026年にかけて、屠畜場の係留所に豚と牛たちが常時飲水ができ、最期のときに喉の渇きに苦しんでいないかどうか、調査を行った。
豚の屠畜場の係留所での飲水設備設置率は、2010〜2011年には13.6%に過ぎませんでしたが、2023年には40.8%、2025〜2026年には52.8%にまで上昇し、設置予定を含めると64.8%となった。
牛の屠畜場の係留所での飲水設備設置率は、2010〜2011年に49.6%、2023年に69.3%でしたが、2025〜2026年調査では78.1%に上昇し、設置予定を含めると82.5%に達した。
特に豚では、設置率が50%を超えたことは重要な転換点である。長年「飲水設備がないことが一般的」であった状況から、少なくとも半数以上の施設で飲水設備が整備される段階に移行したことを意味する。
幸い、飲水設備の設置状況は、2年間で改善が見られ、その改善スピードも上がる傾向であった。また、今後設置予定と答えた屠畜場も増えた。その理由としてあげられるのが、社会のアニマルウェルフェア意識の向上とともに、夏の異常気象とも言える酷暑が挙げられる。
近年設置または設置予定の屠畜場からは、アニマルウェルフェアへの考え方や、動物が暑さで衰弱または死亡したケースがあるといった話も聞かれ、改善にあたっての強い思いがあったを感じることができた。
また、現在設置のない屠畜場でも、「経営的に厳しい状況で、今後飲水設備を設置します、と今言うことはできません。ただせっかく今日お電話をいただいたので、今後検討議題にしたいと思います。お互いに動物のために前向きに話し合う姿勢をとりましょう。」と前向きな回答をしてくれる屠畜場もあった。多くの場合、経営上の苦しさを理由にするケースが多く、「そういったものに助成金がでるといいんですけど・・・」といった要望が聞かれた。
この状況は依然として国際基準と比較すると十分とは言えない。欧州連合(EU)では、動物福祉に関する規則(Regulation (EC) No 1099/2009)において、屠畜場の待機施設ではすべての動物が常に清潔な水にアクセスできるよう設備を設計・維持することが求められている。つまり飲水設備は任意ではなく、施設の設計要件として制度化されている。
さらに、世界動物保健機関(WOAH/旧OIE)の「陸生動物衛生規約」においても、屠畜場における家畜の管理では長時間の給水不足を避けることが基本的な動物福祉要件として示されている。これらの国際基準では、飲水は基本的な福祉要件として扱われており、設備の設置は例外ではなく標準とされている。
これと比較すると、日本では依然として牛で約2割、豚では約半数の屠畜場で飲水設備が設置されていない可能性がある。改善は進んでいるものの、制度としての最低基準が存在しないため、施設ごとの対応に委ねられているのが現状である。
さらには、この現代ビジネスの記事には「別の牛・豚の処理場(1日約1000頭処理)では、営繕担当者が47ヵ所に後付けした結果、部品代金の約55万円で済んだという。工事内容によって大きな違いが出るとは言え、修繕に厚労省が強調するような高額な費用は「かかりません」と高橋スターゼン常務は言った。」とあり、工夫次第で費用を工面することは十分に可能だろう。
一方で、最も懸念するのは、回答しない、または明確に回答を拒否した屠畜場の存在だ。中には「うちは生かすための施設じゃありませんよ、殺す施設ですよ」と殺すのだから水なんていらないのだと主張する屠畜場もあり、ガイドラインや動物愛護法がいかに周知されていないかが露呈した。なお、民間企業の場合、回答は善意でくださっているものだが、公社(国や地方公共団体が出資して設立された法人で、主に公共性の高い事業を行う組織)までもが、動物の扱いおよび食の安全や衛生にも関連する情報の開示を拒否するのは公正ではないと感じる。
2010~2011年の調査をおこなった奥野氏は「アニマルウェルフェアの五つの自由を引き合いに出すまでもなく、命あるものにとって、命ある限りにおいて、自由に飲水できる状況にあることは必須のことである。今回の調査において、その状況が改善しつつあるとはいえ、未だ未設置の処理施設があることは残念である。」と述べる。コメント全文はこちらから。
以上のことから、以下の政策的対応が求められる。
今回の調査結果は、日本の屠畜場におけるアニマルウェルフェアが着実に改善していることを示す一方で、屠畜場に判断が任された状態では対応が遅延し続けることが明確になり、制度的な強化が求められる結果となった。
すべての動物が屠畜前に最低限の福祉を保障されるよう、国際基準に沿った制度整備を進めなくてはならない。
調査期間:2025年9月~2026年2月
調査方法:アンケート調査票郵送および電話聞き取りによる
調査主体:認定NPO法人アニマルライツセンター
豚の飲水設備の設置率が50%を超えたことは重要な分岐点と考える。また2023年から15件設置屠畜場が増え、この2年で12%の改善が見られた。2023年での変化から加速しており、当時の変化率では2057年まで解決までかかる計算であったが、今回の調査時の変化率が継続すると考えるならば、2034年まで飲水設備がない屠畜場が存在するという計算になる。だが、制度的な強制力がないことにより、意識の低い(たとえばこの時代にあって回答を拒否したり一切の話を聞くことを拒否した屠畜場)では、設置が当面進まない可能性もある。
また、回答しなかった屠畜場数は9件であり、市民への情報開示の姿勢にも良い変化がみられた。
| 豚 | 2026 | 2023 | ||
| 件数 | 割合 | 件数 | 割合 | |
| 飲水設備あり | 66 | 52.80% | 51 | 40.80% |
| 設置予定 | 15 | 12.00% | 3 | 2.40% |
| 飲水設備なし | 35 | 28.00% | 41 | 32.80% |
| 回答なし | 9 | 7.20% | 30 | 24.00% |
| 合計屠畜場数 | 125 | 125 | ||
| 予定を含めた設置率 | 81 | 64.80% | ||
| 早来食肉流通センター | 設置予定 | 5カ年計画 |
| 北見地区総合食肉流通センター | 設置予定 | 5カ年計画 |
| 十勝総合食肉流通センター | 設置予定 | 5カ年計画 |
| 株式会社北海道畜産公社函館工場 | 設置予定 | 5カ年計画 |
| 株式会社北海道畜産公社上川工場 | 設置予定 | 5カ年計画 |
| 三沢市食肉処理センター | 設置予定 | 2026年度 |
| (株)茨城県中央食肉公社 | 設置予定 | 2026年夏 |
| (株)群馬県食肉卸売市場 | 設置予定 | 2026年度 |
| さいたま食肉市場(株) | 設置予定 | 2028年度 |
| 神戸市立食肉センター | 設置予定 | 設備を調査中 |
| 広島市屠畜場 | 設置予定 | 導入途中2026年度中 |
| JAえひめアイパックス(株)屠畜場 | 設置予定 | 2026年度 |
| 九州協同食肉株式会社 | 設置予定 | 2027~2028年 |
| JAごとう食肉センター | 設置予定 | 2027年以降 |
| 都城ウエルネスミート(株)(都城市食肉センター) | 設置予定 | 2026年3月までに設置 |
| 久慈広域食肉処理場 | 飲水設備なし | |
| 仙台市ミートプラント | 飲水設備なし | |
| 米沢市営屠畜場 | 飲水設備なし | |
| 会津食肉センター(会津若松食肉事業協同組合) | 飲水設備なし | |
| 竜ケ崎食肉センター竜ケ崎食肉事業協同組合 | 飲水設備なし | |
| 茨城協同食肉株式会社 | 飲水設備なし | |
| 茨城協同食肉㈱下妻事業所 | 飲水設備なし | |
| 県北食肉センター | 飲水設備なし | |
| 協業組合本庄食肉センター | 飲水設備なし | |
| 越谷食肉センター | 飲水設備なし | |
| 横芝光町営東陽食肉センター | 飲水設備なし | |
| 東庄町食肉センター | 飲水設備なし | |
| 東京都立芝浦屠場 | 飲水設備なし | |
| 長岡食肉センター | 飲水設備なし | |
| 新潟市食肉センター | 飲水設備なし | |
| ㈱富山食肉総合センター | 飲水設備なし | |
| 石川県金沢食肉流通センター | 飲水設備なし | |
| (株)山梨食肉流通センター | 飲水設備なし | |
| 株式会社北信食肉センター | 飲水設備なし | |
| 浜松市食肉地方卸売市場 | 飲水設備なし | |
| 半田食肉センター | 飲水設備なし | |
| 名古屋市中央卸売市場南部市場 | 飲水設備なし | |
| 東三河食肉流通センター | 飲水設備なし | |
| 豊田食肉センター | 飲水設備なし | |
| 大阪市食肉処理場 | 飲水設備なし | |
| 新宮食肉センター | 飲水設備なし | |
| 奈良県食肉センター | 飲水設備なし | |
| 眉山食品(株)鳴門食肉センター | 飲水設備なし | |
| 香川県農業協同組合東讃畜産振興センター大川畜産センター | 飲水設備なし | |
| 北九州市立食肉センター | 飲水設備なし | |
| (株)大分県畜産公社 | 飲水設備なし | |
| 株式会社JA食肉かごしま鹿屋工場 | 飲水設備なし | |
| 志布志畜産株式会社 | 飲水設備なし | |
| 株式会社沖縄県食肉センター | 飲水設備なし | |
| 久米島屠畜場 | 飲水設備なし |
| 株式会社北海道チクレンミート北見食肉センター | 回答なし |
| 宮城県食肉流通センター | 回答なし |
| 北鹿食肉流通センター | 回答なし |
| (株)山形県食肉公社 | 回答なし |
| 取手食肉センター | 回答なし |
| 高崎食肉センター | 回答なし |
| 和光ミートセンター | 回答なし |
| (株)長野県食肉公社松本支社 | 回答なし |
| 佐賀県高性能食肉センターKAKEHASHI | 回答なし |
牛の屠畜場で飲水設備がない屠畜場は、残り21.93%となった。2年間で8.77%改善した。また、回答しなかった屠畜場数は7件であり、市民への情報開示の姿勢にも良い変化がみられた。
| 牛 | 2026 | 2023 | ||
| 件数 | 割合 | 件数 | 割合 | |
| 飲水設備あり | 89 | 78.07% | 79 | 69.30% |
| 設置予定 | 5 | 4.39% | 1 | 0.88% |
| 飲水設備なし | 13 | 11.40% | 13 | 11.40% |
| 回答なし | 7 | 6.14% | 21 | 18.42% |
| 合計屠畜場数 | 114 | 114 | ||
| 予定を含めた設置率 | 94 | 82.46% | ||
| 名称 | 牛結果 | 予定時期 |
| 株式会社北海道畜産公社残り1施設 | 設置予定 | 5カ年計画 |
| 川口食肉荷受株式会社 | 設置予定 | 建て替え予定 |
| 高松市食肉センター | 設置予定 | |
| 四万十市営食肉センター | 設置予定 | |
| 九州協同食肉株式会社 | 設置予定 | 令和9年、10年 |
| 名北ミート株式会社函館工場 | 飲水設備なし |
| 横芝光町営東陽食肉センター | 飲水設備なし |
| 長岡食肉センター | 飲水設備なし |
| 新潟市食肉センター | 飲水設備なし |
| 浜松市食肉地方卸売市場 | 飲水設備なし |
| 半田食肉センター | 飲水設備なし |
| 大阪市食肉処理場 | 飲水設備なし |
| 淡路食肉センター | 飲水設備なし |
| 福山市食肉センター | 飲水設備なし |
| 北九州市立食肉センター | 飲水設備なし |
| 株式会社JA食肉かごしま鹿屋工場 | 飲水設備なし |
| 志布志畜産株式会社 | 飲水設備なし |
| 久米島屠畜場 | 飲水設備なし |
| 株式会社北海道チクレンミート北見食肉センター | 回答なし |
| 北鹿食肉流通センター | 回答なし |
| (株)山形県食肉公社 | 回答なし |
| 高崎食肉センター | 回答なし |
| 和光ミートセンター | 回答なし |
| (株)長野県食肉公社松本支社 | 回答なし |
| 佐賀県高性能食肉センターKAKEHASHI | 回答なし |