アニマルライツセンターが2026年から公開している「FARMWISE Impact 2026」(以下FARMWISE)は、日本の主要企業を対象に、家畜・養殖魚の福祉(アニマルウェルフェア)に関する取り組みが、実際の福祉改善にどれだけつながる「影響力(インパクト)」を持っているかを評価する、NGO主導の企業評価です。
国際的な評価基準は主に欧州をベースに作られていますが、日本では技術が未発達だったり、扱う魚種が限られていたりといった文化的な違いがあります。そのためFARMWISEは、日本の実情に合わせた評価項目を設定しています。FARMWISEを参考にすることで、国内企業は「自社の手が届く範囲」で、現実的な目標を立てやすくなると考えられます。
しかし、いつまでも日本国内だけで「どんぐりの背比べ」をしていては、国際的な競争力は得られません。成長を目指す企業であれば、最終的には国際的な評価基準も参考にする必要があるでしょう。アニマルウェルフェアに関する国際的な基準としてよく知られているのが「The Business Benchmark on Farm Animal Welfare」(以下BBFAW)です。
そこでここでは、FARMWISEとBBFAWを比較することで、「国際的な標準から見たとき、FARMWISEの評価結果を各企業や投資家はどう受け止めるべきか」を解説します。
参照する資料は、2026年版のFARMWISEの評価結果の他に①FARMWISEの調査票と、BBFAWの2024年の②評価報告書、および③方法論に関するレポートです(BBFAWの2025年レポートは2026年5月以降に公開予定です)。
2026年4月現在、FARMWISEの評価対象は、日本市場で畜産物・水産物・卵・代替タンパク質などを扱う、あるいはその流通に関わる企業107社です(今後、対象企業は見直され、増えていく予定です)。
一方、2024年のBBFAWでは、世界の企業150社(食品小売・卸、食品メーカー、レストラン・バー)が対象となっています。日本企業では、イオン・グループ、マルハニチロ、明治ホールディングス、日本ハム、セブン&アイ・ホールディングスの5社が評価対象です(③方法論に関するレポート, p. 23-25)。
これら5社を以下では「主要五社」と呼びます。主要五社はFARMWISEでも評価対象になっているため、両者の評価結果を直接比較することができます。
FARMWISEでは、主要五社の合計得点は次の通りです。
| 企業名 | FARMWISE 合計得点 |
|---|---|
| 日本ハム | 25 |
| イオン | 18 |
| セブン&アイ・ホールディングス | 18 |
| マルハニチロ | 13 |
| 明治ホールディングス | 9 |
一方、2024年時点のBBFAWの評価によると、これら5社はいずれも「ティア6」に位置しています。ティア6は、150社中、下から約11%の企業が入る最下位の層です(②評価報告書, p. 17)。また、「インパクト・レイティング」(インパクトに関する評価項目に限定したスコア)でも、最低ランクの「F」評価となっています。
この評価の差は、両者の評価方法の違いによるものです。両者の評価項目は、別途用意したスプレッドシート「BBFAW vs FARMWISE 比較表」で比較しています。
表を見ると、明らかにBBFAW側の赤色が目立ちます。つまり、BBFAWでは評価されているが、FARMWISEでは評価されていない項目が多いということです。たとえば、
などは、FARMWISEでは評価されていません。これは、こうした項目に取り組めている日本企業が現時点ではほとんど存在しないため、「こうした項目で評価しても効果がない」と判断されたからです。
数は少ないですが、FARMWISE側にも赤く塗られた項目、つまり「FARMWISEでは評価されているが、BBFAWでは評価されていない項目」もあります。たとえば、
これらは、いわば「段階的な取り組みも評価対象とする項目」です。たとえば、ケージフリーポリシーを制定していなくても、自社のケージフリー卵の使用率を把握していなくても、「ケージフリー鶏卵の取り扱いがある」だけで点数が入る仕組みになっています。これにより、「少しでもアニマルウェルフェアに取り組んでいる企業」と「全く関心を示していない企業」との間に差をつけるのが狙いです。
しかし、世界基準で見た場合には、評価にはほとんど反映されません。
また、FARMWISEで評価されているがBBFAWでは評価されていない(あるいは評価内容にズレがある)項目として、養殖魚に関する項目があります。これは、消費される魚種に文化的な違いがあるためです。
もう一つは「動物福祉ステークホルダーとのエンゲージメントを行っていますか?」という質問で、全体に占める割合は低いものの、FARMWISEでは国内のNGOとのコミュニケーションの有無も評価の観点に含まれています。
ただしQ13「その他のAWに関連する取り組みはありますか?」も赤く表示されてはいるものの、この項目では分娩ストールやエンリッチメント等その他の取り組みも評価されるため、BBFAWの一部項目が部分的に反映されているとも言えるかもしれない。
以上で見てきたように、FARMWISEの評価基準を満たすことができればBBFAWでも一定の点数を取ることが可能になるように設計されていますが、FARMWISEで優れた成績を得たとしても、BBFAWで高い評価を得られるとは限らないことに注意が必要です。
BBFAWの評価項目(計51項目)は、大きく5つの領域に分かれ、各領域に次の割合で点数が配分されています。
| 領域 | 配分 |
|---|---|
| 農場動物福祉ポリシーへのコミットメント | 15% |
| 農場動物福祉のガバナンスと管理 | 14% |
| 家畜福祉目標 | 7% |
| 家畜福祉実績と影響 | 55% |
| 動物由来食品への依存の低減 | 9% |
FARMWISEの評価項目(計16項目)は4つの領域に分かれ、それぞれ次の割合で点数が配分されています。
| 領域 | 満点 | 割合 |
|---|---|---|
| 畜産物・水産物のアニマルウェルフェア全体方針 | 11 | 14% |
| 閉鎖的監禁・集約的システムからくる動物性素材を切り替えるための調達方針および実践 | 59 | 75% |
| 動物性素材からの転換に関する方針と実践 | 8 | 10% |
| ガバナンス | 1 | 1% |
(ただしFARMWISEの「ガバナンス」領域は、NGOとのエンゲージメントに関する質問1件のみで構成されています。一方、BBFAWの「農場動物福祉のガバナンスと管理」にはNGOとのエンゲージメントに関する項目はなく、社内の責任体制や社内外のコミュニケーションの仕組みなどが中心です。)
どちらのベンチマークでも重視されているのは、「具体的な調達方針が定められ、具体的な実績があること」です。その次に、「社内全体での目標・コミットメントが定められていること」が重要視されています。
BBFAWのような国際的なアニマルウェルフェア基準に照らしても、「アニマルウェルフェアに関して合理的な取り組みをしている」と認められるには、そして国内企業の中でこの分野で一歩リードするには、どうすればよいでしょうか?
上記スプレッドシートの「推奨項目」というシートに国内企業への推奨項目を「すぐに実現できそうなこと」「中期的に実現できそうなこと」「中長期的に実現できそうなこと」に分けて整理しました。以下にも載せておきます:
| 時期 | 推奨項目 | 関連評価項目 (BBFAW) | 備考 |
| すぐに実現できること | フォアグラの取り扱いの廃止 | Q11 | フォアグラまたはフォアグラ生産用に飼育された鳥の肉を生産・販売しないコミットメント |
| 各コミットメントの策定 | Q1〜Q12, Q24〜Q29 | 目標には種や地域、製品に関する範囲(scope)や期限が定められている必要がある。 | |
| 長距離輸送の廃止 | Q8, Q48 | ||
| 動物由来食品への依存度の削減 | Q13〜Q15, Q22, Q23, Q29 | ||
| AWに配慮した製品の割合の報告 | Q30〜Q51 | 「畜種別福祉実績」は最もウェイトが大きく、報告なしで0点、1%でもAW配慮製品があれば1点加算 | |
| 社内管理体制の整備 | Q16, Q22 | 上級管理職・担当スタッフのAWポリシーへの責任を明確化 | |
| 社内外ステークホルダーとのコミュニケーション(顧客への教育) | Q21, Q23 | ||
| 中期的に実現できること | 採卵鶏のケージフリーへの移行 | Q30 | |
| 豚の妊娠ストールフリーへの移行 | Q30 | ||
| 屠殺前の意識喪失 | Q36 | ||
| エンリッチメントの導入 | Q5 | ||
| 中長期的に実現できることA14 | 豚の分娩ストールフリーへの移行 | Q37 | |
| ガススタニングでと畜された鶏肉の調達 | Q35 |
以上のように、FARMWISEは「日本企業が今、どこまでできるか」を測るための現実的な基準として機能し、BBFAWは「国際的な水準でどこまで進んでいるか」を測るための基準として機能しています。両者を組み合わせて見ることで、企業は「国内での位置づけ」と「国際的な位置づけ」の両方を把握し、より戦略的なアニマルウェルフェアの取り組みを進めやすくなります。