畜産動物、中でも鶏は一番の災害弱者だ。大雨や台風で毎度、数万羽~の鶏が死亡する。昨年度は大きな台風は少なかったなぁという印象でも、台風10号で54,307 頭羽が死亡*1、その前の7月の大雨で15,326 頭羽が死亡している*2。
多くの場合、畜産業者は保険をかけており、鶏1羽につき成鶏430円/羽、育成鶏180円/羽が保証される。5万羽の採卵鶏が死亡したとなれば、2,150万円が支給される。畜産業者自身に死亡を防がなくてはならないというモチベーションが低いといえる。豚や牛も同様である。
農林水産省は大きな台風などが来る直前に注意喚起を行うようになっているが、この内容はケージ飼育などの工場畜産の中でいる鶏たちは想定されていないようだ。
まず避難について書かれているが、ケージの中に入れられている鶏たち、1鶏舎に数万と詰められている鶏たち、外を見たこともない豚たちを避難させることはないだろう。非常用電源の確保も書かれているが、1週間2週間停電したことだってあるのだ。ウィンドレス鶏舎、ウィンドレス豚舎のような電気がなければ畜舎内の酸素が足りなくなるようなシステムを保つことができるのか甚だ謎である。水害に明らかに弱い三角洲や土手に建つ養鶏場や養豚場を見かけることも少なくないが、なんの予防ができるというのか。
畜産業は、自然災害が起きた時、動物たちを犠牲にすることを前提に成り立っている。
動物たちを工場畜産の中で飼育している間は、動物たちに救いはない。
だが、今できることをとせめてもの改善のために、以下の要望を農林水産省に提出した。
7月に入り、台風や豪雨などが予想される時期となりました。そこで、農林水産省が行う畜産動物の災害時の対策呼びかけの内容について、下記の通りアップデートいただきたくお願いいたします。
主に該当するのは https://www.maff.go.jp/j/saigai/taisaku_gaiyou/tikusan.html の内容です。
課題1:牛を中心としており、より被害数が多い鶏および豚についての対策が不十分である。
「非常用電源確保」について、具体的な例が上がっているのは乳牛のみです。
電気の供給が止まったときにすぐさま命の危険につながるウィンドレスの鶏舎と豚舎、電気システムにより飲水を供給していて人間が手で水を配ることは現実的ではない養鶏など、生乳冷却よりもはるかに深刻です。
課題1に対する要望:
課題2:非常用電源で足りない飼養システムはどうするのか不明。
上記の通り、ウィンドレス畜舎や、餌や水を電源で供給する巨大なシステムなどでは、生命維持に必要な換気と給餌給水を行うだけでも、非常用電源で足りない可能性が高いのではないでしょうか。また、ウィンドレスの畜舎は暗く、これ自体も動物にとって大きなストレスです。2019年の台風15号では99%復旧まで12日間かかっています。電力や交通が1~2週間途絶えることも想定するべきです。
課題2に対する要望:
課題3:施設の損傷・倒壊・浸水の対策が不十分である。
畜舎等の建築等及び利用の特例に関する法律が作られ、より破損のおそれは大きくなっています。そのような中、事前の点検や排水対策程度では対策は不十分です。
倒壊や浸水が起きることを想定し、起きたときの対策を加えてください。
とくに、一部の牛において避難が可能なケースはあると思われますが、集約的畜産で飼育される鶏や豚については他のエリアに避難することは相当な困難があると思われます。また、不毛な環境に置かれている動物は、怯えやすく、パニックに陥りやすく、いざというときのハンドリングはむずかしくなります。
課題3に対する要望:
課題4:災害に脆弱な立地についての注意喚起が不十分である。
アニマルウェルフェアに関する飼養管理指針には、畜舎を「新たに建築し、又は改修する際、施設の場所は、火災及び洪水その他の自 然災害による影響から安全な立地を可能な範囲で選択」「施設の場所は、火災及び洪水その他の自然災害の影響から安全である立地を可能な範囲で選択する。」「火災その他の災害のリスクが最小限とな る材料及び電気設備等を用いる」と書かれています。しかし、実際には、川の三角地帯に立地していたり、津波が想定されている地域に立地していたり、土砂災害の警戒エリアに立地していたり、下手すれば川の土手に立地していることもあります。建て替えの時期がくる鶏舎や豚舎も多いですが、比較的新しい畜舎も危険性の高い立地に変わらず建てられています。
課題4に対する要望:
課題5:その他、予防が不足している
アニマルウェルフェアに関する飼養管理指針の「第6 アニマルウェルフェアの状態確認等 3 緊急時の対応」には、災害対策の推奨事項が書かれており、これは予防的措置であり、災害が起きていない現時点でも行われているべきものです。
豪雨や台風等の風水害に備えるための予防減災情報には下記の点が不足しています。
など。
また、安楽死については別途指針があるものの、動物ごとの具体的な方法は曖昧に記載されています。アニマルウェルフェアを守ることのできる具体的な安楽死方法を農家は守っていないケースも散見されています。確実に、早急な安楽死が可能となるように、機器の整備、導入を含め指導する必要があります。
課題5に対する要望:
*1 https://www.maff.go.jp/j/saigai/attach/pdf/r06_t10go-23.pdf
*2 https://www.maff.go.jp/j/saigai/attach/pdf/r60725_ooame-4.pdf