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起立不能でも弱っていても、屠殺場へ運ぶ 輸送の問題

日本では、牛や豚がどんなに弱っていても、起立不能であっても、トラックに無理やり乗せられ、病気の体には負担である輸送を強いられるという実態があります。しかしそのようなやり方はアニマルウェルフェアの観点からは認められていません。

動物福祉基準が畜産動物の輸送に求めるもの

日本も加盟するOIE(世界動物保健機関)は、OIE陸生動物衛生規約の動物福祉基準、第7.3章 陸路による動物の輸送の中で次のように書いています。

輸送に適した動物だけを積載すること

a) 各々の動物は、獣医あるいは動物取扱者により、輸送に対する適性を査定するための検査を受けること。もし適性に疑いがある場合には、その動物は獣医の診断を受けること。輸送に不適正と判断された動物は、獣医の治療を受けるための運搬を除いて、輸送車に積み上げないこと
b) 輸送には不適合なため、輸送を却下された全ての動物の取扱いと世話に関しては、所有者と代行者によって、思いやりがあり実効性のある取り計らいがなされること
c) 輸送には不適合な動物には以下のものが考えられるが、これらに限定されることはない

i) 病気、怪我、衰弱、身体の障害、疲労のある動物
ii) 助けを借りずに立ち上がることができず、また四肢で体重を支えられない動物
iii) 両目とも見えなくなっている動物
iv) 苦痛を伴わずには動くことができない動物
v) へその緒が治癒していない新生児
vi) 積み下ろしのときに妊娠期間の最後の10%の段階に入る可能性のある子どもを宿した動物
vii) 輸送により、48時間以内に生んだ子どもと離れてしまう母獣
viii) 予想される気象状況のために、福祉状態の悪い体の状態になりそうな動物

このように輸送される動物の条件が細かく記載されているのは、輸送が動物にとって大きなストレスとなるからです。このOIE基準に基づいて作成され農林水産省が推奨しているアニマルウェルフェアの考え方に対応した家畜の輸送に関する指針もまた、「家畜にとって輸送はストレスを伴うものである」として、次のように書いています。

管理者及び飼養者は、輸送前に家畜の健康状態やけがの有無等を確認し、必要に応じて獣医師と相談しながら、輸送が過度な負担になると考えられる家畜については、輸送の対象から外すことが望ましい。輸送が過度な負担となると考えられる家畜には、病気やけが等で非常に弱っている家畜、分娩直前の家畜、分娩直後で子畜を伴わない家畜、臍帯が乾く前の新生家畜、自力で立てない家畜、両目の見えない家畜等が該当する。

畜産動物の輸送は人が車でドライブするようなものとは全く違います。一度でたくさん運べるように過密に収容され、おが粉などが敷かれていないことも珍しいことではなく、牛は短いひもで固定されて立ったままで、長距離輸送に耐えなければなりません。北海道から東京まで運ばれることもあります。

ぎゅうぎゅうに収容されて運ばれる豚(日本)

身動きもできない短いひもでくくられて輸送される肉牛(日本)

日本の問題-屠殺場への輸送

弱った動物には負担となる輸送ですが、日本では輸送される畜産動物への配慮が欠けているという実態があります。

次の動画は、輸送車の中で死んでしまった豚や、屠殺場の係留所に搬入後、と殺されるまでに死亡してしまった畜産動物たちです。ほんとうなら屠殺前に死んでしまうような体調の動物を屠殺場に運ぶべきではありません。

これらの動物たちがすべて、上述したOIE基準に書かれているような輸送には不適切な状態で、それが死因となったのかどうかということは、外部の人間には分かりません。しかし次の通り、日本では輸送に不適切な畜産動物であっても屠殺場へ運んでしまうという実態があります。

と殺禁止対象となる畜産動物でも、屠殺場へ運ばれる。

屠殺場に運ばれてきても、と畜場法の施行規則第十六条一 別表第四に記載された疾病を持つ畜産動物は、屠殺場で「と殺禁止」となり、農場主に返却されます。

本来ならと殺禁止になるような畜産動物は屠殺場へ運ぶべきではありません。動物に、無駄に輸送というストレスを味わわせることになるからです。農場で疾病にかかっていることに気が付かない場合もあると思いますが、「と殺禁止」の対象疾病にかかっている可能性に気が付くはずだと思われるものもあります。

たとえば「と殺禁止」の対象疾病である豚丹毒(皮膚型)は皮膚に菱形疹(りょうけいしん)と呼ばれる特徴的な皮膚病変が出るため、畜産の素人でも気が付きます。しかしそのような豚も屠殺場へ運ばれてきます。

豚丹毒蕁麻疹型は皮膚に特徴的な病変が起こり、発熱を伴う症状からも農場側で発見しやすいはずなのですが、何故か屠畜場にて発見されて屠畜できずに返されています。出荷時点で皮膚の汚れが多い場合や、出荷時の確認の不手際などが重なるとこの手の失敗が起こるようです。
独)農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所 家畜疾病図鑑

「と殺禁止」の対象疾病でも、農場主に返却して治療すれば治るものもあれば、治らないものもあります。

牛伝染性リンパ腫(牛白血病) も「と殺禁止」となり農場主に返却されていますが、この疾病に治療法はなく、治る見込みはありません。淘汰するしかありません。

このようなケースで一番人道的な方法は、これ以上病気や輸送の苦しみを味わわせずに、その場で殺処分することですが、屠殺場では殺処分は行われません。屠殺場はあくまで肉にするために動物を殺す場所だからです。屠殺場には獣医師もおり、殺処分はやろうと思えば可能なはずですが、牛伝染性リンパ腫の牛は農家に返却されます。

起立不能でも屠殺場へ運ばれる

自分の四肢で体を支えることができない畜産動物にとって、輸送は大きなストレスとなります。上述した輸送についてのOIE基準や農水省指針でも、起立不能の畜産動物は輸送に適していないものとして挙げられています。

実態はどうかというと、起立不能で神経症状などBSEの疑いのある牛や、輸出牛肉用の屠殺場では起立不能の牛の搬入が制限されることがありますが、しかしそれ以外の理由(豚、骨折やBSE以外の疾患でで立てない牛)で起立できない畜産動物は、普通に屠殺場へ搬入されています。
通常、起立不能の畜産動物は、屠殺場に設置されている病畜棟でと殺されますが、自力では動けないため、ウィンチを用いてブロックチェーンで引っ掛けて引きずられていきます(このような移動方法は、OIEの動物福祉基準 第7.5章 動物のと殺に反します)。
病畜棟でと殺された起立不能の畜産動物は、体の病気の部分は捨てられ、問題ない部分は市場に出回ります。

農場で殺処分すべきケースでも屠殺場へ運ぶ

この動画も日本ですが、このような状態の動物は、輸送という苦痛を味わわせず、本来なら農場で殺処分するべきです。しかし、私たちの知る限りでは、規模の大きな畜産施設でもない限り、何としてでも屠殺場へ出荷する、というスタイルが一般的なようです。

その理由は、屠殺場で肉にしないと一文にもならないからです。動物がどんな状態であっても、無理やり屠殺場へ連れていき食肉にすれば利益を得ることができます。

https://youtu.be/QUab769Gaog

牛やこの動画のような母豚(繁殖種豚)の場合なら、農家が家畜共済に加入していれば、本来なら農場で殺処分して家畜共済による補償を受けることが可能なはずです(※県によっては農場内での安楽死は共済の対象外としているところもあります)。しかし家畜共済による補償は全額おりるわけではありません(掛け金に応じて最低2割)。どんな状態でも無理やり屠殺場へ連れて行って肉にしたほうがお金は入ります。

また、繁殖種豚の家畜共済加入割合は24.8%と低いものになっています。家畜共済は国庫負担もあるものの、農家も掛金を払わなければならず、すべての農家が加入しているわけではありません。また肥育豚(子取り用の豚ではなく、肉にされるために肥育される豚)の場合の家畜共済では、動画のような脱肛を起こして農場で殺処分したとしても補償はありません。肥育豚の場合は災害などの死亡事故が対象で、殺処分は補償の対象にならないからです。

(家畜共済加入割合)

乳用牛など 92.7%

肉用牛など 68.8%

繁殖種豚 24.8%

肥育豚 29.3%

平成29年産(度) 農業共済の加入実績(全国)

もし家畜共済に加入していなかったり、対象が肥育豚であった場合、農場内で殺処分したとしても、農家には何の利益も残りません。逆に農場で死んでしまった場合、その死体を死亡獣畜処理場に出さなければならず、その手数料は農家が支払わなければなりません。そのため、生産者としては死ぬ前になんとしてでも出荷したい、という気持ちがあります。

脱肛で血まみれでも、具合が悪くても、出荷して肉にすることができたらお金は入ります。調子の悪い畜産動物を輸送トラックに積み込むときは、あらかじめ農家に対して「輸送中に死亡したとしてもあきらめる」と確認を取って走る輸送業者もいます。

畜産動物は「農産物」

1997年にEUのアムステルダム条約で「畜産動物は単なる農産物ではなく、感受性のある生命存在である」と定義されましたが、実際には農産物としての扱いが続いています。私たちの社会では畜産動物は経済動物というカテゴリに入れられており、これが続く限り彼らの地位が向上することはありません。

生産者を一方的に責めても何も改善しません。畜産業は社会が容認している産業の一つであり、ほかの産業同様、畜産業者も利益を出して自分や家族や従業員を養わなければならないのです。畜産業で動物がただの農産物のように扱われているのは、私たちが実態に目を向けず安易に安い肉を食べ続けてきた結果です。

  • 動物性たんぱく質の摂取を止めるあるいは減らす
  • 畜産の実態を周りの人に知らせ、肉食が抱える動物虐待問題を共有する

代替たんぱくがいくらでも選択できる時代になりつつあります。私たちが何を選択するかで、畜産動物の未来を変えることができます。

※日本の実態は、屠殺場従業員や輸送業者、食肉衛生検査所への聞き取りを元にまとめたものです

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