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豚熱(豚コレラ)2018年-2021年 安楽殺ではなく虐殺

豚熱(豚コレラ)2018年-2021年 安楽殺ではなく虐殺

2018年9月に国内の養豚農場で発生して以来、今もやむ気配がない豚熱(豚コレラ)。
これまでに養豚場での感染は14都道府県に広がり、合計231,895頭の豚が殺処分されている(2021年4月末時点)
 
鳥インフルエンザでは、2020年から2021年にかけて国内で9,689,703羽の家禽が殺処分され、この殺処分が安楽死ではないということはこちらの記事(1 2)で述べたが、それと同じく、豚熱の殺処分も安楽からはほど遠い
豚たちは「消毒薬を心臓へ注射」「電殺」「二酸化炭素ガス殺」により殺されている。
 

消毒薬「パコマ」を使用

2021年4月19日、毎日新聞は「豚熱で殺処分の子豚が暴れ 県職員に注射針が刺さる」というタイトルの記事を報道した。以下は記事から一部引用したものだ。
 
殺処分に当たっていた男性県職員の足に
処分に使う消毒薬の入った注射針が刺さったと発表した。
何気ないように書かれている記事だが、殺処分方法として消毒薬を使用するというのは、異常だ。獣医学的には認められていないし、そもそも消毒薬は殺処分薬として設計されたものではない
 
ストリキニーネ、ニコチン、カフェイン、洗浄剤、溶剤、農薬、消毒剤、その他治療または安楽死の使用のために特別に設計されていない毒性物質は、いかなる状況下でも安楽死剤として使用することはできない。
米国獣医学会AVMAによる安楽死に関するガイドライン AVMA Guidelines for the Euthanasia of Animals:2020 Edition
殺処分に使用される消毒液は、通常、逆性石鹸の「パコマ」が使用される。
消毒薬パコマは、口蹄疫や豚熱のような家畜伝染病発生時に殺処分用薬剤として使用されるだけでない。
養豚場では体が小さすぎる、下痢が止まらない、呼吸器疾患など、生産性にマイナスの影響がある豚は殺処分されるが、そういう時にも消毒薬パコマが一般的に使用されている。
 
消毒薬パコマは、畜舎や豚の体を「消毒、殺菌」するために畜産業で使用されるものだが、安楽死用の薬剤ではない。なので消毒薬を投与された豚がどのような作用機序で死に至るのかは一切不明だ。そもそも消毒剤を動物に投与したらどうなるかという研究自体が倫理的に問題視されるだろう。それでも養豚場でパコマ殺処分が続いているのは、たんに業界内での「ならわし」、なおかつ鎮静剤や麻酔剤を使用するより安価だからにすぎない。
 
逆性石鹸には溶血作用、神経筋接合部におけるクラーレ(筋弛緩)様作用があると考えられることから、これを投与された動物は意識を保ったまま筋弛緩作用により骨格筋が麻痺して動けなくなり、最終的に呼吸筋の麻痺により窒息して死にいたることが考えられる。心臓にパコマを打たれた子豚は数秒から30秒ほどで動かなくなる。これをもって「速やかな死」という人もいるが、それは違う。動けなくなったことは死んだことを意味しない。豚たちは徐々に窒息する苦しみを味わっているのかもしれない。
その上、いつも心臓から外れずに投与できるとは限らない。注射針が心臓を外れた時、豚は空気を少しでも得ようとするかのように口をパクパクさせ、血を吐き、全身をばたばたと動かし、5分ほども動き続ける
 
海外では消毒薬での殺処分を耳にしたことがないので日本特有のやり方かもしれない。
 
2010年の口蹄疫の時にも、この消毒薬「パコマ」が使用された。非人道的な殺処分方法だとして多くの動物保護団体が消毒薬使用の廃止を求めてきた
しかし2018年以降発生が続いている国内の豚熱でも、いまだこの消毒薬パコマが使用されている。
 

2018年以降の豚熱殺処分での消毒薬(パコマ)使用

子豚の殺処分で麻酔なしで、いきなり豚の心臓にパコマを注射した都道府県
14都道府県中5
(14都道府県中2は子豚の殺処分自体がなかった。またいきなり豚の心臓にパコマを注射した都道府県5のうち1つは、人に注射針が刺さるという事故後は、中止している)

肥育豚や繁殖豚など体の大きい豚の殺処分で、通電後に消毒薬(パコマ)を心臓に注射した都道府県
14都道府県中11
(通電後必ずパコマを投与する都道府県が6、通電後死にきれない場合のみパコマを使用するという都道府県が5)

*2018年9月~2021年4月末間に豚熱による殺処分が行われた、14都道府県にアニマルライツセンター聞き取り。以下同じ。
 
いきなり心臓に消毒薬パコマを注射するのは論外だが、では通電後に消毒薬パコマを注射するのはどうだろうか?
通常、電殺では頭部に通電して意識を喪失させ→胸部に通電して心停止させる、という方法が行われる。だがその手順でも死にきれない豚がいる。また都道府県によっては頭部のみの通電で意識を喪失させた後、心臓にパコマを注射するところもあった。
これらの場合、豚が無意識でいる間に、消毒薬パコマの作用により死に至らしめることができるか、ということが問題になるが、通電による意識の喪失時間は長いものではない。正しい場所にどれだけの電流量を流せるか、少なくとも4秒間*電流を流すことができるか、手入れされた電極が使用されているかなど状況によって異なるが、通電による意識喪失から回復までの時間は30〜60秒1と言われている。ということは意識喪失後30秒以内にパコマを心臓に注射して豚を死に至らしめなければならないが、前述したとおり消毒薬パコマで豚がどのような作用機序でどれだけの時間で死に至るのかは一切不明だ。
豚は通電による痛みに続き、消毒薬パコマによる窒息という二重の苦しみを味わったかもしれない。
 

死にきれずに、埋却時にフレコンバッグの中で暴れる豚

次の文章は、2021年4月7日、上毛新聞社の「前橋のCSF8割の殺処分終了 緊迫で心にも負担」というタイトルの記事からの引用だ。
 
これまでは子豚が中心で土のう袋に入れられ、死骸を直接目にすることは少なくて済んだ。それでも、殺処分が不十分で、埋却時に暴れ出す子豚も。作業中は汚物なども目に入る。今後はより大きな親豚を扱うことになるが、可能な限り袋に入れ、作業員の精神的負担を軽減するよう県などに求めるという。
今年の鳥インフルエンザの殺処分でも、死にきれない鳥が埋却地へ、ということが起こったが、この記事からは豚熱の殺処分でも同様のことが起こっていることが分かる。
この自治体に、この埋却時に動いていた子豚はどうしたのか確認したところ、パコマを注射して埋めたとのことだった。この農場では子豚の殺処分は二酸化炭素ガスで行われていたため、二酸化炭素ガス(後述するが二酸化炭素ガス殺は安楽ではない)、次いで消毒薬パコマという二重の苦しみを味わって死んだことになる。この自治体では10000頭もの豚が対象となり、殺処分初めのころは、致死処置後、子豚が動くということが何回かあったそうなので、同じ苦しみを味わった豚は他にもいたのだろう。
 
「豚熱に関する特定家畜伝染病防疫指針令和2年7月1日農林水産大臣公表(一部変更:令和3年3月31日)」は24時間以内の殺処分完了と72時間以内の焼埋却という目安を示し、伝染病の早期封じ込めのために迅速な殺処分を求めている。5,000頭をこえるような場合これを達成することは不可能だが、できるだけ早く終わらせなければならないことに変わりはない。2018年以降の豚熱で5,000頭をこえる大規模殺処分が行われた農場は14。迅速な殺処分のために、経験のない自衛隊員らが派遣されたこれらの大規模農場では、「死にきれなかった豚」は相当数いたのではないだろうか。
 

2018年以降の豚熱の殺処分での死亡確認方法

肥育豚や繁殖豚など体の大きい豚の

死亡確認方法

14都道府県中
・瞳孔や眼瞼・角膜反射を一頭ごとに確認 11
・動くか動かないかのみで判断 2
拍動および、瞳孔や眼瞼・角膜反射を一頭一頭確認 1

子豚の

死亡確認方法

14都道府県中
・瞳孔や眼瞼・角膜反射を一頭ごとに確認 6
・動くか動かないかのみで判断 5
・抜き取りで瞳孔や眼瞼・角膜反射を確認 1
(14都道府県中2は子豚の殺処分自体がなかった。)
 
生きたまま埋焼却しないためには、必ず死んだことを確認しなければならず、そのためには、本来、以下の事項を一頭一頭の豚ごとに評価することが必要だ。
 

・体の動き/筋肉の緊張が完全に失われ、動物の体がリラックスしている状態

・呼吸の欠如

・角膜または眼瞼への刺激に対する反応の欠如

・心臓の拍動/触診または聴診を使用して心拍を測定

・瞳孔サイズ/瞳孔の拡張(散瞳)は死の指標となる。評価には眼の綿密な検査が必要

参照:EFSA Panel on Animal Health and Welfare (AHAW) Welfare of pigs during killing for purposes other than slaughter First published: 20 July 2020 https://doi.org/10.2903/j.efsa.2020.6195

 
しかし、国内の豚熱殺処分時に唯一これに近い評価を行っていた都道府県は1つだけだ(「拍動および、瞳孔や眼瞼・角膜反射を一頭一頭確認」の都道府県)。
子豚の場合はコンテナでのガス殺でまとめて殺した場合、一頭一頭の確認に手間を要する。そのため、表面上確認可能な「動くか動かないか」だけで判断した都道府県が4割にのぼる。だが動くか動かないかだけでは死の判断はできないし、眼の評価だけでは、その評価が誤っていた場合取り返しがつかないことになる。死を確実なものにするためには、手間がかかっても、上述した一連の評価を行うしかないのだ。
 

通電を何度もやらないと倒れない。響く叫び声

豚熱殺処分の現場を視察した関係者によるツイッターへの投稿(2021年4月26日)
 
「親豚の電殺(感電死)は何度もやらないと倒れず、その都度悲鳴を聞いた。豚と作業者の取り込みを間近にし、胸が痛んだ」
電殺は、ハサミ型のトング1で豚の頭部を挟んで通電させ、意識を喪失させ→胸部に通電して心停止させる、という方法が行われる。頭部への通電が成功した場合は、豚は即時に倒れ、意識を喪失する2。もちろん意識を喪失させることができれば悲鳴は上げない。発声は意識のある明確な兆候だ(注:発声していなくても意識がある場合もある)。しかし意識の喪失を伴わない通電では、豚は地面の上で悲鳴を上げてのたうち回り、苦しむ3
 
都道府県への問い合わせで、実際に、親豚(子供と産むために飼育される母豚)で、一回の通電で意識の喪失を引き超すことができない事態が発生していることが分かった。
考えられる要因はいくつかある。
 
1.適切な場所に電極を当てることができていない。
意識を喪失させるには、頭部の適切な場所に電極をあてるために豚を保定する必要があるが、屠殺用に設計されていない豚舎の中では保定が難しい。通電は4秒*(少なくとも3秒)必要だ。即時の意識喪失ができるかどうかは作業者の手技によるところが大きいが、豚熱殺処分で臨時に集められた作業者には熟練した人間はいない。
電極の正しい位置は写真上。この位置にあてることが難しい場合は代替として写真下の位置
写真下/正しい両側の挟む場所
写真引用 Electrical Stunning of Red Meat Animals Humane Slaughter Association(リンク先には動画もあり)
 
2.電極が汚れている、ケーブルが損傷しているなどメンテナンスの不備により電流が不十分
 
3.豚が脱水状態にあり、効果的な意識喪失を引き起こすことができない
 
4.豚の大きさに対して電流量が十分でない
OIEの動物福祉コード(OIE陸生動物衛生規約 第7.6章 疾病管理を目的とする動物の殺処分(日本語訳))は6週齢以上の豚の最小電圧を220V(ボルト)、最小電流量を1.3A(アンペア)としているが、これは最小のガイドラインにすぎない。そもそもこの数値の元となった研究は100kg程度の豚を対象として行われている。
農場にいる、肉用に飼育される肥育豚は110kgほどまで(110kgほどで出荷されて肉にされる)だが、繁殖用に飼育される親豚(母豚)は、200kgにも達する。そして、体重に応じて必要な電気設定は異なる。
国内の豚熱の殺処分で使われている電気機器(以下電気スタン)の一つは、(1~3の課題をクリアできたとして)最大400Vの出力、最大電流量は2.5Aとなっている。最大の性能を発揮できたとしても、200kgの豚に、これで十分なのかは不明だ。
確実に意識喪失を引き起こし、死に至らしめるのならばもっと上げればいい話だ。しかし農場での殺処分は自動機械ではない。人が手に持つ電気スタンだ。人の安全が考慮されるため、そこまで高い電力設計はされていない。
 
1国内の豚熱殺処分で使用されているメーカーのハサミ型トング 
STUN-TONG-EP-STEEL Electro-Stun-Tong-EP STEEL (国内の豚熱殺処分ですべて同じメーカーのものが使用されているわけではない)
2頭部への通電が成功し、意識を喪失させることができた場合、豚がどのような状態になるかはこちらの動画を参照。(この動画は肉にするためのと殺のたえ、頭部通電後に胸部通電は行われていない。)Phases of an effective electrical stun Humane Slaughter Association
 

鎮静剤や麻酔薬が使用されていない

豚熱の殺処分は、「肉」にするための屠殺ではなく、豚を埋焼却するための殺処分なので、鎮静剤や麻酔薬をいくら使っても良いはずだ。「豚熱に関する特定家畜伝染病防疫指針令和2年7月1日農林水産大臣公表(一部変更:令和3年3月31日)」の中にも「鎮静剤又は麻酔剤を使用するなど、可能な限り動物福祉の観点からの配慮を行う」と書かれている。
しかし使用頻度は低い。
 

2018年以降の豚熱の殺処分での鎮静剤・麻酔剤使用

鎮静剤14都道府県中5
(うち1つは興奮する豚がいる場合のみ使用。3つはすべての豚ではないが可能な範囲で使用)
麻酔剤

14都道府県中0

動物福祉の観点から、電殺前には鎮静剤を注射するよう指示している都道府県もあったが、ほとんどの都道府県では使用されていなかった。麻酔剤の使用については皆無であった。しかし本来なるべく苦しみの無い殺処分を行うためには、致死作業までに、鎮静剤や麻酔剤を投与をすべきだ。

ただ、注射するために豚を保定する作業は熟練した人間でなければ時間がかかるし、時間がかかればその保定作業自体が豚にとっては強いストレスにもなることも忘れてはならない。
 

二酸化炭素ガス殺

小さい豚の場合は、心臓にパコマを注射という方法のほかに、二酸化炭素ガス殺が行われた。二酸化炭素ガス殺は小さい豚を殺処分したすべての都道府県で実施されたが、どれだけ残酷かは、2018年に公開されたこの動画をみると分かりやすい。
 
注意してもらわなければならないが、この動画の場所は屠殺場で、二酸化炭素ガス殺は、ガスの濃度、暴露時間などが管理された専門の機械で行っている。それでもこのような状態だ。
国内の豚熱殺処分では、コンテナにブルーシート、手ごろなコンテナがない場合はトラックの荷台にコンパネで目張りをしてという即席の方法で行われる。
ある自治体の職員は「二酸化炭素も死ぬまでに時間がかかり苦しむ」と言った。心臓への消毒液パコマ注射から二酸化炭素に変えても問題は解決しない。
 
写真/日本 豚熱での殺処分処置後、フレコンバッグに詰められ埋却される豚たち

 

私たちにできること

畜産動物には「安楽死」というオプションは用意されていない。かれらは一生閉じ込められ自由をうばわれ、最期にはもがき苦しんで死んでいく。現場に駆り出される作業員たちも好きで殺処分をやってるわけではない。動物を殺すという作業は誰にとっても辛く苦しい。
ワクチンを接種した豚でも豚熱は発症している。5月に入ってまた、国内の農場で豚熱が発生した。いつこの虐殺に終わりが来るのかは分からない。
口蹄疫が一段落して次に豚熱。豚熱が一段落してもその次がまたやってくるだろう。終わらせるためには畜産という産業が抱える根本的な問題に目を向ける以外にない。根本的な解決方法は、肉を食べるという習慣を止めることだ。そもそも栄養学的に肉は必要ではない。
これからも家畜伝染病による殺処分は続くことから、関係機関に声を届けることも大事だ。豚たちがどんなふうに殺されているのか、なぜ安楽な殺し方ができないのか、生き埋めにされた動物はいないのか。封鎖された農場の中で何が行われているのか、私たちはほとんど知ることができない。
  • 気になったことを農林水産省や都道府県に質問して、改善を求めてみる

これらの殺処分費用を出しているのは私達国民一人一人だ。私達には知る権利があるとともに、豚たちを虐殺から救い出す義務もある。

 
 
 

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