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家畜の生産段階における衛生管理ガイドライン

2002年(平成14年)に策定された「家畜の生産段階における衛生管理ガイドライン」は、農場HACCP導入の前提となる飼養衛生管理の方法を畜種毎に一般的衛生管理マニュアルとして整理したもので、このガイドラインの実施はHACCPシステムを導入・実施するための前提とされています。そして農場HACCP認証基準にもその旨が掲載されています。

ただ、このガイドラインが策定されたのは2002年と古く、動物福祉の面から問題が変更したほうが良いのではないかと思われる点がいくつかあったため、農林水産省に2017年3月、次の点を提案しました。
*提案したのは各畜種別ガイドラインのうちの一つ、「ブロイラーにおける一般的衛生管理マニュアル」についてです。

提案1

173ページ「ブロイラーの出荷マニュアル」
3.照明は出荷前7日前から24時間点灯とすること。
との記載を削除するか、169ページの健康管理マニュアルに「照明は、ブロイラーが安寧に休息できるように、24 時間ごとに少なくとも4 時間の連続した暗期が必要」と記載することを提案します。

理由:
出荷前数日は点灯すべきとするガイドラインやマニュアルは見当たりませんが、いっぽうで、暗期の設定は健康上必要というのが一般的となっています。
【参考】
「なお、一定時間の暗期を設けることは、鶏の休息やストレス低減、脚の健康強化等のために必要とされており、突然の停電時のパニックの防止に有益であるとともに、飼料効率や育成率の改善にも効果があることが知られている。」
(引用:アニマルウェルフェアの考え方に対応したブロイラーの飼養管理指針(改訂版)2016年  公益社団法人 畜産技術協会)*出荷前に点灯すべきという記述無し

「暗期は、ブロイラーが安寧に休息できるように、24 時間ごとに少なくとも4 時間の連続した時間が必要とされています。」
(引用:アニマルウェルフェア専門家養成事業 アニマルウェルフェア技術研修会テキスト ~ ブ ロ イ ラ- ~公益社団法人 畜産技術協会(2015年))*出荷前に点灯すべきという記述無し

「肉用鶏の休息のため、24時間周期ごとに、適切な長さの連続した暗期を設けるべきである。適切な長さの連続した明期も必要である。」
(引用:OIEアニマルウェルフェアと肉用鶏生産方式(2013年))*出荷前に点灯すべきという記述無し

「飼養の最初の週と最後の週を除いて、鳥には最低限 24時間ごとに4時間の暗闇が与えられる。」
(引用:全米鶏肉協会「動物福祉ガイドライン」(2014年) Animal Welfare for Broiler Chickens- national chicken council)*出荷前に点灯すべきという記述無し

「鶏舎に入荷後5日目~捕獲7日前までの期間、24時間ごとに少なくとも4連続時間の暗期が必要」
(引用:カナダCode of Practice for the Care and Handling of Hatching Eggs, Breeders, Chickens and Turkeys(2016年))*出荷前に点灯すべきという記述無し

「鶏が建物内に入れられてから7日以内に、また屠殺予定の3日前までは、照明は24時間のリズムに従わなければならず、少なくとも6時間以上の暗闇の期間が含まれなければならない。調光期間を除いて少なくとも4時間の中断のない暗期が必要。」
(引用:EU指令 肉生産のために鶏を保護するための最小限の規則(2007年))*出荷前に点灯すべきという記述無し

提案2

173ページ「ブロイラーの出荷マニュアル」
4.処理予定時間の12時間前から餌止めを行うこと。
との記載を、餌止めの必要性と共に、長期の餌・水止めを行わないとの記述を併記することを提案します。たとえば、「一定時間の絶食を行う必要があるが、輸送等のと鳥までの時間も考慮した上で、12時間を超えて絶食されることのないよう計画する。捕獲開始まで鳥は水を利用可能でなければならない。」など。

理由:
餌止めは必要であるが、同時に長期の絶食・絶水は福祉上の問題をもたらすという考えが一般的であるため。
【参考】
ブロイラーを無作為に、屠殺前飼料除去処理(0,4,8,12および16時間)した研究した結果、飼料の除去には利点がある一方、体重、枝肉重量、腸のバリア機能の減少が、鳥に長時間の福祉上の危険をもたらすことが明らかになった。
(参照:American Research Journal of Agriculture Original Article ISSN 2378-9018 Volume1, Issue1, Feb2015 Optimizing Feed Withdrawal in Broiler Effect of Feed Withdrawal Timing on Broiler Carcass Yield in Tropics)

「と鳥前には衛生管理の観点から、一定時間の絶食を行う必要があるが、輸送等のと鳥までの時間も考慮した上で、過度に長時間の絶食は行わないこととする。」
(引用:アニマルウェルフェアの考え方に対応したブロイラーの飼養管理指針(改訂版)2016年  公益社団法人 畜産技術協会)

「と殺のための家きんの輸送は、12時間を超えて水が飲めないということの無いよう計画されること。到着後12時間未満の間にと殺されない動物は、給餌され、その後も、適切な間隔で、適度な量の餌を与えること。」
(引用:OIE陸生動物衛生規約 第7.5章「動物のと殺」翻訳)

「衛生的な処理と食品の安全性のためには、処理前の飼料と水の除去が必要であり、飼料および水の除去期間は最小限に抑えなければならず、良好な処理方法と一致しなければならない。
a)飼料の撤退は、屠殺前18時間を超えてはならない。
b)水の除去は、捕鳥開始の1時間前を超えてはならない。」
(引用:全米鶏肉協会「動物福祉ガイドライン」(2014年) Animal Welfare for Broiler Chickens- national chicken council)

「飼料は、屠殺場での死体の汚染の危険性を減らすために、消化管が空であることを確実にするために、輸送の前に鳥から撤去されるのが普通である。除去時間は、通常、処理業者によって決定されます。しかし、総除去時間は、鳥類の福祉(すなわち飢え)に悪影響を与えるほど過剰であってはならない。
・必要条件
輸送前の餌の除去は、鳥が餌を食べていない時間を最小限に抑えるようにしなければならない。
捕獲開始まで鳥は水を利用可能できなければならない。
・推奨される慣行
捕鳥前の少なくとも3時間、好ましくは6時間を超えて鳥から餌が除去されないようにする。屠殺予定時間より前に合計24時間以上、餌が除去されないようにする。」
(引用:カナダCode of Practice for the Care and Handling of Hatching Eggs, Breeders, Chickens and Turkeys(2016))

「屠殺予定時間の12時間以上前に、餌を鶏から除去してはならない。」
(引用:EU指令 肉生産のために鶏を保護するための最小限の規則(2007年))

提案3

169ページ「健康管理マニュアル」
1 飼養鶏に尻汚れ、脚弱、異常呼吸音、異常歩行及び臨床症状に異常がみられないこと。
との記載に、「趾蹠皮膚炎(フットパッド皮膚炎)を含む接触性皮膚炎」を追加し、「飼養鶏に尻汚れ、脚弱、異常呼吸音、異常歩行、接触性皮膚炎及び臨床症状に異常がみられないこと。」への変更を提案します。

理由:
趾蹠皮膚炎(フットパッド皮膚炎)を含む接触性皮膚炎はブロイラー産業にとって重要なウェルフェア上の問題であると認識されているため。
【参考】
「趾蹠皮膚炎(Footpad dermatitis : FPD)は,古くから鶏や七面鳥などの家禽に発生が認めらる接触性皮膚炎で,特にブロイラーで発生しやすく,FPD の認められる脚は食用から除外され相応な経済的損失となっている.また,近年欧米では FPD が動物福祉の指標の一つとして議論されるようになり,FPD の発生を抑制する努力が行われている.」
「考察 FPD は1960 年代の古くからブロイラーなどで観察され,床の湿潤状態,及びその湿潤状態に関与する飼料成分などが発生要因として考えられてきた.著者らは最近,わが国のFPD 発生状況調査を実施し,全国各地で高率に,しかも1 週齢の雛から発生していること,その病変はEU に比較して概して重度であることを明らかにした.」
(引用:若齢より発生したブロイラー鶏の趾蹠皮膚炎の病理学的及び細菌学的検索
橋本信一郎、荒木 航、宮地裕也、三好宣彰、川口博明、小尾岳士、高瀬公三
(2011年8月1 日受付・2011年10月14 日受理))

「食鳥処理場等で鶏の外傷(打撲、翼の骨折・損傷等)や接触性皮膚炎、胸ダコ等をチェックすることがアニマルウェルフェアの状態を確認するために有用とされている。」
(引用:アニマルウェルフェアの考え方に対応したブロイラーの飼養管理指針(改訂版)2016年  公益社団法人 畜産技術協会)

ブロイラーの健康状態を判断するための評価方法として、胸および膝節、趾蹠の接触性皮膚炎のスコア付けが提示されている。
(参照:アニマルウェルフェア専門家養成事業 アニマルウェルフェア技術研修会テキスト ~ ブ ロ イ ラ ー ~公益社団法人 畜産技術協会(2015年))

「接触性皮膚炎
接触性皮膚炎は、皮膚表面が長期にわたり湿った敷料やその他湿った床表面に、接触することによって起こる。その状態は、趾蹠底部の皮膚、膝節の背面、時として胸部において糜爛と線維化へと発展する皮膚の黒化として認められる。趾蹠と膝節の病変は深刻な場合、歩行困難になったり、二次感染を起こしうる。処理場で接触性皮膚炎を点数化する方法が開発、認証されている。」
(引用:OIEアニマルウェルフェアと肉用鶏生産方式(2013年))

提案4

169ページ「健康管理マニュアル」
に、「ブロイラーが自立できず、飲水も摂食もできず、回復が見込めないと判断した場合には、すみやかに安楽殺が行われていること」を追加することを提案します。

理由:
日本国内で、放置死、あるいは焼却死・溺死・窒息死といった、国内の法令や基準に反するやり方で、農場内での淘汰が行われているため。
【参考】
「病気、事故等の措置
けがや病気については、日常の飼養管理により、未然に発生を予防することが最も重要であるが、けがをしたり、病気にかかったりしているおそれのある鶏が発生した場合は、可能な限り分離し、適切な処置を行うこととする。また、死亡した鶏がいる場合は、病気等の感染を防ぐため、可能な限り迅速に他の鶏から分離するものとする。なお、治療を行っても回復の見込みがない場合や、著しい発育不良や虚弱な鶏は、適切な方法で安楽死の処置をとることも検討することとする。安楽死の方法については、「動物の殺処分方法に関する指針(平成7年総理府告示第40号)」(改正 平成19年環境省告示第105号)(付録Ⅰ参照)に準じて行うこととする。なお、ブロイラーについては、頸椎脱臼が一般的であり、その方法を十分習得する必要がある。」
(引用:アニマルウェルフェアの考え方に対応したブロイラーの飼養管理指針(改訂版)2016年  公益社団法人 畜産技術協会)

「病気あるいは怪我をした肉用鶏はできるだけ速やかに安楽死させるべきである。同様に、診断目的の肉用鶏の殺処分も、第7.6章に基づき安楽死させるべきである。」
「頸椎脱臼は、第7.6.17条頸椎脱臼と断頭)に記載されたとおり、適切な能力に基づき実施される限りにおいて、少数の肉用鶏を殺処分するために許容されている方法である。」
(引用:OIEアニマルウェルフェアと肉用鶏生産方式(2013年))*第7.6章は、OIEコード「疾病対策のための動物の殺害」

「必要に応じて、鳥は適切に安楽死させなければならない。 正常な成長と発達のための餌や水にアクセスできない鳥は、人道的に安楽死させなければならない。 標準作業手続き書は、農場での淘汰と安楽死の訓練を記載しなければなりません。 安楽死の方法は、米国獣医学会(AVMA、2013)によって承認されたもののみを使用することができる。 許容可能な安楽死の方法は次のとおりです。
a) 急速断頭。
b) 頭蓋骨と第1頚部との接合部における急速な頸部離断 椎骨 工具を使用する場合は、脊椎を分離するが、潰れないようにする必要があります。
c) 二酸化炭素または他の承認されたガスによる酸素の置換。」
(引用:全米鶏肉協会「動物福祉ガイドライン」(2014年) Animal Welfare for Broiler Chickens- national chicken council)

「作業者は、適時の安楽死の決定を行う上で有能でなければなりません。
明らかな痛みの徴候を示す鳥や鳥の病気や怪我は、有能な人員によって迅速に治療または安楽死させなければならない。
観察のために隔離された鳥は、少なくとも2回毎日モニターし、継続的な回復または安楽死のために再評価する必要があります。」
「雛と鶏を安楽死させるための許容される方法を使用する必要があります。付録B「安楽死の方法」を参照してください。」
(引用:カナダCode of Practice for the Care and Handling of Hatching Eggs, Breeders, Chickens and Turkeys(2016))*付録B「安楽死の方法」には次の記載がある。
麻酔薬過剰投与、キャプテイブボルト、断頭、ガス注入(二酸化炭素、窒素、一酸化炭素)、頸椎脱臼。

回答
この提案について、農林水産省 動物衛生課からは修正を検討しますとの回答でした。また、「新たな飼養衛生管理基準*ができているので、見直しを考えてはいるが、見直しの時期については検討中です」とのこと。

*飼養衛生管理基準
2010年の日本における口蹄疫の流行後の2011年に家畜伝染病予防法が改正。この改正の中で、畜産動物の所有者が遵守すべき衛生管理方法に関する基準(飼養衛生管理基準)が制定されることになりました。

生産衛生管理ハンドブック

農林水産省が農場で実際に作業を行われる方へ向けた生産衛生管理ブックを公表しています。
このハンドブックは、農林水産省による汚染実態調査、農場における衛生対策の実施状況、各都道府県の調査研究情報及び学術論文などから、食品の安全性を向上させるために、農場で実施してほしい対策がまとめられたもの、ということです。
各畜種ごとにハンドブックが公表されていますが、その一つ「鶏肉の生産衛生管理ハンドブック(2013年)」の中に不適切と思われる掲載写真があったため、その差し替えと、合わせてアニマルウェルフェアの観点から、それぞれの生産衛生管理ハンドブックに「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」を明記していただきたいと、2107年9月、意見を提出しました。

意見1

生産衛生管理ハンドブックに「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」を考慮した飼養管理を行うことを明記すること。

牛肉・豚肉・鶏肉・鶏卵ごとの生産衛生管理ハンドブックが作成されていますが、いずれにも2011年に作成された(2016年に改訂)、「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」( http://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/animal_welfare.html )について記載されていません。
同飼養管理指針は農林水産省が普及に努めているもので、「養豚農業の振興に関する基本方針」「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」の中でも、その周知と普及が求められています。
食品安全とアニマルウェルフェアは密接に結びついており、衛生管理に努めるにあたってアニマルウェルフェアへの配慮は必須ではないかと考えます。

意見2

鶏肉の生産衛生管理ハンドブック(2013年改定)( http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/handbook/pdf/tori-seisansha.pdf )、12ページ左上の写真を、適正な写真に差し替えること。

【掲載されていた写真】

現在使用されている写真は鶏が折り重なりひっくり返った状態で撮影されています。動物のこのような扱いは、「動物の愛護及び管理に関する法律」第七条における動物の所有者又は占有者の責務を果たしているとは言えません。

「動物の愛護及び管理に関する法律」第七条より引用
その動物をその種類、習性等に応じて適正に飼養し、又は保管することにより、動物の健康及び安全を保持するように努める

また、日本の批准するOIEの動物福祉規約 第7.5章「動物のと殺」( https://www.hopeforanimals.org/animals/slaughter/00/id=417 )には、「すべての鳥に、互いの上に乗ることなく同時に横たわることができる十分なスペースが与えられること」や、積み込みの際に「動物は、危害や苦悩や怪我することの無い方法で取り扱われること」などが明記されていますが、現在使用されている写真はこの規約にも違反する物となっています。
このガイドラインを読む生産者の皆さんが、こういった扱いで問題ない考えてしまうことを懸念します。
掲載するのにふさわしい適正な写真に差し替えるほうが良いと考えます。

回答
2017年10月5日、農林水産省消費・安全局食品安全政策課より回答をいただきました。

意見1について

現行の生産衛生管理ハンドブックのうち、本年9月に公表した豚肉の生産衛生管理ハンドブックについては、「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」をはじめ、各種基準等との整合性を図りました。例えば、当指針を引用して生産者編と指導者編「6.家畜間の食中毒菌の感染を防ぐために」の項に「適度な飼育密度を保つ」という対策を示し、あわせて指導者編「12.参考文献」には引用文書を明示するため、当指針名を記載しています。(http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/handbook/pdf/buta-sidousya.pdf)
本ハンドブックを改訂する際には、引き続き、当指針の内容と整合性を図って参ります。また平成23-24年に策定した鶏肉、鶏卵及び牛肉のハンドブックについても、これらを改訂する際に、当指針と整合性を図って参ります。

意見2について

清潔なカゴの写真を掲載することにより、洗浄・消毒の励行の趣旨は生産者等に伝わると考えられますので、頂いたご意見をふまえ、鶏肉の生産衛生管理ハンドブックから該当の写真を削除しました。(10月5日)
http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/handbook/pdf/tori-seisansya2.pdf

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