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日本のアニマルウェルフェアは向上したのか?

日本のアニマルウェルフェアは向上したのか?

日本のアニマルウェルフェア(畜産動物福祉)の遅れは国内外で指摘されている。
農水省もこの問題を重く見て、アニマルウェルフェアに取り組んでいるところである。
しかし実際のところ、日本のアニマルウェルフェアは向上しているのだろうか?

日本の現状を、2007~2009年の全国飼養実態調査と、2014年の飼養実態調査*1をもとに検証した。

その結果わかったことは、次の2点だ。

・6~8年前のレベルからほとんど変わっていない

・世界の流れに依然として追いついていない

※豚についての詳細は、コチラもご覧ください。

母豚の妊娠ストール使用率

2007年:83.1% → 2014年:88.6%

妊娠ストール:豚の自由を著しく奪うとして諸外国で禁止が加速している飼育方法

EU、スイス、カナダ、アメリカの10の州、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ共和国が妊娠ストール廃止を決定。規制に向けて動いている国もある。また諸外国では60以上の企業が廃止を発表している。

一方日本では、7年前とかわらずほとんどの農家で使用されている状況だ。

子豚の尾の切断率

2007年:77.1% → 2014年:81.5%

「尾かじり」を防ぐという理由で実施される豚の尾には、先端まで末梢神経が伸びており、麻酔なしで行われている尾の切断は、痛みで豚を苦しめる。

適切な飼料が供給され十分な給水量があり、ワラまたは動かして遊べる素材あるいは鼻で地面を掘れるような環境が与えられており、適正な密度で飼養されている時、つまり動物本来の習性に配慮した環境であれば尾かじりの問題はほとんど無く、尾の切断の必要がないことが明らかになっている。
切断は麻酔無しで実施されており、その痛みは切断時だけではなく、断尾された動物の多くは神経腫を形成し痛みが延長するということが実証されており、動物福祉上大きな問題である。

これも諸外国では規制が進んでいるが、7年前とかわらずほとんどの農家で実施されており、規制に向けた動きもない状況だ。

子豚の歯の切断率

2007年:88.1% → 2014年:63.6%

母豚の乳首や他の子豚を傷つけるという問題を防ぐために行われている麻酔なしでの歯の切断という慣行だが、妊娠ストールのように母豚が拘束したり、子豚を狭いところに閉じ込めないエンリッチメントに配慮した環境ではこのような問題が起こらないことが知られている。

この行為が、歯に痛みや重傷を引き起こすことは科学的に明らかになっており、7年前に比べ25%も減少したのは進歩と言えるがそれでもまだ大半の農家で実施されている状況だ。

子豚の去勢率

2007年:98.8% → 2014年:94.6%

去勢は必須の行為ではない。痛みを伴う外科去勢ではなく、ワクチンで雄臭を消す方法もあるからだ。このワクチンはオーストリアでは 10 年以上にわたって広く一般的に利用され、EU の各諸国 でも使用が拡がりつつある。日本でもこのワクチンは2010年に認可されている。にもかかわらず使用する農家はない状況だ。

麻酔なしの去勢中、子豚は悲鳴を上げ続け、去勢後は震え、足がぐらつき、おう吐するものもいる。
麻酔なしの去勢は豚に大きな痛みを与える行為であるため、EUで2012年から麻酔なしでの去勢は禁止するなど、諸外国では禁止や規制が進んでいる。しかし日本ではこの慣行が継続されている。

71kg以上の肥育豚1頭あたりの飼育面積が、0.65㎡未満の割合

2007年:2% → 2014年:20%

7年間で過密飼育が大幅に増えている。
0.65㎡は半畳にも満たない。体重71kgの豚であれば、横臥するのに必要な面積は約0.82平方メートル*2とされているので最低面積を満たしていないということになる。横臥もできない環境で飼育をされている豚が少なくとも20%はいるというのは大きな問題といえる。

搾乳牛の「つなぎ飼い」率

2008年:73.9% → 2014年:72.9% 

日本の乳牛の主な飼育方法はいまだ「つなぎ飼育」という状況にある。日本も加盟するOIEの動物福祉基準は牛が繋がれている場合には、ウェルフェア上の問題のリスクが高まると明記している。

牛には草を食む権利があるとして放牧を義務付けている国もあるし、つなぎに規制を設けている国もあるが、日本にはそういった決まりはなく、管理しやすいという人間本意の理由でつなぎ飼育が続けられている状況だ。

角の除角率

乳牛の除角 2008年:93.9% → 2014年:85.5%

肉牛の除角 2009年:48.0% → 2014年:59.5%

乳牛で少し減少、肉牛では少し増加しており、全体で見ると変化が無い状況だ。
除角は大きな痛みを伴い、死んでしまう牛もいるほどだ。にもかかわらず除角は麻酔なしで行うのが日本では一般的だ。2014年飼養実態調査をみると、除角の実に8割が麻酔なしでおこなわれている。

除角する時期も問題だ。牛がまだ小さく角が萌芽の段階で除去するほうが痛みは少ない。だが2014年飼養実態調査をによると乳牛では45%、肉牛では85%が、角が成長した3ケ月齢以上で除角されている。農林水産省が進めるアニマルウェルフェア指針にも「除角は二ヵ月以内に」と書かれているにもかかわらずだ。

牛の福祉を考えるのなら角は切断すべきではない。
牛の角の切断をしなくても済む「角カバー」が2008年から日本で販売されているが(3頭分2500円)使用する農家はごく一部だ。

採卵鶏

バタリーケージ使用率

2008年:90.2% → 2014年:92%

6年前の調査とほとんど変わらず、日本ではバタリーケージ飼育が主流のままだ。

鶏を著しく拘束するバタリーケージは非難の声が高く、諸外国では廃止に向けた動きが活発で、EUやアメリカの7つの州で禁止され、カナダ、ブラジル、韓国、オーストラリアなど多くの国で取り組みが進んでいる。企業単位でいうと200以上の企業が廃止を発表している。

しかし日本はここ数年変化が無い状況だ。

平飼い卵の飼育密度

2014年に平飼卵の飼育密度調査が初めて行われたが、平飼いであっても必ずしも良いとは限らないと考えさせられるものであった。

41.5%が1000㎠/羽以下 15.1%が370㎠/羽

370㎠というと、19cm×19cm程度である。
EUは規則で「平飼い」の定義を1111/羽と決めているが日本は違う。日本で「平飼い」表示するには「鶏舎内または屋外で鶏が自由に地面を運動できるように飼育」されていればよく、具体的な数値は設定されていない。

強制換羽ー低栄養飼料切り替え法の採用率

2008年:約9% → 2014年:12.9%

強制換羽とは、鶏に2週間程度、絶食などの給餌制限をおこない栄養不足にさせることで、新しい羽を強制的に抜け変わらせることだ。換羽期に羽毛が抜けかわると再び卵を産むようになるという鶏の生態を利用し、生産効率を上げるために実施される。ショック療法ともいえる強制換羽は、通常の鶏飼育時よりも死亡率が高いことが知られている。その代替法として、断食を伴わない、「低栄養飼料切り替え法」による強制換羽が提案されている。だが低栄養飼料であっても鶏を飢え状態におき、季節の変化による自然換羽とは異なり、鶏への負担は大きい

2014年飼養実態調査によれば、低栄養飼料への切替は進んでいるようだが、強制換羽自体の割合はほとんど変化していないので、福祉レベルにも変化がないといえる。

強制換羽の実施率

2008年:63.7% → 2014年:66.1%

デビーク(くちばしの切断)率

2014年に採卵鶏のデビーク調査が初めて行われたが、その結果

83.7%

がデビークされていることが分かった。
デビーク産まれてきたばかりの雛の嘴を麻酔なしで切断する処置だ。嘴には神経と血管が通っており、デビークされた雛は痛みで元気を失い、切断面から感染し、死に至ることもある。動物福祉の観点からデビークを規制する国は多いが、日本にはそのような規制はない。採卵農家も「雛を購入する段階で行われているのでそのまま使っている」と問題意識の低い状況だ。

ブロイラー

ブロイラー写真提供:Compassion in World Farming

暗期の設定率

2014年にブロイラーの暗期調査が初めて行われたが、その結果

68.1%

で暗期の設定がされていないことがわかった。非常に高い割合だ。
暗期の設定をしていないということは、鶏は常時明りのついた鶏舎の中で生活しているということになる。
EUのブロイラー保護指令では、飼育期間中、連続した暗期の設定が求められている。鶏に安らげる時間がないのは動物福祉上問題だからだ。日本も加盟するOIEの肉用鶏の動物福祉基準にも「肉用鶏の休息のため、24時間周期ごとに、適切な長さの連続した暗期を設けるべき」と明記されている。

生産性の面からも暗期を設けないとマイナスだという報告が多数あるにもかかわらず、慣行的に、暗期を設けない農家が多いのが日本の現状だ。

飼育密度

2008年:約46kg(15~18羽)/㎡

2014年:約47kg(16~19羽)/㎡ 

6年前と変わらずの過密飼育状態が続いている。
EUのブロイラー保護指令では33kg/方センチメートル(11~13羽)以下と規定されているが、日本にはそのような数値規制はない。

しかし、家畜伝染病予防法に基づく「飼養衛生管理基準」には「家畜の健康に悪影響を及ぼすような過密な状態で家畜を飼養しな いこと」と規定されている。1㎡あたり16~19羽というのは相当なものだ。足の踏み場もないほどブロイラーが詰め込まれている状況を想像してほしい。家畜の健康に悪影響を及ぼすような過密な状態だといえないだろうか?しかしこれが日本のスタンダードなのだ。


以上で、2007~2009年の全国飼養実態調査と、2014年の飼養実態調査の検証は終わりだが、もうひとつ、北海道帯広食肉衛生検査所らが2010-2011年に実施した「と畜場の繋留所における家畜の飲用水設備の設置状況」調査結果を追加しておく。

牛:50.4%が飲水できない 豚:86.4%が飲水できない

この数字は殺される最期の日に、水すら与えてもらえない動物が日本には多数いることを示している。動物は体の一部の切断や過酷な飼育環境に耐え、屠殺場におくられた最期の一日ですら、最低限の配慮さえしてもらえない。

これが日本の畜産の現実だ。

屠殺場の飲水問題の詳細はコチラ

2015年度の日本の畜産動物福祉予算は2000万円。予算が充てられるようになったのは進歩だが、EUの年間予算140億円にくらべると、本腰を入れてこの問題に取り組んでいるとはいい難い。
OIE(世界動物保健機関)、FAO(国連食糧農業機関)といった国際機関をはじめとして、海外では畜産動物福祉が加速している。ISO(国際標準化機構)はOIEとの協働で2016年をターゲットに動物福祉の国際基準作成に動いている。

日本がこの流れに追いついているとはとても言えない。畜産動物の福祉を担保できるような法的規制はなく、農家の意識も低い。消費者も畜産の実態を知らない

このような状態が続くなら、日本は国際社会にますます遅れを取ることになるだろう。

 

*1 両調査とも畜産技術協会が実施。2014年飼養実態アンケート調査報告書 http://jlta.lin.gr.jp/report/animalwelfare/index.html
*2 公式:面積(m2)= 0.047 ×生体重0.67

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